氷川竜介のアニメCG列伝 第一回

株式会社サンライズ 『機動戦士ガンダム UC』 (2/4)

- 正確な立体感と空間把握がメカ表現の先端を切り拓く -
 

日本のアニメ事情に特化したAUTODESK 3DS MAX & Pencil+

――これまでのお話と、AUTODESKのCGソフト3DS MAXをツールに選択したことと、関係はありますか?

藤江 もともと自分が3DS MAXを使っていて、協力してくれるチームにも3DS MAX使いが多かったので、自然とそうなった感じです。外注チームが他のツールの場合でも、最終的には3DS MAXでまとめれば問題ないですし。ありがたいことにPSOFTさんの3DS MAX用トゥーンシェーダーPencil+が線を間引くための設定に優れていて、きちんとした線が出るのはありがたいことでした。3DS MAXとPencil+の組み合わせは仕上げの綺麗さと自由度の点で日本のアニメ用に特化していて、全般的に使いやすくできていますね。

――使い勝手の差はどこから出てくるのでしょうか?

藤江 世界的にはトゥーンシェーダーの需要が、あまりないのかもしれません。Pencil+には、「マスクのみ」「アウトラインのみ」のようにアニメの撮影会社が欲しがる素材をスイッチひとつで出力できるなど、日本のアニメーションづくりに特化した設定がたくさんあります。そして必要以上に複雑な機能が組みこまれていないのも、バランスの良い点です。いろいろでき過ぎると、初めて利用される方にはかえって使いづらいツールになってしまうかもしれません。

――なるほど、日本独特のアニメづくりとの相性は良さそうですね。

藤江 ただし誰でも同じクオリティでできるということですから、下からどんどん追い上げられる危険性もあります。そこでどこで差を出すかと言えば、作画となじませるためのモデルにひと手間を加えたり、ライティングを工夫したりすることになるわけです。後は他でも言われていることですが、「動きのタメ・ツメ」「絵的なウソ」などケレン味を採り入れることですね。一世代前だとソフトの機能を作画の味に寄せていくだけで精一杯でしたが、今は動きなど映像表現に集中できる環境になっていて、良いことだと思います。


――では、CG制作におけるワークフローの概略を教えてください。

藤江 まずその話数に「こういうメカが必要だ」という要求が出ます。そのメカをデザインする場合、モデリングチームが先行して大まかなモデルを作り、それを参考にデザイナーさんがメカをデザインすることもありますし、実際の立体物で確認してから進めるデザインもあります。絵コンテが出たら、空間の決まっているコックピットシートや戦艦のブリッジに関してはCG側である程度のディテールでつくりあげ、その空間の中でカメラワークを決めてしまうやり方です。最初は作画さんのレイアウトにCGを合わせてみましたが、どうしてもズレてしまうんですね。それで逆にCGで先に空間を決め、キャラを乗せていく手法になりました。メカやキャラの芝居に集中して作画できるのも、ひとつの効率化なフローでしょう。

――作画、CGのどちらにするかというジャッジは、どの時点でどなたが決めているのでしょうか?


藤江 そこは柔軟に進めています。監督、演出が出席する全体的な打ち合わせや作打ち(作画打ち合わせ)には自分も参加し、その場で「これはCGの方がいい」という提案をしたりジャッジをします。決定をその場で確認しているので伝言ゲームがなく、準備も指示もやりやすいです。同じチームでepisode 1からずっと来ているので、「ep 3のアレと同じような感じで」と手短に伝わるのもいいことです。話数ごとにノウハウが蓄積されれば効率も上がっていきますし、スタジオにはメインスタッフが常駐しているので、分からないことがあればすぐ聞ける。全体的にフットワークがいいと思います。

 決まってから先のフローは、通常のCGと同じだと思います。ただし前段階でCGがステージを準備する形で進めるのが、『ガンダムUC』の特色だと思いますね。もちろん他にもCGがスタート地点で絡んでいる現場は多いと思いますが。一度つくれば同じカメラ、同じモデルも使えるし、資産を貯めやすいのはCGの大きなメリットだと思います。

――確かに作画のBANKだとパースなどすべて決まってしまいますが、CGはもっと自由度がありますね。

藤江 そうなんです。「カメラもっと下」とアングルも変えられますし、「この手前のパーツを取り去ろう」ということもできる。効率を意識しないと、毎回すべて新しくつくるのはもったいないですよね。それでも最終的には力技でなんとかするケースが多いですが(笑)、下地があると安心感も得られるんです。

 

シチュエーション優先で制作するCG

――話数が進めば進むほど資産がたまっていくのは、CGのメリットです。『ガンダムUC』は「旅をしてまた戻ってくる」話ですが、それも関係していますか?

藤江 毎話数新しい敵や戦艦が出てくるわけではなく、スタートから最後まで主役級のメカは同じですし、乗っている船も破損するとはいえ同じなので、ひとつの資産を活用しやすい題材ですね。もとになる小説もあって大筋は変わらない分、前段階の予想や準備もしやすかったです。スペースコロニー(インダストリアル7)もep 1で使い捨てではないことが分かってましたから、それを意識したクオリティで作っておきました。先の見通しがしやすいことも、CGには向いていますね。

――それをふまえて、実際のアニメーション映像をシリーズとしてつくっていく上での2Dと3Dの融合について、もう少しうかがいたいです。

藤江 先ほどお話したように、2Dのデザインに関してもCGモデリングが最初から関わっていますし、作画さんが描くためのガイドモデルが別の話数ではブラッシュアップされてCGとして登場するケースもあるなど、臨機応変に対応しています。前半の話数でトメの作画で描いてもらったメカが後半に動きだすこともあって、最初にOKが出たボリュームや形をもとにCGの本番をつくりこんだりもしました。あらゆる局面でCGを活用できる幅を持たせてモデリングをしていますし、「出番が少ないからザックリしたモデルでいいよね?」と割り切った判断も時にはつけます。出身がモデラーですから、最低限の気は遣いつつですが。

――たとえばユニコーンガンダムが歩く場合、キャラクターアニメーション的な部分は一般的なリグを使っているのでしょうか?

藤江 恥かしい話ですが、リグはあまり組んでいません。CGアニメーターさんたちの腕がいいので、普通の「関節」さえ決まっていればアニメーションができてしまうんです。IKやセットアップがどうしても必要な場合は、そのカット専用にデータをつくることもあります。「人型のモデルなのに人型のセットアップをしていないのはおかしい」という意見も出るかもしれません。でもこの作品では、ずっと同じモビルスーツが出ているように見えても、全部同じ状態で登場するケースは少ないんです。「ここは変身するからCGにしよう」とか「CG戦艦と絡むからCGにしよう」みたいに、スポットごとに特化したオーダーがくることが大半なので、汎用的なものは逆につくりづらい事情があります。逆にセットアップしたために動きが制限され、必要な画がつくれないことも発生しやすい作品なので、組みこみ過ぎないよう気をつけています。

――やはり映像優先、シークエンス優先で個別対応を重ねているわけですね。

藤江 そうなるとキーになるカットは内部の人間にしか割り振れず、外注しづらくなるのは正直ネックです。ただし「ここはキモだ」という数カット単位でCGになることが多いので、セットアップがない分、しっかり形をつくったり下準備ができるのが、この作品ならではの特徴です。

 レンダリングにしても、他の作品では10個20個とマスクを出してコンポジット上で調整することもあるようですが、『ガンダムUC』ではほとんど何もしていないに等しいです。全カットの7割ぐらいは作画の素材が撮影チームに行くので、CGカットだけ違うつくり方で素材を出すと混乱するからです。「ガンダムの変身はCGで、カメラが引いて作画でビーム・サーベルを抜く」というハイブリッドなケースが多いので、「塗りの素材と線の素材、透過光用のマスクがあればOK」と作画に近い構成を基本にして、質感を合わせやすくしています。

 逆にスペースコロニーのように作画とは違いすぎるオブジェクトはCGで完パケにしてしまい、「撮影さんは置いてくれれば大丈夫です」という流れにしています。その辺はCGチームとして留意し、スタートから撮影まで円滑に動くように進めています。