コロナ禍において、一気に加速したテレワーク。テレワークを経験された方からは概ね好意的な意見が寄せられている一方で、出社に戻られている方も増えているのも現実です。

もちろん、出社しないとできない業務やコミュニケーションの面など、出社する意義はありますが、緊急事態宣言下にテレワークでおこなえていた業務まで出社しておこなうというこれまでのやり方に戻ってしまっている傾向もあるようです。
選択肢が出社のみではなく、テレワークをうまく取り入れ、出社とのハイブリッドな働き方の体制を整えることが、今後、企業としての競争力にまで影響を及ぼす可能性があることについて紹介します。

テレワークによる個人の時間の増加

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い発出された緊急事態宣言により、テレワークが一気に広がりました。リクルートキャリアの調査 によると、東京の企業ではなんと70%以上の方がテレワークを経験したということです。また、緊急事態宣言を機にテレワークを経験した人の80%近くの人が、「やってみて良かった」と感じているというアンケート結果も出ています。(スタッフサービス調査

理由には、通勤時間を有効活用できる・家事を両立しやすいといった時間の効率的な利用についての回答が上位に多く見られました。また、業務に関しては、問い合わせや雑用、会議等が減ったことで、業務に集中することができたという生産性向上につながる意見も上がっています。 若い年代や子育てをしている年代は、プライベートの時間を多く持てるようになるという理由から、今後もテレワークを継続していきたいという声が多くあります。

全員出社に戻っている企業も

そういった声が多いにもかかわらず、緊急事態宣言の解除以降、全員出社に戻っている企業があるのはなぜでしょうか?

その理由のひとつにコミュニケーションがあります。テレワーク・在宅勤務になったことで、これまでよりコミュニケーションが減少したことは否めません。対面とオンラインではコミュニケーションの質が異なりますので、雑談など余白はあるが無くしたくはないようなコミュニケーションをとりたい時は、出社する必要があるようです。

コミュニケーションのあり方に課題感を持っている企業では、テレワークによるコミュニケーションロスを防止する方法の模索も進められています。オンラインでのコミュニケーションも工夫次第で、最適化していけると考えます。

テレワークの実施は二極化の傾向

出社体制に戻っている傾向にあるのは、そもそも新しい働き方を目指してのチャレンジではなく、緊急事態宣言を受けての当面の措置としてテレワークをされていた企業のようです。2021年6月に発表された東京商工リサーチの調査(第16回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査 )によると、テレワークの実施状況は二極化しています。コロナウイルス感染拡大の前からテレワークに取り組まれていた企業や、緊急事態宣言を機に、会社として本腰を入れて取り組みをされていたような企業は、今後の働き方のひとつとして制度化もされています。

一方で出社体制に戻られている企業は、緊急事態宣言が発出されている間だけの一時的な措置が多かったようです。具体的にはオフィスで業務をしていた時と同様のやり方をしていたり、ノートPCやデジタル化できるツールのみを急ぎ導入されたりという”モノ”止まりで対応していたようです。

たしかに「新しい働き方」にシフトするという”コト”にまで踏み込んで、業務のやり方・進め方や意識の変革まで進めるのは簡単ではありません。業務のやり方や進め方を変えようとすることでの社内での摩擦や反発がついてまわり、なかなか踏み出せないという現状もあるでしょうし、時間もかかってしまいます。 しかし、これからは従業員の働きやすさといった”コト”を考えることが重要なのです。

マネジメント層の意識の変化が重要

コロナウイルスの感染拡大という望まざる状況ではありましたが、緊急事態宣言によってテレワークを実現できたという事実は、国内の企業の働き方にとって大きな成果だと考えます。その中でオフィスに戻ってきている要因は、マネジメント層と現場との意識の乖離も大きな理由です。

現代は、先行きが不透明で、将来の予測が困難なVUCAの時代と言われています。変化の速い時代の中で、マネジメント層の意識が追いついていない(もしくは変わっていない)とも言われています。

「心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる。」という格言がありますが、コロナ禍での変化によって、心つまり意識が変わる前に行動が変わり、習慣まで変わってきています。
ニューノーマルという言葉が出てきましたが、VUCAのこの世の中では、今後の仕事のやり方が定まっていません。そんな中でも現場の人びとは、テレワークでも業務が遂行できることに気づき、メリットも実感しており、働き方を変えてみたいという意識が高まっています。

しかし、マネジメント層がそこにストップをかけてしまっている場合があります。これまで長い間やってきた業務のやり方を変えるのは難しいことですし、それなりにコストもかかります。高いハードルの課題に取り組むべきという意識を変えるのはより難しいことです。さらに、マネジメントに従事する立場の方からすると、テレワークによって、チーム一人ひとりの行動が見えづらくなってしまうことから、どのように管理をするかということに頭を悩まさせれているようです。

人手不足と企業の競争力への影響

ここまで、テレワークの実態と出社に戻ってしまっている理由について紹介してきました。では、冒頭に述べたテレワークをひとつの働き方として認め、推進していないことが、企業の競争力にまで影響を及ぼすというのは、どのようなことでしょうか?

少子高齢化により、国内の生産年齢(15歳〜65歳)人口は減少の一途を辿っています。つまり、国内での働き手が減少することで、人材獲得競争はますます激しくなります。1人の人材を複数の会社で取り合うような状態になることも十分に考えられます。総務省によると、生産年齢人口は1995年にはピークとなる8726万人でしたが、それ以降は減少し続けており、2030年で6,773万人、2040年で5,787万人、2050年で5,001万人になると予測されています。1995年に比べると3700万人以上減少する計算です。

団塊ジュニアと呼ばれる世代が2030年に大量に定年を迎えることもあり、日本国内の人手不足は明らかです。人手は減少していく中で、企業としては成長を求めていくとなると、業務のやり方の見直しが必要になってきます。ただ、業務の効率化などで解決できる問題もありますが、利益をあげるための製品やサービスを生み出すには優秀な人材が必要です。やはり人材の確保はどの企業にとっても経営課題となってくる時代が近づいてきているのです。実際に、国内では人手不足による倒産が増え続けています。

同じような求人条件で、出社が基本の企業とテレワークを取り入れて働き方に柔軟性がある企業の選択肢があった場合、求職者は後者を選ぶ可能性が高いでしょう。上述した通り、現場ではテレワークのメリットを実感しており、今後も続けたいと考えているからです。企業は、テレワークに限らず、副業や国籍を問わないなど多様性へ対応できる体制への変化を求められています。

DXへのはじめの一歩としての業務のデジタル化

少し話は逸れますが、ここ数年でかなりの頻度で耳にするようになり、注目されているデジタルトランスフォーメーション(DX)も、人手不足を業務効率化によって補う為の手段として有効です。

業務のデジタル化をDXと捉えられている方も多いと思います。しかしそれだけではDXではありません。経済産業省では、以下のように説明されています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

つまり、単に紙の書類をデジタルにするということではなく、顧客の体験を変革するということまでがDXなのです。DXに取り組むには、場当たり的な対策ではなく、企業として全体像としてのゴールを設定し、そのゴールに向けて、効果が出やすい部分から対応するなどの進め方が必要です。

ただし、全体を見据えた上でDXに向けた一歩として、業務のデジタル化をすること自体は有効です。そうすることでテレワークにも取り組みやすくなるメリットも生まれます。

働き方のひとつになるであろうテレワーク

今後、ワクチン接種などの効果でコロナウイルスの感染拡大が終息したとしても、ひとつの働き方として定着するであろうテレワーク。これから着手をするとしても、遅すぎるといったことはありません。とはいえ、どこから手をつければ良いか分からない、どのようにしたら良いかが分からないという方も多くいらっしゃるかと思います。

企業として利益を確保しつつ、従業員がどのような働き方ができるのが理想かといったゴールを設定・想定してみてください。その上で自社の現状を確認し、そのゴールに向けてどのようなステップを踏むのが効果的かを検討し、テレワークの必要性を確認してみてください。テレワークの必要性を実感できたら、働き方のひとつとして浸透していくことを目指して、業務のデジタル化や環境の整備などに取り組んでいくと良いのではないでしょうか。


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