2025年8月15日(金)に開催された「『MERCURY Entei Ryu造形作品集』発売記念セミナー」より、イベントの内容を区切ってご紹介していきます。
第一部は、「造形思想に基づく作品制作の舞台裏」。どうぞご覧ください。
セッション概要
実力派コンセプトアーティストであり、コジマプロダクション所属のEntei Ryu氏が、初の造形作品集『MERCURY Entei Ryu造形作品集』の出版を記念して開催した特別セミナー。本記事では、映画やゲームの現場で培ってきた造形思想をもとに、3D造形作品のメイキングや制作の舞台裏を、本人の言葉で紐解いていきます。
作品そのものだけでなく、造形と造形の間に生まれる隙間や空間までも含めてデザインとして捉える考え方とは何か。実際の3Dデータを参照しながら、Entei Ryu氏ならではの「造形のコツ」と思考プロセスに迫ります。
イベント告知ページはこちら ⇒ 『MERCURY Entei Ryu造形作品集』発売記念セミナー
【主催】株式会社Too / アトリエコチ
【講師】Entei Ryu 氏
登壇者紹介

主に映画やゲーム向けのコンセプトアーティストとして活動している、Entei Ryuです。また、個人の制作として、趣味の延長でワンフェスに展示を行ったり、立体作品を制作したり、立体、二次元、三次元を行き来しながらオリジナル作品も手がけています。
メインの仕事はデザインですが、個人の活動としては普段ゲームではあまり扱われないテーマや自分自身が作りたいものを、練習も兼ねて比較的自由に制作しています。
昨年は、初めてアートワークをまとめたイラストレーター集を出版しました。今年は引き続き、造形をメインにした作品集を出版しています。それが、本日のテーマにもなっている『MERCURY Entei Ryu造形作品集』という本です。
今日は、この造形を中心とした作品集の紹介をしながら、普段自分が作品を作る際に考えているデザインの思考や、本に掲載しているいくつかの作品のメイキングについてお話しします。あわせて、本には載せていない裏側の制作ストーリーや、まだ外には出していない制作途中の写真、3Dレンダリング、場合によっては3Dデータもお見せできればと考えています。
また、今回のセミナーで題材とする添削作品をSNSで募集したところ、数名の方が造形作品を中心に作品を送ってくれました。それを私が確認し、自分なりの視点でアドバイスをしたり、ZBrush上で造形データを直接修正したりして、資料としてまとめています。
私自身、ものを作ること以外にも、さまざまなものに興味を持っています。建築や香水の香りなど、五感で感じられるもの、フィーリングに訴えかけるものが好きです。造形作品集の最後の方に、あまり読まれないだろうと思いつつ、かなり自由に書いた部分もありましたが、結果的に多くの方から良い反応をいただきました。
一見すると、創作とは直接関係がないように見えるかもしれません。しかし、「普段の生活の中でどのようにものを見ているのか」、「どのように知識を吸収しているのか」、「どんな意識で日々を過ごしているのか」、それらが最終的には作品作りにつながっていると感じています。
あくまで個人的な話にはなりますが、制作の話に限らず、さまざまな視点が皆さんのインスピレーションにつながれば嬉しいです。
作品集に掲載された作品の制作背景やデザイン意図の紹介

では、ここからは順番にご紹介していきます。こちらは作品集のデジタル版です。

掲載している作品数は画像にある通りです。
この中からいくつかの作品を紹介する予定ですが、一つ一つすべてを解説すると時間が足りなくなってしまうので、作品を絞ってお話をしていきます。話すことが非常に多いため、できるだけ皆さんが一番興味を持っているものから紹介していきたいと思います。
作品紹介 part1

1つ目の作品は、「Dragon Mermaid」という作品です。かなり昔の作品で、むしろ造形を始めた当初に、初めてきちんと完成させた作品と言えるかもしれません。

こちらが、当時描いた最初のスケッチです。私は動物も好きですし、人間の体や可愛い女性のキャラクターを作ることも好きです。そこで、両方を同時に表現できないかと考えたことがきっかけとなり、この作品からキメラシリーズを始めました。
キメラとは、異なるものを組み合わせる存在のことです。人間の要素と動物の要素を組み合わせています。この作品では人間と魚、その後は人間とトラ、人間と鳥、人間とドラゴンというように、さまざまな組み合わせの作品を制作してきました。こちらは、その記念すべき最初の作品です。

これは最初のレンダリングで、少し恥ずかしいのですが、ラフ画を描き終えた直後の段階のものです。話が少し前後しますが、私が3Dを始めた理由は、もともとコンセプトアーティストとして活動していたことにあります。当時は絵を描くことが中心で、今から10年ほど前、コンセプトアーティストの間で3Dを取り入れる流れが広まり始めた時期でした。
例えば背景を描く際には、まずベーシックなパーツを3Dで確認し、その上から描き込んでいく方法があります。その中で、キャラクター表現においても3Dベースを使う方がいましたし、今もそうした手法は多く使われていると思います。
専用のソフトウェアに、あらかじめリギングされた人型の素体が用意されていて、それを操作してデジタルの人形のようにポーズを付け、参考資料として使う方法もあります。また、それをベースにマテリアルを整え、肌の色や顔の表情まで作り込み、その上から加筆してキャラクターイラストを仕上げる方もいると思います。
一方で、私自身のワークフローとしては、すでに強いスタイルを持ったリアル寄りの素体の上に描き込むことがあまり好きではありません。むしろ、ベースの形状そのものを自分でスカルプトした方が、細かいカスタマイズができ、自分のスタイルも反映しやすいと感じています。そのため、最初はかなりラフな形から作り始めていました。
上の画像はラフモデルの段階を経て、形をある程度整えた後、半分ほど絵として描き込んだ状態のものです。下には3Dの形状がそのまま見えています。3Dならではの質感や素材感を活かし、反射する部分と反射しないざらっとした部分、つやのある部分を組み合わせています。また、部分的に透明感を持たせている点も特徴です。こうした表現は3Dだからこそ可能であり、それを自分の2D作品に取り入れる形でアレンジしています。

この作品を制作していた当時、特に悩んだのが、長いドラゴンのしっぽをどのように配置するかという点でした。絵として描く場合は、一方向の角度だけ整って見えれば成立します。しかし、3Dになると、角度を変えた瞬間にごまかしが効かなくなり、他の角度での詰めの甘さがすぐに露呈してしまいます。
そのため、初めてこの作品を通して本格的に3Dやデジタルスカルプトの世界に入った私にとって、一番難しいと感じたのがこの長い線の扱いでした。ボリュームもあり、ディテールも必要なこの形状を、どうやって破綻なく作ればいいのか、当時は本当に悩みました。
以前、造形家のSimon Leeさんと話をしたことがあります。その方は実際に粘土で造形をされていて、手を伸ばしながら直接形を作ることができます。平面を見ながら、同時にZ軸方向も調整できるわけです。その時に聞かれたのが、「平面のZBrush、デジタルの画面を使って、どうやって奥行を調整しているのか」という質問でした。
改めて考えてみると、確かにどうやってそれができているのか、不思議に感じます。
もし私が粘土造形から始めていたら、あそこまで自由に手を入れることはできなかったと思います。ZBrushは、感覚的にはお絵かきのツールです。実際には3Dですが、操作している画面は基本的にXY軸の平面で、奥行を調整したい場合は、モデルを回転させながら確認し、調整していきます。
3Dとは言われますが、感覚的には2Dに近い部分もあります。慣れていないうちは、ZBrushや3Dスカルプトソフトを使ったことがない人ほど、奥行がつかみにくく、やりづらさを感じると思います。
慣れてくると、頭の中に3D空間を思い描けるようになります。こうしたいと思ったら描き、形を変えてまた調整し、描いては調整する。その繰り返しで、スカルプトというより図面を作っているような感覚になります。そういう意味では、製図に近いかもしれません。

そのため、3D制作では、複数の角度からスクリーンショットを撮り、整理する作業が必須になります。

この作品の完成形がこちらです。今回の作品集を作る過程で、「デザインする時に何を考えているのか」、「最初のコンセプトはどこから始まっているのか」といった点を改めて整理しました。
皆さんも見たことがあるかもしれませんが、魚以外にも、獅子や牛と獅子を組み合わせた女の子、馬のモチーフなどもあります。この馬の作品は、いつかリメイクしたいと思っていて、現時点ではまだ完成度が低いと感じています。

また、一つのキャラクターや作品を考える時には、キャラクター単体だけでなく、そのキャラクターがどんな環境にいるのかも必ず考えます。これはコンセプトアーティストとしての癖かもしれません。画面に映っていない背景や、その奥の世界まで想像してしまいます。そこにはどんな音があるのか、静かな場所なのか、騒がしい場所なのか。環境が違えば、人の表情も変わってきます。
まずは、できるだけ深く環境を設定し、キャラクターの画面外にある要素まで含めて、その雰囲気を自分の中に作ります。悲しいのか、明るいのか、騒がしいのか、静かなのか。そして、そのキャラクターがどのように動いているのかを考えます。
例えばドキュメンタリーでヘビの映像を見て、動物としての構造や動きを研究します。もしヘビの脂肪と人間の体がつながったら、どの部分が人間の骨格で、どこからどうつながっていくのかなど、細かく考えていきます。
こうした思考は、必ずしもすべてを直接造形に反映するわけではありません。しかし、一度自分の中で処理しておくことで、自然と差が出てきます。それが説得力のあるデザインか、そうでないかは、最終的に見た人に伝わってしまいます。ごまかしは必ず分かってしまうので、しっかりとリサーチをした方がいいと考えています。生き生きとした存在になるのか、ただ形があるだけのものになるのか、その違いがはっきり出ます。
最初の段階についての話は、ここまでです。

その後、3Dから一度、実際の立体に起こす工程があります。その段階で、すでに造形力は少し上がっていました。曲線やトゲの部分も、以前よりきれいに配置できるようになっています。
次に考えたのが、どう動きをつけるかという点です。最初の形では下がフラットになってしまい、造形物として少し退屈に感じました。そこで、「海の中に隠れている部分まで見えたら面白いのではないか」という発想から展開していきました。

実は、全部を見せた場合、どのような台座にするかという、少し突飛なアイディアも考えていました。例えば、巨大な弾丸の上に乗せる、といった案です。これはこれでストーリー性や発想としては面白いと思います。
現代的な武器と、ファンタジーの人魚という要素を組み合わせたらどうなるか、という考え方です。これは、あくまで複数ある案の一つです。

最終的にたどり着いたのが、「すべてを見せると情報量が多すぎる」という判断でした。そこで、半分ははっきり見せて、もう半分は水の中にうっすら見える状態にするのが、ちょうど良いバランスだと考えました。

この構図にした理由は、形の整理を強く意識したからです。この人魚のクリーチャーはディテールが多く、遠くから見ると情報が混雑しやすいです。皆さんも制作をしていると、情報をどうまとめるかが課題になると思います。
こちらも曲線であちらも曲線のように要素が増えすぎると、最終的にはごちゃごちゃしてしまいます。私の基準は、とにかくシンプルであることです。情報量が増えすぎると、生理的に耐えられなくなるので、基本的には足していくのではなく、削っていく作り方をしています。プラスではなく、マイナスです。
では、プラスはどこから生まれるのでしょうか。それはデザインの段階です。「自分は何を作りたいのか」、それを自らに問います。例えば人魚なら、どんな要素やモチーフがあるのか。海があり、女の子がいて、剣があり、骸骨があり、脂肪があり、鱗もある。そこから何をするかというと、削っていきます。
資料を探し、リアルなものを調べ、必要な要素を一度並べます。そして混ぜてから、いらないものを消していきます。
隠れている部分では、裏側に鱗が不要なら消します。消す理由は、見せたい部分をより強く見せるためです。作品作りはコミュニケーションだと思っています。人に見せるためには、見せない部分を意識的に削る必要があります。すべてを見せるのは、コミュニケーションとしては成立しません。
要するに、何を表現したいのか、その気持ちが伝わらなくなってしまいます。そのため、私がコンセプトアートでも造形でもフィードバックをする時、9割くらいは「多すぎる」「うるさい」という指摘になります。
「方向性自体は良いので、とにかくいらないものを消してください」、という指摘から始まることが多いです。

こちらでは、立体物としての安定感を重視しています。上部は三角形や四角形の構造でまとめています。遠くから見ると盆栽のようなシルエットになりますが、置物として、オブジェとして成立させたいという意識です。
情報量については、最初から観衆やお客さんがどこを見るのかを想定します。最初に何を見せたいのか、次に何を見せたいのか、最後に何を伝えたいのか。それを自分の中で整理し、自分なりの方法に落とし込んでいきます。

こちらが最後の写真です。

これは制作途中のスケッチです。この段階では、まだそこまでトゲは出ていません。ただし、下をある程度省略したとしても、上部でこのクリーチャーの勢いを出したいと考えています。出すところはしっかり出して、見せたくないところはできるだけシンプルにする。メリハリと余白を大切にしています。

この作品の最終的なイラストレーションは、このようになります。

こちらはBlender内のスクリーンショットです。
ZBrushでもBlenderでも、線画表示の機能はよく使われています。皆さんが普段目にしている制作途中の画像を見ると、分かると思います。自分の癖として、線画表示に切り替えると不要なディテールが整理され、非常に見やすくなります。作業途中でも、このモードに切り替えて確認することがよくあります。

これは、制作途中に自分で書いたメモの一つです。この段階ではディテールが増えてくるので、密度が高い部分と低い部分をきちんと整理します。
「ここは不要だ」と判断したポイントを書き込みながら確認しています。これは造形だけでなく、最終的な色付けも見据えた作業です。例えば、この段階ですべてを細かく作り込んだ上で、色を塗る際には上部だけに色数を使い、下部はシンプルでディテールが目立たないようにする、という方法もあります。
そのため、ワークフロー全体を含めて、常に全体像が見えるように意識しています。模型としてどこまでメリハリがあるのか、色を塗ることでさらにコントロールが加わります。それらすべてを含めた結果が、最終的に皆さんが目にしている作品になります。

こちらはディテール部分です。かなり長いパーツなので、普段はあまりZBrushのスタンプ機能を使いませんが、この部分では使用しています。
ここで、一つ質問が出たので答えていきます。
Q1. 完成までに、最初のイラストやスカルプトを始める段階から最後のレタッチに至るまで、最初のイメージをどこまで膨らませているのか知りたいです。
私の場合、最初のイメージは最後まで、基本的に100%持ったまま進めています。
しかし、ここで言う「最初のイメージ」は、最初から細部まで決まった完成形ではありません。むしろ、どんなテーマでも最初はかなりぼんやりした状態から始めます。ラフスケッチも同じで、最初のラフは本当にラフです。
最初の段階で定義しすぎてしまうと、後で実際に手を動かしていく中で新しい状況や発見が出てきた時に、どうしても自分を制限してしまいます。だから最初はあえてぼんやりさせておきます。

これは、募集で作品を送ってくれた方へのフィードバックの例です。右の画像は私が描いたラフスケッチですが、造形を作る時のラフスケッチ、いわゆる最初のイメージは、だいたいこのくらいの完成度です。この雰囲気で進めたいので、これ以上は描き込みません。
もし細かく描いて、絵として完成してしまったら、「立体を作る価値は何なのか」という話になります。私は、立体ならではの表現を作りたい気持ちが強いので、最初の段階では描きすぎないようにしています。
最初に決めているのは、雰囲気を作るためのキーワードのようなものです。例えば、静かな雰囲気にしたい、美しい女性像でクラシックな雰囲気にしたい、といった抽象的な方向性です。見ている人にワクワクを感じさせたい、という意図も含まれます。
さらに、音や匂いなど、画像では見えない要素については、解釈の余地を最後まで残せます。そうした見えない要素も含めて、できるだけ最初はラフで抽象的にイメージしながら制作しています。
作品紹介 part2

次は、この作品について簡単にお話しします。今回、この二点を制作工程と本日の紹介に入れている理由は、どちらの作品にも二段階の作業プロセスがあるからです。この作品は「Moon Dancer」と名付けています。タイトルにあるMoonは、背後の円形構図の中心にある月を意味しています。
キャラクターを作っていますが、背景も自分の中ではとても重要な要素です。どのようなシーンにいるのかを決めないと、制作に取りかかることができません。
もちろん性格面も含めて考えます。何をしているのか、動いているのか、動きは速いのか遅いのか、ゆったりしているのか、優雅なのか。最初に思い浮かべた形容やイメージを並べ、それらを最後まで実現できるように造形していきます。

初期の段階は、このような形でした。ベースはなく、立体物としては成立していない、純粋なCG作品です。キャラクターと動物がいて、背景は一見すると東洋的な描き方ですが、よく見ると完全にそうではありません。
デジタルツールを使った、パラメータ的なデザイン手法を取り入れ、少し現代的で未来感のある表現としてアレンジしています。

こちらが最初のキャラクターの形です。別の角度から見ると分かりますが、当初は下部は単なる背景要素で、立体として自立しない状態でした。そのため、二人とも浮いています。
サイズは大きいですが、毛や雲の表現によって、仙人のように浮かんでいる存在として考えています。先ほどのマーメイドが西洋的な雰囲気だとすると、こちらは東洋的なモチーフを使った作品です。
鳥は鶴です。一般的な白い鳩ではなく、優雅さがあり、舞っているような美しい鳥のイメージを選びました。

色の選び方や素材感は、画像のようなイメージです。少し古さがあり、高級感のある、象牙のような質感を想定しています。素材についても、最初から明確に決めているわけではなく、作業しながら考えています。
例えば、雲を本当に雲の素材として表現すると、安っぽく見えてしまいます。そこを、より固さを感じる素材にした方が面白いのではないか、と考えます。
こうした異なるイメージ同士をぶつけることで、結果的に面白いコンセプトが生まれます。

少し古さを感じる要素と未来感のある要素、大きなものと小さなものを混ぜる、といった考え方です。

そして後の段階で、どうしても立体物として、3Dプリントで出力したいと思った結果、最終的にはこの形になりました。
前回の個展でも展示しています。下の台座は実際に3Dプリントしました。ただ、重いものをそのまま下に置くと、どうしても詰まった印象になり、空気感が失われてしまいます。星が浮いている感覚や、雲のイメージが壊れてしまうのです。
そこで、しっかり支えつつ、透明感を感じさせる形は何かを考えました。その時に意識したのが「隙間」です。建築素材でよく見られるようなデザインを参考にしています。シルエットは雲の印象ですが、よく見ると一つ一つが異なるパーツで構成されています。このイラストの段階では連結部はほとんど描かれていませんが、実際にプリントする際には、目立たない形でつながりを入れています。
3Dプリントを前提にすると、ただ置いているだけでは成立しません。見る角度が変わるからです。鳥は飛んでいるように見えますが、実際には見えない部分ですべてがつながっています。そうした技術が随所に使われています。

「重いけれど、軽く感じさせたい」、この作品を作っている時、ずっと頭の中で悩んでいたのがその点です。サイズは大きいですが、どうしても重たく見せたくありませんでした。最初から表現したかったのは、「雲の上に落ちているような雰囲気」です。そのために、どうすればいいのかをずっと考えていました。

そこで、雲の造形をクリームのような形に寄せています。クリーム状の形は、人が見た時に軽やかに感じやすいです。一方で、日本古来の雲の形をそのまま造形すると、どうしても硬く見えてしまいます。その中間を狙い、バランスを細かく調整しています。

こちらは、最初の段階と立体化した後の段階の比較です。女の子の部分は、立体物として成立するように、少し大きく調整しています。そうしないと、顔がほとんど見えなくなってしまうためです。
変わっていないのが中央の円で、構図の中心として使っています。この円は、さまざまな場所で繰り返し使われており、構図としての完成度を高めています。それに呼応するように、背中の曲線も丸みを持たせています。同じ形を繰り返すことで、全体の調和が生まれます。
よく「曲線をどうすればきれいにできるのか」と聞かれますが、一本の曲線をきれいにするのは実は難しいです。大切なのは、曲線同士がどう関係し合い、会話しているかです。

この図のように、細部に入り込みすぎないよう意識してまとめています。まとめられるものはすべてまとめ、不要な細部は削って整理します。

作品集の中では、最初のイメージがどこから来ているのかといったコンセプトも細かく載せています。制作工程そのものはあまり載らないので、こうした発想の部分を見せられるのは楽しいです。どう作ったかよりも、最初の発想がどこから来たのかを重視しています。
すべての造形スキルは、これらのコンセプトを実現するためのものです。装飾ではなく、自分が実現したいものが先にあり、そのために方法を選んでいます。これは自分にとって核となる考え方で、やっていること自体はいつも似ています。
異なる要素をぶつけること。現代的なものと古いもの、人工的なものと自然なもの、硬いものと柔らかいもの、有機的なものと無機的なもの、未来的なものと伝統的なもの。それらのバランスを、ちょうどよいところに調整しています。
以前から思っているのですが、アーティストは見ているものも、学んできたことも、実はかなり似ています。それでもスタイルが違うのは、どこでバランスを取っているかの違いです。
私は0.6%の位置を選び、別の人は0.8%を選ぶ。次に、線をきれいにするか、少しラフにするかで、また割合を選ぶ。その小さな選択を積み重ねた結果が、その人のスタイルになります。バランスを取ること自体が、スタイルを決めているのだと思っています。

こちらは、昔使っていたソフトのスクリーンショットです。当時使っていたのは「Rhino」です。建築分野でよく使われるソフトで、背景はこのような形になっており、パラメータ的な手法で作っていました。ここでもバランスを取っています。
シルエットは、必ず昔ながらの雰囲気を感じさせる形を選びます。一方で、未来感は計算的な部分で表現しています。背景でもキャラクターでも、自分のテーマをどう表現するかを考え続ける、自分自身との対話です。

最終的には、このような形になります。これを見ると、多くの人は最初からこの作品を作っていたとは思わないかもしれません。しかし、やり方そのものが面白くなると、新しい表現は生まれやすくなります。
「この人が良いものを作ったから、自分も同じように作りたい」ではなく、「途中でこうしたら面白いのではないか」「このやり方は誰もやっていないのではないか」と試していく。その積み重ねの先に、結果として面白いものが生まれます。
最初から結果だけをなぞってしまうと、どうしても同じものに行き着いてしまいます。
作品紹介 part3

こちらは、たくさんの動物たちが集まっている作品です。動物に乗っている構成のこの作品は「Forest Friends」と名付けました。

この作品も、二段階の制作プロセスがあります。一段階目は、人魚や鳥も含めて、あくまでイラストレーションのための制作です。そのため、この段階ではディテールは控えめで、絵として描いている部分が多くなっています。
最初に作った時の目的は、とにかく何を描いて見せたいのか、その一枚の絵を成立させることでした。これはかなり初期の段階で、制作時期はクリスマス前後です。
この作品を作っていたのは2018年か2019年頃で、当時はCygamesのプロジェクトに関わっていました。仕事では、ほぼスーパーリアルなモンスターやドラゴンのようなモデルばかり触っていて、人間を描くことはほとんどありませんでした。当時の業務の9割はモンスターデザインでした。
その反動もあって、この作品を作っている時間はとても楽しかったです。「可愛いものを作るのがこんなにも楽しいのか」と気付きました。作品を見ていると、私が楽しんで作っていたことが伝わると思います。
昔からディズニーが好きで、人の顔に少し近い、可愛い動物が好きです。中でも、特にバンビが好きです。この作品のキャラクターにも、少しバンビっぽさがあります。今見返すと情報量が多いと感じますが、当時は楽しくて手が止まりませんでした。

造形はこのような感じです。制作時期はクリスマスの前後で、家族みんなで食卓を囲んでいるような、幸せな雰囲気を想像しながら作っていました。実際には一人で、自宅のパソコンの前にいましたが、頭の中ではそうした温かいシーンを思い描いていました。

実際の造形を見てみましょう。これは最初のイラストレーション用の造形で、本当にラフな状態です。この一枚だけを使う予定だったので、そこまで作り込んでいません。
必要なシルエットが決まった時点で、そこで止めています。要素が増えると、造形は本当に無限に時間がかかってしまいます。仮に「1ヶ月で作ってください」と言われたら、いくらでも作り込めますが、それはあまり良くない状態です。3Dをやっている方なら、皆さん心当たりがあると思います。
特にディテール作業は、ゲームや映像制作でアセットを作っている方ほど、どこからでも見られる前提で作るため、無限にディテールを入れられてしまいます。慣れてくると、どこまでやればいいのか分からなくなり、効率が落ちてしまいます。
そのため、スピードスカルプトのような練習はおすすめです。最初に実現したいことを決めて、修正は一切せずに2時間以内で終わらせる。そうしないと感覚が鈍ってしまい、ただの作業マシンになってしまいます。

こちらは、3D出力を想定して、立体として一度しっかり仕上げた状態です。今回は少し時間をかけて、普段はあまりしないサブディビジョンも行いました。

何が違うかというと、例えば目の表現です。目つきがきちんと伝わるようにしています。顔は一番手が入りやすい部分でもあります。最初はバンビをイメージしていたのですが、仕上がってみると、これはこれで可愛くて満足しています。個人的にもとても気に入っています。

バンビといえば、友達はウサギです。名前は忘れてしまいましたが、ぴょんぴょん跳ねるキャラクターです。

このキャラクターはタヌキですが、本当に楽しく作りました。すべて哺乳類なので、もし資料なしで動物を描いてくださいと言われたら、きっと似たような顔になると思います。この制作をきっかけに、動物の形について本気で考えるようになり、たくさん調べました。
どこが違えばタヌキに見えるのか、どこを強調すればオオカミに見えるのか。鼻は一つ、目は二つという同一条件の中で、どの特徴を出すかを考えます。以前、スケッチをされている寺田さんとも、そうした話をよくしていました。特徴をつかんだ瞬間が、とても楽しいのです。

例えばオオカミを、何度も描きながら資料を見比べます。オオカミとキツネは何が違うのか。形のどこが違うと、別の動物に見えるのか。サイズ感もそうですし、毛の並び方も重要です。オオカミは、頬の横の毛がないと犬に見えてしまいます。
耳の角度や、キツネであればマフラーのような首元の毛など、リアルな特徴をベースに、さらに形を調整して少しデフォルメしています。三角形の形を意識的に取り入れていますが、元の動物はそこまでスタイライズされていません。
先ほどのタヌキも、たくさん資料を見ました。可愛いタヌキもいれば、そうでないタヌキもいます。その中で一番可愛いと思ったのが、小さな手で何かを掴んでいる仕草でした。

その仕草がとても可愛くて、そこをしっかり作り込みました。3Dプリントすると見えなくなる部分ですが、それでも作り込んでいます。
足も同じです。犬の場合は似た形になりますが、タヌキには手のような前足と、足らしい後ろ足があります。動物が並ぶと、その違いがはっきり分かります。とても勉強になりました。
次はクマです。クマとオオカミ、イヌ系は親戚関係のように見えますが、クマらしさはどこから来るのか。耳や鼻の形、耳の角度、背骨のラインなどが大きな違いです。毛をなくすと、また違った形になります。
毛は、キャラクター性を出すうえで非常に重要な要素です。女の子のキャラクターを作る時は、そこまで頭を使わないのですが、動物は本当に難しいです。
人のキャラクターは、そこまで難しくありません。特に髪を作る時は、ドラマを見たり人と話したりしながら、感覚に任せて作っています。手の感覚が引っ張ってくれるので、音楽を流しながら、自分が気持ちよく作れると、自然と良い形になります。

この毛の形は、3D化を前提にしています。このままだと、後で塗装する人が色を入れられません。凹凸がないと塗れないので、きちんと立体的な形にしています。

最終的には、このような形になります。固定するために台座も追加しました。こちらの毛の表現も、かなり作業量が多い部分です。見ていただくと、きちんと整理されているのが分かると思います。
ここまでで一番難しいのは、「動物を動物らしく見せること」です。ここまで来ると、完全に造形の領域になります。ここから先は、どこまでもディテールを入れることができます。動物の数が多い分、キリがありません。
だからこそ、どこにディテールを入れて、どこを入れないかを決めます。見せたい部分の周りにディテールを集中させ、見せない部分は抑える。頭の中で整理した上で、最終的にうるさくない作品に仕上げます。

これは昔の講座で使った画像です。この例を使って、構図の分析をしました。動きのない構図でも、どうすれば気持ちよく見せられるのか。見せたいポイントを明確にします。例えば、この構図では中央にある要素です。全体としては、動物と木を含めて包み込むような形を意識しています。

情報量が増えた時に、どう配置するかも重要です。大きな形と小さな形をどう配置すれば美しく見えるのか。実際には描いていなくても、頭の中では計画しています。形がどこまでつながり、どこで切れるのか。
要素が増えると、視線は分散してしまいます。そこで、視線誘導を意識します。

一番見せたいものと、あまり見せたくないものを、はっきり分けることが大切です。

この例では、見えない部分まで作り込んでいますが、今はそこまではしません。一度作ると、少し飽きてしまいます。初めてオオカミを作る時は、とにかくワクワクします。やったことがないことへの好奇心が強いのです。

リアルな写真を参考にしつつも、人間らしさも加えたいところです。ディズニーや昔の漫画のような要素です。目つきや眉毛、眉毛のような表現を造形で入れることで、キャラクター性を出します。動物に眉毛はありませんが、そのニュアンスを形で表現します。

こちらはリズムの話です。均一ではなく、入れるところと入れないところ、大きいところと小さいところを作ることが大切です。そして、視線をどう誘導するかを考えます。

人の視線は、密度が高いところに集まりやすいです。そのため、一番見せたい部分には、ディテールや要素を集中させます。

これもリズムの話です。角度や素材感、メリハリ、緩急の変化をきちんとつける。変化があるものは、生きているように見えます。これは、単純に計算だけで作れるものではありません。

最終的な仕上げは、このような形になります。ほとんど加筆はしていませんが、それは造形のディテールを見せたいからです。ディテールが多い場合、使う素材感はとてもシンプルで、色数も二色程度に抑えています。
これ以上、目の色や毛の色、クマは茶色か、鳥は黄色かといった情報を足していくと、情報量が多くなりすぎます。なので、造形が終わった段階で一度整理します。もう十分ディテールがあると判断したら、色はシンプルにします。逆に、形がシンプルすぎる場合は、色で少し情報量を足します。色、素材感、造形、そのバランスを取ることが重要です。

この女の子を作っていて気持ちよかったのは、柔らかい手や足、頬の表現です。それまでずっと硬いドラゴンばかり作っていたので、気分転換として、思いきり柔らかさを楽しみました。
さらに、この作品に合わせて、詩のようなものも書いています。森の中の魔女と、それぞれ性格を持った動物たちが、クリスマスの日に森に集まり、温かい焚き火のそばで、温かいココアを飲みながらおとぎ話を聞く、そんな物語です。そうした雰囲気を思い浮かべながら作ると、自然と愛情を込めやすくなります。
連続して記事を読む
『MERCURY Entei Ryu造形作品集』発売記念セミナーレポート
●第一部:造形思想に基づく作品制作の舞台裏 ⇒今ここ!
●第二部:Entei先生による作品添削指導
https://www.too.com/dc/seminar/2601_mercury_enteiryu_seminar_report02/
●第三部:立体造形と他ジャンルのコラボレーション・質疑応答
https://www.too.com/dc/seminar/2601_mercury_enteiryu_seminar_report03/


