氷川竜介のアニメCG列伝 第二回

株式会社サンジゲン 『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』 (3/4)

「アニメづくり」に特化したCG表現がひらく可能性
 

将来性の見える作品づくり

――メカとリンクした無機的な少女たちが、次第に人間っぽくなる。そんなストーリーとCGアニメーターの熟練度があがって好感度が増していく点が、見事にシンクロしているように思えました。

松浦 ひとつの作品を仕上げる中で、各アニメーターのスキルがどんどん上がるのを見られて、「これはすごいことだぞ」と確信しました。そこに将来の見こみもあると。

――手応えで大きいのはそのあたりでしょうか。

松浦 そうですね。これからもっとつくり方を変えなくてはならないし、変えられる部分も多々あるとも感じられました。演出以外に撮影側からも、こんな意見を聞きました。これまで撮影は、時間がない中でシートを読んで素材を組み、フレームを打って、なんとかシーンを完成させることしかできないことが多かった。だけど本作では初めからある状態に「盛る」ことが可能になったと。

鈴木 要するにCGの場合は、完成に近い状態まで組んでから撮影さんに渡すわけです。すでにキーフレームが打たれていて、動いている状態で。

松浦 そこからさらにクオリティアップできる撮影さんにも、喜びがあったということなんです。この経験から、逆に撮影側をもっとCGに寄せることができるとも感じました。とにかくスタッフのモチベーションを大事にしたいんです。それによってアニメーターの仕事を絞りこむこともできるし、全体の生産性とクオリティを上げられる。

――将来性やさらなる進化につながる話は、うかがっていて嬉しいですね。

松浦 今回は全員で「ケガはない?」なんて支え合いながら、団子になって転がりつつ、どうにかゴールインできた感じでした。今はまだ整理されていない情報がたくさんありますが、今後を見据えてつくり方を洗い直したいと思っています。幸い本作の反応はものすごく良くて、売り上げも好調だそうですし。

――同じビル内でTRIGGERの作画アニメ『キルラキル』もつくられていることも、すごく象徴的に感じます。

松浦 あの作品の第2期オープニングも、かなりの部分をサンジゲンがやりました。

――鈴木さんは中座されるので、最後に『蒼き鋼のアルペジオ』でオススメのエピソードをお願いします。

鈴木 コンゴウ演じるゆかなさんの芝居がすばらしかった第12話も捨てがたいですが、やはり第10話のタカオの感極まる演技でしょう。ドラマ的にもっとも盛り上がり、なおかつ泣けるところが良かったです。キャラクターを描いて芝居させてきたスタッフとしても、気持ちがすごく高まったところですね。

――どうもありがとうございました。

 

アニメーションづくりのワークフロー

――では、松浦さんには全体のことについてもう少しお聞きしたいと思います。まず、今回の結果をふまえて感じたことは?

松浦 実はサンジゲンには作品全体を動かせる制作プロデューサーがいません。「こういう画をつくれる」ということを提示し、それで仕事が来ていたからです。外部の制作プロデューサーに甘えていたんですね。今回の『アルペジオ』も、経験のない僕やスタッフたちが手探りで進めてきました。それでうまく行かない部分、音響や納品まわりなど一部を最終的にはグループ会社のライデンフィルムのプロデューサーにお願いし、作画に関しても一部を外部に委託しています。

制作のラインを総合的に組むこと。それをプロデューサーの役割含め、僕や弊社の制作たちと築いていくことが最初の課題だと思います。いわゆるワークフローも、そのラインに乗っかるように作るべきだと思います。

――制作プロセスはいかがでしょう。たとえば作画とCG両方ある場合、CGレイアウトのガイドをつくって作画と背景に行き、撮影で一体化するという順番ですが、サンジゲンさんの場合はいかがですか?

松浦 コンテがあがったらレイアウトチェックし、それがOKなら原図出しという点は手描きと同じです。ただ、先ほども言ったようにCGではディテールが全然足りないので、背景さんに渡す前に加筆をします。それと同時進行で、レイアウトからアニマティクスに入ります。そのチェックが終わると、次はセルルック・レンダリングです。本来の進め方ならそこで背景に合わせた色も決まっているため、ほぼ最終形の状態で出力できます。色が決まっていない場合は、仮色の状態でレンダリングします。

最初はアニマティクス段階でクチパクなども細かくつけていました。でも途中から、その段階ではあまり細かくつける必要はないなと。たとえば開き口と閉じ口だけでも尺を出すには充分なことが多い。目線も重要ですが大まかにつけるだけで大丈夫。つまりラフ原画みたいな感じでイケるんです。結局は髪の毛がめり込んだりしますから、セルルック段階で、髪のなびきも含めて細かいところは全部クリアするわけです。

――エフェクトはいかがでしょうか?

松浦 これもセルルックのとき、本番に近い形とタイミングに追いこみます。形状だけ決めたマスクのみ出力し、色や光り方については撮影さんにお任せしています。こちらではマスク素材で仮組み・仮撮・タイミング撮をしています。

――背景はどの段階で入れるのでしょうか?

松浦 基本的には撮影で合わせます。CG上で貼らないといけないものは、CG側で仮組みした上で撮影に渡します。

――キャラは3D出力でも2D化してコンポジットする。通常の作画アニメの工程とほぼ同じにすると、メリットがあるわけですね。「フルCGアニメ」と言うと、全部が全部3Dでやっているという誤解も生じやすいと思います。

松浦 そうです。かなりの部分を作画の流れと同じにすることが大事なんです。

――現在のアニメではカットごとに色変えしていて、『アルペジオ』でも綿密に色指定されていますが、別々に作られたカットをどう統一しているのでしょうか。

松浦 弊社が開発したサンジゲン・カラー・マネジメント・システム(SCMS)で統一しています。このプログラムをモデルに組みこんでおくことで、カラーチップが乗った色指定表さえ来れば、レンダリング時点で自動的に色が置き換わるようになっています。ボタンを押すと一発で置き換わる。色それ自体は通常のアニメーションと同じで、色指定さんがシーン毎に背景に合わせてつくっています。これも『ブラック★ロックシューター』で色変えに苦労した経験から導入しました。