あにつく2025レポート | リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏(FelixFilm)

2025年9月20日(土)に開催された「あにつく2025」より、「リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏」のイベント内容をご紹介します。

株式会社ENGIによるTVアニメ『メダリスト』のキャラクターリギング解説 会場風景01

セッション概要

TVアニメ『MFゴースト』におけるリアルとアニメの融合をテーマに、株式会社FelixFilmがどのように3DCGによるレース表現を追求してきたのか。第2戦・芦ノ湖GTの制作舞台裏を中心に、映像づくりのこだわりや試行錯誤の過程について、スタッフの方々に語っていただきました。

【主催】株式会社Too
【登壇者】株式会社Felix Film 中 智仁 氏
     株式会社Felix Film 内田 博基 氏
     株式会社Felix Film 白石 優也 氏
     株式会社Felix Film 林 里美 氏

中智仁 内田博基 白石優也 林里美

会社紹介

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏32

林:
まず最初に、株式会社Felix Filmについて簡単にご紹介します。株式会社Felix Filmは「3D部」「作画部」「制作部」という3つの事業主軸を持ち、2D作画と3DCGの両方の強みを生かした“ハイブリッド表現作品”を得意としている会社です。

本社は東京都三鷹市にあり、3DCG部門の拠点として三鷹駅前に「三鷹スタジオ」を、さらに関西拠点として神戸市に「神戸スタジオ」を設け、各地で高品質な映像制作に取り組んでいます。

主な制作実績としては、弊社代表が監督を務めた『MFゴースト』や『阿波連さんははかれない』などが挙げられます。『MFゴースト』は、時代の流れに逆行するようにガソリンエンジンを搭載したマシンによるレースをテーマに、実在する公道を舞台としたカーレースバトルを描いた作品です。

登壇者紹介

次に、登壇者をご紹介します。まず、FelixFilm代表取締役であり、『MFゴースト』の監督も務めている中 智仁(なか・としひと)。続いて、『MFゴースト』の3D監督を務める内田 博基(うちだ・ひろき)です。

そして、『MFゴースト』のリードモデラーを担当する白石 優也(しらいし・ゆうや)。最後に、司会進行を務めます、総務部チーフマネージャーの林 里美(はやし・さとみ) です。

作品紹介

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏01

林:
ここで、MFゴーストについてご紹介いたします。MFゴーストは、作者・しげの秀一氏によって2017年から講談社「ヤングマガジン」で連載されている漫画作品です。単行本の累計発行部数は620万部を突破しており、非常に高い人気を誇っています。

1995年から2013年まで連載された『イニシャルD』は、公道最速伝説を描いた作品で、峠を舞台に数々の走り屋たちが死闘を繰り広げる公道レース漫画として知られています。MFゴーストは、そのイニシャルDの後継作として、近未来の世界観を舞台に描かれた作品です。

物語の舞台は、ガソリン車が製造中止となり、電気自動車や燃料電池車が主流となった日本。そんな時代にあえてガソリンエンジン車によるレースを行うという設定で、スピードと情熱を再び描き出しています。アニメ化にあたっては、視聴者がまるで実際のレースを観戦しているかのような臨場感と没入感を追求し、映像表現に力を注いでいます。

3D作業

次に、3Dの作業箇所について説明します。本作では、レースシーンの臨場感とキャラクターの感情表現を両立させるために、3DCGと手描き作画を適切に使い分けています。

たとえば、顔のアップなど繊細な表情が求められる車内のキャラクター描写については、手描きの作画で制作します。一方で、走行中の車両や背景、車外のカット、さらに車内のドライバーの動きに至るまで、基本的には3DCGで構成しています。

実在する公道を舞台にしたレース表現では、背景や車両のモデリングはもちろん、天候や光の演出を含め、リアルな質感の追求にこだわりました。実在の場所を再現するため、Googleマップや現地で撮影した写真資料を参考に、3DCGで精密な再現を行っています。

特に『MFゴースト』2nd Seasonの第2戦・芦ノ湖GTでは、雨天時のレース演出に力を入れました。路面の濡れ具合やタイヤが巻き上げる水しぶき、フロントガラスを叩く雨粒など、細部に至るまで3DCGで丁寧に表現しています。

制作について

全体スケジュール

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏02

林:
それでは、全体の制作スケジュールについて説明します。MFゴーストの3DCG制作は、2020年に1st Seasonで使用される主人公・片桐夏向(かたぎり かなた)が乗るトヨタ86の3DCGモデリングからスタートしました。

その後、2nd Season全24話分のアニメーション制作を経て、2024年6月に完成を迎えるまで、約3年半にわたる長期プロジェクトとなりました。今回ご紹介するMFゴースト 2nd Seasonの第2戦「芦ノ湖GT」の制作は、2023年2月頃からプライマリ作業を開始しています。

しかし、1st Seasonのセカンダリ作業と2nd Seasonの準備期間が重なったため、スケジュールは非常にタイトなものとなりました。雨や火山灰といった環境エフェクトの検証や、実際の車両モデルへの反映など、限られた時間の中で多くの試行錯誤を重ねました。そうした一つひとつの要素が積み重なった結果、『MFゴースト』ならではの臨場感と緊張感を生み出すことができたのです。

それではここから、芦ノ湖GTのレースシーンがどのように構築されたのか、技術的な工夫やこだわりについて、白石さんから詳しく紹介いたします。

モデリング

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏03

白石:
私から、2nd Seasonにおける車のモデルについて説明します。

今回登場する「芦ノ湖GT」のコースは、第14話から描かれており、火山灰が積もるエリアが存在します。レースのスタート時から雨が降っているため、「コース上の火山灰エリアを走行すると、車体に泥が付着するのではないか」という意見が制作チーム内で上がりました。

上に映っている2枚の画像が、実際に使用した火山灰エリアの美術背景です。見るとわかるように、地面には灰が混じった独特の質感が表現されています。序盤は雨の中での走行でしたが、後半になると天候が曇りに変化し、泥の付き方も異なるため、シーンごとに2種類の泥の表現を作り分ける必要がありました。

そのため、車のモデルとしては1st Seasonで使用したデータをベースに、タッチ線や質感調整を加えたうえで、参考資料をもとに泥のテクスチャを追加しました。

天候の違いについて

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏04

白石:
こちらの画像は、左下が晴天時の1st Seasonのレースシーン、そして上の2枚が雨天時の2nd Season、火山灰エリアでのシーンになります。

火山灰エリアとは、芦ノ湖GTのコース内に存在する「スリッピートラップ」と呼ばれる区間のことです。この区間では濃霧と火山灰が重なり、雨が降ることで道路に付着した火山灰が水分を含み、泥状に変化します。レース中、車両がこのスリッピートラップを走行することで、泥が跳ね上がり、車体に徐々に付着していくという演出になっています。

こうした環境変化を表現するにあたり、泥の汚し素材を用いることで、走行による影響や路面状況の変化を視覚的に伝えることができるのではないかと考えました。その泥表現を実現するため、今回は『Substance Painter(サブスタンス・ペインター)』のツールを使用し、車体に付着する泥のテクスチャを制作しました。

泥汚れ参考

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏05

白石:
今回は例として、主人公・片桐夏向が乗るトヨタ86を使用しながらご説明します。

まず作業の初期段階では、設定制作の担当者から「トヨタ86の泥汚れバージョン」をイメージした参考画像を提示してもらいました。画面上に表示されているものが、その参考資料です。

この資料をもとに、「どの程度の濃淡で汚れを表現するのか」「どの範囲までテクスチャを描き込むのか」といった点を検討しました。特に、走行中に泥がどの部分につきやすいかを意識しながら、UV展開(テクスチャを貼るための下準備)を進めていきました。

Substance Painterでのテクスチャ作業

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏06

白石:
次に、展開したモデルデータをFBX形式で出力し、Substance Painterに読み込んで、実際に泥の汚れを描いていきます。上部に表示している2枚の画像は、雨天時と曇天時のキャプチャ画像です。

この作業では、参考画像を確認しながら「泥がどのような経路で付着したのか」「雨天時にはどの部分から泥が流れ落ち、どこに残るのか」といった点を考慮しつつ進めました。

また、汚れの表現が単調にならないよう、濃淡のバランスにも細心の注意を払っています。作業手順としては、まず曇天時用の泥テクスチャをベースとして作成し、その後、雨粒の流れを想定しながら泥の量を減らしていくことで、雨天時用のテクスチャを仕上げました。

天候による違いとしては、雨天時には雨によって泥が流れ落ちるため、全体的に汚れは控えめになります。一方で、曇りのシーンでは雨が上がった後で地面の泥が跳ねやすく、レース後半の経過も踏まえて、より強い汚しにしています。

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏07

白石:
その後、Substance Painterで作成したテクスチャ画像を書き出し、Photoshopを使用して濃淡や全体のバランスを細かく調整しました。

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏08

白石:
こちらが完成した画像になります。

左上から順に、車体ボディ、停止時に使用するストップタイヤ、そしてレース用のランタイヤです。左下には、ホイールとブレーキディスク、さらに車体裏面のテクスチャを配置しています。

こうした細部までの描き込みにより、泥の付着具合や車両ごとの使用状況の違いをよりリアルに再現することができました。

車両の質感表現

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏09

白石:
次に、3ds Max上で泥の色味や全体のトーンを調整し、完成した泥テクスチャを車体モデルに搭載しました。最終工程では、After Effectsを使用して車種ごとに質感を追加し、フィルター処理を施すことで、よりリアルで映像的なルックに仕上げています。

左下の画像は、1st Seasonで使用していた車体モデルと、今回の雨天仕様・泥付きバージョンを比較したものです。こうして並べてみると、車体に付着した泥や濡れた質感の違いが明確に分かり、環境の変化によるリアリティが一層際立つようになっています。

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏10

白石:
このような工程で、泥テクスチャの作成から割り当てまでを行いました。

2nd Seasonでは、レースに登場するすべてのメイン車両に対して泥テクスチャを個別に制作しています。それぞれの車種の特徴を保ちつつも、全体として泥の付き方や濃度のバランスが崩れないよう、慎重に調整を重ねました。

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏11

白石:
次に、泥テクスチャ制作における監督チェックの比較について説明します。現在表示している左側の2枚がテイク1で、右側の2枚がOKテイクになります。

修正内容としては、まず雨バージョンでは足回りの汚れをより強調し、逆に曇りバージョンではフロントガラスから上の汚れを控えめにしました。画面上で丸印がついている箇所が、主な修正ポイントです。

監督からは「両バージョン間で汚れの差が大きすぎないように」との指摘を受けたため、全体のバランスを見ながらトーンを調整しました。天候や車の使用状況によって汚れの見え方が自然に変化するよう、細部まで丁寧に調整しています。

特に曇りバージョンでは、雨が止んだ後の湿った地面が乾きかけている状態を想定し、泥汚れがより目立つように少し強めの汚し処理を施しました。

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏12

白石:
作業時に特に意識したポイントとして、まずフロントガラスの汚れの表現があります。泥が付着した際、ワイパーが作動するとその部分だけが拭き取られ、スリ状の跡が残ります。画面左上の四角枠内がその箇所です。実際の車両で見られるようなリアルな拭き取り跡を再現することで、より自然な仕上がりを目指しました。

また、雨天時のボディ全体の汚れ方にも注意を払いました。ボンネット付近は雨によって泥が流れ落ちるため、汚れを控えめに表現しています。一方で、タイヤ周辺や車体下部は走行中に泥が跳ね上がって溜まりやすいため、汚れを強調してリアリティを出しました。これらの箇所は画面右側の四角枠に該当します。

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏13

白石:
最後に、こちらが完成したトヨタ86の最終モデルになります。これまで説明してきた泥テクスチャの作成から搭載、質感調整までの工程を経て完成したものです。

以上で、モデリング工程の説明を終わります。

アニメーション

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏14

林:
それでは続いて、アニメーション工程についての説明に移ります。ここからは、内田さんよりご紹介します。

内田:
ここからは、アニメーションから撮影工程に入るまでの流れについて、実際にどのような手順で作業を行っていたのかをご説明します。

こちらに示しているのが、MFゴーストにおける大まかなワークフローです。工程としては、「アニメーション」→「置き換え」→「レンダリング」→「エフェクト」という4つの段階に分かれています。

本作では、この4工程をかなり明確に分業して進めました。たとえば、エフェクト担当はエフェクトのみ、レンダリング担当はレンダリングのみ、といった形です。MFゴーストの制作に携わってすでに2年ほどになりますが、中にはレンダリングだけを専門で担当していたスタッフもいるほどでした。

なお、「置き換え」という工程は、本作特有の作業です。MFゴーストは実在するコースを舞台にしているため、背景や環境を実際の地形に合わせて差し替える必要があり、そのためにこの「置き換え」工程が設けられています。この内容については、後ほど詳しく解説いたします。

こうしたワークフローを採用した理由は、単純にスケジュールに対して作業量が非常に多かったためです。複数の担当者が同時並行で作業を進め、最終段階でそれぞれの成果物を統合するという方式を取ることで、限られた時間の中でも効率的に進行できるよう工夫していました。

カット作業

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏15

内田:
次に、各工程の具体的な内容についてご説明します。

左側にあるのは、第7話の終盤に登場するワンカットです。右側に表示されているのが絵コンテになります。見ての通り、絵コンテの段階では大まかな流れしか描かれておらず、この状態から最終的な映像に仕上げるまでに、おおよそ6~7テイクを重ねています。

このカットは制作初期の話数ということもあり、スタッフの作業慣れの問題もありましたが、最大の課題は「リアルとアニメの融合」でした。これはキャラクター表現だけでなく、車の動きにも深く関わる部分です。

つまり、「レースとしてのリアルな車の動き」をどのようにアニメーションとして落とし込むかという問題です。具体的に言うと、レースらしいライン取りである「コーナーでインを攻める動きや、ギリギリまで荷重がかかる挙動」と、「アニメらしいダイナミックなカメラワークやスピード感の誇張」を、どう両立させるかという点が難しかったのです。

さらに、尺(カットの長さ)や実況のセリフといった要素もアニメーションに強く関係してくるため、これらが複雑に絡み合った結果、絵コンテを見ただけでは最終的な動きのイメージがほとんどつかめないという状況でした。実際、動かしてみて初めて全体の絵が見えてくる、そんなケースがほとんどでした。

アニメーターの方々もかなり苦戦しており、このカットのようにテイク数が非常に多くなったこともあります。最初は試行錯誤の末、プリヴィズ(プリビジュアライゼーション)に近い形で、アニメーターに「自由に作ってもらう」という方法を取りました。言い方を変えればアニメーター任せの部分もあったのですが、まずは自由な発想で動きを作ってもらい、そこから「もう少し尺を詰めよう」「コーナーを攻める感じを強めよう」といった演出的なリテイクを重ねてブラッシュアップしていきました。

この方法はアニメーターへの負担も大きかったと思いますが、逆に現場からの提案が生まれやすい体制でもありました。「この尺では動きが詰まりすぎるので、こうしてはどうか」「もう少し派手にしたほうが迫力が出るのでは」といった意見も多く出てきて、制作チーム内で建設的なやり取りが生まれたのは、とても良い流れだったと思っています。

レース時の地形合わせ

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏16

内田:
先ほど少し触れた「置き換え」という工程について、もう少し詳しく説明します。

MFゴーストでは、実在する公道を舞台にしているため、地形の再現が非常に重要な要素になります。たとえば、左下の画像にあるのはアニメ第1期で登場したコースで、全長はおよそ40kmほどあります。

このように、Googleマップ上で全コースをマッピングし、コーナーごとにターン番号を割り振って、各カットで車がどの地点を走っているかをすべて特定しています。さらに、ロケハンで撮影した写真資料も照らし合わせながら、アニメーターに確認してもらい、背景と動きの整合性を取ったうえでアニメーションを制作していきました。

作中の見せ場となる箇所、たとえば橋や駅前、特徴的な建物などを走り抜けるシーンは、ストーリー上でも印象的な場面になるため、ピンポイントで背景を作り込みました。ただし、その見せ場に至るまでの道中、つまり車同士の駆け引きが続くカット間のつながりも重要です。

このときに問題となったのが、「背景の整合性」でした。たとえば、カットをまたいだときに、先ほどまで右側にあった擁壁が次のカットでは左側にある、というような矛盾が発生することがあったのです。

そうした問題を防ぐために、「置き換え」工程では背景の整合性を専門にチェックする担当者を配置しました。右上の画像のように、右側が擁壁、左側が崖、というような地形構造の一貫性を確認しながら、必要に応じて汎用的な背景素材(BG)を差し替える作業を行っていました。

この工程をアニメーション制作の初期段階でしっかり行う必要があったため、カットの作業説明や打ち合わせには非常に時間を要しました。実際、最初のミーティングでは背景構成と走行ルートの擦り合わせだけで相当な時間を費やした記憶があります。

車のセットアップ

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏17

内田:
このように、MFゴーストの制作ではアニメーターへの負担が非常に大きくなるため、車両のセットアップ段階で細かな調整項目をあらかじめ組み込むようにしました。

右側にあるパラメータ欄にある通り、さまざまな数値入力項目が設けられています。これらは、ワイパーの動きや窓ガラスのテクスチャ切り替え、車体の揺れ具合などを制御するためのものです。こうした項目を事前に設定しておくことで、アニメーターは数値を入力するだけで挙動や状態を切り替えることができ、作業効率を大幅に向上させることができます。

また、本作特有の表現として、車に“タッチ”のエフェクト(線の動きやスピード感を演出する効果)が入るため、速度やラインの太さ・大きさなども、このコントロールパネル上で調整できるように設計しました。

道路の設置の自動化

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏18

内田:
次に、自動設置機能についてご説明します。

本作で使用している背景は、実際の公道を再現しているため、起伏や凹凸が非常に多いのが特徴です。通常、アニメーターは手付けで車の走行軌道やカメラワークを作成しますが、地形の高低差が複雑なため、手作業だけで上下の動きをすべて合わせるのは非常に大変です。

そのため本作では、車の地形追従をある程度自動化する補助ツールを導入しました。これにより、アニメーターは細かい高低差を都度気にする必要がなく、基本的な走行ラインや演出に集中できるようになっています。

もちろん、最終的な微調整は手付けで行いますが、この自動設置機能を活用することで、地形に合わせた車体の自然な動きを効率的に再現できるようになりました。

エフェクト

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏19

内田:
次に、エフェクト制作についてお話しします。

こちらは第25話、もしくは26話のワンカットになります。基本的に雨のエフェクトそのものは、特別な手法を用いているわけではなく、3ds Maxの『tyFlow』や、場合によっては『Phoenix FD』などのツールを使って流体シミュレーションを行い、さらに『FumeFX』などで煙を補助的に加えて、水しぶきの動きを再現しています。

作り方自体は比較的シンプルですが、2nd Seasonではこの雨天時のエフェクト処理が大きな課題となりました。というのも、1カットあたりのコストをどこまで抑えられるかが重要で、コストとクオリティのバランスを取る戦いのような状況だったからです。

たとえば、上の画像のような車が直進しているだけのカットでも、複数台の車両が登場することで必要なエフェクト素材が一気に増えてしまいます。そのため、カットごとに個別で雨のエフェクトを制作するのは現実的に不可能という判断に至りました。

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏20

内田:
その課題をどのように解決したのかという点について説明します。

2nd Seasonでは、各車両にあらかじめ水滴や水しぶきのエフェクトを仕込んでおくという方法を取りました。具体的には、主人公のトヨタ86をはじめ、登場する全15台分の車両それぞれに対して、車体の形状に合わせた水滴・水飛沫のエフェクトを事前に制作しています。

こちらの画像は3ds Maxのスクリーンショットです。左上が全体をまとめたもの、右上が地面に当たる雨の表現、左下が車両後部に発生する水飛沫、右下が車体に当たる雨と巻き上げられる水のエフェクトを表しています。

「キャッシュ化」という表現が正しいかはさておき、要するにアニメーションを一度固めてデータ化し、それを15台分すべて用意したということです。こうすることで、後工程のエフェクト担当者は、既に用意されたデータをそのまま合成に使用でき、カットごとに新たにシミュレーションを作る必要をなくすことができました。

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏21

内田:
こちらが、先ほどご説明した各素材を重ね合わせて完成させていく過程を示したものです。

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏22

内田:
まず、背景をベースに置き、そこに反射や影などの要素を順に加えていきます。

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏23

内田:
次に、車の素材を追加し、

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏24

その後に雨のエフェクトを重ねます。

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏25

内田:
さらに、ヘッドライトなどの発光エフェクトを追加し、

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏26

最後に降雨や地面からの水滴の跳ね返りなど、細かな要素を加えて仕上げます。このように、複数の素材を段階的に合成していくことで、リアルな雨天レースの雰囲気を構築しています。

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏27

内田:
こちらは、車内視点から見たカットになります。

このシーンでは、フロントガラスに当たる雨粒や、それをワイパーが弾く動きといった細かい表現が求められました。これらの動きは、撮影処理(コンポジット)だけで再現するのは非常に難しいため、3D側で物理的にシミュレーションしながら制作しています。

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏28

内田:
こちらは、車を後方から捉えたカットになります。

カメラが後ろに回り込むようなアングルになると、先ほど説明したようなキャッシュ化されたエフェクトでは対応が難しい場合があります。カメラの動きによって水しぶきの見え方や車体との当たり方が大きく変わるため、あらかじめ固定されたエフェクトでは自然に見えなくなることがあるのです。

そのため、このようなカットでは、作業者の裁量に任せて調整してもらいました。

実写の雨の参考

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏29

内田:
こちらは、実際にロケハンの際に撮影した写真です。

実際に雨の「芦ノ湖スカイライン」へ足を運んだのですが、現地では本当に霧が濃く、視界がかなり悪い状況でした。正直、普通に運転しても時速40キロを出すのが怖いほどです。

そうした現実の視界不良や危険な雰囲気「こんなところで本当にレースしているのか?」という臨場感を、アニメでもしっかり再現したいと考えました。一方で、車が巻き上げる水しぶきの量などは、現実よりもやや誇張表現を加えています。

レンダリングについて

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏30

内田:
最後に、MFゴーストで使用しているツールについてご紹介します。

冒頭でもお話ししたように、本作はスケジュールが非常にタイトで、車両やエフェクトなどの素材数が膨大になるため、作業効率を上げてコストを抑える工夫が必要でした。そのため、マテリアル構成には社内で独自に開発したプラグインツールをいくつか導入しています。

左側に映っているのは『ShellSwitch』というマテリアルです。こちらは社内の開発担当者が作成したもので、簡単に言うと「シェルマテリアルを拡張して数を増やせるツール」です。3ds Maxの通常のレンダリング設定を使うのではなく、番号を切り替えるだけで連続的にレンダリングを実行し、複数の素材を一括で出力できる仕組みになっています。

ちなみに、2024年版の3ds Maxには『マテリアルスイッチャー』のような似た機能が正式に追加されていますが、私たちが制作していた当時(2020~2023年)にはまだ存在していませんでした。そのため、必要に迫られて自社開発したのがこのShellSwitchです。

右側に映っているのは『RenderManager』という社内ツールで、こちらは一言で言うと社内製のステートセットのようなものです。複数の車両が登場するバトルシーンなどでは、どうしてもレンダリング素材の数が膨大になります。そこで、マテリアルの切り替えとネットワークレンダリングの投入を自動化する仕組みを構築しました。

このツールを使うことで、大量のカットを一気にレンダリングマシンへ送信し、マシン台数を途中で増設しながら物量で押し切るという形で、スケジュールをなんとか乗り切りました。

アニメーションおよび技術的な制作工程の説明は以上になります。

演出面

林:
それでは続きまして、演出面についてのお話を監督の中さんよりお願いいたします。

中:
ここからは、少し技術的な話題から離れて、演出面の観点から作品の背景や方向性についてお話ししたいと思います。

まず、「リアルとアニメの融合」というテーマについてです。MFゴーストで目指した映像表現は、単に“リアルな映像”を追求するというよりも、「アニメとしてのリアルな表現」を目指すものでした。つまり、「実写のようなリアリティを再現する」のではなく、「アニメとして観たときに感じるリアリティをどう実現するか」が、本作の根幹にありました。

これは非常に大きな違いで、たとえばコースや車の造形などにも現れています。もちろん、現実に近い完全再現というのは大切ですが、それ以上に大事なのは“らしさ”です。たとえばトヨタ86では、フロント部分に特徴的な溝のようなラインがあります。実際の車をリアルに照明すると、そのラインは意外と目立たないのですが、人の目で見た印象では牙のように刻まれたラインが強く残るのです。

そのため、モデリングの段階から「見たときに印象として残る形」を優先し、光の当たり方や陰影を調整して“見えるデフォルメ”を意識しています。これはリアリズムというよりも、アニメ的リアルの追求です。

また、“タッチ”についても同様で、線や質感の表現に「しげの作品らしさ」を取り入れたいという思いがありました。つまり、MFゴーストの映像は、「アニメの中でリアルに感じられる世界」を目指したものであり、実写的リアリティとは別の方向で融合を図ったわけです。

背景についても、同じ考え方をしています。実際のロケーションを元に、かなり綿密なロケハンを行い、現地の空気感を忠実に再現しています。作品の舞台には「ゴーストタウン化した街」という設定がありますが、そこで描きたかったのは、「廃墟になった街」ではなく、「生きたまま眠っている街」という雰囲気です。

つまり、シャッターがすべて閉まり、建物が朽ち果てたような描写ではなく、まるで時間が止まったかのように静かに佇む街。それがこの世界の“リアルさ”であり、同時に“アニメだからこそ描ける現実”でもあります。

こうした表現方針には、「作品を見た人が実際に聖地巡りをしたときに、その場所が“生きているように”感じられるようにしたい」という意図もありました。そのため、傷や汚れなどの“ダメージ表現”はあえて避けています。実際的な時間経過を描くよりも、情景の印象を大切にするというのがMFゴーストらしいアプローチでした。

こうして作品づくりをスタートさせ、さまざまな要望をスタッフに伝えながら制作を進めていったのですが、その中でも第16話は、CGによる車の表現が特に凝縮された回になっています。それでは実際に、該当シーンの映像をご覧ください。

中:
このシーンはおよそ3分半ほどの尺になりますが、ご覧いただいた通り、走行中にはセリフが一切ない構成になっています。最後に実況のセリフが少しだけ入るものの、それまでは映像と音楽のみで進行するシーンです。原作でもこの場面はセリフがなく、映像表現だけでドラマを描くパートとなっています。

トップドライバー同士、ミハイル・ベッケンバウアーと沢渡光輝が互いに譲らず激しくぶつかり合い、最終的に沢渡がわずかに先行してオーバーテイクを果たすという展開です。

このようにセリフのないシーンは、演出的には非常に難易度が高い場面です。言葉に頼らず、カメラワークやスピード感、音、映像の情報量だけで意図を伝えなければなりません。 そのため、映像演出では「画面内の情報量をいかに豊かにするか」という点を意識して制作しました。もちろん音楽、特にこの作品ならではのユーロビートや効果音の力にも大きく助けられています。

技術面でも、かつて自分が関わった『新劇場版イニシャルD』とは違い、今作では映像の情報量が格段に増しているのが特徴です。時代的にも技術的にも進歩しており、たとえばフロントガラス越しにドライバーの姿が見える透け表現など、イニシャルD時代には難しかった演出も可能になりました。

また、先ほど3Dパートで説明があったように、車体の泥汚れやキズのテクスチャなども細かく調整されています。この16話のレースシーンでは、車同士が3回衝突するのですが、衝突のたびにモデルの一部を変形させたり、タッチでダメージを描き加えたりと、細部の変化もきちんと表現しています。

こうした処理自体は技術的には特別難しいわけではありませんが、テレビシリーズの制作スケジュールと予算の中でこれをやるのは非常にハードルが高い作業です。なぜなら、1回目・2回目・3回目と衝突を重ねるごとにモデルを差し替えなければならず、どのカットでどのモデルが使われているかを厳密に管理する必要があるためです。もし順番やモデルの切り替えを誤ると、映像上の整合性が崩れてしまいます。そうした細かい管理を徹底すること自体が大きな負担でした。

それでも、このように映像内の情報量を積み重ねていくことで、セリフがなくてもドラマが伝わるシーンに仕上げることができたと思います。

少し裏話になりますが、通常アニメのシナリオでは2ページ分が約3分の映像に相当します。しかし、本作においてはシナリオ上で2ページ分にあたるシーンが、映像にすると1分にも満たないほどのスピード感になってしまいました。レースのテンポが非常に速いため、描写がどんどん進んでいってしまうのです。

とはいえ、別の要素を挟むわけにもいかないので、結果的に走行シーンを追加して全体のバランスを取ることになりました。この話数全体でおよそ3分ほどショートしてしまうという大問題もありましたが、レースシーンを補強することで、最終的には見応えのある仕上がりにできたと思っています。

さて、先ほど内田さんからも話がありましたが、MFゴーストはアニメーターの負担が非常に大きい作品です。その理由を少し補足すると、通常アニメ制作では絵コンテ(コンテ)を基に各カットを作っていきます。コンテとは演出家が作成する“設計図”のようなもので、カメラワークや動きの流れなどをすべて描き込んだものです。

しかし本作の場合、特有の難しさがありました。まず、「レースシーンのスピードレンジが非常に高いこと」です。中には時速300キロ前後という設定の場面もあり、リアルに走らせると、1〜2キロの距離をほんの数秒で通過してしまいます。つまり、ただ走らせるだけでは、コースが一瞬で終わってしまいます。

一方で、シーン内でセリフや実況が入る場合は、その間も車を走らせ続けなければいけません。さらに、原作ではオーバーテイクのタイミングやドラマが起こるポイントが明確に決まっているため、それらの位置関係を守りながら映像の尺をコントロールする必要があります。このため、どの地点で何秒間走るかという使用尺の想定が非常に難しいのです。

コンテ段階では最低限、「どの車がどの位置を走るか」「右コーナー・左コーナー・複合コーナーのどれか」「カメラの向きは右からか、左からか」「煽りか俯瞰か」といったアングルと演出意図を示すことに留まります。つまり、演出として「このカットではどんな意味を持たせたいのか」「どんな感情のぶつかり合いを描きたいのか」を説明する資料としての側面が強いのです。

この16話のシーンで言えば、まさに“意地と意地のぶつかり合い”をどう映像で見せるかが重要なポイントでした。

しかし、アニメーター側ではさらに深いレベルでの判断が必要になります。たとえば、四輪駆動か後輪駆動かといった車種ごとの特性、あるいは走行ライン(Vライン、アウトインアウトなど)の違いを踏まえて、車体の動きや挙動を設計しなければなりません。それに加えて、原作での描写やレースの文脈も考慮する必要があるため、コンテだけで全てを決め込むのは現実的ではありません。

その結果、制作はコンテと並行してアニメーションを進めるプリヴィズに近い形になりました。つまり、作業と演出設計を同時進行で行わざるを得なかったわけです。これがアニメーターへの負担が大きかった最大の理由でもあります。

打ち合わせの際も、カメラワークや演出意図を口頭で丁寧に説明しながら進めることが多く、非常に密なやり取りを重ねていました。逆に言えば、アニメーターにとっても非常に高いレベルの現場で、物理法則に基づいた車の挙動、レースのライン取りに対する知識や観察眼、さらにはレンズ(広角・望遠など)に関する理解など、総合的な感覚と判断力が問われる制作環境だったと思います。

そして、演出側にも同様のプレッシャーがありました。なぜそのレンズを使うのか、なぜそのカット構成にするのか、そうした選択を演出自身が言語化して説明できなければならないためです。この過程は、私自身にとっても非常に勉強になり、改めて自分の演出意図を整理する機会になりました。

正直に言えば、かなり無茶な作り方をしていた自覚はあります。ですが、その無茶の中でスタッフ全員が意見を出し合い、工夫を重ねた結果、最終的には納得のいく映像に仕上がったのではないかと思っています。

監督からのメッセージ

リアルとアニメの融合 ―『MFゴースト』における3DCGレース表現の舞台裏31

中:
そして最後にお知らせとなりますが、『MFゴースト 3rd Season』の2026年1月放送開始が発表されました。

現在も鋭意制作を進めていますが、第3期ではこれまで以上にスケールアップしたレースシーンが登場します。滝のあるコースでのレースや、車がジャンプするような新たな演出要素も加わり、映像的にもよりダイナミックなシーズンになる予定です。また、主人公・夏向の成長や、彼の父親にまつわるドラマも大きく動く展開となっており、まさに見どころ満載の内容になっています。ぜひ放送を楽しみにしていただければと思います。

そして、先ほどご紹介したように、制作現場のクリエイターたちは、日々さまざまな課題と向き合いながら作品づくりに励んでいます。私からも時に厳しいリテイクをお願いすることもありましたが、それにもめげず、粘り強くブラッシュアップを重ねてくれるスタッフの努力が、この作品のクオリティを支えています。

そうした制作の背景を踏まえて映像を見てもらえると、より深く楽しんでいただけると思います。

株式会社ENGIによるTVアニメ『メダリスト』のキャラクターリギング解説 会場風景02
株式会社ENGIによるTVアニメ『メダリスト』のキャラクターリギング解説 会場風景03

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