課題を問い、実装し、新しい知識を生み出す。芝浦工業大学デザイン工学部のデザイン教育

インタビュー

2026.09.30

シェア

蘆澤雄亮氏

デザイン工学部 デザイン工学科
動態デザイン研究室

社会の課題が複雑化し、デザインが関わる仕事の領域も多様になっています。こうした変化を、大学の教育現場はどのように捉え、日々の授業や研究に反映しているのでしょうか。今回は、課題を問い続け、自ら手を動かし、社会への実装と新たな知識の創出につなげる教育を大切にしている、芝浦工業大学デザイン工学部の蘆澤雄亮先生に話を伺いました。

領域を横断して学び、社会実装までを担うオールラウンダーを育てる

Too:今日はよろしくお願いします。Tooではここ数年、芝浦工業大学の「プロモーション計画論」の授業に登壇する機会をいただき、授業を通じて学生の皆さんと接してきました。まずは改めて、大学の中でデザイン工学部はどのような役割を担っているか教えてください。

蘆澤先生(以下、敬称略):芝浦工業大学は工業大学として、ほぼすべての学びが工学を基盤としています。工学は、ある程度明確になった課題に対して研究を積み重ねながら解決策を探って学問です。しかし、VUCAと呼ばれる現代は先を見通しにくく、課題も複雑化しているため、一つの領域だけで物事を解決することが難しくなっています。

これに対してデザイン工学部には、これまで誰も気づいていなかったことに目を向け、異なる視点から解決方法を切り開く役割が期待されています。

近年特に力を入れているのが「実装」と「面白いことをやる」という姿勢です。さまざまな知識や背景、考え方を持つ人たちとの共創を軸にした授業や研究を通じて、主体的に動ける力をつけてもらいます。

デザイン工学部には3つのコースがありますが、どのコースに所属していてもすべての科目を履修できます。例えば、プロダクトを設計するときにも、UIやUX、システム全般の知識が必要です。システムを設計するときにも、その仕組みを実現するためのモノが必要であれば、プロダクトデザインの知識が求められます。どの分野も分け隔てなく学び、「オールラウンダー」を育てることを目指しています。

dso-shibaura1.png企業とコラボレーションした授業で学生が制作した作品

不便を探すだけではない、人の気持ちを動かす課題設定

Too:社会や仕事が変化する中で、デザイナーが担う役割はどのように変わっていますか?

蘆澤:以前は、形をつくることが役割の中心でしたが、現在は「何が課題なのか」を考えるところから関わるようになっています。ただし、課題を発見するだけでは絵に描いた餅で終わってしまいます。設定した課題を、形やサービスとして実現させるところまで担わなければなりません。

私は、デザインは「説得」だと考えています。例えば、授業では学生に「不便を探すな」と伝えています。不便を起点にすると、「〇〇ができる」と機能を足す提案になりがちだからです。それに、便利な製品やサービスが増えた今、明確な不具合や不満はほとんど見つからないのではないでしょうか。つまり、不満は無いのだから、余分な便利を足してもユーザーをなんら説得できないという話になります。それよりも「こうした方がもっとハッピーになれる」「洗練された空間にいるように感じられる」といった、ユーザーの心にプラスの価値を生み出すことも課題設定の一つですし、現代はそちらの方がむしろ大事になってきている。そして、デザイナーに期待されていることも、そちら側に対するものの方が大きくなってきている。そのように感じています。

こうして設定された課題は、設計の細部を判断する基準にもなります。例えば、スマートフォンの角をどのくらい丸くするか。その形によって「使いたい」と思う気持ちを掻き立てるのであれば、徹底してこだわるべきです。つまり、設定した課題や目的と照らし合わせながら、「そこはこだわるべきところか否か」までを判断するところがデザイナーの仕事として求められるようになってきており、仕事は以前より複雑になったと感じます。要は、これまでの役割に加え、判断役が加わった。そんなイメージです。

とはいえ、すべての判断をデザイナーだけで行うわけではありません。デザインの視点だけでなく、技術や法務、財務などの他領域の視点を取り入れながら進めることが重要です。

デザイナーの強みは、採算性に寄らず、ユーザーにとって何が良いかを考えられる点にあります。ただし、例えば財務の視点も加わらなければ、ビジネスとして成立しないものにもなり得ます。会社に例えるなら、デザインはアクセルの役割を担い、財務はときにブレーキの役割を担います。チームの中に、アクセルとブレーキの両方があることが大切です。異なる立場からの意見も受け止めながら視野を広げ、それぞれの役割を生かして協働する必要があります。

社会実装を新しい知識につなげる。大学でデザインを学ぶ意味とは

Too:そうした力を育てる上で、大学だからこそできるデザイン教育とは、どのようなものだと考えていますか。

蘆澤:社会への実装を研究へとつなげ、そこから新しい知識や技術を「実学」として生み出すことだと考えています。デザイン教育には、実践的なスキルを身につけるという職業訓練的なニーズがあります。しかしスキルの習得だけが目的なら、デザイン教育は先細りしてしまうと感じています。大学が今後も必要とされるためには、社会と連動した研究を続けることが重要です。

この考え方は、教員の採用にも表れています。デザイナーとしての経歴にこだわらず、様々な人々を巻き込み、協働しながら、新たな面白いことに取り組み、自らの手も動かして実装し、そこから新しい知識を生み出せる人を求めています。こうした実学を軸としたスタイルを、デザイン教育でも明確に打ち出していきたいと考えています。

また、研究力を高めるために、研究室への配属を、4年生から3年生へ前倒ししました。配属されてすぐに本格的な研究を始めるのは難しく、4年生で配属すると、ようやく研究の入り口に立ったところで卒業してしまいます。配属を1年早めることで、研究に必要な知識や技術を身につける時間を増やし、研究力を強化したいと考えています。

dso-shibaura3.jpgデザイン工学部の研究室が集まる豊洲キャンパスには、学生が自由に研究活動を行える「オープンラボ」があります。

手を動かし、失敗を重ね、アイデアを形にする

Too:デザイン工学部の授業について、さらに具体的に教えてください。アイデアを絵に描いた餅で終わらせないために、学生の皆さんにどのようなアプローチをしているのでしょうか。

蘆澤:デザインは「何をつくるか」というWhatを考えますが、「どうやってつくるか」というHowまで考えなければ、アイデアを実現することはできません。そこで、エンジニアリングを専門とする教員も多く配置し、製造方法や構造解析など、実装するための技術を必ず学ぶようにしています。

例えば、椅子をデザインしたら応力解析をかけますし、レーザーカッターでアクリルサインを製作するにしても、太さなどを変えたパターンを何種類も作成し、設置環境と同じ壁紙を用いた上で、どの程度耐えられるかを検討したりします。何度も失敗を重ねるので、完成までに数カ月かかることもあります。また、つくることができても、コストが高ければビジネスとして成立しません。なので、ただつくるのではなく、コストとのバランスまで横断して考えることを大切にしています。

こうした過程で大切にしているのが、失敗すること、挑戦することです。演習で提案を考えても、実際につくってみなければ、本当に良いかどうかは分かりません。つくって失敗することで初めて問題点が見え、次の改善につながります。なので、失敗と分析という試行錯誤をどれだけ繰り返せるかを重視しています。

dso-shibaura2.jpg

Too:失敗と聞くと少し尻込みしてしまいますが、生徒の皆さんの反応はどうですか?

蘆澤:最初は失敗を恐れている学生がほとんどです。大人だって失敗したくないですからね。なので、いまは成果物を見て単に「駄目だ」と伝えるのではなく、「この挑戦をしたことは良かった」と、試したこと自体を積極的に褒めるようにしています。否定するだけでは失敗が怖くなり、次の挑戦が生まれにくくなるからです。社会人になると、失敗には責任が伴います。成功したら儲けものくらいのつもりで、学生のうちにたくさん挑戦し、たくさん失敗を経験してほしいです。

また、学生の提案を評価するときは、教員の判断だけを基準にはしないようにしています。教員が良いと思わない提案でも、多くの人が良いと感じるのであれば、その反応を根拠として示してもらうようにしています。

デザインは説得なので、提案の価値がどのように伝わるかについても重視しています。例えば、大学の授業では、提案の意図をプレゼンする機会が多くあります。しかし、実際に製品やサービスを使う人が、事前にデザイナーの説明を聞く機会はほぼありません。そこで、プレゼンをあえてさせずに体験してもらい、評価させることもあります。ただし、説明なしに良さが伝わることだけが正解ではありません。背景にあるストーリーを知ることで、提案の価値が伝わる場合もあります。その場合は、そのために何をどう伝えるのがいいかを考えさせます。

学生がこうした課題すら明確でない正解のない問いに向き合えるよう、低学年ではまず、課題をある程度与え、正解がないことへの戸惑いを乗り越えることを重視します。高学年では課題も曖昧にした上で、その提案にどのような意味があるのか、背景や課題意識まで掘り下げて考えてもらいます。

新しい技術を前提に、授業と学び方を更新する

Too:学生自身が考える過程を重視する中で、新しい技術をどう取り入れるかも重要になりそうです。生成AIの登場によって、授業のつくり方や学生の学び方に変化はありますか?

蘆澤:生成AIも、学びに使えるツールの一つとして積極的に使ってもらっています。大切なのは、一度の指示で得られた内容をそのまま提出するのではなく、何度も壁打ちを重ね、内容を高めていくことです。

教員側も、新しい技術を使えることを前提に、課題自体を見直していく必要があります。例えば私が担当する授業ではAIと相談することを前提とした課題を出しています。そして、生成AIが一度の指示でどの程度の内容をアウトプットできるのかを確認し、そこから難度を調整しています。学生に課題を出す際は、生成AIで調べてまとめた内容と、それを踏まえた上での学生自身の見解を書かせたり、さらには生成AI側に「会話を踏まえた学生の理解状況」を書かせて提出させたりすることもあります。

また、答えを出してもらうだけでなく、自分の作業を進めやすくするツールをAIに作ってもらう方法もあります。例えば、複数の製品を分類してマッピングする分析では、データを入力すると同時に裏側で分析プログラムが走り、マッピングがリアルタイムに変わる仕組みをつくり、それを見ながら効率的に分析している学生もいます。ちなみに、その学生は、分析ツールをGithubで公開し、他の学生も使えるようにしていました。こういうアクションこそが、大学での学びなのだと考えています。

自ら働きかけ周囲を巻き込む「ワクワク人材」

Too:ここまでのお話を伺うと、学生の皆さんが身につけているのは、デザイナーになるためだけの力ではないと感じます。デザイン工学部での学びは、卒業後の進路にどのようにつながっていますか。

蘆澤:卒業後の選択肢は幅広くなっています。昨今は職種が曖昧になっているので、職種で語るのが難しいですが、デザイナーと呼ばれる職種に進む学生は、およそ2〜3割だと思います。業界としては、メーカーだけでなくSIerやコンサルティング、商社など、さまざまな分野に進んでいます。Tooさんに入社する学生もここ数年増えていますよね。

学生に共通しているのは、何かを生み出し、誰かの役に立ちたいという思いです。その軸を持ちながら、幅広い職種を選べるようになったことは、オールラウンダーを育てるという学部の狙いにもつながっています。

Too:進路がこれだけ多様になると、大学が育てる人材像も、特定の職種名だけでは表せなくなりそうです。これからどのような人を社会に送り出したいと考えていますか。

蘆澤:AI技術が進展する中で、決められたことを決められた通りに行う仕事は、次第に置き換わっていくと考えています。だからこそ、自ら課題を発見して新しい提案ができる人、その提案を実現に向けて動かせる人が必要だと考えています。

そうした力に加えて、今の時代には「ワクワク人材」が必要だと思っています。学部では「ワクワクしなきゃデザインじゃない」というスローガンを掲げています。言葉としては少し軽く聞こえるかもしれませんが、私たちなりのポリシーがあります。

先が見えにくく、社会の空気が明るいとは言いにくい時代で、さまざまな分野でワクワクを学んだ人が、いろいろな業界や部署に分散して存在したら、社会は少しずつ明るくなると思うんです。「もっとこういうことをやろう」と声をあげ、「こうやってみた」と自ら動く人がさまざまな場所にいる。領域を越えて動きながら周囲に希望を伝播させるような、そうした人材を育てることが、今の社会には必要だと考えています。

dso-shibaura4.jpg

Too:不便を解消するだけでなく、人の気持ちを前向きにする。そんな視点を身につけた人がさまざまな場所にいれば、周囲を動かす大きな原動力になりそうです。それでは最後に、デザインのそばにいる企業として、Tooにはどのような役割を期待しますか。

蘆澤:ビジネスと人、人と人をつなげる役割をもっと期待したいです。大学は、ともすると産業界との距離が遠くなりがちです。そこをぐっと引き寄せることを、一緒にできたらと思います。

企業との連携を一人の教員の人脈や調整だけで継続していくには限界があります。個人の思いだけに頼らず、大学と企業が組織として連携できる仕組みにしたい。Tooには、クリエイティブの領域で大学と産業界をつなぐ力を貸してほしいです。

Too:デザインをビジネスの根幹に据えてきたTooとしても、これからのデザイン人材がさまざまな場所で新しいチャレンジを生み出していくために必要な環境や接点について、今後も考えていきたいと思います。課題を問い続け、失敗を恐れずに手を動かすことは、学生だけでなく、社会に出ている私たちにも必要な姿勢だと感じました。本日はありがとうございました!


芝浦工業大学
デザイン工学部特設サイト

この記事に付けられたタグ

関連記事

人と社会をつなぎ、商環境デザインの価値を未来へ届ける。日本商環境デザイン協会(JCD)が目指すこれから

2026.08.07

領域を横断してデザインを語り合う。一般社団法人デザインシップ様

2026.07.15

デザインの思考プロセスに感覚と幸福感を織り交ぜる。foxcoインタビュー

2026.03.31

探訪!株式会社ジーティービー

2026.02.06

「おみやげの店から、おなじみの店へ。」120年の歴史から原点に立ち返った、よーじやグループのリブランディングとコミュニケーションデザイン

2026.02.02

訪問!一般社団法人テクニカルディレクターズアソシエーション

2025.08.25

探訪!ローランド ディー.ジー.株式会社

2025.08.07