あにつく2025レポート | BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡(サンジゲン)

2025年9月20日(土)に開催された「あにつく2025」より、「BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡」のイベント内容をご紹介します。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡 会場風景01

セッション概要

TVアニメ『BanG Dream!(バンドリ!)』シリーズにおけるキャラクター表現の変遷をテーマに、株式会社サンジゲンが8年間にわたる制作の中で、どのように表現手法を模索・発展させてきたのか。その取り組みや試行錯誤の過程について、座談会形式で語っていただきました。

【主催】株式会社Too
【登壇者】株式会社サンジゲン 保住 昇汰 氏
     株式会社サンジゲン 奥川 尚弥 氏
     株式会社サンジゲン 宮田 拓実 氏
     株式会社サンジゲン 内田 大樹 氏
     株式会社サンジゲン 小川 浩太朗 氏

左から 保住昇汰 奥川尚弥 宮田拓実 内田大樹 小川浩太朗

左から 保住 昇汰氏 / 奥川 尚弥氏 / 宮田 拓実氏 / 内田 大樹氏 / 小川 浩太朗氏


BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡01

登壇者紹介

まず最初に、登壇者を紹介します。1人目は、最新作『夢限大みゅーたいぷ』(通称:ゆめみた)のMV「チューニング」でCGディレクターを務めた小川さんです。

2人目は、サンジゲンが初めて映像制作を担当したRoseliaの『Neo-Aspect』から、アニメーターとして継続的に参加している内田さん。

3人目は、バンドリ愛が高じてサンジゲンに入社し、『ゆめみた』では話数演出を担当した宮田さん。そして、『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』から『Ave Mujica』まで、CGスーパーバイザーを務めている奥川さん。最後に、OVA『Morfonication』以降、バンドリシリーズのアニメーションプロデューサーを担当している保住さんです。

サンジゲン制作の全バンドリ作品

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡02

保住:
最初に、サンジゲンがバンドリプロジェクトでこれまで担当してきた作品についてご紹介します。

ご覧の通り、これまで非常に多くの作品を手がけてきました。2018年にRoseliaの『Neo-Aspect』で初めて映像制作を担当して以来、今月発表された最新作『夢限大みゅーたいぷ(以下、ゆめみた)』まで、テレビシリーズ・劇場版・OVAを含め、8年間で計29本の作品を制作しています。

はじまりのモデリング

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡03

保住:
初期のモデリング制作について簡単にご説明します。RoseliaのMVを制作した当時、すでにゲームの方でLive2Dモデルが存在していました。そのため、サンジゲンのスタッフとしては特に疑うことなく、「アニメーション用のキャラクターデザインを新たに起こさなくても、Live2Dをもとにすればいいだろう」と考えました。

そのため、このLive2Dモデルをベースに3Dモデルを制作し、RoseliaのMVとして発表したのが最初の取り組みになります。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡04

保住:
その後、テレビシリーズの第2期・第3期の制作に入りました。ここでも同様の手法を採用し、7バンド・計35体のキャラクターモデルを、引き続きLive2Dをベースに制作しています。

しかし、ひとつだけ例外がありました。『RAISE A SUILEN(RAS)』に関しては、アニメ側で専任のキャラクターデザイナーがいなかったため、そのアニメ版のキャラクターデザインをベースにモデリングを進める形となりました。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡05

保住:
手探りの状態で第2期・第3期のテレビシリーズ計26本を制作した後、次の新シリーズ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』の制作が始まる段階で、柿本監督や弊社の松浦をはじめ、CGアニメーターやCGディレクターのメンバーたちと一緒に、いわば反省会のような場を設けました。

その中で、「もっとこういう表現に挑戦したかった」「ここは次では改善したい」といった意見交換を日々重ねながら、次のステップに向けてキャラクター表現の方向性を模索していきました。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡06

保住:
反省会では、このような簡単なスプレッドシートを用意して、直したい点や表現したいことの改善点やアイデアを、スタッフ全員で書き込んでいく形で意見を整理していきました。この内容については、後ほどもう少し詳しくお話しします。

監督をはじめ、アニメーターやモデラー、リガーといった各セクションの現場スタッフからもさまざまな提案があり、「より良いキャラクター表現を追求していこう」という意識のもと、チーム全体で日々表現の研鑽を進めていきました。

ゲームチェンジャーとなった工程|ターシャリー

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保住:
そして現在、サンジゲンが特に力を入れているのが、「ターシャリー」と呼ばれる工程です。この工程は、2022年公開の映画『BanG Dream! ぽっぴん’どりーむ!』で初めて試験的に導入し、その後のすべてのBanG Dream! プロジェクト作品において、正式にアニメーション制作フローの一部として取り入れています。

このターシャリーというのは、簡単に言うと「CGでは表現しきれない細かな部分を、作画的なタッチで加筆する工程」です。「作画だったらここはこう描くだろう」というような繊細な動きや表情、陰影などを補完する役割を担っています。

この作業はCGスタッフだけでなく、作画スタッフが担当することもあります。両者が協力して、キャラクター表現をより豊かにしていくための大切な工程となっています。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡08

保住:
その他にも、制作の中ではさまざまな細かなアップデートを重ねています。たとえば、『Morfonica(モルフォニカ)』以降では、キャラクターの頭身バランスを見直したり、スカートの形状をより自然で“CGくさくない”ように改良したりといった調整を行いました。

また、最新作である『夢限大みゅーたいぷ(ゆめみた)』のMV制作からは、カラースクリプト(色彩設計の指針)を本格的に導入しました。これにより、各シーンのトーンやライティングの統一感を保ちつつ、作品全体の世界観をより明確に構築できるようになりました。

さらに、先ほど触れたアニメーターの反省会で挙がった改善点をもとに、社内で注意事項や制作ガイドラインを共有し、スタッフ全員で意識統一を図る取り組みも行っています。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡09

保住:
ここからは、「バンドリシリーズ反省会」の資料を少し見ながらお話ししていきます。項目が本当に多岐にわたるので、いくつかピックアップしながら、奥川さんやアニメーターの皆さんにも話を振りつつ、進めていければなと思います。

まず「キャラクター表現」の面で大きく取り上げられたのが、横顔の見せ方についてです。
バンドリプロジェクト全体として、横顔や横向きのカットが比較的多い傾向があるのですが、特に横向きの口の動きの際に口の厚みが強調されすぎてしまうという課題がありました。

このあたりの細かな表現や修正の考え方については、後ほど奥川さんやアニメーターの皆さんから具体的に説明してもらいます。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡10

奥川:
横顔の造形というのは、作画のアニメーションではよく“ほっぺたの上に口が乗っている”ような見せ方をすることが多いと思います。一方で、3Dモデルの場合は口が顔の正面に位置しているので、そのまま横を向かせるとどうしても自然な見た目になりにくいという問題が出てきます。

そのため、横顔を美しく見せるためには、口の位置や形状を横向き専用に整形するなど、モデルの造形レベルで工夫を加える必要があります。この点については、社内のアニメーター同士で技術共有を行い、「どういう角度であれば自然に見えるのか」「どのような補正を加えれば魅力的に見せられるのか」といったビジュアル上の調整方法を試行錯誤しながら進めました。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡11

奥川:
このスライドにある「Mインナー」というのは、キャラクターの髪や衣装などに使われている“モーフ(質感レイヤー)”の種類を指しています。この場合は、内側の色が少し濃くなっている部分を前に押し出すことで、より立体的で自然な見え方に調整する、という意図のモーフになります。

つまり、ただテクスチャを塗り直すのではなく、モーフの重なり方や明暗の付け方を工夫することで、キャラクターの陰影の厚みや存在感をコントロールしているということです。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡12

保住:
次の項目に移ります。柿本監督や松浦をはじめとしたチーム内でも、特に「スカートやブレザーの裾の形状」は大きな課題として挙げられていました。特にキャラクターが座った時の布の自然な落ち方という点で、表現を見直した部分になります。

奥川:
私が『It’s MyGO!!!!!』のスーパーバイザーになる前、まだアニメーターとして関わっていた頃に、前任者から「これをなんとかしてくれ」と無茶ぶりされたのがまさにこのスカートの問題でした。

当時のモデルでは、キャラクターが座るとスカートやブレザーの裾が不自然に突っ張ったり、形が崩れてしまうという課題がありました。実際の映像を見ると、修正後はかなり自然になっていると思います。

修正にあたっては、まず「専用のリグをスカートに仕込む」というアプローチを取りました。これによって、座りや立ち上がりの際に、アニメーターが布の形を細かくコントロールできるようになっています。

ここでは、「座った状態専用のモデルを別で作る」という案も出ていました。しかし、それだとモデルの管理が煩雑になり、さらに立ち上がる動作に対応できなくなるという問題もあったため、最終的には1モデルで汎用的に対応する方向に決まりました。つまり、リグによる微調整の自由度を上げることで、アニメーターの動かしやすさと自然さの両立を目指した、というのがこの改修のポイントです。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡13

保住:
今、サンジゲンが特に力を入れている「CGっぽさを減らす」としているポイントとして挙げられるのが、袖の部分です。

奥川:
袖は本当にずっと課題になっている箇所のひとつです。『It’s MyGO!!!!!』や『Ave Mujica』の制作時にも修正を加えてきたのですが、それでもまだ布の浮きや接地感の不自然さが出ることがあるので、引き続きの検討ポイントになっています。

ターシャリーについて

保住:
ここからは、「ターシャリー工程」のCGの限界を補うために取り入れている表現プロセスについて、説明していきます。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡14

保住:
この「ターシャリー工程」については、いろんな場面で説明させてもらっているのですが、あらためて簡潔に言うと「CGをより作画っぽく見せること」を目的にしたフローになります。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡16

保住:
この画像では、髪の毛のリムライト的なハイライトを書き足すように、おでこや頬にも光が回り込むようにという指示が出ています。サンジゲンでは、セカンダリーまでがCG工程になりますが、撮影さんに素材を渡す前にターシャリー工程のディレクターがこうした指示を出し、After Effects上で書き足しを行っています。場合によってはBlender上でグリースペンシルを使って加筆し、最終的に撮入れのタイミングでブラッシュアップを行うという流れです。

このフローを導入して、何か現場の中で大きく変化を感じた部分はありますか?

奥川:
光の表現で重要なリムライトは、CG上で入れるとかなり手間がかかる部分だったので、ターシャリー工程で対応できるようになってとても助かりました。また、顔のパーツの見え方が不安定になることも多く、作画監督の茶之原が「ここはこうした方が表情として良い」といった判断を都度入れてくれて、修正対応をしていました。

作画出身の人なので、非常に作画的なニュアンスで直せたのが良かったです。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡17

保住:
現在サンジゲンの作品では、1話あたりおよそ300カット、テレビシリーズの場合でも100〜150カット程度について、このターシャリー工程を入れるかどうかを慎重に検討して進めています。

基本的には、バストショット以上の構図や、キャラクターの顔をとにかく可愛く見せたいカットにはすべてこの工程を入れています。

また、あおりや俯瞰のような角度のカットでも、「CGだとこう見えてしまうけど、作画ならこう描くだろう」という違いを踏まえて、作画監督の茶之原やサンジゲンのターシャリーディレクターが確認して、具体的なアドバイスと参考資料を提示します。それをもとにスタッフが修正を行い、撮影班へ素材を渡すという流れを取っています。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡18

保住:
例えばこのカットでも、口の位置について「CGだとこうなるけど、作画ではもう少し上になる」といった調整や、「ほっぺたのラインをもう少し削ったほうが可愛く見える」といった修正を加えています。

作画っぽい表情にするためのテスト

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡19

保住:
このターシャリーという工程は、基本的に完成した映像の上から書き足す作業になります。それに頼りきりにならず、CGの段階でもより良い表情を作ろうという意識で取り組んでいます。

モルフォニカの制作時には、弊社の宮田が中心となって、他のCGスタッフ向けに「こういう風に作るとより良く見える」という表情サンプルを作成し、共有するなどの取り組みも行っていました。

閉じ目テスト

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宮田:
このモルフォニカの『Morfonication』の頃は、まだターシャリー工程や、作画スタッフが上から描き足すといったフローが社内で十分に浸透していなかった時期でした。ですので、CGの段階でいかに作画らしい可愛さを出せるかという点を重視していました。

当時、私はアニメーターとして参加していたのですが、自分なりに「こうすればキャラクターがより可愛く見えるのでは」という工夫を試しながら、表情のサンプルをいくつか作っていました。するとディレクターから「せっかくだからこれをまとめて全体に展開しよう」と提案をいただき、最終的に社内共有用の資料として形にしてもらったものになります。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡21

宮田:
例えば、閉じ目のシーンでハイライトを少し足すだけでも、目元のディテールや立体感がぐっと上がります。そういった細かい部分を自分なりに工夫して加えていったりしていました。

斜め顔テスト

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡22

宮田:
斜め顔になった時の鼻の位置や、どうしても出てしまうCG特有の立体感を、作画のような平面的な印象に整えるにはどうすればいいかという点を意識していました。

そのために、調整前と調整後の比較画像を作成して、「こうするとより自然に見える」「このラインを抑えると可愛くなる」といったポイントを文面でまとめ、社内スタッフに共有できるように展開していった形になります。

横顔テスト

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡23

宮田:
横顔についても、やはり3Dモデルは正面から見た時に一番美しく見えるように作られていることが多かったです。そのため、横向きになった際にどうしても髪が不自然に目にかかってしまったり、目の形が潰れて平面的に見えてしまうという課題がありました。そういった部分を修正するために、「鼻からおでこにかけて作画では少しくぼみがある」などの点を踏まえて、調整方法をまとめた資料を作っていました。

保住:
当時はモデルを出してから、各アニメーターがカットごとに手作業で調整し、うまくいっていない部分をディレクターが修正するという、いわば現場対応的なフローでなんとか仕上げていた状況でした。

しかし、最初から宮田が作ったガイド資料があると、アニメーターも方向性を理解しやすく、ディレクターのチェック負担も減って、全体のクオリティも上がります。そのため、『Morfonication』のタイミングでこうした資料を一度しっかり整備してもらったという経緯がありました。

ゆめみたビジュアル見本

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保住:
これが直接の進化形というわけではないんですが、最新作『夢限大みゅーたいぷ(ゆめみた)』では、さらに一歩進んでこの取り組みを発展させようということで、ビジュアル見本の制作を行いました。

「ゆめみた」のMVの監督である梅津さんから、弊社のデジタル作画セクション所属・茶之原に対して「各キャラクターごとに、どのようなビジュアルがそのキャラらしさとして適正なのかを明確にしてほしい」という依頼があり、その発注を受けて制作を進めました。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡25

保住:
現在は、こうしたビジュアル見本やキャラクターごとの表現ガイドを社内全体に共有し、全スタッフが共通認識を持って制作に臨めるようにしています。

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保住:
モデル上ではこうなっているけれど、このアングルから見たときはこう見せるべき、というような作画的な最適化を最初に茶之原が指示として入れています。たとえば「この角度では後頭部を少し削った方が自然に見える」とか、「本来モデル上には存在しないけれど、この位置に髪を描き足すべき」といった指示ですね。

そうした描き足す髪については、専用のオブジェクトをモデル内に仕込んでおき、カメラアングルに応じて表示・非表示を切り替えるといった工夫をしています。また、静止画寄りの止めカットであれば、ターシャリー工程で直接描き足すなど、複数のアプローチを使い分けています。

このように、キャラクターが最も魅力的に見える一瞬を追求するために、カットごとに最適な方法を選びながら調整を重ねています。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡27

保住:
このビジュアル見本に関して、宮田さんや内田さんは「ゆめみた」で話数ディレクターとして関わっています。これが導入されたことで現場のやり方や意識がどう変わっていくのか、内田さんの方からお願いします。

内田:
作画の方にこうした見本を描いていただけることで、こちらとしても具体的に指示が出しやすくなったというのが大きいです。やはりCGモデルだと、どうしても可愛く見せきれなかったり、少し歪みが出てしまったりということが起こるのですが、こういう明確な見本があることで、「この表情はこの資料のこの感じでお願いします」というように、確信を持って指示ができるようになりました。

ミスが出たときにも、どこを直せばいいかがはっきりしているので、修正もスムーズですし、全体的なクオリティコントロールの面でも非常に助かる資料だと感じています。

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宮田:
バンドリという枠に限らず、CGキャラクター全般に活用できる汎用的な資料だと思います。こうしたガイドがあることで、どんな作品でもキャラクターをより魅力的に見せるための共通認識ができるので、今後も継続的にこうした資料を展開してもらえるとありがたいです。

保住:
確かに、もはやこれはバンドリ専用の資料というより、「表情集」や「キャラクターデザイン+アルファ」にあたる指針になっています。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡29

奥川:
アニメーターというのは、モデラーから上がってきたモデルを「変えてはいけないもの」として扱ってしまう傾向があります。モデラーの作った形を崩すのは悪いことなのではないか、という意識です。

しかし、実際この資料を見てもらうとわかるように、髪の毛の流れや頭の丸みなどを大胆に変えている例が多くあります。こういった修正を見せることで、「キャラクターをより良く見せるためなら変えていい」という意識を持ってもらうことが大事だと思っています。この資料を通して、“変えること=悪”ではなく、“魅せるための調整”であるという考え方が広まったのは大きな収穫でした。

保住:
特に「ゆめみた」のMVでは、梅津監督がキャラクターの顔の見え方に非常にこだわりを持っていたので、その分リテイクも多かったです。ディレクターを務めた小川さんは、顔のリテイクで印象的だったエピソードなどはありますか?

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡30

小川:
監督の梅津さんは、口や目のニュアンスに対して非常に強いこだわりを持っていました。正面から見たときには似ているのに、角度が変わると似ていないと感じる角度がある、というのは本当によくあることで、監督もそこをすごく意識されていました。

「このキャラなら、この角度ではツインテールが見えていないとおかしい」や「この毛束が見えないと誰かわからない」、「分け目は必ずここ」など、キャラクターを特徴づける要素を細かく整理し、徹底して反映させるという作業をしていました。

そのために監督や作画チームがキャラクターの特徴をまとめてくださっていて、それがアニメーターにとって非常に助けになる資料でした。「このキャラはこういう子」と感覚的に掴めるようになるので現場での迷いが減り、作業の精度も上がったと思います。

奥川:
キャラクタービジネスという側面もあるので、「このキャラである」というアイデンティティを保つことがすごく重要になります。元デザインから変えてはいけない部分は絶対に守りつつ、見栄えを良くするためのコツをまとめてくれているのがこの資料です。アニメーターとしても非常に助かる指針になりました。

保住:
「ゆめみた」プロジェクトは、完全に新規キャラクターによる初めての作品だったため、「このキャラはどういう子なのか」という感覚をつかむところからのスタートでした。『It’s MyGO!!!!!』や『Ave Mujica』の時も同様で、最初の3〜4話は試行錯誤の連続で、リテイクもかなり多かったんです。

「ゆめみた」ではその反省を踏まえて、キャラクターの特徴や表情の方向性を資料化して共有し、アニメーターが最初から同じイメージを持って作業できるよう工夫しました。結果として、初期段階から全体が軌道に乗りやすくなったと感じています。

カラースクリプト

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡31

保住:
ではここからは、「ゆめみた」の制作に関して少し掘り下げていければと思います。先ほども少し触れましたが、カラースクリプトの取り組みについてお話しします。

こちらは、サンジゲンが「ゆめみた」制作で新たに導入した試みの一つで、梅津監督が描かれたコンテをもとに、デジタル作画部のスタッフが各カットの色味や光の方向性を事前に設計するという工程になります。

いわば「全体の色設計の地図」のようなもので、見せたいシーンの空気感やキャラクターの温度感などのトーンを視覚的に共有するための資料です。このカラースクリプトを制作フローに組み込むことで、作品全体の色の統一感や演出の温度感を、より早い段階から明確に共有できるようになりました。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡32

保住:
似たような手法を今後はテレビシリーズの方でも取り入れていければと考えています。たとえば夕焼けのシーンであれば、「この時間帯の光の色味は暖色で、ここから青に変化していく」といった色の流れをあらかじめカラースクリプターが提案し、監督と合意形成を行うなどです。

そうすることで、全体のスタッフも「このシーンはこういうトーンになる」という共通認識を持った状態で、表情づけやキャラクターモーションを制作できるようにするという取り組みです。

今後、サンジゲンがさらに進化していく中で、こうした事前の色設計による映像表現の精度向上を目指して挑戦を続けていきたいと思っています。実際に「ゆめみた」のMVをご覧になった方はお分かりかと思いますが、どのシーンも最初に決めたカラースクリプトの色味を基準に美術や照明が組み上がり、最終的な映像として完成しています。

小川さん、MVのディレクターとしてこのカラースクリプト導入によって感じた変化などはありますか?

小川:
普段、コンテの段階では白黒の状態から制作を始めることが多く、最終的な色の印象は完成に近づかないと見えてきません。しかし今回は、制作初期の段階で既に完成イメージに近い色彩設計の絵が上がっていたので、「この世界観を作るんだ」という気持ちを全員が共有しやすかったです。チーム全体で同じ完成図を思い描けたという点で、非常に効果的で重要な工程だと感じました。

奥川:
海外の映画制作では、こういったカラースクリプトをもとに全体のトーンを統一する手法はよく見られます。サンジゲンとしても、今回の「ゆめみた」でその有効性を実感できたのは大きかったと思います。

質疑応答

Q1. モルフォニケーションの資料の中で思ったのですが、御社ではモデリラーの方がリグまで対応されていて、こういった資料も作られているのでしょうか?

モデリングを担当するスタッフはモデリング専任で、リグを担当するスタッフもリグ専任として分業しています。まずモデラーが形状を完成させ、その後にリガーがアニメーターやスーパーバイザーの指示に基づいてボーンを仕込む、という明確な工程分担になっています。

その後に行う「ルックのイメージ作り」や「キャラクターの見せ方の方向づけ」といった部分は、アニメーション側の業務にあたります。

今回のモルフォニケーションの資料については、当時アニメーターとして作品に参加していた宮田と、ディレクターとして携わっていた遠藤の2名が中心となって制作しました。彼らがアニメーター向けに「こういうビジュアルを目指そう」という見本をまとめ、現場に展開するための企画として作成したものです。

そのため、モデラーやリガーがビジュアル見本を作成するフローではなく、アニメーションチーム主導で制作された資料になります。

Q2. 「ゆめみた」の資料の中で「後頭部を削ってもいい」という記載がありましたが、これはアニメーターさんがモデルデータを直接触って、カットごとに調整しているというイメージでよいでしょうか?

その通りです。カット対応の作業として、アニメーターがそのカット専用にモデルの形状を調整しています。また、基本となるモデルの形状は保持しつつも、そのシーンやアングルでより魅力的に見せるために、必要に応じて頭部を押しつぶしたり削ったりといった形状修正を行うこともあります。

Q3. キャラクターが一番可愛く見えるようにするための調整についてお伺いします。ビジュアル見本などキャラ別のリファレンスがあると思うのですが、そうした表現は全体で共有されているものなのでしょうか。それともアニメーター個々の判断や調整によって作り上げられているのでしょうか?

これまでは、各アニメーターの個人の技量や、ディレクターがどれだけ時間をかけて調整できるかといった部分に大きく依存していました。つまり、各自の経験と感覚で「このキャラはこういう顔の時が可愛い」という判断を積み重ねていた状態です。

しかし、最新作の「ゆめみた」などの制作にあたっては、そうした属人的な感覚に頼るのではなく、統一された基準としてビジュアル見本を制作し、社内全体に共有するようにしました。これにより、各アニメーターがキャラクターの見せ方の正解を明確に理解できるようになり、表情や見せ方のブレを減らすことができています。

Q4. このリファレンス資料は今後、書籍化や教材として公開される予定はありますか?とても参考になる内容だと思うので、ぜひご検討いただきたいです。

基本的には社内向けの内部資料になりますので、現時点では一般公開や書籍化の予定はありません。制作現場での運用を前提としているため、外部にそのまま出せる性質のものではないというのが実情です。

しかし、イベントやアーカイブ配信などで一部の資料がスライドや紹介映像の形で閲覧できる機会はあるので、そういった形で部分的にご覧いただけることはあるかもしれません。

Q5. 少し話がそれますが、ターシャリーの工程で「グリースペンシル」という言葉が出ていました。Blenderも活用されているのでしょうか?

サンジゲンでは現在、Blenderをメインツールとして採用しています。2025年1月に放送された『GUILTY GEAR STRIVE: DUAL RULERS』以降、全ての作品をBlenderベースで制作しており、この『ゆめみた』プロジェクトもBlenderを使用して制作しています。今後発表予定のテレビシリーズや劇場版作品もすべてBlenderで制作していく方針です。

BanG Dream! 10周年キャラクター表現の軌跡 会場風景02

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