氷川竜介のアニメCG列伝 第一回

株式会社サンライズ 『機動戦士ガンダム UC』 (3/4)

- 正確な立体感と空間把握がメカ表現の先端を切り拓く -
 

正確すぎると驚きが減じるアニメーション

――シリーズも終盤となりましたが、CGとして苦労されたところは?

藤江 やはり常に同じ状態で登場しないことでしょうね。モビルスーツがある話数でいきなり壊れてしまい、次では直るけど今度は武器が増えているなど、作画なら描き足すだけで済むところが、CGはシチュエーションに合わせて違うモデルデータを準備する必要があるわけです。CGアニメーションとしても作画的な動きの機微が必要になるので、作画さんからラフ原画で動きの設計図をいただくものの、実際に動かしてみると雰囲気が違ってしまうケースも多々あって、監督や作画監督さんに同席の上で調整することになったカットも多いです。「つくって渡して終わり」とスムーズにはいかないのは、悩みどころですね。特にこれは、こだわりの注文が多い作品なので(笑)。

――ラフ原画どおりパズルみたいにCGをハメてもうまくいかないというのは、他の取材でもよく聞く話です。原因は?

藤江 やはりCGは形が正確すぎることでしょうね。動きの先が読めてしまうと、気持ちいい動きにはならないのではと感じています。作画は微妙なところで意表をついた線や形が入って来ますから、そのランダムさが驚きにつながります。絵に合わせてCGに置き換えると、完全に正確な立体感で動いてしまうので、人間の脳が前後の流れを正確に補完処理してしまい、想像力が止まってしまうのでしょう。刺激がないから作画的な「気持ちよさ成分」が出ないと理解しています。そうなった場合、作画的な動きを追いかけるのではなく、むしろCGのよさで魅せていくというように切り替えていった方が、良い結果が出ます。そこにはルールはないので、アニメーターさんごとのセンスになってしまいますね。

――逆にそこで個性が出せるということもあるのでは?

藤江 もちろん動きの感度に関しては個人差があります。そして僕たちはCGアニメーションのクリエイターなので、CGとしての見せ方を追求したいという意識があります。『ガンダムUC』の現場でありがたいのは、最初の話数で「ラフ原画からCGにすると、こんな動きになる」というクセが共有できると、逆にCGの良さを出すようなラフ原画が作画さんから出るように変わっていったことです。やはり相互の歩み寄りなんです。ちょっとひねった動きが入るだけでもCGが価値ある動きに変わるので、ものすごく助かっています。逆に巨大なものをじんわり動かさないといけないような場合、「これは作画では大変なので、CGでやりましょう」と提案することもある。得意な部分をお互いが引き出すようなつくり方をしています。ものすごくうまくいっていると思いますが、それでも完成に時間を要するのは、物量があるのとクオリティのハードルが高いためですね(笑)。

 

CGとしての長所を追求した画面づくり

――ここで過去の話数に関し、ご推薦のシーンなどあればご紹介をお願いします。

藤江 繰りかえしになりますが、やって良かったのはユニコーンガンダムが変身するシーンで、特に各話でいろんなシチュエーションの変身を描いたので、ぜひその違いを楽しんでいただきたいです。それと戦艦です。手前ではモビルスーツが元気に動いていて、背後に地味にいるだけに見えますが、アニメーターさんが全体の画を引き締める存在感を出そうと苦労しています。ライティングやカメラアングルにも、かなりの工夫があるので注目してください。

 シャンブロも世間では予想ほど話題になっていないので、CGの見せ場としてぜひ改めて注目してほしいです。準主役級の見せ場にしていますし、関節や可動部分もあちこちにあって、恐竜のような動きもさせなければいけないので、パーツをバラバラにするなど大変でした。随伴するリフレクター・ビットも作画とCGが混ざっていて、その差がバレなければ成功だと思っています(笑)。そういう意味では、episode 4は作画とCGを最大限に混ぜて入り組ませた話数でしょう。いろいろなメカが出てきて盛りだくさんですし。

――やりがいのあった点や苦労した点についても、お願いします。

藤江 線の多いモビルスーツは動画のスキルが高くないと中割りがうまく行かないので、正確なCGの方が画として安心するという理由でお願いされたこともあります。もちろん参加されている作画さんはうまい方ばかりなのですが、さらにクオリティを求めようとしたとき、CGが補完することで全体的なバランスが取れるということであれば、本当に参加して良かったなと思います。

 苦労と言えば、ジェガンやリゼルなど量産系のモビルスーツですね。episode 6ではCGで格納庫を用意してカメラを先に決め、ガイドで置いたモビルスーツのCGモデルから作画にしていくという流れでした。ところがメカ作監(作画監督)の玄馬(宣彦)さんが量産系MSが大好きなので、「ここは見えないはずだけど」という部分にまでガンダムより厳しいチェックがはいってしまったんです(笑)。でもそこまでやったおかげで、非常に見応えのあるカッコいい仕上がりになりました。

――episode 6は、その格納庫内でユニコーンガンダムが変身するシーンが強烈な印象を残しています。正確な空間の中で正確なメカが容姿を変えていく……。

藤江 ええ、まさにCGの見せ場です。あの格納庫の話題は、episode 1からすでに出ていました。いずれ後の話数で主戦場になるから、ガイドが必要だと。実際のepisode 6では予想以上に大量のモビルスーツが配置されて、ものすごいことになってしまいました(笑)。おそらくあれがCGによるガイドの集大成であり、「全部入り」と言えるシーンです。CGの空間を監督や作監さんにカメラで動かしながら映像として事前チェックしていただき、イメージよりも天井がそれほど高くなく、すごく狭いという意見をいただきました。その認識が共有できたおかげで、後の作監チェックもやりやすかったそうです。空間イメージが共有できるのがガイドの醍醐味ですから、もっとも効果的な例になったと思います。

――本当に密度感がすごくて、狭いことが緊張感あふれる見せ場になること自体に驚きました。ユニコーンガンダムの変身も一段とインパクトがあって。

藤江 監督も作監さんも立ち会ってCG上でカメラを決めてますから、ここからここまでガンダムが変身すると向きがこう変わるということも、設計図として正確に決められます。正確すぎて、当初はガンダムが変身すると頭がぶつかるという問題も起きたほどです(笑)。そういう場合は少しだけ広くしますが、単純に対比の設定だけでつくっていくと、天井が高かったり低かったり狂いが出てくるものです。正確な対比をずっと保ってアクションを続けていくことで、狭苦しさの統一感が出るんですね。

 もうひとつ効果的だったのは、手前にモビルスーツなど「ナメもの」が正確に置けたことです。これもガイドを出すことで「ここら辺に大きく見えるものがあってもおかしくない」という距離感が把握できる。そこで玄馬さんがいろんな機体を置くことで、手前と奥の感じがよく出た画作りにできました。この距離感がおかしいと、「あれ? 今のは何かな」と途中で現実に引き戻されて物語の流れや各場面に集中できなくなりますから。もちろん多少はサイズを変えたりズラしたり、画づくり優先のウソはついています。

――お話をうかがうと、疑似的なロケハンをしながらリハーサルで追いこんでいるようで、そんなCGのメリットもあるんですね。

藤江 ガイドが整っていると、立っているモビルスーツが違うというケアレスミスからも解放されます。チェックリストを開いて「武器合ってたかな?」と何百カットもチェックするみたいな事情で物語に必要なパワーが削がれることが、一番もったいないと思う性分なんです。

 ただ、作画の場合は絵コンテができた部分からどんどん描いていけますが、CGが絡むと準備してから作画という流れになるため、ワンクッション置く必要が出ます。それで全体工程が遅れる場合もありますが、それでも諸々のメリットを考えれば、やる価値はあると信じています。今のところ効率がよくなることと準備時間を要することで、トータルでは相殺されているかもしれませんね。とはいえ同じ時間をかけたとしても、仕上がる画の精度がワンランク上になりますから、結果は確実に良くなっていると思います。