【公立高校iPad導入事例】「iPadは文房具」から始まったBYODデバイス活用と生成AIへの挑戦

GIGAスクール構想により、多くの学校で1人1台デバイス環境が整備されました。一方で、「デバイスを導入したものの活用が広がらない」といった悩みを抱える学校も少なくありません。
兵庫県立東播磨高等学校様では、1人1台デバイスの導入にあたり、約1年かけて教員との対話や研修を重ねながら、「どのような学びを実現したいのか」を起点にデバイスの選定を進め、iPadを採用しました。
本ブログでは、公立高校ならではの制約の中で行われたデバイス選定のプロセスと、導入後に見えてきた変化、現在取り組んでいる学校現場でのAI活用についてご紹介します。
※本記事の内容はTeacher's Summit 2026のセッションにてお話しいただいた内容をもとに構成しています。
目次
公立高校だからこそのBYOD導入
兵庫県立東播磨高等学校様は、兵庫県加古郡稲美町にある県立高校です。「挑戦と創造」を教育活動の柱に掲げ、探究学習や進路指導、部活動など幅広い分野で生徒の主体性を育む教育を実践しています。放送部や吹奏楽部が全国・関西大会で活躍するほか、国公立大学への進学実績も伸ばしており、生徒一人ひとりの挑戦を後押しする校風が特徴です。
公立高校では私立学校のように学校単独で自由な意思決定ができるわけではありません。教育委員会が整備するICT環境や運用方針を踏まえながら、自校にとって最適な選択肢を検討する必要があります。
兵庫県ではMicrosoft 365 for EducationやGoogle Workspace for Educationといった教育クラウド環境が整備されていました。また、BYODデバイスについては、Windows PC、iPad、Chromebookの中から各校が選択できる仕組みとなっていました。
こうした県全体の環境や条件を前提に、同校では自校の学びに最適なデバイスは何かを検討していったといいます。
デバイス選定で最初に議論になった「Windows PCかiPadか」
学校の通信環境を考慮した結果、同校ではWindows PCとiPadを中心に比較検討を進めることになりました。当初、教員の間ではWindows PCを支持する声が多かったといいます。
「教員も使い慣れているのはWindows PC」
「レポートやプレゼン資料を作成するためだけなのでパソコンが良い」
「iPadは使ったことがないため、指導の仕方がわからない」
という声が多く上がっていたそうです。
しかし、同校で情報科教諭を務める迫田先生は、これまでICT活用が進んでこなかった理由は「まずデバイスを導入し、その後に活用方法を考える」という導入の進め方にあると感じていました。
そこで、デバイスの選定ではなく、「学校としてどのような学びを実現したいのか」を整理するところから始めました。約1年かけて、「生徒にどのような学びをしてほしいのか」「ICTで何を実現したいのか」といったテーマについて教員同士で議論を重ねました。
また、教員に向けて校内にあったiPadを活用したミニ研修を実施。実際に触れる機会を設けながら、「iPadを使ったことがないから不安」という心理的なハードルをなくしていきました。
「iPadはパソコンではなく文房具」という考え方
教員との対話を続ける中で、教員の間で共有されていったのが「iPadはパソコンではなく文房具」という考え方でした。文房具は常に持ち歩き、必要な時にすぐ使います。
加えて、iPadの起動の速さや直感的な操作性も重要な要素でした。複雑な操作やログインが必要ないため、生徒や教員が使いたいときにすぐ活用できます。こうした手軽さが、日常的な利用を促し、活用の定着につながると考えました。
こうした議論を重ねた結果、最終的には「学習道具として最適なデバイス」という観点からiPadの採用が決定しました。
導入後に見えたデジタルネイティブ世代の実態
実際に運用を開始すると、生徒がiPadの操作で困る場面はほとんどなかったそうです。スマートフォンに慣れた世代にとって、iPadは自然に扱えるデバイスだったためです。生徒一人ひとりが、必要に応じて活用する場面や方法を選びながら、iPadを学習に取り入れているといいます。
一方、教員のICT活用の定着のため、教員が使い慣れたツールを選択できる柔軟な環境を整備しました。教員の中にはiPadに不慣れな人もおり、また、公立高校では人事異動によって使用デバイスが異なる学校から異動してくる教員もいます。そこで同校では、特定のツールに利用を限定するのではなく、GoogleやMicrosoftなど、教員が使い慣れたツールを活用できる環境を整備し、教員のICT活用を促しました。
生徒の発想が授業を変えた理科の実践
導入後はさまざまな教科で活用が進んだといいます。
理科の授業では、従来はスケッチしていた顕微鏡での観察を、iPadを使用した写真による記録へ移行しました。
その中で生徒たちは、「写真よりも動画の方が観察結果をより鮮明に記録できるのではないか」と提案するなど、自らiPadの活用方法を見つけていったといいます。さらに、iPad同士での画像共有により、グループでの議論が活発化し、比較考察の精度向上につながりました。
ICTは置き換えではなく「補完」と位置付けた授業実践
また、同校ではICTをアナログ教材の代替ではなく、学びを補完する存在として捉えています。紙のノートや黒板を完全になくすのではなく、それぞれの良さを活かしながら組み合わせています。
例えば国語では、Google Meetやロイロノートを活用し、教員の手元のタブレット画面をそのまま生徒へ配信し、板書代わりとして活用する授業も実践しています。
数学では、プロジェクターは資料提示や振り返りを映し、黒板は思考過程の可視化に使用するなどの使い分けや、iPadを課題の一斉配信・提出に利用するなど、場面ごとにアナログとデジタルを使い分けています。
次のテーマは生成AIの活用
現在は、iPadの活用が定着した次のステップとして、生成AIの活用に取り組んでいます。GeminiのカスタムAI機能であるGemや、Gemini Notebookを活用しながら、授業準備や教材作成の効率化を進められるよう、校内研修などもおこなっています。
Gemの活用例
・評価観点や出力形式をあらかじめ設定し、安定した品質の成果物を生成できる環境を整備
・小テスト作成時に問題形式や難易度を固定し、短時間で教材を作成
・これまで個人の経験や知識に依存していたノウハウを再利用可能な形で共有
Gemini Notebookの活用例
・授業準備の支援ツールとして単元構成の整理や学習目標に応じた発問例を作成
登録された資料のみを参照し、参照した情報源が明確に表示されるため、根拠を確認しながら活用できます。資料を探す時間を減らし、その分、授業設計や生徒理解に時間を使えるようになったそうです。
一方で、迫田先生は「AIを活用すること自体が目的ではない」と強調します。授業の目標設定や生徒理解、評価といった教育の本質的な部分は教員が担うべき役割です。AIは資料整理や要約、文章作成などの定型業務を支援する存在であり、最終的な判断や確認は必ず教員が行う必要があります。
「ICTは導入すること自体が目的ではなく、その先でどのような学びを実現したいのかを考えることが重要。まずは教員同士で対話し、実現したい学びを共有した上で、そのために必要な手段としてICTを選択することが大切である」。 ICT活用を進める上で大切な視点に気付かされるセッションでした。
記事は2026年9月14日現在の内容です。
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