2017年9月28日(木)に開催された、「テレワークをデザインするシステムソリューションセミナー」のレポートです。

ここ数年でワークスタイル変革を目指す企業が増える中、柔軟に働くことができる勤労形態「テレワーク」が注目されています。テレワークの導入に取り組んでいる企業のなかでも、女性の活躍支援に取り組まれてきたのが株式会社資生堂様です。同社のクリエーティブ部門の働き方改革への取り組みや、テレワークの導入とは切り離せない情報セキュリティーの運用管理の事例をご紹介いただきました。

資生堂クリエーティブ部門の働き方改革への取り組みと、TeleBeautyの開発

講師:株式会社資生堂 宣伝・デザイン部 クリエーティブ企画室長 片岡まり 様

ワークライフビューティ、資生堂様の働き方改革

ワークライフバランスが叫ばれる昨今、資生堂様が掲げたのは「ワークライフビューティ」。心身共に健康な社員が、自分磨きの時間や美しさを満喫し、イノベーションを巻き起こすという主旨の改革です。

改革の要は「単に作業時間を減らすのではなく、生産性を高めることを目指して取り組んでいる」こと。
コミュニケーション、仕事の断捨離、一人ひとりの能力開発・向上、代替手段の検討、意識づけといった大きく5つの切り口から、「生産性の高い働き方」の実現に取り組まれています。

所属する宣伝・デザイン部のスタッフは約120名。うちインハウスクリエーター約100名がブランドを支える良心として活動されています。また海外5拠点にて約50名のクリエーターが活動されています。

「デザイン思考で経営課題の解決策を可視化する」ことをミッションに掲げ、手がけられている内容はパッケージ、スペース、グローバルコミュニケーション、コーポレートコミュニケーション、日本国内コミュニケーションの各制作から、広告等のキャスティング、全体の企画・管理(Mac等の機器管理含む)まで多岐にわたります。

時間をかければ、より良いアウトプット?

片岡さんは、「改革前には残業が常態化していた」と振り返ります。残業経費以外にも、クロスタスクや他部門からの依頼によって、上司から一人ひとりの仕事量が見えづらい労務管理上の問題、デザインの手戻りなどプレッシャーによる疲弊も課題として挙げられました。

特に残業に結びつきやすいのがクリエーティブ部門の、「デザインは時間をかけるほど良いものができる」という認識。
「そのこだわりはお客様に伝わるものなのか。そこまで時間をかける必要があるのか」という考えを見直す必要があるとの片岡さんの言葉に、共感された会場のお客様は溜め息を漏らしたり、深々と頷かれたりしていました。

期日と制作レベル、パフォーマンス目標を明確に

これらの課題に対する対策として、制作の期日に加えてパフォーマンス目標を明確に設定。今後さらに「この時間はこのレベルまでと明確にできれば、もっと生産性が高くなっていくはず」と期待を覗かせます。他には上司とのコミュニケーション深化や、制作依頼管理やコラボフローを明確化。業務の見える化を図り、テレワークのためのIT環境整備も実施しました。

全社的に手がけた働き方改革のなかでも、宣伝・デザイン部の大幅な残業時間削減は社内で驚きを呼びました。片岡さんは「早く帰れという声かけだけでは変わりません。風土をつくるだけではなく、短い時間で仕事をした人を、もっと評価する必要があります」と評価軸を変える重要性を訴えました。

場所に縛られず、クリエイティビティを発揮する働き方

生産性の高い働き方を目指すなか、全社として「オフィス以外」でもオフィスと同レベルの仕事がしたいという、テレワークへの要望が上がりました。これに応え、社員が限られた労働時間を有効活用できるよう、全社としてテレワーク可能な制度やITインフラなどの環境を整えました。

クリエーティブ部門でテレワークを経験したデザイナーからは「9時間集中して、バッチリ図面が描けました。こんなに良い方法があるなんて!」という感動の声が上がったそうです。

テレワーク実施には「ITインフラ環境の整備」のみならず、「上司やチームメンバーとの信頼」「社員一人ひとりのプロ意識」が必須とのこと。同部署では、事前に業務計画を立てることで、テレワークのアウトプットイメージを上司やメンバーで共有しています。

「プロとして自律的に仕事ができる方には、クリエイティビティを発揮するため、積極的にテレワークを実施して欲しい」とまとめられました。

オンライン会議用の自動メークアプリ、TeleBeauty

テレワーク時の悩みを解決するソリューション

社会の「働き方改革」や「女性活躍支援」の取り組みをサポートするために、宣伝・デザイン部の若手社員が考え出したのが「自動メークアプリ TeleBeauty(テレビューティー)」です。

テレワークなどの多様な働き方によってオンライン会議の機会が増えるなか、以下の課題が浮き彫りになりました。

  • 在宅勤務者がオンライン会議のためだけのメークを負担に思っている
  • たとえ化粧をしていても背景色やPCのカメラ性能によっては肌がきれいに見えにくい

「皆さん、別にものすごい美人に映りたい訳ではなく、健康的にいつもの自分らしく映りたいのです」この課題解決に、我々の役立ちがあるのではないかと開発したのが、TeleBeautyです。

これは、資生堂様のメークのシミュレーション技術、トレンド情報などを活用し、自宅と会社等でのビデオ会議の際に自身の顔色の補正やメークを施してくれるソリューションです。リアルタイムで顔の動きに連動するため、実際にメークをしているように感じられます。顔以外の部分をぼかす機能が搭載され、プライベートである自室の映り込みも防ぎます。


デモを体験されたお客様が、自然と笑顔になっていたのが印象的でした。

自分らしく映ることで、オンライン会議が楽しくなった

開発段階では、歌舞伎メークなどの面白アイデアもありました。しかし、ビジネスシーンに相応しいよう「ナチュラル」「フェミニン」「クール」「トレンド」の4つのメークに絞りました。顔色よく、自分らしく映りたいという需要は女性社員に限らないようで、実験期間には、資生堂社内では男性社員も多く利用しました。

実証実験に協力されている企業からは、「オンライン会議で顔出す抵抗感がなくなった」「表情が見えるようになりオンライン会議が楽しくなった」といった意見、また9割以上の企業から今後も使い続けたいという好評価が寄せられました。
「普段自分では購入しない化粧品の疑似体験や『お化粧って楽しい』という化粧品への興味喚起に繋がっていることが資生堂として喜ばしいです。社会を変えていくような力になればと取り組んでいます」と片岡さんは力強く話されました。

資生堂クリエーティブ部門での情報セキュリティー運用管理事例

講師:株式会社資生堂 宣伝・デザイン部 クリエーティブ企画室 山野内 理 様

後半では、山野内さんよりテレワークの導入とは切り離せない情報セキュリティーに関して、同部門での運用管理の事例をご紹介いただきました。

テレワークは、情報セキュリティーリスクの1つ

山野内さんは2つの局面において、情報セキュリティーのリスク拡大を感じていらっしゃいます。
1つ目はテレワークなどの働き方の変化。場所に縛られないスタイルに合わせたセキュリティー環境整備が必要になっています。2つ目はお客様のタッチポイントの変化。近年の広告コミニケーションは、お客様の体験を創出するため、お客様の360度のタッチポイントに対応する必要があります。メディアが多岐にわたり新しい分野がどんどん出てくるなか、新たなテクノロジーへのチャレンジにあわせた情報セキュリティーリスクを考える必要性があります。

クリエーティブ部門のMac端末管理

資生堂様では、GICT部という専門チームが各地域や拠点のICT環境を取りまとめています。一方で、クリエーティブ部門は「異なるLAN使用」「Mac端末の使用」といった事情により、GICT部と連携を取りつつ部門独自の管理をされています。

「ハードウェア/ソフトウェアの配置計画・発注・設置、その資産管理」「情報セキュリティ運用管理」「トラブル時の対応」という管理内容に対して、クリエーティブ部門での管理対象はMac108台。21台のデスクトップPCを含み、3拠点にわたって設置しています。GICT部のフォローと部門の管理担当者1名だけでの管理では限界があると判断し、クリエーティブ部門ではサポートをTooに委託しています。

セキュリティー対策の最後の要は、操作ログの解析

GICT部か管理するWindows端末と同等のセキュリティー対策が、クリエーティブ部門でも求められます。セキュリティー対策の「ネットワークのアクセス制限」「使用者が禁止事項を実施した際のアラート発行」「端末操作ログの分析レポート」に、情報漏洩対策+IT資産管理ソフト「MaLion」を活用することで対応しています。

MaLionの機能によって、登録外の外部記録装置の利用や、許可のないWi-Fiへの接続があると、担当者のアラートが鳴り、問題がある場合はすぐに使用者に警告を出すように運用しています。

「情報システムに関する悩み全て……機器構成、システム構築、ソフトウェアに関して、Tooに幅広く相談に乗ってもらっています」と山野内さん。同部門では、ログ解析の結果として浮かび上がった問題の対策方法を、Tooとともに検討する定例の場を設けています。特に四半期に1度の操作ログ解析は、情報セキュリティー対策のため重要です。例えば、アラートでは拾いきれず、ログ分析によって判明したケースがありました。

情報セキュリティーの観点からテレワークへの取り組み

PC持ち出しには、情報セキュリティーリスクへの対応が必須

現在、Windows端末についてはテレワーク可能なITインフラと、資生堂様の取り決めたセキュリティレベルをクリアする対策をとっており、申請書が必要なくテレワーク端末として利用できます。
一方、Macへの対応はやや遅れており、利用には申請書が必要です。そこで、セキュリティー対策のための全社ルール「内蔵データの暗号化」「外部攻撃への対応」「外部記憶媒体の制限」「パスワードの更新期間の設定」「アクセスログの収集」「毎日のPC内の全データの書き出し」という6項目のうち、現在、残す1項目に対応するべく、Tooとともにシステムを開発中です。2017年12月ごろまでには、申請がなくともテレワーク可能な環境が整備される予定です。

今後は、外部パートナーとの取り決めを含む、セキュリティー空間の拡大への対応、セキュリティー強化と相反するテレワークの手間を軽減。さらに何よりも使用者のセキュリティー意識向上のため、やらされ感なく使い手が自分たちでルールをつくっていくような仕組みつくりなど、継続した取り組みが必要です。

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