氷川竜介のアニメCG列伝 第二回

株式会社サンジゲン 『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』 (4/4)

「アニメづくり」に特化したCG表現がひらく可能性
 

日本の2Dアニメに基づく発想とローコスト

――やはり色にしても、発想が2Dのアニメベースで興味深いです。照明が当たっているから色を変えるという3Dの発想ではない。やはり色指定さんの熟練の感覚が、アニメならではの綺麗な色彩感覚につながっているわけですね。

松浦 ええ。「色変え」という発想は2Dのアニメにしかないですし、すばらしい表現だと思います。ライティングで色を決めると大変になるし、その苦労のわりに人間っぽく見えなくなって、変な感じに見えることも出てくるかと思います。やはり「アニメらしく」見せるためには、面取りしたカゲと言いますか、アニメ的なライティングが基本です。強調しなくてはならない部分、明らかに光が当たっている場所にはライトを当てますが、ライティングによって露出感が変わることはほとんどないんです。

――動きだけではなく光や色の問題もふくめて、日本のアニメは実に「省略と誇張」が凝縮されていると思いますが、それをうまくCGで継承しているんですね。

松浦 これは意外に気づいている方が少ないんですが、実に素晴らしいシステムであり、表現だと思います。

――コストについてはいかがでしょうか。作画なみにしなければ、TVシリーズも回せないと思うのですが。

松浦 劇場の『009』が約1000カット、TVの『アルペジオ』が4000カット弱ですが、後者の方が総予算は低いです。もちろんここで評価されなくては今までやってきた意味もなくなるし、後から得るものが大きいと思って意気込んで持ち出しはしています。それでも会社が傾くというレベルではなく、何とかなる範囲で予算を組みました。作画のシステムでやれば、お金のかかり方も作画とほぼ同じです。強いて言えば、モデリング費用だけが2Dアニメの予算にはない部分ですが、その分はスケジュールとアニメーターの効率化で吸収されています。
 一時的な外注を除けば、約40名が12カ月。そのうち10カ月でアニメーションの形をつくりきり、撮影は他の仕事をやりつつ、その期間内には終わっています。確実に生産性の良さはあったと思います。

――だとすると、かなり将来性のあるお話ではないでしょうか。

松浦 実際、予想以上に大きな反響をいただいています。CGには「予算とお金がかかる」というイメージが根強くあります。しかし当社では、このフロアにいるだけの人員メインでTVシリーズを制作し、なおかつ他の仕事も平行できました。その衝撃は大きいようですね。『アルペジオ』を連続して見ていただければ、技術的にもアニメーションの質や見せ方が次第に向上するのが分かるはずです。それは同じアニメーターがつくり続けた成長の証です。そこは生産性以上に大事な部分ですね。

――まだまだ発展途上という点も良いですね。

松浦 現状はまだまだ僕とスタッフの感覚にすぎないので、経験をまとめて次の目標に反映しないともったいないなと思っています。たとえば同程度の人数と期間で2クールつくりきるなど、より高い目標ですね。

――作品のジャンルや傾向で、CGに向き不向きはありますか? 

松浦 それはあまりないと思います。今回は「SFもの」なので、戦艦やキャラクターにかなりボリューム感があり、「萌えアニメ」と比べて物量は2~3倍になりました。ただ、それをやりきることで、お客さんが喜んでくれた部分もあると信じています。

――CGでつくるひとつのメリットには、資産化もあります。

松浦 アセットマネジメント(資産管理・運用)は、CGで映像作品をつくる会社にとって、最も重要なポイントになっていくと思います。『アルペジオ』で絶対に獲得したかったのは、データ運用の権利です。本作のCGのデータを運用するときには、まず弊社を窓口としてくださいと。これは従来のアニメのビジネスモデルにはなかったことでしょう。これも今後の新しい可能性につながると思います。

 

はるか未来を見据えた展望

――そんなサンジゲンさんの、今後の展開・展望は?

松浦 まず『アルペジオ』の成果と反省をベースに制作ラインを整えることがマストです。スタッフ全員総力をあげて乗りきるためには、ルーティーン化や分業も必要だと痛感しました。同時にアニメーションとしての質をより向上させるためには、アニメーターがよりクリエイティブに集中できる環境をつくらないといけない。そのためには、つくり方から変えていかなければならないと。
 撮影側がどうすればCG側に寄り添えるのか、アニメーターの仕事をどこまでに限定するのか。ひとつのヒントが得られたと思っています。そしてアニメ制作会社として当然のことですが、大ヒット作がほしいです。今回は「スマッシュヒット」ですが、可能ならばIPを持てるオリジナル作品をヒットさせつつ、つくり続けていく基盤を固めたいです。そうすることで、スタッフに負担なくクリエイティブに専念できる環境を提供できる。そんな作品のヒットが、次の目標ですね。
 劇場とTVシリーズを続けてやることで、分かったことはものすごく多いです。特に『アルペジオ』の後半、CGキャラの表情や演技ですばらしいカットが多く見せることができた部分に将来性を感じます。

――私自身、CGキャラに可能性を感じて約10年が経過し、ここまで到達するのに意外と時間がかかったなという実感もあります。でも、やはり来たぞと。

松浦 アニメ業界は西暦2000年直後ぐらいにデジタル化しましたが、根本的には変わらない部分が多かったと思います。そして気づくのに時間を要しましたが、やはり日本のアニメは止め絵でキャラクターに感情移入するものとして優れた表現なんです。
 CG側の人間だと、どうしても「動かす」ことが目標になりがちですが、動かしさえすれば良いアニメになるわけではありません。絵によって感情移入を積みかさねた上で、情感のあるすばらしい動きが来ると、グッと盛り上がるというわけです。

――CGアニメの未来への展望は、どのように感じられていますか?

松浦 おそらく20年後は、ひとりで1話をつくることが可能な時代が来ると思っています。やはりアニメ制作会社として、そんな20年後まで見据えたヒントを得たいんです。そしてわれわれのアドバンテージは「アセットマネジメント」と「ビジネスモデル」にあると思っています。
 将来的に個人が作品をつくる時代になったとき、モデリングやエフェクト、背景など日常的に使うものが大量に必要となります。そんなニーズに、アセットとして提供することで応える。それを企業としての付加価値にする努力を続けていきたいです。大量のライブラリーを用意すれば、つくり手側にもユーザー側にも大きなメリットになります。そうすれば、4~5人でアニメをつくれる時代も絶対に来ると信じています。その時代にはレンダリングもなくなり、CGはリアルタイムになっているでしょうし。

――そんな時代になれば、ビジュアルを使って物語を紡ぎ出せる人にとって、CGがものすごく魅力的なツールになるでしょうし、漫画のような個人制作も増えると。

松浦 宮崎駿監督も、コンテから直接物語を描き出しますしね。今回の『蒼き鋼のアルペジオ』を通じて製作委員会などビジネス周辺にいくようにもなり、いろいろと感じることが多かったです。CGもネガティブなイメージでとらえられている部分と、逆にポジティブな期待の両方を感じました。

――最後に何か今後に期待することをうかがえますか?

松浦 とにかく、後に続いてくれる会社が増えてほしいです。短いPVやダンスシーンのCGはたくさん出てきていますが、もっともっと物語のある長編に挑戦してほしい。自分たちが将来食べていくために、今はつらい思いをしてでもTVシリーズをつくってほしいなと。僕たちとしては、今回得られたノウハウをどんどん提供しますので、そうした土壌をともに育てていけたらなと思っています。

――ありがとうございました。

【2014年春 サンジゲン スタジオにて】

松浦裕暁氏 PROFILE
株式会社サンジゲン代表取締役、株式会社 ライデンフィルム 代表取締役、株式会社 ウルトラスーパーピクチャーズ 代表取締役。1997年に上京し、デジタルハリウッドで3DCGを学ぶ。翌年からフリーランスとしてアニメ業界でのキャリアをスタートし、2002年にゴンゾへ入社。2003年よりフリーランス集団「三次元」として活動を開始。2006年にサンジゲンを株式会社化。2011年にサンジゲン・トリガー・Ordet をグループとするホールディングカンパニー、ウルトラスーパーピクチャーズを設立。2012年に手描きを中心とするアニメーション制作会社、ライデンフィルムを設立。プロダクション・アイジーとサンジゲンが共同制作した劇場長編映画『009 RE:CYBORG』(2012年10月公開)では、制作プロデューサーを務めた。
 
鈴木大介氏 PROFILE
株式会社サンジゲン 取締役/アニメーションディレクター。 日本映画学校卒業後、音響・音楽担当として複数の映画制作に参加。その後CGデザイナーに転身し、ゲームのムービー制作やCGキャラクターを使った雑誌連載に従事。『ヴァンドレッド』(2000〜2002)、『ガラクタ通りのステイン』(2002〜2003)などの制作を経て、2003年よりフリーランス集団「三次元」として活動。2006年に松浦裕暁氏らと共に株式会社サンジゲンを設立。『009 RE:CYBORG』(2012)では、メインキャラクターのモデリングやアニメーションディレクターを務めている。