『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』メイキングセミナー – ゲーム制作ワークフローセミナー第7弾

『ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF RUBICON』メイキングセミナー

2024年1月19日(金)に開催された「ゲーム制作ワークフローセミナー第7弾」より、「『ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF RUBICON』メイキングセミナー」のイベント内容をご紹介します。

『ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF RUBICON』メイキングセミナー

【主催】株式会社Too
【特別協賛】オートデスク株式会社
【講師】株式会社フロム・ソフトウェア
    3Dグラフィックセクション サブリーダー
    前田 耕蔵 氏


はじめに – 講演概要

講演概要

本講演では、アーマード・コアタイトルを制作する上でのビジュアルや世界観を踏まえた制作アプローチと、それを実現させるために使用したオートデスク社製品をはじめとするDCCツールの使用事例や、拡張した社内ツールについて紹介します。

タイトル紹介

プレゼンター

最初に本講演のテーマであるタイトルを紹介します。『ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF RUBICON(以下、AC Ⅵ)』とは、2023年8月25日に発売されたフロム・ソフトウェア開発のメカカスタマイズアクションタイトルです。パーツを自由に組み替えたオリジナルメカを操り、さまざまなミッションを遂行するアーマード・コアシリーズです。その10年ぶりの最新作となる本作では、シリーズ本来の魅力を改めて見つめ直し、新たなアクションゲームとして構築した完全新作になります。

立体的に広がるSF世界を舞台に、新たな傭兵の戦いを描きます。ゲームの具体的なイメージについては、紹介トレーラーをご覧ください。

より詳細な内容は、弊社のホームページよりご確認いただけます。
https://www.fromsoftware.jp/jp/detail.html?csm=106

開発体制について

開発体制について

それでは、開発体制を画像の内容に沿って説明していきます。以後、機体の呼称を表すアーマード・コアはACと略します。

グラフィック全体の開発体制について

グラフィック全体の開発体制について

グラフィックに関連した社内開発体制について説明します。フロム・ソフトウェアグラフィックチームは、東京本社と福岡スタジオにて協力してプロジェクトの開発をしています。福岡スタジオとは主にリモートでやりとりを行っています。東京本社には「背景」「キャラクター」「モーション」「ムービー」「VFX・UI」のセクションがあり、福岡スタジオには「背景」「キャラクター」「ムービー」のセクションがあります。セクションでは各プロジェクトに割り当てる人員の管理・育成などを行っています。

社内では、画像の右側のイメージのように複数のプロジェクトが常時稼働しています。プロジェクトには各セクションから専任のスタッフがアサインされ、開発を行っています。

セクション制を組むことによって、各プロジェクトで培われたノウハウの活用や社内Wikiなどを活用したセクション内での技術や知識の共有を行い、開発の効率化や品質向上を図っています。

AC Ⅵの開発体制について

AC Ⅵの開発体制について

マイルストーンと開発人員について説明します。AC Ⅵは2017年の末頃から検討を開始し、2018年から弊社代表の宮崎英高と数名のイニシャルディレクターが次回作の大きな方向性を検討し、プロトタイプを開発していきました。その後、2020年に新ディレクターの山村優が参画し、本格的な開発がスタートしていきました。エルデンリングをベースとした開発環境で、AC用に必要になる機能をチューニングしながら土台となる開発と構築を進めています。

過去作の『ARMORED CORE VERDICT DAY』まで使用していたエンジンについては一度見直しをして、新しい環境に一部取り入れることで調整しています。過去のアーマード・コアタイトルのリソースなどを利用して、新しいアーマード・コアとしてのフィールドの広さや自機のスピード感などを検証しながら、量産の見積もりと検証を進めました。

次に、バーティカルスライス版を制作しました。このまま開発量産を進めて問題ないかを示すため、ゲームの一部の要素を製品に近い状態まで制作し、強化するバージョンになります。ゲーム性やゲームサイクル、量産に向けた品質指標のため、ある程度の時間をかけて制作するバージョンです。

その後、量産が開始されました。量産期間と並行して3ヶ月単位のサイクルで外部レビューも行っています。レビューで上がったフィードバックをゲーム側に反映させながら、ゲームのクオリティアップを繰り返し、約2ヶ月サイクルで進捗提出版を制作しています。

以降はデータ調整とデバッグを行い、マスターアップを迎えています。

社内の開発人員については、画像の右側にある通りです。

使用ツールについて

使用ツールについて

社内で使用しているツールは次の通りです。『3ds Max』は「モデリング」「レイアウト」「モーション」「カットシーン制作」「エフェクトの素材制作」などの開発作業全般に使用しています。『Substance』は主にPainterとDesignerを利用して、キャラクターやアセットのテクスチャを制作しています。その他、パーツ用のスマートマテリアルや空の雲素材などフローマップを絡めた表現にも使用しています。

『Terragen 4』は空の雲の素材などの制作に使用しています。『ZBrush』は、キャラクター制作や背景アセットの制作全般に使用しています。『Photoshop』は、エフェクト素材制作などの画像加工全般に利用されています。

開発体制の取り組みについて

開発体制の取り組みについて

本作の制作では、コロナ渦での制作進行を余儀なくされました。その際に工夫された内容を紹介します。

協力会社との連携

大量生産が必要なデータについては、長年お付き合いのある協力会社様との連携により、AC用パーツなどの量産に協力いただき、限られた人員と期間内に量産できる体制を整えました。

働き方改革

弊社では、深夜残業や休日出勤を減らすことで今作のような長期間の開発でも健康に配慮しつつ、スケジュールを調整しながら開発を進めることができました。規則正しい開発体制にすることで不要なロスを減らすことができ、業務の効率化にもつながりました。

チェックの分担

AC ⅥではCoディレクターを設けることで、各セクションでの課題やクオリティ管理を各分野で分散し、ボトルネックを少なくすることで開発効率を上げました。

開発体制の変更

AC Ⅵの開発では、コロナウイルスの影響で業務体制の変更が必要でした。リモートを用いたミーティングや開発体制などを採用することで、従来よりも逆に効率化が図れた部分もありました。特にリモートによるミーティングは、自席や自宅で行えるという利点があり、異なる業務を並行しながらミーティングに参加することも可能なため、時間の有効活用ができました。

キャラクター制作

キャラクター制作について説明します。

キャラクター制作
キャラクターの制作工程は、コンセプトを構築する「デザインイメージ工程」と実際のゲームデータを制作する「データ制作工程」に分かれます。
キャラクターの制作工程

デザインイメージ工程は、「コンセプトアート制作」「イメージ共有ミーティング」「詳細デザイン制作」の順番で制作されます。その後、データ制作工程では、「モデル制作」「リグ制作」「モーション制作」「エフェクト制作」の順番で制作されます。

デザインイメージ工程から順に説明します。まず、キャラクタ-コンセプトアートを制作します。コンセプトアートは、基本的にディレクターから直接デザイナーに発注が行われます。ディレクターとの議論で生まれたアイデアからコンセプトイメージが採用されることもあります。

重要なキャラクターのコンセプトアートを作成する際には、ディレクターから提示される世界観に基づいたキャラ設定や戦闘イメージ、武装イメージなどをもとにキャラクターデザインを行います。コンセプトイメージについては、Coディレクター側からも制作観点の意見やアイデアなどを情報共有し、内容の精度を高めています。

キャラクターのコンセプトアート

『IB-01』というキャラを例に、デザイン発注内容を説明します。下記は発注文書の内容です。

「AIがACを模倣し、その中心たる人を自らに置き換えたプロトタイプ機体。これを作った旧時代の管理AIは、実体としての戦争を知らず、知識によってのみ理解しているため、戦場の兵器というイメージは薄い。そこが戦争と共にあり続けた人々の設計した機体との差異であり、結果としてベースの世界観からは浮いた存在である印象を与える。この機体は流線を基調とし、昆虫的かつ異様な美しさを持ち、人には制御できないおびただしい数の自律兵器を操る。」

この発注文書をもとに『IB-01』というキャラクターをデザインしていきました。

その後、複数のラフデザインが描き起こされます。方向性の決定が難航するキャラクターでは、数十枚のラフデザインが起こされることもあります。その中からさらにコンセプトイメージに合うものが選定されます。場合により、それぞれの案のいいところを複合させ、新しい案を考えることもあります。

その後、複数のフィードバックを経て最終的なコンセプトアートが完成します。キャラクターによっては、ベースのデザインが共通の派生デザインを同時に進める場合もあります。必要なキャラクター要素については、ゲームプランナーのレベルデザインと整合性もすり合わせをしながら進めます。後々キャラクターの攻撃手段を増やす場合もあり、それにあわせた追加武装を新たにデザインする事もあります。

インゲームモデル

こちらが完成したインゲームモデルです。細かいカラーリングや質感などは、モデルの制作過程でシチュエーションに合わせて調整していきます。

イメージ共有ミーティング

イメージ共有ミーティング

イメージ共有ミーティングは、キャラクターのコンセプトアートが完成した後に行います。このミーティングには、コンセプトアートをベースにしてディレクターとさまざまな職種の担当者が集まります。具体的には、キャラクターの設定や兵装、イメージなどを共有しながら、追加でやりたいアイデアやネタなどを提案してもらうミーティングです。

ミーティングで挙がったアイデアをもとに武装デザインの追加や新しいモーションの検証を行い、キャラクター性を追加していきます。最終的に発注可能な状態にまとめて、各職種の担当者に作業として発注されます。

デザインする上での重要な要素

デザインする上での重要な要素

キャラクターやACパーツのデザインを行う上で注意している点を解説します。

仕様を意識しすぎない

データ制作仕様を意識しすぎて、デザインの幅やアイデアが狭くならないようにしています。モデル同士の干渉を意識しすぎて、地味なデザインになってしまうなどの例が挙げられます。最低限の仕様部分については当然考慮に入れながら、デザインを進めています。

固定観念にとらわれない

イメージに対して、観念的にならないよう意識してデザインを行うということです。人型兵器と言われたら、どうしても個人的な好みの作品からインスピレーションを受けやすくなりますが、そのイメージにとらわれることなく新しいイメージを考えることが大切です。兵器としての実用性や製品元の理念やコンセプトなど、ゲームの世界観やキャラクターの個性を入れ込むようにしています。

製品コンセプトの意識

AC Ⅵのキャラクターは全て兵器、またはそれに類似する機械となるため、工業機械のような製品コンセプトがあります。製品を量産する際に企業の特徴がわかるような情報を入れることで、製品としての統一感や企業の特徴が出るようにしています。

キャラクターゲームモデルの制作

キャラクターゲームモデルの制作01

次に、キャラクターのゲームモデルについて説明します。キャラクター制作について、各キャラクターの制作方法や方針について説明します。

ボスキャラクターなのか、複数体同時に出現するキャラクターなのかについてはコンセプトアート制作の段階である程度決定しているため、その方針をもとにモデルを制作していきます。

キャラクターゲームモデルの制作02

こちらは強敵として位置づけされているキャラクターです。こちらを制作する上での解像度を上げる情報として、サイズがあります。

キャラクターゲームモデルの制作03

AC Ⅵのキャラクターはサイズも幅広く、各キャラクターのサイズ感で戦闘の体験も変わるため、ボスキャラクターは綿密にサイズチェックを行います。

キャラクターゲームモデルの制作04

サイズチェックでは、モデラーがサイズバリエーションをいくつか作成し、ディレクターと各担当者を含めて実際にインゲームのカメラアングルから確認しながら、イメージに近いものを選定します。

キャラクターゲームモデルの制作05

キャラクターの戦闘距離や戦闘場所、スピードなどを考慮して調整します。キャラクターのサイズが決まり次第、モデルの制作仕様を確定していきます。並行して、サイズを決めたモデルは、リグやアニメーション、制御に関して早めに対応することで問題が起きた時の調整が素早くリカバリーできるよう、各セクションで連携しながら進めています。

キャラクターゲームモデルの制作06

キャラクターモデルの制作仕様になります。汎用キャラクターから強敵キャラクターまでのモデルはサイズによって幅がありますが、ポリゴン数は5,000から5万程度です。テクスチャは武器込みで、1Kで3枚から8枚程度を使用しています。制作期間は2週間から1か月弱ほどです。大量に出現する敵などはポリゴン数の削減やLODの専用対応により最適化をしていきます。

キャラクターゲームモデルの制作07

次に、ボスキャラクターモデルについて説明します。こちらもサイズにより変動値は大きくなりますが、ポリゴン数は15万から25万程度になります。テクスチャは武器込みで、2Kで6枚から8枚程度です。制作期間は平均して1ヶ月から1.5ヶ月になります。キャラクターによっては、制作後にサイズの調整が入る場合やゲーム内容を調整していくなかで攻撃手段を追加したいという要望が出る場合もあり、工数についてはその都度調整することも多くあります。制作する上では、そういった状況も先読みしつつ対応していくことを心がけています。

ACパーツ

ACパーツ01

続いてACデータ構成についての説明です。ACの仕様として、サイズはプロトタイプ段階からほぼ確定していました。アーマード・コアIV系列と同じくらいのサイズになっており、約12m程度になります。

ACに関しては、アセンブルして好きなパーツを換装できることをコンセプトとしているため、各部位ごとに別のデータとして制作しています。具体的な内容は、フレームと呼ばれる外装パーツが、頭・胴・腕・足の4種で、武器が各ハードポイントに4種、インナーの内装と呼ばれるパーツを4種組み合わせて、自由にカスタマイズする仕組みとなっています。そのため、パーツごとにデータルールを設け、同一のカテゴリー内で差異がないようにしています。

ACパーツ02

どんな形状のパーツであれ、ルール外のデータになることはNGとしています。主な理由としては、容量制限と描画負荷、各パーツのクオリティ統一を守るためです。

製品に問題がないかを人力でチェックするのは限界があるため、出力されたデータを分析して規格外のデータになっていないかチェックする仕組みを作り、漏れがないようにしています。問題がなければリリースという流れです。

ACパーツ03

ACパーツのポリゴン数の内訳です。全体のリソース配分は前作と比べると4~5倍程度となっています。

ACパーツ04

ここからは、キャラクターモデル制作工程について説明します。分かりやすい例として、ACパーツを先に説明します。キャラクターもACパーツも時間をかけてイメージを作り上げているものになるため、デザインイメージをリスペクトしつつ仕様を確認しながら制作していきます。

ACパーツ05

ACパーツ制作における、デザイン側のコンセプトについて説明します。ACパーツについては、AC Ⅵの世界観における企業と呼ばれる団体が製造している設定があり、企業ごとにユニークなコンセプトがあります。モデル制作側もその企業イメージを重要視し、細かなディテールを入れる際などに意識して制作しています。

ACパーツ06

制作するに当たり、キャラクターに関係するデータ総数ですが、敵キャラクターはバリエーション込みで100体以上になります。ACパーツ数は、フレームとインナーパーツ込みで300以上あります。その他、モデラーはメカ系ガジェットのアイテムコンテナや補給コンテナなども制作しています。

総数は多い上に制作人数も限られているため、効率を上げる手法を考える必要がありました。管理側としてはあまり現実を見たくはありませんでしたが、全体を把握することは円滑に進めるために重要な要素です。

ワークフローの調整や外部会社との制作データの分散、現人員のスキルに合わせた役割分担などを制作前に検討し、量産に向けて管理していきました。ワークフローの調整は制作総数をこなすための最速フローを検討し、外部会社とは全体総数を割り出した上でコストを算出しました。

人員の役割と担当範囲を明確にして、突発的な作業が発生しても瞬時に割り当てることで、スケジュールを調整しやすくなるようにしています。

こういった内容についてはグラフィック制作としては裏方の話ではありますが、後述するワークフローに関わってくる内容でもあるため説明させていただきました。

ACパーツ07

ACパーツのハイモデル工程になります。画像はZBrushのハイモデルデータですが、AC ⅥのキャラクターではZBrushだけではなく、3ds Maxでのモデル制作フローも採用しています。

モデラーのスキルにも依存しますが、各人の練度やデータとして調整がしやすいなど、トータルとして現存する人数でイテレーションを回しやすいワークフローにして、スキルの差があっても一定の品質を保てる進め方を採用しています。

ハイモデル工程では細かなディテールは制作せず、大まかな造形部分を制作しています。細かなディテールは、後工程にて別途調整していきます。

ACパーツ08

3ds Maxでのモデル制作工程を簡単に説明します。画像はシュナイダーという企業のヘッドパーツです。ローメッシュ制作やハイメッシュ制作、インゲームメッシュ、UVの一連の作業を一括して3ds Maxで行います。3ds Maxのスタック機能により、フィードバックによる後戻りやハイメッシュベースのリトポロジの作業へのアクセスを円滑にすることで、作業効率を上げています。

3ds Maxはモデリングをはじめとした便利な機能が一通り揃っており、カスタマイズも容易なため使用しやすいメインツールとなっています。

ACパーツ09

こちらはSubstance 3D Painterでの作業画面です。ノーマルベイク状態からACパーツ用に制作した専用スマートマテリアルを適用することで、ルールに沿ったレイヤーが適用されます。こうすることで一定の作業まではすぐに完了し、後はパーツ固有のユニーク作業のみに対応していきます。

モールドなどの詳細ディテールはこの段階で追加します。汎用素材やパーツ種ごとの統一感を出す共通のディテールの共有などによって、作業効率向上を図ります。ACパーツについては、ユーザー側でカラーや質感、ウェザリングを変更できる仕様のため、ベースデータについてはシンプルな構成となっています。

敵キャラクター

敵キャラクター01

続いて、敵キャラクターの制作工程の説明です。こちらは『IA-13:SEA SPIDER』で、技研製の無人兵器という設定です。

敵キャラクター02

こちらはハイモデルの作業画面になります。基本的には、ACパーツ同様のワークフローでの制作となります。同じ構造のパーツは、3ds Maxのインスタンス機能を使用して制作し、全体を確認しながら制作していきます。

複雑な構造のモデルについては、ビューポート上でアニメーションも確認しながら、破綻が起きないように制作します。

敵キャラクター03

Substance 3D Painterでの敵キャラクターのテクスチャ制作工程を説明します。こちらもACパーツのテクスチャ工程と同様に専用スマートマテリアルを使用した上で一定の制作までを簡易化し、キャラクターごとのユニークディテールを制作していきます。

敵キャラクター04

こちらが制作したテクスチャをインゲーム側に適用した状態です。ここからシェーダー側でカラーリングや汚し、質感を調整します。表面のディテール用のブレンドもシェーダー側で行っています。

シェーダー

シェーダー

Substance 3D Painterでキャラクターごとのスマートマテリアルを使い分けているという説明をしましたが、適用するシェーダーについてもAC用とキャラクター用で専用に最適化したものを用意することで、必要な機能のオン・オフと負荷の軽減をしています。

キャラクター用は、大きく2種類のシェーダーを用意して使い分けます。ACパーツ用のシェーダーについては、カラーリング変更や汚し、デカール処理など、多機能なマスターシェーダーを使用しています。そのため、一番負荷の高いシェーダーとなっており、全キャラクターで使用すると描画負荷が高くなってしまいます。そのため、不要な機能を制限したものを派生シェーダーとして用意しています。

マスターシェーダーからさらに派生シェーダーを用意します。マスターシェーダーから派生シェーダーを用意することで、基本構造は同じシェーダーとして使用できるため、メンテナンスコストの削減と描画負荷のコントロールができるようにしています。

特殊表現について

特殊表現について01

モデルに適用する特殊表現の手法について説明します。モデリングやテクスチャ表現以外で特殊な表現が必要になった場合に、モデルに適用するシェーダー側に機能を追加することで、特殊な表現を可能としているものがあります。

特殊表現について02

まずは、ACパーツのダメージ表現について説明します。

特殊表現について03

ACパーツのダメージ表現は、AP(機体の体力)の低下に伴い、ACパーツ側にダメージ痕が付くという表現になります。APの%でダメージ表現が強くなるようにパラメーター化しています。強度を強くすると、効果が大きくなります。インゲームでは、ダメージでの汚れからダメージが蓄積すると装甲が剥がれて鉄がむき出しになるところまで再現しています。

特殊表現について04

次に、アセンブル画面での選択箇所の明滅表現になります。変更パーツ選択時に選択中のパーツが直感的に分かりやすいように、シェーダー側で明滅処理を入れています。

背景制作について

背景制作について01

次に、背景のデザインとデータについて説明します。

背景制作について02

AC Ⅵの背景構成について説明します。AC Ⅵはミッション制の構成になっているため、プレイできる範囲が限定されている箱庭のような作りになっています。

プロトタイプ段階ではオープンフィールドにする案もありましたが、アセンブルなどの特徴を最大限に生かせる構造を再度見直した結果、ミッション制構成としての作りを選択し、制作を開始しました。

背景制作について03

背景の制作工程について簡単に説明します。背景デザインやデータ制作の前段階として、ディレクターからの世界観、背景イメージをもとにプランナーの方でレベルデザインの制作を進めます。

レベルデザイン側でゲームイメージが固まった段階で、ゲームプランナーの制作したレベルデザインをもとに、背景のコンセプトの説明を受けて、ゲーム体験や各マップとの関係性などを説明するミーティングを行います。

その後、背景に関連するデータ制作に移行します。背景のコンセプトデザイン、詳細デザインが進み、並行してプランナーが制作したレベルデザインをもとに背景グラフィック側のデータ制作に進みます。

コンセプト

背景デザインコンセプト01

AC Ⅵの背景デザインコンセプトについて説明します。

寂寥感漂う斜陽の星

かつては資源開発によって栄え、現在は災害跡地となっている滅びた惑星である『ルビコン3』は「オールドSF」、「寂寥感」というキーワードで表現されました。寂寥感は、静かで物悲しく、わびしい気持ちや情景を表すというイメージです。

現実と地続きのSFを描く

高度なSF世界というよりは、現実の延長線上のようなSFとして世界観を構築しています。

背景デザインコンセプト02

背景のデザインコンセプトをもとに、象徴的なイメージの「グリッド」というマップについて説明します。「星を覆うような巨大構造物グリッド、これは惑星開発の過程で建造された採掘プラント兼輸送網であり、時間の経過がもたらす物静かな雰囲気を醸し出す。」というイメージです。

「グリッド」のマップだけでも野外や室内など複数のバリエーションが存在し、1マップだけでも飽きさせない作りになっています。1マップごとにバックボーンをしっかり定義することで設定の厚みを増し、説得力のあるデザインになっています。

背景デザインコンセプト03

SFならではの内容として、マップバリエーションの幅が広いことが挙げられます。地下施設から地上、空中から宇宙まで幅広いシチュエーションがあり、SF作品ならではの振り幅の広さが表現できたことから、飽きさせない体験作りができたと思っています。

惑星の制作

惑星の制作

惑星内を移動していることや、ブリーフィングにて位置関係を明確に提示したい要件があったこともあり、ルビコン自体を3Dモデルで制作しています。制作した3Dモデルで、各マップの位置関係や関係性を正確に表現することで、ブリーフィング側でも移動先を分かりやすくしています。

惑星ルビコン3のエリア構造

惑星ルビコン3のエリア構造

AC Ⅵのマップを構成するルビコン3での大枠のエリアはこのようになっています。この大枠のエリアごとで、その地域に合わせたマップを制作しています。ストーリーミッションでの基本的なルートはこのようになっています。

背景モデルの制作工程について

ここからは、背景モデルの制作工程について説明します。

先ほどお話をしたゲームプランナーが制作したラフのレベルデザインをもとに、モデルを制作していきます。実際に敵配置や仮のゲームを入れる中で細かいレベルの調整を多く入れていて、すり合わせと調整を重ねながら制作していきます。

ミッションによっては、その場所の天候違いや時間帯違いなど、別シチュエーションのミッションを用意していることもあります。

ウォッチポイント・デルタの別のミッションの大型ミサイル発射支援

こちらはウォッチポイント・デルタの別のミッションの大型ミサイル発射支援です。

背景班のチーム構成について

背景班のチーム構成について

背景班の構成について説明します。AC Ⅵの背景班は、数グループからなるチーム構成で、各チームに割り振られた背景を制作していきました。

ここでは仮にA、B、Cの3チームとします。各チームにはリーダーと約2、3名の作業スタッフがいる構成です。チーム間では横のつながりを作り、制作手法や問題点などを共有し、チーム固有の問題が起きないようにしています。チェック体制については、チーム個別で各ディレクターに確認することもありますが、チェック回数をなるべく削減してそれぞれの時間を確保するため、各ディレクターと背景デザイナーを交えてチェックすることが多いです。

制作前半は厚めにチェック時間を設けることで、方向性のズレが大きくならないようにしています。

背景チーム間での効率化

背景チーム間での効率化01

背景チーム間での効率化の取り組みです。背景チームAの例では、モデルデータ共有やマテリアルの共有をして作業効率化とデータ管理をしています。

アセットセットとマテリアルはチームリーダー管理のもとで整理されたもののため、データ連携済みのデータとなり管理がしやすくなります。アセットセットやマテリアルセットを用意することで、こういった問題を未然に防いでいます。

次に、マテリアル共有とアセット共有の具体的な内容についてです。マテリアルの共有については、3ds Maxの外部参照マテリアルを使用しています。マスターマテリアルの外部参照元でIDを管理し、マテリアルが追加編集された場合は使用する側にもファイルを開いたタイミングで自動的に適用されます。

背景チーム間での効率化02

マスターマテリアルについては、インゲーム側でも確認できるようになっており、素材のイメージや質感なども確認できます。

背景チーム間での効率化03

次に、アセット共有の具体的な内容についてです。アセットについては、整理済みのデータをインゲームのアセット配置専用マップに配置して確認できるようにしています。また、それらアセットはID管理もしており、マップごとにIDが割り振られています。

絵作りとプレイヤーの導線誘導について

絵作りとプレイヤーの導線誘導について

絵作りとプレイヤーの導線誘導について説明します。AC Ⅵでは、ミッションブリーフィングにてある程度目的と目標を提示される設定となっていますが、初見ではどこに行けばわからなくなる場合が多いです。

目標が分かりやすいよう、目線誘導される作りとなっています。ACは地上移動に限らず空も自由に飛べるため、導線をあらかじめ固定することが難しい場合が多いです。そのため、UI側のアイコン表示で次の目標をサポートする仕組みを入れています。

こちらのシチュエーションでも絵作り側では、炎や煙、ライティングによってランドマークとなる導線誘導は掛けています。しかし、自由に飛べる都合上、プレイヤー導線を制限することは難しいためあくまでも指標程度です。

新たな世界観構築のアプローチ

新たな世界観構築のアプローチ01

次に、新たな世界観構築のアプローチについて説明します。新しい世界観のアプローチとして、コーラルという物質の表現をどう絵に反映するか考え、デザイナーと協議しながら調整しています。ストーリーが先行するのではなく、世界観やビジュアルに特徴を出そうとコーラルの存在を作っています。

ルビコン3

新たな世界観構築のアプローチ02

スケール感は大きく変わりますが、冒頭に登場するルビコン3についてもコーラルのパターンが存在します。ルビコン3自体は実際に3Dモデルで制作し、シェーダー側で大気や雲などの表現を加えられる仕組みを作ることで表現しています。

空の表現

新たな世界観構築のアプローチ03

次に、空と雲の制作について説明します。

空と雲の制作については、Terragen 4を使用してザイレムの高高度表現などを制作しています。画像は制作した空のデータを適用したインゲームの画面です。回想ムービー用のマップの雲についても、Terragen 4で制作しています。

スケール感について

スケール感について

次に背景のスケール感について説明します。AC Ⅵの世界にある構造物はどれも大きく、壮大なスケールの世界観となっています。マクロのサイズ感だけではリアリティに欠けてしまうため、AC自体のスケール感も出ずに嘘っぽくなってしまいます。

ディテールの粗密のバランスや人間サイズのトラス、足場などサイズ感を感じるミクロなディテールをバランスよく入れることでリアリティが増していきます。ACの背景を作る上では、そういった部分を念頭に置いて制作していきました。

背景制作における効率化について

背景制作における効率化について01

背景制作における効率化について、背景レイアウトの事例を説明します。背景アセットの配置効率化の仕組みとして、DCCツール側で編集した結果を即時にゲームエンジンに反映できる作業環境を用意しています。マップマニピュレーターは、DCCツール側でレイアウトした結果をエンジン側へ即時反映する機能となります。

マップマニピュレーターを利用するメリットとしては、3ds Max配置機能や社内で用意したレイアウト用スクリプトなどを利用して効率的にレイアウト作業が行える点や、カメラやライト、フィルターなどが適用された最終的なゲーム画面を確認しながら作業が行えるという点が挙げられます。

背景制作における効率化について02

実際に3ds Max上でアセット配置を行っている事例です。3ds Maxの標準機能である配列などを活用しながら作業を行いました。作業の結果がゲーム画面に即時に反映されているということが確認できます。背景に配置されているフォグボリュームについても3ds Maxから配置を調整できます。

このようにモデル以外についても3ds Maxから配置を編集できるようになっています。

パッケージアートの制作工程について

パッケージアートの制作工程について01

次は、パッケージアート制作工程について説明します。

パッケージアートの制作工程について02

パッケージアートについてはプレイヤーではなく、『C4-621』が取得した傭兵ライセンスの本来の持ち主のレイヴンの機体、ナイトフォール発進準備中のイメージです。ビジュアルイメージとしては、これをまとう主人公に運命を委ねているような感覚など、特殊な雰囲気の印象を目標としています。

ゲームプレイと手に取れる実体のパッケージでシンクロできないかと考え、AC自体はあくまで器としての役割で、それを駆る者に「どうするか」という問いかけを狙ったアートにしたいというのが始まりでした。ディレクターだけでなく、各スタッフのアイデアをフックにアートが組まれていくイメージです。

パッケージアートのビジュアルについては、インゲームモデルのガレージとACパーツからブラッシュアップする工程で制作しています。こちらはレイアウトを決める段階のラフ段階のものです。この段階ではシチュエーションを決め、ブラッシュアップ範囲の内容を確定しています。パッケージアートは、ガレージ内でメンテナンス中のACのイメージとなっています。

パッケージアートの制作工程について03

こちらはインゲーム配置のイメージです。

パッケージアートの制作工程について04

AC機体の表面処理をブラッシュアップします。何パターンか試しながらイメージに近いものを選定していきます。フィードバックで上がった細かなブラッシュアップ案を反映していきます。

パッケージアートの制作工程について05

次に、機体ポーズやライティングイメージを固めていきます。頭の角度などを調整してポーズをフィックスします。次に、ライティングの方向性のイメージを出し、見え方を調整します。この時点で、完成に近い見え方に調整しておきます。背景側の情報量追加イメージを2Dベースで仮入れします。

追加配置されたディテールもモデル側でブラッシュアップしていきます。細かなモデルの配置も微調整していきます。

パッケージアートの制作工程について06

パッケージにした時の納まりを再確認しながら進めていきます。

パッケージアートの制作工程について07

次に、「ライティング」「フィルター」「エフェクトイメージ案」を制作します。ここで、全体のビジュアルの方向性がほとんど決まっている状態です。

パッケージアートの制作工程について08

情報量追加用の小物モデルも追加していきます。ガレージにてセットアップしている雰囲気がより出るように小物類を配置して雰囲気を増しています。

パッケージアートの制作工程について09

最終調整していきます。フィルムグレインやカラーグレーディングにて最終的な微調整をフィルター側で行います。

パッケージアートの制作工程について10

画像は、最終イメージです。

モーション制作工程

モーション制作工程01

モーション制作工程について説明します。

モーション制作工程01

モーション制作に関する過去作との比較についてです。10年前との比較ですが、これまでの過去ACタイトルではモーションへのプライオリティは他のタイトルよりは低く、あまり人員や時間を割かない傾向がありました。

そこから、ダークソウルシリーズなどを経て、ゲームやアクション、それに付随するモーションの必要性を再認識し、専門性の高いスタッフをアサインすることでクオリティを維持する制作へとシフトしています。今回のAC Ⅵもその点を重要視し、各パートで人員をアサインすることで、今まで実現できなかったリソース制作ができる環境で開発に臨みました。

自機モーションのバリエーションも多く、近接武器もそれぞれ専用モーションを用意するなど過去出来なかったことが出来ることで、気持ちよさや面白さに直結した変革が生まれ、メカならではの動きなど、再現できる幅が広がっています。

リグ構造について

モーション制作工程02

自機のリグ構造について説明します。自機については、アセンブルにより複数のパーツから自由にカスタマイズできる仕様になっています。自機のアニメーションを大きくする部分として脚部パーツの変更があります。

基本的な脚部は4種類です。選択する脚部によりベースモーションが変化するため、脚部種類ごとに専用モーションを制作しています。

アニメーション自体は3ds MaxのBipedをベースとしています。同じ脚部カテゴリーでも、サイズや関節位置が違うためにリターゲットを使用して、アニメーション整合性を取っています。

モーション制作工程03

リターゲットする際には、リターゲット先の制御用関節と各パーツを部位に接続させるための関節を各パーツに用意する必要があります。しかしパーツ数が膨大なため、セットアップを自動化する3ds Maxのスクリプトを用意して対応しています。

モーション制作工程04

こちらは3ds Maxで、二脚パーツのパーツセットの制御用リグをワンボタンで製作している様子です。各モデルの関節名と基本ボーンの名称を見て、可動部分に制御用の関節を自動で配置します。このタイミングで、各パーツを部位に接続させる関節、脚部カテゴリーの専用関節を同時に配置します。これで基本セットアップは完了です。

二脚だけでなく、他の関節のカテゴリーも同様の仕様で製作します。

モーション制作工程05

先ほど説明した各パーツに専用で用意された関節の位置にアニメーションをリターゲットすることで、サイズや関節位置の違いによる破綻をなるべく回避しています。

こういった作業の効率化などによって前作より多くのリソースを制作することができ、モーションのバリエーションも増え、より気持ちのいいプレイフィールを実現できました。

自機モーションと武器モーション

モーション制作工程06

次に自機モーションと武器モーションについて説明します。

モーション制作工程07

自機モーションの構造は、機体の移動やブーストなど、攻撃アニメ以外の汎用モーションと武器ごとに再生される専用モーションに種類が分かれています。

自機の武器ごとの専用モーションに合わせ、武器側のモーションも制作し、マージして再生する仕組みです。武器専用モーションはこれ以外にも専用のモーションを用意しているため、膨大なパターンになります。

モーション制作工程08

武器それぞれに必要なモーションや各武器の属するカテゴリーなどは事前に決めておくことで、アーティスト側はアニメーション制作だけに専念できます。アニメ遷移についても、武器カテゴリーごとにすり合わせをしていくことでスムーズに実装可能です。こういった準備をしておくことで調整コストを下げ、少人数でもなるべくズレが出ないワークフローを構築し、大量にある武器アニメの制作を進めています。

モーション制作工程09

近接武器のレーザースライサーのモーション制作を例に説明します。近接武器については、自機と武器が同時に稼働するものであるため、モーションとしては同時に制作した方が調整もしやすく、効率も良くなります。

3ds Max上で自機と該当武器を読み込み、装備した状態でアニメーションを制作します。自機のデータと武器のデータはアセンブルできる都合で分かれているため、別々で出力する必要があります。そのため、3ds Max内にて必要なモーションをワンボタンで出力するスクリプトを用意して、各モーションを個別で出力する手間を省いて効率化しています。

各アニメーションは一連のアニメとして制作して、連撃やモーション遷移をするために分割して出力する必要がありますが、このスクリプトでは、アニメIDとフレームを指定することで分割アニメをまとめて出力することができます。フレーム変更やアニメ分割数が変わった場合でも、柔軟に対応できます。

近接武器については、専用の自機モーションも用意し、武器アニメも全てオリジナルのモーションになっています。そのため、それぞれで個性を活かした使い回し感のない固有の武器として制作することができました。リグによっては、自機のリグよりも数が多いものもあります。

モーション制作工程10

チェーンソーについては、リグ関節数が300個を超えていますが、歯の部分は独立して動く指定のため、3ds Maxで歯の関節を自動配置してセットアップするスクリプトを用意して、対応しています。これだけの数を個別で動かすことも非効率なため、3ds Maxにて武器専用でセットアップしています。

モーション制作工程11

次に、自機とはそこまで連携せず、独立して動く背中武器のアニメーションについて説明します。背中武器も近接武器同様、一連のアニメを制作して、アニメ自動分割をする仕組みで制作しています。この手法だとアニメファイルが最小限になるため、リグやモデル更新が発生した際にアップデートするファイルを最小限に抑えられます。全体のモーションも確認しながら調整することができるなどの利点も挙げられます。

武器アニメも同様に、さきほどのスクリプトを使用してアニメIDに合わせてフレーム指定したアニメをワンボタンで出力すれば、必要なアニメの準備が終了します。スクリプト側のアニメID等の設定ファイルは保存でき、同カテゴリーの武器と共通して使用できるため、再設定の手間も省いています。

AC用武器については、左と右でミラーしている作りとなっていることが多く、左右そのままではアニメを流用することができません。そのため、3ds Max用のスクリプトを使用してアニメをミラーコピーすることで、素早くミラーアニメを制作しています。

モーション制作工程12

こういった効率化により、多種多様な武器を制作しています。

敵キャラクター関連

モーション制作工程13

次に、敵キャラクターアニメーションの工夫について紹介します。AC Ⅵでは、アイスワームという地面を潜りながら戦闘する敵キャラクターが存在します。

アイスワームはサイズが大きい上に構造上の関節も多く、モーション調整工数が高いキャラクターとなります。ボスキャラクターでもあるため、アニメーションリテイクも多くなります。そのため、3ds Maxのスクリプトでアイスワーム専用スクリプトを自作し、修正コストを下げ調整しやすいように対応しています。

通常であれば必要な可動関節をそれぞれ調整する必要がありますが、専用スクリプトではひとつの関節のみで全ての関節の動きをまとめて調整できます。動きの緩急もつけやすく、スプラインで調節することが可能です。

カットシーン

モーション制作工程14

カットシーン上でのACアセンブルの再現について説明します。

カットシーンに登場するNPCACは多種多様な装備をしており、そのリグに合わせたボーンやアセンブルをその都度制作することは非効率です。アセンブル内容も設定により変わる可能性もあるため、カットシーン用のアニメのためのリグはフレキシブルに対応できる必要があります。

モーション制作工程15

この問題については、3ds Max上でアセンブルを再現できる仕組みを作り、NPCACに合わせたリグとモデルが組み込まれるという効率化が図れるように対応しました。

ヘッド・コア・アーム・レッグを変更して、3ds Max上でアセンブルに対応したリグとモデルデータを自動的に構築しています。再構築時に時間が少しかかりますが、一から構築するよりはかなり早く必要なデータを制作することができています。

このようなスクリプトなどの便利ツールはプロジェクト内で制作することもありますが、リグ関連であればリグ班、それ以外はR&Dセクションにお願いするなど、各方面からの協力を得て制作しています。

カスタマイズ機能強化

カスタマイズ機能強化01

次にACカスタマイズ機能について、前作からの強化ポイントを説明します。

カスタマイズ機能強化02

AC Ⅵのメニューはシンプルな作りとし、カスタマイズ機能については「AC DESIGN」に集約しています。こちらのメニューにカスタマイズに関連する要素は全てあります。

カスタマイズ機能強化03

ACのアセンブル画面の基本的な仕様は前作から大きく変わってはいませんが、カテゴリーや選択部位、変更するパーツの画像などは、アイコンや画像をより鮮明にすることで見やすくなるように調整しています。画像にあるパラメーターも、基本パラメーター以外の詳細パラメーターは任意で表示できる構成となっています。

パターン

カスタマイズ機能強化04

こちらはペイント関連のメニュー画面です。ここから選択できるパターン塗装については、29種類のパターンサイズから選択できるようになりました。

カラー変更部位についても一覧で表示され、前作より見やすくなっています。パターン変更については、武器側だけでなく個別部分のみを指定することもできます。

質感

カスタマイズ機能強化05

次に紹介する質感設定についても前作にはなかった機能になります。質感は35パターンから選択することができます。武器側にも個別で質感調整ができます。質感調整機能については、特殊表現同様AC用のシェーダー側で機能を制作し、実装しています。

ウェザリング

カスタマイズ機能強化06

次にウェザリング機能について説明します。こちらもシェーダー側で機能を拡張して実装しています。ウェザリングパターンは23種類用意しており、部位ごとに個別に指定することができます。それぞれのパーツで個別のウェザリングも適用できます。

デカール

カスタマイズ機能強化07

次に、デカール機能についての説明です。AC Ⅵから簡易デカール機能が追加されています。エンブレムなどのデカールを決められた箇所に、部位ごとに指定する機能です。手軽に手間をかけずにデカールを貼りたい人向けの機能になっています。自作したデカールなども貼ることができます。

前作からあるカスタムデカール機能では、自作したデカールを任意の場所に貼ることができます。前作より使用レイヤー数が増えているため、より自由にカスタマイズ可能です。素材をマスクする機能やグループ化する機能も追加されています。

カスタムデカールではオリジナルエンブレムを制作可能で、制作したデカールは自分の機体に貼ることができます。

シェーダー

カスタマイズ機能強化08

カスタマイズ部分強化に伴い、ACパーツ側でシェーダーの機能を整理し、機能別に整理しながら制作しています。機能が多くて煩雑になってしまうため、ノードでは機能別にして確認しやすく、後から拡張しやすいように配列しています。

OSチューニング

カスタマイズ機能強化09

AC Ⅵでは、OSチューニングという機能も実装していて、自機の機能を拡張するカスタマイズ機能になります。装備したい機能を解放したり、自分に合わせた機能を取り替えられるため、プレイヤーの戦闘スタイルに合わせて自由にカスタマイズでき、プレイの自由度の向上につながっています。

フォトモード

カスタマイズ機能強化10

AC Ⅵではフォトモードも実装しました。フォトモードでは、各種カメラの設定や明度調整などができ、好きなカメラアングルで自分のACを撮影できます。ガレージやインゲームでのユーザーの好きなタイミングで、撮影機能を使用できます。

AC Ⅵで追加された新しいカスタマイズ機能は、最近のトレンドやスタッフの要望などから広くやりたい事を集め、要望をまとめてメニュー担当者やシェーダーアーティストと連携しながら実装を進めました。

まとめ

まとめ

本日はAC Ⅵの開発を通して、ACタイトルとして10年越しの変革と進化、フロム・ソフトウェアで行われているデザインやデータ制作事例を紹介しました。グラフィック制作以外のデザインコンセプトなども含めて大切にしつつ、グラフィックデータの制作にかける時間同様、ゲームプレイやゲーム体験に影響する部分の調整に多くの時間を使って制作しています。

まとめ

Q&A

Q1. 10年ぶりのナンバリングタイトル新作を開発するにあたって、特に苦労したことは何ですか。

前作から10年ということで、グラフィックデータ自体のワークフローやモデルのクオリティ基準を大きく見直す必要がありました。私自身、他のプロジェクトも平行してみていることもあり、こういった整備に苦労した覚えがあります。新しい技術やトレンドにどの程度あわせるか、どこで線引きをするかの落としどころは毎度苦労する部分ではあります。

Q2. ハードサーフェスモデリングのディテールやデザインの情報量を上げるには、どのような練習をすべきでしょうか。また、身の回りの作品のどのような点を観察すればいいでしょうか。

ハードサーフェスといっても幅が広いですが、キャラクターモデリングと同様に観察眼が重要だと思っています。メカの場合は、工業製品や兵器、戦闘機など元ネタになる素材がたくさんあります。制作したいモデルの設定を考える上で、どのような用途なのか、どういった構造があるのか、実際に存在するものはどのような機構で作られているかなどを調べて、観察するのが良いかなとは思います。

機能的なディテールは説得力もありますし、それをベースにしてSF要素を足すだけでも十分なディテールを増すことができます。オリジナルの格好いいディテールなどは、似たような映画やアニメ作品からアイデアを広げてもらうのがいいと思います。

Q3. ゲーム業界ではMayaが多い印象ですが、3ds Maxを使うことのメリットは何でしょうか。

フロム・ソフトウェア自体が長く3ds Maxを使わせていただいていることもあるため、開発環境が3ds Maxに特化していることが大きな理由だと思います。また、モデリングとアニメーションの機能が最初から充実しているツールでもあるため、拡張やカスタマイズがしやすいところも長く使わせていただいている理由になります。

Q4. アーマード・コア作成において参考にしたものや、何かの経験が活きたエピソードなどはありますか。

私自身が映画好きなので、SF映画やアニメの影響を受けています。実体験としては、機械好きということとバイクに乗っているということが役に立っていると思っています。また、社内デザイナーと外部デザイナーに関しても、よりメカに詳しい方と話せる機会が多く持てたことも影響していると思います。

Q5. ゲームを実装するにあたって、ボーン構造の制限やパーツ間干渉の制限があると思いますが、どのような制作フローで破綻を回避されているのでしょうか。

本講演で説明したところでもありますが、脚部のそれぞれのボーン構造は統一した仕様となっているため、同一脚部での基本アニメに使用するボーンの数などは変えられないという制限があります。ユニークでギミックを入れる場合は、独立した関節を別途リンクするという仕組みを作っているため、それで対応することもあります。

ACコアの背中が開くギミックに関しては、全てユニークの関節でやっているため、ベースボーンではやっていません。

干渉については、ラフを制作する段階で先に洗い出しておいて、デザインレベルで問題が起こる場合はデザイン側と同時に調整することで問題を早めに解決するようにしています。

Q6. 開発過程でゲームのプレイを念頭にグラフィックに携わる中で、一番意識されていることは何でしょうか。

グラフィッククオリティよりも、「ゲームプレイがしやすいか、面白いか」が先にきて、それを満たした上でどのようなグラフィックを作った方がいいか考えるということを一番意識しています。

グラフィック先行で作るケースもありますが、あくまでも作っているのはゲームなので、ゲームプレイが一番ということは常に重要視しています。

Q7. アーマード・コアのメカデザインのモチーフなどはあるのでしょうか。ゲーム内の映像として妥協しなければならなかった点や、工夫されている点、メリットについて知りたいです。

ACのメカデザインのモチーフはいろいろありますが、さきほどの私がバイクに乗っている話のように、今回のデザインの中でもバイクをモチーフにしているデザインもありますし、戦闘機の機能からインスピレーションを受けている機体もあります。やはり、実際の兵器や実用性の部分から情報をもらうことが多いです。

ゲームのグラフィックは、時間があればもっとクオリティを上げることができたと思っています。モデルのテクスチャの品質やワークフローの改善など、時間があればもっといいものができたと思います。しかし、時間は限られているため、その状況下でやれることはやりました。

ゲームのメリット、つまりゲームでしか体験できないことは、ユーザーが自由に操作し、体験ができる点だと思っています。気持ちいい動きができるか、爽快感があるかなど、エンターテインメントに近い体験を自分の操作で変えられることがゲームのよさだと思っているため、常に新しい体験を考えながら制作に取り組んでいます。

Q8. 開発する中でチーム内の雰囲気作りはどのようにされていますか。開発に詰まった時など、問題点はどのように解決しているのでしょうか。

私も20年ほどフロム・ソフトウェアに在籍しているのですが、いろいろな経験をする中で、チームメンバーのモチベーションや雰囲気作りを重要視しています。また、私が全て決めて作業を依頼するよりも、なるべくメンバーに進め方やアイデアを考えさせるようにしています。提案をしてもらう中で、明らかに問題がある部分のみを調整して修正することで練度を上げるというワークフローにしています。私が考えつかなかったネタが出ることも当然ありますし、そういった可能性やチャンスがある開発環境のほうが遣り甲斐も感じられるかなと思っています。

私だけでは解決できない問題が起きた際は、ディレクターをはじめ、他セクションの有権者を集めて、なるべく問題が拡大しないように早めに相談するようにしています。

Q9. なぜ長期間にわたって面白いゲームを作り続けられるのでしょうか。

そこを意識しているというよりは、面白いタイトルにしようと奮闘している結果、そういった評価をいただけているという認識ではあります。他にあるとすれば、フロム・ソフトウェアが築き上げてきた知見や経験、強みを活かしたタイトルを作っているという点が、ブレなくフロムらしいゲームが作れている理由の一つかなと思います。

なるべく新しい体験をしてもらうための既視感をあまり感じさせないタイトルにしたいという考えもあるため、そういった姿勢や作品性が評価されているところかもしれません。


採用情報

株式会社フロム・ソフトウェア 前田 耕蔵さんによる「『ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF RUBICON』メイキングセミナー」レポートをお届けしました。
フロム・ソフトウェアでは、2025年新卒採用や中途採用など、幅広く人材を募集しております。もしご興味を持たれた方は、門を叩いてみてください!

まとめ
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