氷川竜介のアニメCG列伝 第二回

株式会社サンジゲン 『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』 (1/4)

「アニメづくり」に特化したCG表現がひらく可能性
 

 

2013年秋に放映され、大反響のもと現在再放送中のTVアニメ『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』は、旧帝国海軍艦船に模擬した敵性生命体とそのメンタルモデルと呼ばれる美少女体が、人類を絶滅に追いこむという極限状況からスタートする。そして彼女たちが戦いを通じて次第に「心」を獲得して人間に近づいていくストーリー展開は、フルCG制作のキャラが堅さを克服して観客の感動を呼びこむという表現進化のプロセスとシンクロし、大きな話題を呼んだ。

この前人未踏の開拓を行った制作会社はサンジゲン。日本流のアニメ的な動きやルックを極めた2012年のフルCG映画『009 RE:CYBORG』で確立した方法論で、TVシリーズ全12話を回すという意欲的な挑戦である。手描きは基本的に使わず3DCGソフトでの制作で、いかに「アニメ」を実現するか。そのアプローチを3Dアニメーションディレクターの鈴木大介氏と同社代表の松浦裕暁氏にうかがった。

(インタビュー・構成 アニメ評論家 氷川竜介)

フルCGのアニメづくりをめざし、サンジゲンを設立

――まず、サンジゲンを設立されるまでの経緯を教えてください

松浦 10年少々前、僕がGONZOにいるときに「将来的にフルCGで映像作品を日本から発信していこう」と考え、その土壌を構築しようと独立したのが出発点です。鈴木大介さんはそれ以前からともに仕事をしていたフリーランスで、当時はフルCG作品の『ガラクタ通りのステイン』(03)を担当されていました。当時から僕と大介さんは「CGキャラクターで物語をつくりたい」とよく話していて、それも擬人化されたキャラではなく「人間」を描きたいと。それでお誘いして、今にいたります。

――当時、CGソフトは何を使っていましたか?

松浦 大介さんは当時から3DS MAXで、僕もそれに合わせて作業を始めました。

鈴木 3DS MAXでは特に「character studio」という機能が非常に気にいりまして。セットアップも容易でしたし、IKが優秀で変な動きにもならない。「Biped」という専用のリグを使えばボタンひとつで足をピタっと接地させたり離したりできるので、「なんて楽なんだ!」と感動しましたね。

松浦 将来性のあるソフトウェアとして3DS MAX中心にワークフローを組み、フリーランスとしてアイドリングしてから2006年3月にサンジゲンを設立しました。当初はメカ中心の仕事で、次の大きな転機は2008年ぐらいのサンライズさんの企画で、キッズアニメのプレゼンテーション用映像。ただし、これは諸事情で実現していません。

鈴木 それは今回の『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』(13)と同様、キャラとメカを含めてすべてをCGで表現することが目標でした。僕としては以前からことあるごとに「キャラをCGでやりたい」とアピールをしていて、『きらめき☆プロジェクト』(05)では身長40メートルの美少女ロボットですが、「ついにキャラをつくれるぞ!」と喜んだほどです(笑)。『咲-Saki-』(09)の「麻雀牌をつかむキャラの手」だけでも嬉しかったですし。

松浦 それで、そのキッズ企画はセルルックに加えてリミテッドアニメ的な表現に挑戦したわけです。

鈴木 このとき初めてフルコマをやめて、2コマベースの「コマ落とし」を使ってみました。グッとセルアニメに近づいたので驚くと同時に、「これならがんばればアニメをつくれるぞ」思ったんです。

松浦 想像以上の効果でした。背景は手描きですが、カメラワークも3Dですし。

――なるほど。数年前にサンジゲンさんがキッズアニメ的なPVを打ち出していた理由が分かりました。

松浦 それが『グランドボック』です。今お話した経験を活かして「こういうアニメのつくり方もありますよ」と、世の中にアピールするためのPVです。次のキャラクターものの挑戦は『はなまる幼稚園』(10)です。当初は最終回のエンディング用だったので、「TV放映なら反響がすごいぞ。予算度外視だ!」と意気込んだものの、残念ながら未放映でセルパッケージ用の特典映像(『ぱんだねこ体操』)になってしまい(笑)。

鈴木 でもネットで評判になりましたし、その後同じキングレコードさんから『kiss×sis』(10)のお話がきました。

松浦 あれも地上波ではなくAT-Xの放映でしたが、TVでは次が『ラブライブ!』(13)です。サンライズの平山(理志)プロデューサーから、「サンジゲンありきで」とお話をいただきました。作画とCGが同じカット内に混在していますが、うまく調整できましたし、予算的に抑えることも挑戦でした。

 

大きな転機を迎えたTVシリーズの制作

――「ダンス」はCGの需要が多い分野ですよね。

松浦 ええ。その仕事が多い時期もありましたが、『映画 プリキュアオールスターズDX3 未来に届け! 世界をつなぐ☆虹色の花』(11)を集大成としました。その制作中にProduction I.Gの石井(朋彦)プロデューサーが過去の我々の仕事を気に入ってくださり、『009 RE:CYBORG』のお話をいただいて、それが大きな転機になります。

 当時は『TIGER & BUNNY』(11)で多忙だったので、鈴木大介さん監修でキャラクターのモデリングだけ引き受けるはずでしたが、「すべてサンジゲンでやってほしい」とお願いされ、引き受けることになります。平行して『ブラック★ロックシューター』(12)も動かしていて、これも裏の世界ではキャラクターをフルCGで描いた作品です。

 この作品の放送後、そのまま『009 RE:CYBORG』のアニメーションづくりに突入していきます。それと同時期に『蒼き鋼のアルペジオ』のお話も来ました。放送の2年以上前なんですね。『ブラック★ロックシューター』、『009 RE:CYBORG』、『蒼き鋼のアルペジオ』という流れで「CGでキャラクターを描く」というサンジゲン長年の目標がクリアできると思って、社内では勝手に「3部作」と呼んでいます(笑)。

――今回の取材ではTVシリーズの挑戦『アルペジオ』中心でうかがいたいです。

鈴木 僕たちもやはりTVシリーズ1クールをやりきらなければ、我々の技術力や想いはお客さんに届かないだろうと、それを大きな目標としていました。当初2クールというお話もありましたが、つくりきった上で売れる作品にしたいという想いが強くて、最終的に1クールとなりました。劇場の『009』は約1000カット、TVシリーズの『蒼き鋼のアルペジオ』は4000カット弱。予算も期間もまるで違うので大変でしたが、なんとかギリギリ走り抜けることができて良かったです。

――鈴木さんにとって、『アルペジオ』をつくる上での目標は?

鈴木 やはりTVシリーズですから、なるべくローカロリーでつくることでした。実際にはなかなか難しいものです。みんなクオリティの高いものをつくりたいと思いながら関わっていますから。

松浦 これは岸誠二監督といっしょに決めた方針ですが、やはりTVシリーズとしてのCGをつくりきること……つまり力の配分を考えてつくることが、コンセプトなんですね。CGでも動かしていくということには、パワーがいりますから。

鈴木 やはり演出の方は「CGなら動かせる」という前提でコンテを描きこんできますから、「ここはカメラを動かすのはやめてFIXで」と提案したりすることも多々ありました。

松浦 その一方で「初めて演出の仕事をした気がする」と喜ばれるわけです。

鈴木 手描き作画のアニメだと、キャラを似せて崩れないようにするだけで、演出の持ち時間がなくなってしまいがちだそうで、その先にある芝居にまでこだわることは難しいと。CGなら最初から芝居の話ができるから、とても嬉しいということでした。

――CGならば、いわゆる「作画崩壊」がないということでしょうか。

鈴木 そう思われますよね。ところが実際にはCGでも「崩壊」することは多々あります。たとえばアオリの構図になったとたん、顔が破綻して見える。その場合はCGアニメーターが補正する必要がでます。補正を全員ができるわけではないですし、すべてのカットを直せる時間もありません。そしてCGでは作画監督にあたる役職は存在しない。なので、当初はどの役職が直せばいいのか、フローすら決まっていませんでした。結果的に、その話数担当のCGディレクターが「こういう風に直して」と紙に描き、指示するやり方に定着しました。ディレクターが直せない場合は、僕が描いて直すこともありましたね。

――その直し方ですが、どのような手段ですか?

鈴木 「崩壊」しやすいアオリや俯瞰のショットでは目や鼻の位置をモーフィングで細かく変えられるようにしてありました。ただそれだけでは不十分で、足りない部分は結局アニメーター各人のセンスに頼るしかありませんでした。結果的にカットによって多少画風が変わりますから、これが期せずして作画アニメっぽさにもつながったのかなと。

――なるほど。3DCGに個人の感性による崩しの「バラつき」が加わり、2Dアニメ的な雰囲気を出したとすれば、これは面白い成果ですね。

鈴木 実際に『アルペジオ』では、カットごとにそれぞれのアニメーターの個性が出ています。それがさらにキャラクターの魅力の多彩さにつながって良かったですね。

――シリーズを経験して感じられたフルCGのメリットは?

鈴木 先程も話題にした、芝居を深く考えられることがひとつ。もうひとつは芝居がついた後で、変更・修正が作画よりも容易にできること。特にカメラワークの変更は大きいはずです。カメラがグルっと回りこむカットがあったとして、後から「カメラポジションをもっと下げて」と言われても、作画なら描き直しになるので厳しいです。CGでも多少は嫌がられますが(笑)、作画に比べればはるかに楽ですし、変更後も画が破綻することは少ない。演出さんも作画よりは抵抗なくリテイクを出せるため、全体のクオリティを極めることができます。