
株式会社ヤクルト本社は、生命科学の追究を基盤とし、乳製品をはじめとする食品のほか、化粧品、医薬品、研究開発、生産活動といった幅広い事業を展開。「人も地球も健康に」をコーポレートスローガンに掲げ、世界の人々の健康で楽しい生活づくりに貢献しています。
今回、より一貫したブランドコミュニケーションを図るためのCI(コーポレートアイデンティティ)マニュアルの改訂に、Adobe Creative Cloud Proエディションを導入されました。導入の背景や効果を、広告部 制作課 担当課長の佐藤利弘様に伺いました。
企業価値を高める一貫したブランドイメージ
同社の商品に記された「Yakult/ヤクルト」のロゴは、長年にわたって多くの人々に親しまれ、信頼を得てきました。こうした企業や商品のロゴに代表されるコーポレートアイデンティティ(CI)の統一は、ブランドイメージを一貫性のあるものにし、それが顧客を含むステークホルダーに信頼感を与え、競合他社との差別化ともなり、ひいては費用節約と投資対効果の向上につながると同社は考えます。

容器やパッケージにおなじみのロゴが記された乳製品(上)/清涼飲料(下)
同社では、より一貫したブランドコミュニケーションを図るために、2007年にCIマニュアルを発刊しました。ロゴ、コーポレートカラー、書体といったデザインエレメントの運用ルールと適用方法が記載された100ページほどのドキュメントは全て印刷され、厚みのあるファイルにとじられています。そこにロゴなどのデータが収録されたCD-ROMをセットした状態で、国内および海外の各事業所に発送していました。

ロゴ、コーポレートカラー、書体といったデザインエレメントの運用ルールと、
IDカードや各種サイン、自動販売機、車両などへの適用方法が記載されたCIマニュアル
18年手つかずだったCIマニュアルの改訂が急務に
従来のCIマニュアルが発刊されてから18年が経過し、同社はCIマニュアルの改訂をおこないます。プロジェクトの中心的役割を担った佐藤様は、経緯について次のように話します。
18年の間に改訂がおこなわれなかったため、CIマニュアルに対する社員の認識も低下し、特に若い社員はその存在すら知らないという状況になっていました。その結果、各所で表記の統一が損なわれるようになり、実際に誤った使い方をしているものを見かけるようになりました。表記の乱れはステークホルダーに対して混乱を招くだけでなく、ブランドイメージの低下にもつながります。創業90周年を迎え、今後の成長戦略を進めるうえで、異なる事業領域においてもブランドイメージの一貫性を保つことは最重要であると考え、早急にCIマニュアルの改訂に取り組むこととなりました。
CIマニュアルの改訂にあたり、まずは社内の利用状況をヒアリングし、現行のCIマニュアルの運用で生じた課題を明確にしていきました。
特に意見が多かったのは、『CIマニュアルが使いづらい』でした。分厚いファイルを持ち出して、100ページもあるドキュメントから必要な箇所を見つけ出すのは大変です。マニュアルは各部署に1〜2冊程度しか置いておらず、他の人に持ち出されている場合もあります。そうしたことが使いづらさの要因になっていました。他にも、マニュアルの一貫性の欠如や、最新のデザイントレンドへの対応不足という意見もありました。

株式会社ヤクルト本社 広告部 制作課 担当課長
佐藤 利弘様
内製化で効率アップとコスト削減を図る
CIマニュアルの改訂作業を進めていくうえで、従来の制作プロセスの見直しも図られました。従来のマニュアルは、制作の部分を外部の広告代理店および制作会社に依頼していたため、情報のやりとりに非常に時間と手間がかかっていたといいます。
社内でまとめた内容を外注先に伝えて、それをデザイン・レイアウトに落とし込んでもらうのですが、社内で内容を精査する人がたくさんいるため、変更や修正が頻繁に発生します。一度上がってきたドキュメントを社内各所に回し、そこで入った修正指示をとりまとめて外注先に戻す、これを何度も繰り返すわけです。うまく意図が伝わらず、手戻りになることもしばしばあったと、当時の担当者から聞いています。
こうした効率面での課題に加え、高額な外注コストを削減するために、同社では今回のCIマニュアルの改訂を内製でおこなうことを選択。佐藤様を含む、デザイン経験のある数名のアートディレクターが所属する広告部 制作課が、その業務を受け持つこととなりました。
Adobe Stock素材が使い放題のCreative Cloud Proエディションを導入
同社の広告部 制作課では、製品パッケージデザインの制作やディレクションに、Creative Cloudグループ版 コンプリートプランを利用してきましたが、Adobe Stockの通常アセットを無制限にダウンロードできるCreative Cloud グループ版 Proエディションにアップグレードされました。その背景にあったのは、写真やイラスト素材に関する課題でした。
いつの時代でも、写真やイラスト素材の作成・収集には時間と手間がかかります。素材の収集には、これまでレンタルポジやCD-ROM素材集、近年ではインターネットのストック素材などを利用してきましたが、どれも素材の検索や入手に時間がかかり、選定したあとの加工も大変でした。ラフを作成するのにも、画像に透かしが入っていると見栄えが悪いので、Photoshopのスタンプツールでひたすら消すということもやっていました。
その後、Adobe Stockの存在を知り、種類も多く、検索もしやすく、何よりクオリティの高さに驚きました。すごく興味がわいたところで、アドビ製品をはじめとするクリエイティブ環境を長くサポートしてもらっているTooからProエディションを勧められ、Adobe Stock素材が一定条件内で使い放題になると聞いて、社内で検討し導入を決めました。
CIマニュアル制作のメインアプリにIllustratorを採用
CIマニュアルの改訂作業は、主にIllustratorとPhotoshopを使用しておこなわれました。メインとなったアプリは、Illustrator。100ページにもおよぶマニュアルの制作にIllustratorを選んだ理由を、自身も使用歴が30年という佐藤様は次のように話します。
私にとって一番使いやすいツールというのもありますが、現行のCIマニュアルがIllustratorで制作されていたというのが一番の理由です。ゼロから全て作り直すのではなく、残せる部分は残し、変更が必要な部分にだけ注力することで作業効率は上がります。現行データは2007年当時のバージョンで作られており、現在のバージョンで開くとテキストが上手く再現されないという不具合はありましたが、図版などのベクターデータはそのまま生きていたので、編集も比較的容易におこなえました。Illustratorは標準的なツールとして世界中で使われているので、国内はもとより海外の制作会社やデザイナーとも問題なくデータをやりとりできるという点が、Illustratorを採用する大きな理由の1つでもあります。

100個のアートボードが並ぶIllustratorの作業画面。ページの管理から編集、
PDFへの書き出しまでを1つのファイルで完結
また佐藤様は、Illustratorから容易にPDFデータを書き出せる点も高く評価しています。
100個もあるアートボードを一気に1つのPDFに書き出せるのは便利ですね。また、PDFを書き出す際に『Illustratorの編集機能を保持』にチェックを入れておくと、外部業者がPDFをIllustratorで開くことができるので、使用するロゴデータを多種多様なデータ形式へ書き出すといったことも可能です。わざわざIllustratorのファイルを送り直す手間も省けます。

PDFをIllustratorで開くことで、ロゴデータの抽出や多様な形式での書き出しに対応
Adobe Fireflyの生成AIでイメージどおりのイラストを短時間で作成
改訂されたCIマニュアルを社内外に周知し、全従業員が正しいデザインガイドラインに従って業務を進めるようにするために、使用マニュアルも作成しました。
『業務中にマニュアルを読むのが面倒』『取っ付きにくい』等の声が多くあったため、IllustratorとPhotoshopのほか、Adobe StockやAdobe Fireflyを活用し、ただ文字と規則で埋め尽くされた堅苦しいものにするのではなく、親しみやすく、誰もが『ちょっと読んでみようかな』と思えるような、そんな魅力的なものにするためにイラストやビジュアルを効果的に使用してみようと思いました。
Creative Cloud ProエディションはAdobe Stock、Adobe Fireflyともに通常プランより多くのクレジットが付与されています。 制限を気にすることなく、Adobe Stockの素材を活用したり、イメージどおりの素材が見つからない場合は、Adobe Fireflyの生成AIを活用できたことに効果を感じているといいます。
Adobe Fireflyを使ったのはほぼ初めてだったのですが、こんなにも簡単にイラストが作れるのかと、正直驚きましたね。なんの知識もない中で、男女の若手社員がマニュアルを見ているイラストを、ものの10分くらいで作れました。さまざまな職種、性別、国籍の従業員がコーポレートロゴの入ったボードを持つイラストも、テキストを若干打ち替えるだけで複数作成することができました。

Adobe Fireflyの「テキストから画像生成」を使用して、プロンプト入力で
イラストのバリエーションを短時間で作成
内製化により数千万かかっていたコストを大幅削減
今回、CIマニュアルを内製した効果について、佐藤様は以下のように話します。
以前は、3名の担当者と多くの外部業者が協力して進めていたようで、印刷費用やCD-ROM作成費用も含めると、数千万円はかかっていたと思います。今回は完全内製で、デザイン・レイアウトに関しては私一人が手掛けました。印刷もおこなわず、CD-ROMも作成しなかったので、かなりのコストダウンになりました。また、内製化により、外部とのコミュニケーションが減り、社内での情報共有や意思決定のプロセスが以前よりもスムーズになったことで、業務効率の向上に加え、企業の理念やビジョンをより正確に反映させることができました。
また、特にコストがかかっていた紙での配布を廃止し、全てのページを1つのPDFファイルにまとめて社内データベースに掲載し、共有する方法に切り替えました。
弊社は、各事業所、販売会社、研究所、工場がありますし、事業所は海外にもあります。さまざまな環境の中で、共通で使用できるファイルといえば、PDFしかありません。PDFなら文字化けやレイアウト崩れの心配がなく、文書内の検索も容易におこなえます。また、ペーパーレス化により、環境対策という弊社の重要な経営課題への取り組みにも貢献できます。
改訂されたCIマニュアル、使い方マニュアルは、事前のテスト公開を経て全社での運用がスタートしました。
各所の反応はこれからになりますが、事前にテスト公開し、利用した方々からは『格段に良くなった』との話をいただいています。

PDF化されたCIマニュアル。ページ機能や検索機能を使って100ページにおよぶ
ドキュメントから、必要な情報へのすばやいアクセスが可能に
企業にイノベーションをもたらすクリエイティブの重要性
近年、業種を問わず多くの企業が「クリエイティブ」に着目し、各々の経営戦略や業務プロセスに積極的に取り入れようとしています。佐藤様は、今回のプロジェクトを振り返りながら改めてクリエイティブの重要性を実感したといいます。
弊社が考えるクリエイティブの要素として、まず第一に『イノベーション』が挙げられます。既存の枠にとらわれず、新しい視点や方法を取り入れることで、従来の問題に対して革新的な解決策を見つけることができます。まさに今回のCIマニュアル改訂のプロジェクトがそうでした。コストや業務効率、使いづらさといった問題点を洗い出し、チーム内外の多様な視点やスキルを結集してより豊かなアイデアを生み出し、そのアイデアを形にするためのツールを活用して、具体的な成果を生み出すことができました。この経験は、今後の弊社のさまざまなプロジェクトの中で必ず生きてくると思います。
クリエイティブの現場とMacの両方を理解している会社として株式会社Tooを信頼
ヤクルト本社では、アドビ製品やMacなどクリエイティブ環境全般をTooがサポートさせていただいています。
Tooと弊社は20年以上のおつきあいになります。広告業界で、Tooの前身である『いづみや』と言えば、デザイン用品の専門店のイメージがある方もいるかと思います。
私がデザイナーとして就職したのは、1994年。当時は、カッターとペーパーセメントやピンセットで写植を貼り、デザインイメージを制作し、TVCMコンテも手描きの時代でした。プレゼンボードやデザイン画材、コピックなども『いづみや』から購入していました。ちょうどMacを使うための環境が急速に整いつつある時代だったと思います。 Tooは、いちはやくMacの取り扱いを始め、広告・デザインとMacの両方を理解されている会社として信頼しています。
キッティングもスムーズにおこなっていただけるので、助かります。 Mac導入後のサポート体制も非常に助かっています。弊社には情報システム部があり、Windows PCやネットワークに詳しい人材はおりますが、Macに関しては専門知識を持つスタッフがいません。そのため、ハードウェアやソフトウェア、アプリのトラブルが発生した際にサポートしていただけるのは非常にありがたいです。
AIに仕事を奪われるのではなく、AIを使いこなすこと
佐藤様は、制作課の今後の取り組みについて、動画制作を一番に挙げました。
弊社は食品・飲料メーカーで、専門のスキルをもった人材やハイエンドな機材がそろっているわけではないので、消費者への理解を促進するための手軽なショートムービー的なものを制作できればと考えています。Creative Cloud Proエディションには動画制作のツールも含まれており、中でもPremiere Proの動画の音声をテキスト化し、テキストを編集するだけで動画編集ができる機能には非常に興味があります。動画編集の経験がない人でも、効率的に動画編集を始められるようになるのではと期待しています。Premiere ProはTVCMやWeb制作の現場でもスタンダードとなっているので、外部パートナーとの連携を考えたうえでも、身につけておくべきスキルだと思います。
また佐藤様は、今回のプロジェクトで活用した生成AIに、確かな手応えを感じているといいます。その一方で、制作の現場やさまざまな職種でAIの進化を脅威に感じている人も多くいると指摘します。今後、AIとどのように関わっていくべきか、佐藤様は次のように締めくくりました。
昨今、『AI』とか『生成AI』とかいったワードは多く聞かれますが、それはあくまでツールであって、『起点力』や『意思』はあくまで人間にあると考えています。その能力を日々レベルアップしていくことが大事で、プラスアルファでAIや生成AIを活用することで、より効率的で、より濃い仕事ができると思います。またAIによって、自分が今までできなかったことができるようになり、新たなビジネスチャンスを生み出す可能性も秘めています。これからの時代、AIに仕事を奪われるのではなく、AIを使いこなすことが重要になるでしょう。

※記載の内容は2025年5月現在のものです。内容は予告無く変更になる場合がございます。