Too主催の特別セミナー「.design surf seminar 2017 - デザインの向こう側にあるもの - 」が、2017年10月13日(金)に虎ノ門ヒルズフォーラム(東京都港区虎ノ門、虎ノ門ヒルズ森タワー4F)で開催されました

昨年に続き第2回目となる今回も、デザインをビジネスの側面から捉えた9本のセミナーを行いました。

本レポートでは、株式会社日南のデザインディレクターによる「デザインの発想と、未来のものづくり」について紹介します。

スピーカー紹介

岡 広樹

株式会社日南 クリエイティブスタジオ デザインディレクター 1979年ソニーに入社、ラジオからプロ用のカメラやVTRまで数々のプロダクトを世に創り出している。自称、生涯現役デザイナー。2014年にソニーを卒業し、現在ものづくりの面で協力関係にある株式会社日南でデザインディレクターとして活躍中。

猿渡 義市

株式会社日南 クリエイティブスタジオ デザインディレクター 1990年日産自動車株式会社デザインセンターへ入社。2006年日産デザインヨーロッパ・ロンドン赴任。INFINITIデザインスタジオ、クリエイティブボックスを経て、2015年より株式会社日南のデザインディレクターに就任。

加藤 久喜氏(モデレータ)

オートデスク株式会社 技術営業本部テリトリーアカウントエンジニアマネージャー

いま、激変の時代を迎えているプロダクトデザイン。開発環境の変化、技術革新、デザインワークフローの変化など、その要素は一つではありません。

750名を超える企業規模で「試作品」を開発製造する世界的に類い稀な企業、株式会社日南のデザインディレクターである岡さんと猿渡さんが登壇し、今のプロダクトデザインのワークフローやトレンド、アイデアを形にする過程を紹介しました。
またモデレータとして、未来のプロダクトデザインの研究開発を続けるオートデスク社から加藤さんより、未来のデザインワークフローを紹介しました。

予期せぬ曲線に出会う良さ

株式会社日南は試作メーカーという側面に加え、デザインや機構設計をはじめ、エンジニアリングや製作など、製品開発に関わる全てのプロセスをフルパッケージでサポートでき、自社ブランドを持つ会社です。まずはその充実した設備が紹介されました。

岡さんは自身がデザインを手がけたCleer社のインナーイヤホン「IE Sport」を実例に、装着性が重要なプロダクトをどのように作り上げていったのか、貴重な制作資料を交えて解説されました。


デザインの依頼はFacebookのメッセンジャーから始まったそう

岡さんは構成図のスケッチを描いた後、頭の中にある大まかなイメージを元に、PC画面上で形を調整するそうです。愛用しているデジタルツール機能として、Autodesk Fusion360のいくつかの機能が紹介されました。

面を押したり引いたり、粘土のようにアナログ感覚で変形できる「スカルプト機能」や、2つのボディ間をきれいに繋ぐ「ブリッジコマンド」では、「ときに意図していなかった形や曲線ができて、それが意外と良いこともある」とお話しされていました。またデザイン段階で3Dプリンターを用いて出力をすると、拡大した操作画面と実際の大きさのずれが認識でき、作業として重要であるとお話しされていました。


ボディの境界エッジ間にブリッジを構築する「ブリッジコマンド」について説明する岡さん

試作では、岡さん自らもスポーツジムでスポーツをしながらの装着テストをされたそうです。装着性の高いプロダクトでは「自分には合っても他の人には合わない」という問題が起こること、スイッチを操作する際にかかる力や、身体の動きの邪魔にならないケーブル角度など、実際に出くわした数々の課題をもとに試作品の重要性を説かれていました。

新しい見せ方への挑戦

猿渡さんからは、慶応SDMがミラノサローネに出展して好評を得た、新素材を使って新しい見せ方に挑戦した事例が紹介されました。


Design Beyond Awarenessをテーマにし、「人間らしさ」と「AIによる最適解」の融合を体験する展示

新しい化学素材を扱う試行錯誤や、偶発的にできたシワが新たな表現を生んだエピソードに、会場は大いに感服した様子でした。猿渡さんは日南のことを、各自が異なるプロジェクトで様々な新技術に触れることで、会社としての化学反応が起きやすい会社とも紹介されました。


モデレーター加藤さんの仕切りによって、終始穏やかなやりとりが繰り広げられました。

岡さんからは他に、Fusion360を使ってパッケージデザインに初挑戦したことご紹介。「ツールがどんどん発達すると、グラフィックデザインやパッケージデザイン、梱包設計さえ垣根なく手を付けられる」とお話されていたのが印象的でした。また会場限定で、CES2018で発表予定の新製品のデザインについての裏話、未公開情報もありました。
猿渡さんからは、スペースX社で開催された次世代交通システム「ハイパーループ」ポッド世界コンペティションにまつわるプロジェクトの裏話が紹介されました。ポッドデザインに関わられた経緯と、短期間での制作工程についてお話いただきました。

リピートプロトタイピング、新たな気づきの機会を増やす

講演の最後に話題になったのは、デザインワークフローについて。製品の開発スパンが短くなり、デザインの時間が縮小するいま、猿渡さんは「リピートプロトタイピング」という新たなデザインワークフローの重要性を説かれました。


リピートプロトタイピングによって「Happy accident」の機会が増大

リピートプロトタイピングは「スケッチ」「クイックモデリング」「3Dプリント」「視覚化」の4つのプロセスを、何度も回していく手法です。猿渡さん自身は、場合によりますがサイクルを1週間程の短期間で回しているそう。このサイクルを回せば回すほど、新しい気づき、発見に出会うチャンスが増えるとのことです。加えて、デジタルツールや3Dプリンターなどはそのための有効手段であり、新しいツールを活用すると、デザイナーとして試行錯誤するチャンスが増え、新しい発見に繋がるとお話されました。

また最後に、オートデスク加藤さんからジェネレーティブデザインの解説がされました。軽量化や空力を考慮した自動計算による設計の可能性から、さらにデザインの制約をとっぱらえるのではないかという話がされました。

柔軟で迅速なプロダクト開発が求められる昨今、デザイナーとしてものづくり現場の第一線で活躍する方の語り口に、会場では真剣にメモを取る人、熱心にお話に耳を傾けている人の姿が印象的なセッションでした。


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