あにつく2025レポート | TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~(グラフィニカ)

2025年9月20日(土)に開催された「あにつく2025」より、「TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~」のイベント内容をご紹介します。

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~ 会場風景01

セッション概要

Youtubeで公開されたCGメイキングやCGWORLDの特集でお伝えしきれなかった『音を視覚化する』バンド演奏シーンの制作舞台裏を語りつくしていただきました。

【主催】株式会社Too
【登壇者】株式会社グラフィニカ 坂口 遥佳 氏
     株式会社グラフィニカ 樋口 博和 氏
     株式会社グラフィニカ 大島 渓太郎 氏
     株式会社グラフィニカ 野澤 圭輔 氏
     株式会社グラフィニカ 池上 由佳 氏

株式会社グラフィニカ 坂口 遥佳氏 樋口 博和氏 大島 渓太郎氏 野澤 圭輔氏 池上 由佳氏

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~01

今回は、テレビアニメ『ロックは淑女の嗜みでして』のCG撮影についてお話しをしていきます。

登壇者紹介

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~02

まず、今回の登壇者を紹介いたします。上記にある通り、本日は5人で進行をしていきます。よろしくお願いいたします。

作品概要

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~03

池上:
この作品は、ヤングアニマルで連載中の『ロックは淑女の嗜みでして』のテレビアニメ化作品です。2025年4月から6月にかけてオンエアされました。弊社グラフィニカでは、CGと撮影を担当しています。

CGを使用するにあたり

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~04

池上:
この作品でCGを使用するにあたり、クライアントの方からいくつかの要望をいただきました。具体的には、「演奏シーンでCGを使いたい」「実際に演奏をされる方にモーションキャプチャのアクターも担当してもらい、アニメとリアルを結びつけたい」「原作コミックの迫力ある表現を再現したい」といった内容です。

実際に、こうした原作の表現をどのように映像化していくかという点について、各セクションの皆さんに意識したことや工夫を聞いていきたいと思います。

アニメ化にあたって

樋口:
まずは、私からモデリングについてお話しします。原作の方でさまざまな特徴がありましたので、こちらでも表情の出し方などを中心に検証を行いました。坂口さんはどうでしたか?

坂口:
そうですね。私も原作の漫画を読んだときに、まず表情の動きがかなり激しいと感じました。また、キャラクターの動き全体にも勢いがあり、そのあたりをどう表現していくかが課題でした。

加えて、私自身が楽器の演奏経験がなかったので、演奏動作をどう再現していくかという点も難しかったですね。

大島:
私も皆さんと同じように、まず原作を全巻購入して読み込みました。そのうえで、この表情をCGで再現し、さらに演奏中の体の動きや衣装の表現までCGで行うと聞いたときに、「リグとして耐えられるのか」という部分に大きな不安がありました。

そのため、制作の初期段階からチーム全員で集まり、相談しながら進めていく必要があると強く感じました。

野澤:
撮影の面では、3Dとはまた少し異なる切り口になりますが、やはり原作の魅力は、ダイナミックなポージングや独特の漫画的タッチにあると思います。

その迫力が原作の大きな特徴ですので、映像化した際に、コミックに込められた勢いや熱量をどのように表現できるかという点が、私たち撮影チームとして最も気を配った部分でした。

とはいえ、私はあくまでコンポジットの立場です。ですので、各セクションのスタッフがそれぞれ全力を尽くしてくれれば、最終的には非常に良い映像になると信じていました。制作に携わりながらも、一人のファンとして完成をとても楽しみにしていました。

13話演奏シーン振り返り

池上:
いろいろなお話が出たところで、今回は第13話の演奏シーン「夜は光を掩蔽し、幾多の秘密を酌み、さかしまな『夢想』を育む。」から、いくつかの場面を振り返りながら紹介したいと思います。

まずは、りりさが音羽を煽るシーンからです。それでは、モデル担当の樋口さんからお話を聞いていきます。

モデリング

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~06

樋口:
先ほども少しお話ししましたが、今回は表情づくりをはじめとする設計段階で、さまざまな点を考慮して制作を進めました。

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樋口:
原作や設定資料は最初から共有されていましたので、それをもとに「どのように3Dモデルとして組み立てていくか」という点を重点的に設計していきました。今回の説明では、その初期段階、いわゆる“初動”をどのように進めていたかについてお話ししたいと思います。

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~08

樋口:
初期の段階で三面図の設定資料をいただいていたので、まずはそれを完全なシンメトリー(左右対称)で用意することを重視しました。設定画をもとに、右向きの設定画を新たに作成し、全体の整合性を取ることからスタートしています。

これはモデリング作業でよくあることなのですが、片側(右寄り・左寄り)に合わせて調整していくと、最終的に完成したときに「なんとなく雰囲気が違う」と感じることがよくあります。そうしたズレを防ぐためにも、最初の段階でしっかりと左右の形状を統一し、どの角度から見ても違和感のないデザインに仕上げることを意識しました。

特に顔に関しては、ピクセル単位でのズレが印象を大きく変えてしまうため、細部まで精密に調整しています。「設定画にしっかり合わせれば、この絵になる」というレベルまで作り込むことを、初動段階で徹底して行いました。

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~09

樋口:
こちらは、実際に設定画へ合わせている作業画面です。カメラマップを用いて、先ほど作成した画像をモデルに貼り込み、どれくらいのズレが生じているかを細かく確認しながら調整していきます。

この工程を丁寧に行うことで、最低限でも「設定画どおりの形」に到達できるようにしています。結果として、新人・ベテランに関わらず、一定のクオリティをコントロールできる点が大きなメリットだと感じています。

正面を「100%一致」として基準を置いたうえで、どうしても生じる妥協点については「80%」「60%」といった目安を設けて調整します。ただし、この80%や60%を可能な限り100%に近づけるため、原作の豊富な資料を繰り返し参照しました。加えて、他のアニメ資料でシルエットの良い例(特に腰回りのラインや全身のバランス)を収集し、人体のシルエットとして違和感がないかを多角的にチェックしています。

最終的には、原作準拠と立体映えのバランスを取りながら、複数の参照資料を突き合わせて整合を取っていきました。

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樋口:
ここまでお見せしてきたのは、止め絵として100点を目指して制作したものです。ただし、アニメーションは動いてこそ本領を発揮するものですので、「動かしたときにどう見えるか」という部分にも強いこだわりを持って取り組みました。

アニメーション

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~12

坂口:
次に、アニメーション工程についてご説明します。

樋口さんからもお話がありましたが、アニメーション側からもいくつか要望を出し、作業を効率化できるようにモデル段階でさまざまな工夫を加えてもらいました。そのうえで、モーションキャプチャで撮影した動きを活かしながら、さらに迫力を出すための演技を追加して制作を進めています。

今回のアニメーションカットでは、最新技術を全面に押し出すというよりも、カットごとに担当者が試行錯誤しながら「力技」で仕上げるケースが多かったように感じています。

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実際にモーションキャプチャで撮影した動きです。このカットは、音羽に対してりりさが熱い思いをぶつける場面なのですが、カットを構成する段階で「りりさがカメラ側に向かってパンチしているような構図にしたい」という提案が作業スタッフからありました。

そのため、パンチのポーズの見せ方や角度などをチームで話し合いながら制作を進めています。結果として、モーションキャプチャのデータからはかなりアレンジを加えた動きになりました。

モーションキャプチャ撮影時には、演奏者の方には演奏に集中してもらっていたため、漫画のような誇張されたポージングを取るのは難しい部分もありました。そこでアニメーション作業時に、体の揺れやリズムなどはキャプチャーデータを活かしつつ、セリフや感情に合わせて演技を追加する形で調整しています。

もちろん、演奏中の手の動きを止めるわけにはいきません。そのため、楽器を実際に演奏している状態を崩さず、かつ破綻のない範囲で漫画らしいポーズを再現することを意識しました。演奏シーン全体としては、アクションカットのような勢いや臨場感を重視して制作しています。

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~14

坂口:
次に、フェイシャル(表情)についてお話ししたいと思います。こちらの画像は、メインキャラクター4人の顔のアップで、撮影チームによる最終処理が入る前の3Dレンダリング状態のものを並べたものです。

本作の演奏シーンでは、原作でも非常にインパクトのある勢いの強い表情が多く描かれています。そのため、表情がメインで映るカットでは、できる限り原作の絵を再現できるよう意識して制作を行いました。

特に口の形状などは、かなりマンガ的な表現に近づけられたと思います。また、演奏中は基本的にモノローグでセリフを喋っていないため、口パクに縛られず、CGでも大胆な表情づくりが可能でした。もしセリフを喋るシーンだった場合、ここまで誇張した表情はつけられなかったと思います。

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~15

坂口:
寄りのカットでは、最終仕上げの段階で各作業者が After Effects(以下、AE) を使用し、レタッチを加えています。CGソフトから描き出しただけの顔アップの映像では、どうしても少し物足りなさを感じることがありました。

上の画像の二つが、CGから直接レンダリングしただけの状態です。一方、下の画像はAEでレタッチを加えたもので、素材の上から影を足したり、目のハイライトを入れたり、髪に細い光のハイライトを追加したりしています。こうした処理を施すことで、下の画像のほうがよりリッチで立体的な印象になっているのがお分かりいただけると思います。

このように、顔のアップカットではほとんどの場合、最終的に上から描き込みや加筆を行っています。CGアニメーターであっても、原作の絵をよく観察し、どのように描かれているかを理解したうえで映像を作り上げていくことが重要です。その意味でも、デッサン力や描画スキルを持っていることは、キャラクターものの制作において大きな強みになると感じています。

撮影

池上:
次に、撮影のパートについてお話を伺いたいと思います。撮影の立場から、どのような点を意識されていたのか、野澤さんお願いします。

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野澤:
はい。今回のAパートは、ほとんどがライブシーンで構成されていました。映像として徐々に盛り上がっていく流れを作ることが理想的だと考えていましたが、同時に「りりさの見せ場であるのに、盛り上がりすぎてもバランスを崩してしまうのでは?」という難しさもありました。

その微妙なニュアンスを、どのように映像的にコントロールしていくかが一番の課題だったと思います。アクションやキャラクターの芝居などが徐々に盛り上がっていく中で、撮影としては無理に目立つ演出を加えるよりも、全体の流れを支える裏方の役割に徹することを意識していました。

演出的な盛り上がりは、アニメーションや演技、そして音楽など各セクションが一体となって作り上げていくものです。そのため、撮影チームとしては全体をまとめ、作品全体の熱量をスムーズに高めていけるような映像づくりを心がけていました。

音羽ソロカット

池上:
続いては、音羽のソロカットについてご紹介します。

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~17

池上:
このシーンでは、CGから多くの素材を出力しています。その中から、実際に音羽に関する素材を見ていきたいと思います。

モデリング

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~18

樋口:
モデルチームとしては、後工程にあたるアニメーション担当や撮影チームの負担を少しでも軽くするにはどうすればよいかを常に考えていました。その工夫の一環として、多くの素材を段階的に出力するようにしました。これは先ほどの説明にもあったように、後からの調整をしやすくするための取り組みです。

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~19

たとえば、目のチーク部分やハイライトなど、微調整が必要な要素はマスクとして個別に出力しています。これにより、撮影工程でAE上から影や光のバランスを自由にコントロールできるようになっています。

また、監督から「髪の毛のグラデーションの長さをカットごとに調整したい」という要望がありました。そのため、髪のグラデーションも個別素材として出力し、AE上で長さをコントロールできる構成にしています。

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樋口:
次に、カラー素材についてご説明します。こちらも非常に細かく分かれており、「シャドウカラー」と「ノーマルカラー」、「ハイライトカラー」の3種類を用意しています。

さらに右側にある「exノーマルカラー」と「exシャドウカラー」は、先ほど触れたグラデーションやチークを重ねるためのカラー素材です。このようにレイヤー構造を分けることで、後工程での色調整がより柔軟に行えるようになっています。

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~21

こちらの画像は、シャドウマスクやシェーダー系のマスク素材です。今回の作品では、手描きのハイライトやシャドウをかなり多く加えているのですが、特に注意が必要なのが右下にある「シェーダーの影」の部分です。この影が映像上で汚く見えてしまうことがあり、仕上がりを損ねる原因になることがよくあります。

そのため、坂口さんの説明にもあったように、最終段階でAEでのレタッチ作業を前提とし、マスクを細かく分けています。これにより、「残したい部分はそのままにしつつ、不要な箇所だけを消す」といった繊細な調整が可能になりました。

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~22

樋口:
実際の作業では、AE上で各素材をすべてバラバラに出力し、そこから組み立てる形で進めています。この構成について、野澤さんが実際に使ってみた感想はいかがでしたか?

野澤:
そうですね。私たちは3Dチームがコンポジットしたデータを受け取り、そこに加工や演出を加えていく形になります。ただ、実際に中を開いてみると、本当にさまざまな処理が組み込まれていて、「どこまで触っていいのか」「どの領域に踏み込むべきか」が最初は分かりづらいところもありました。

それと、ノーマルカラー・シャドウ・ハイライトといった素材をすべて出したうえでマスクで抜くという手法は、一般的なものなんでしょうか?

樋口:
最近は、個人的にはこのやり方が流行ってきているのかなと感じています。特に、後工程でレタッチを前提としている場合には、このように素材を分けておくほうが圧倒的に便利だと思っています。

野澤:
なるほど。AE上でレタッチを行う際には、マスクを細かく描いていく形になると思うのですが、最終的にはAE上でマスクを切っていく作業になりますよね。そう考えると、最初から素材を分けておくメリットというのはどのあたりにあるんでしょうか?坂口さん、アニメーター目線で「こうだからレタッチしやすい」という点はありますか?

坂口:
そうですね。影の部分が素材ごとに統一されているので、色ごとに個別の調整をする必要がないというのが大きな利点です。たとえば、顔や髪など複数の要素に同じ影を適用したい場合、シェード用のマスクを一つ切るだけで全体をまとめて影処理できます。

そのため、レタッチ作業の効率が非常に良くなるのがメリットですね。

野澤:
確かに、肌の影を手作業で直していると、他の部分にまで色がはみ出してしまうことがあります。素材を細かく分け、マスクで抜いた状態にしておくことで、各色を一括で調整できるのは大きな利点だと感じました。勉強になります。

樋口:
ありがとうございます。正直、「使いにくい」と言われたらどうしようかと心配していたので、そう言っていただけて本当に安心しました。頑張った甲斐がありました。

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~23

樋口:
最後に、こちらも今回出力した素材の一つとしてご紹介したいのが「汗」の表現です。このシーンでは、キャラクターが流す汗を段階的に変化させるように制作しておりまして、3段階に分けた汗のデータを一度に出力しています。

例えば、カットの演出上で「ここはまだ汗を少なくしたい」あるいは「もう最終段階の汗にしてほしい」といったリテイクが入った場合でも、AE上で切り替えるだけで簡単に修正ができるようになっています。そのため、最初からすべての段階の素材を一度に出しておくことで、後工程での柔軟な対応が可能になりました。

モデリングチームからの説明は以上になります。

リギング

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~24

大島:
ではここから、リグについてお話ししたいと思います。音羽に関連して、今回はドラム、つまり楽器まわりの設定について少し紹介します。見てもらうとわかるように、本作では「実際の楽器のように、動くべき部分はきちんと動くように作る」という方針で制作を進めていました。

とはいえ、リアルな動きを追求しすぎてハンドル(制御点)を増やしてしまうと、アニメーターが操作しづらくなってしまいます。そのため、できるだけ最小限のハンドルでリアルな動きを再現できるようにすることを意識して設計しました。

また今回は、楽器演奏時のモーションキャプチャも収録しています。プロジェクト初期の段階では、「楽器自体をどのようにキャプチャするか」という点が明確ではありませんでした。しかし、今回ご協力いただいた Studio IBUKI様にさまざまなアドバイスをいただき、キャラクターの演奏動作に加えて、ドラムのシンバルやギターのポジションといった細部まで正確にモーションキャプチャを収録することができました。

このモーションキャプチャの詳細については、坂口さんからお話しいただければと思います。

モーションキャプチャ

坂口:
アニメーションの方から、楽器の動きや手のモーションについてお話ししたいと思います。演奏時の手の動きについては、モーションキャプチャで収録したデータをもとに、こちらで1フレームずつリファレンス動画を確認しながらブラッシュアップを行っていました。

モーションキャプチャの収録では、体の動きを撮り終えた後、演奏者の方に手袋を外してもらい、手元だけにフォーカスした映像を複数の角度から撮影しています。演奏のテンポが非常に速いため、60fpsで撮影しても手の動きが残像のようにしか見えない箇所が多く、「どの弦を弾いているのか」「どのパーツを叩いているのか」を確認するのがかなり大変でした。

特に個人的に一番難しかったのは、ドラムのハイハットを“ハーフオープン”で叩く動きの再現です。ハイハットには「オープン(開いている状態)」と「クローズ(閉じている状態)」があるのですが、ハーフオープンはその中間で、完全には閉じきっていない状態を指します。この状態は見た目だけでは判断がつきにくく、リファレンス映像を見ても「今は開いているのか閉じているのか」が分からないことが多々ありました。

そこで、演奏音を聴き取りながら、「シャーン」と鳴っているのか「チッ」と鳴っているのかといった音のニュアンスで判断し、手の動きを調整していきました。ハーフオープンかクローズかによってシンバルそのものの動き方も微妙に変わってくるため、その違いをできる限り再現するよう意識して作業を進めました。

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~26

坂口:
では次に、ドラムスティックの表現についてお話しします。こちらは第9話以降のエピソードでの対応になりますが、監督から「ドラムスティックのブラー(残像効果)を、もう一段階強く、より激しくしてほしい」という要望をいただきました。

第9話以前では、ブラーは比較的控えめに入っている程度でしたが、以降の話数では演奏の激しさをより強調するため、作画的なアプローチに寄せたドラムブラーを新たに作成しました。

また、エフェクト面でも派手さを重視しています。作画チームから提供された稲妻の素材を画面に配置し、さらにCG側からも追加のエフェクトを重ねることで、映像全体がより迫力あるものになるよう意識しました。左側の映像が3Dから出力した最終画になりますが、撮影チームによる本編での最終調整によって、さらにかっこいい仕上がりになったと思います。

坂口:
では、野澤さん。音羽のソロパートの撮影で大変だった部分はありましたか?

野澤:
やはりいろいろなセクションの方々が関わっているので、最終工程で私たちのところに素材が届いた段階で、「あれ、聞いていた内容とちょっと違うぞ」ということが結構あるんですよね。

たとえばこの音羽のソロカットでは、キャラクターの上に紫のスポットライトが当たっているんですが、当初は「このライトは3D側から出力されます」と聞いていました。ところが、実際に届いたデータにはそのライトが一切入っていなかったんです。

しかも、3Dの段階でカメラワークがすでに設定されているので、「AEでライトを1個置けば簡単に合う」というわけにもいきません。結果的に、私たち撮影チームが泣きながらカメラワークに合わせて一つひとつ手作業でライトを置いていきました。それも、ただ上からライトを足したように見えず、「最初からそうあったかのように自然に見える」ようにすることを意識して調整しています。

そうした「あれ?」という部分を一つひとつフォローアップしていくことが、今回特に自分が頑張ったところだと思っています。この場でそれを皆さんにお伝えできて、本当によかったです。

ラスト盛り上がりイメージ空間

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~27

池上:
最後にご紹介するのは、クライマックスの盛り上がりを演出するイメージ空間のカットです。こちらは原作には存在しない、アニメオリジナルのカットになります。アニメーションとして、こだわりなどがあれば教えてください。

坂口:
このカットは、宇宙空間に花びらが舞い散るシーンです。花びらの演出は、こちらからの提案で取り入れたものでした。絵コンテを拝見した時点で、「ここは派手な演出を求められているんだろうな」と感じたのと、エフェクトの部分はある程度こちらにお任せいただいていたので、自由に考えさせていただきました。

作中では第1話から印象的に花がモチーフとして登場しており、それぞれのキャラクターにも象徴する花が設定されています。そのため、ラストの盛り上がる場面では、各キャラクターのモチーフとなる花びらが舞い散る演出にすることで、物語全体の象徴性と感情の高まりをリンクさせたいと思いました。

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~28

坂口:
右側の画像が、花びらの素材と各キャラクターの土台となる素材です。この土台も、それぞれのキャラクターのモチーフをもとにこちらからデザインを発注して制作してもらいました。見た目としても個性が出ていますし、「なんだかマンホールのデザインにも使えそうだな」と感じるくらい、しっかりとした造形になっています。

エフェクトについてもいろいろ追加しています。細かい部分ではありますが、四人のキャラクターが回転するシーンでは、正面に来たキャラに合わせてそのキャラのモチーフの花びらが散るようにするなど、非常に細かい演出を行いました。

全体的に画面を華やかにするためにエフェクトをかなり重ねた結果、映像としてはとても派手で迫力のある仕上がりになったと思います。ただ、その分撮影チームの方々にはかなり苦労をおかけしてしまった部分もありました。野澤さんは、実際の作業ではいかがでしたか?

野澤:
そうですね。私たちがこのカットの打ち合わせをした段階では、坂口さんが言った通り、「どういう仕上がりになるのか正直わからない」という状態でした。最初に完成した映像を見たときには、「ああ、こうなったんだ」と驚きと納得の両方がありました。

さまざまな要素を詰め込んでいただいていたので、色彩設計の方からいただいた指定色を反映し、光らせる部分をより際立たせるよう調整しました。

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~29

野澤:
実は先ほど「マンホールにも使えそう」と言っていただいた土台ですが、実際にいただいた素材を確認したところ、結構ガタつきがありました。そこで「これ、ちょっとガタガタしてるんですよね。どうにかなりませんか?」と相談したんですが、なかなかうまくいかず。最終的には、私たちが持っている“原初の力”を発揮しました。

いわばデジャヴのような作業でしたが、3Dの構成に合わせて、一人ひとりの土台を手作業で丁寧に置き換えていったんです。

最近では撮影パートの「ビフォー・アフター」比較が紹介されることも増えてきて、少しずつ認知されてきていますが、こうした作業のほとんどは、皆さんが意識しないような細かい調整の積み重ねです。派手な仕事は全体の1割ほどで、残りの9割は地味で根気のいる作業です。

それでも、こうして完成した映像を見ると本当に思い出深く、「いいカットだったな」と感じます。私の中では、このカットは美しい記憶としてずっと語り継ぎたいと思っています。

池上:
セミナーは以上になります。今回の内容については、『CGWORLD』さんで第9話のメイキング記事が掲載されているほか、テレビアニメ公式YouTubeチャンネルでもメイキング動画を公開しています。そちらでも今回お話しした内容を詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。

https://cgworld.jp/article/cgw232-acgrock01.html

質疑応答

Q1. 先ほどの台座のシーンで、坂口さんからオリジナルの提案をされたというお話がありました。クライアントに対して仕様外の提案をするのは、なかなか勇気がいることだと思います。そうした提案を行う際に気をつけていたことや、意識していたポイントなどがあればお聞かせください。

坂口:
今回の作品は、比較的こちらから提案しやすい環境だったと思います。絵コンテの段階から「エフェクト部分はお任せします」と言っていただけていたので、自由度が高かったんです。

そのため、「花びらを散らしてみてはどうか」といった形で、こちらから積極的に提案を行いました。まずは一度試しに映像を作ってみて、その場で監督にチェックしてもらうという流れで進めていきました。監督からも「これで行きましょう」という反応をいただけたので、スムーズに採用していただけたと思います。

Q2. マンホールのような土台素材について、ビットマップで受け渡されたために撮影側でパスを引き直したとのことでしたが、なぜ最初からパスデータで納品されず、ビットマップのまま渡されたのかが気になります。撮影側でパスを引き直すというのはよくあることですが、今回そのような状況になった経緯や反省点があれば教えてください。

坂口:
まず、土台の件についてですが、いただいた素材はAIデータとビットマップ形式でした。AIデータが開けず、ビットマップを3D上のオブジェクトとして組み込んだのですが、寄りのカットになった際にどうしても解像度的に耐えられない部分が出てしまったんです。

そこで撮影チームの方と「どうしようか」と相談させていただいた結果、「こちらで対応します」と言っていただき、撮影側でパスを引き直してもらう形になりました。そうした経緯で、最終的に自然な仕上がりに落とし込むことができました。

Q3. モーションキャプチャで指の動きを取るのは難しいと思います。特に楽器ごとに動き方が異なり、キーボードのように鍵盤が動く場合はMIDIなども使われることがあります。今回の収録では、指や手のキャプチャをどのように行ったのか、マーカーやグローブの使用、また工夫や苦労した点があれば教えてください。

池上:
モーションキャプチャについてですが、今回はベースのみグローブを使用して撮影しました。それ以外の楽器については、指の甲にポイントマーカーを貼り付ける方法で対応しています。

キーボードに関しては、キャラクターの設定上「物語後半で初めてバンドに加わる」という位置づけだったので、演奏描写としてはそこまで難易度が高くありませんでした。そのため、タイミングが分かる程度にモーションを手付けでつけるという形で制作しています。

一方で、ギターとベースに関しては指の動きが非常に複雑で高速だったため、かなり苦労しました。本来であればギターでもグローブを使いたかったのですが、用意していたグローブが男性サイズのワンサイズしかなく、アクターさんの手が小さかったため、ギターでは使用できませんでした。

ベースはなんとかグローブで撮ることができたので、タイミングを把握するためのデータとして活用しています。位置や細かな指の動きについては、アニメーターがリファレンス映像を見ながら1カットずつ手付けで調整していきました。先ほどお見せしたように、手元のアップや裏側など複数アングルから撮影しており、それらを参考に作業しています。

マーカーのデータはあくまでタイミングを確認するためのものですが、データがあるのとないのとでは精度が全く違うので、今回のキャプチャーもその方針で収録しました。完全にゼロから付けるとなると、正直終わらない作業量になってしまうと思います。

Q4. 撮影の野澤さんに質問です。自分は学生で、まだCG素材を扱ったことがありません。CG素材を扱う際に、気をつけておくべき点や意識していることがあれば教えてください。

野澤:
今回の作品では、セル画と3Dの融合が大きなテーマのひとつでした。どうしても3Dを使うと、「やっぱり作画の方が良かった」という声をいただくことがあります。ですが、私自身は「作画」と「3D」を分けて考えるのではなく、どちらも同じ“素材”として扱うようにしています。最終的にどのような形式で来るか、画像で来るのか、コンポジションデータで来るのかの違いだけだと思っています。

普段の作品でリアルな質感を目指す場合は、背景美術や照明との兼ね合いで「なんだか少しテイストが違うな」と感じることがあります。そうしたときには、「ではどう調整していくか」という部分で悩むこともあります。

ただ、今回の『ロックは淑女の嗜みでして』では、3D側で作画に負けないほど表情豊かな表現をしていただいていたので、撮影としてもほとんど手を加えず自然に出すことができました。

結局のところ、最も大切なのは作品全体の世界観に合っているかどうかです。どんな素材であっても、最終的に視聴者が違和感なく、自然に物語に没入できるように仕上げることを常に意識しています。

Q5. グラフィニカではメインで3ds Maxを使用されていると思いますが、今後も3ds Maxを使い続ける予定でしょうか?それとも、別のソフトウェア(Blenderなど)への移行や新しいツールへの挑戦を検討されていますか?

池上:
現在のメインツールは、3ds MaxとMayaの2本を中心に使用しています。最近はBlenderも非常に注目されていますので、社内でも部分的に活用しています。今後は、メインツールとして活用できるように社内で検証を進めている段階です。

基本的には、特定のソフトウェアにこだわらず、案件や用途に応じて柔軟にツールを使い分ける方針で制作を行っています。

Q6. 今回のメイキングでは、各セクションが試行錯誤しながら少しずつ完成度を高めていく過程が印象的でした。実際の現場でそれをスムーズに進行させるのは大変だと思いますが、現場を円滑にまとめる“橋渡し役”のような人や仕組みがあったのでしょうか?それとも、全員が個々に努力して成立させていた形だったのでしょうか?

池上:
本当に全員の頑張りだと思います。モデル、リグ、アニメーション、撮影と、それぞれの工程が密接に関わっていたので、誰か一人が引っ張るというより、みんなで走り続けた感じでした。

正直に言うと、スケジュールに対して作業量がかなり多い作品だったんです。「今日だけは遅くまで残らないと、次の工程に間に合わない」という日が何度もありました。制作スタッフも現場も一緒になって、夜遅くまで作業を進めながら、なんとか次のセクションへとつなげていきました。全体としては、半年以上ずっと全力で走り続けたような制作期間だったと思います。

大島:
円滑に進めるという意味では、コミュニケーションの密度の高さが大きかったと思います。坂口さんと野澤さんは札幌スタジオ所属で、他3名は東京スタジオなんですが、場所が離れていても気軽にミーティングを組む文化ができていました。

何か気になることがあれば、「じゃあ今から5分だけ話しましょう」みたいにすぐミーティングを立てて、そこで決まったらすぐ制作に入る。そうしたスピード感のあるやりとりが、全体のテンポを保つ上でかなり役立っていたと思います。

池上:
ほとんど毎日のように何かしらのミーティングをしていた印象です。坂口が札幌所属という話が出ましたが、どうしてもリモートでは限界がある部分もあったので、制作期間の半分ほどは東京に出張してもらいました。

監督とのやりとりを直接行えるようにしたり、演奏シーンのタイミングをその場で確認したりと、対面で進めることを重視しました。また、クライアント側にも協力をお願いしながら、待ち時間を極力減らす工夫を行っていました。全員が臨機応変に対応してくれたことで、最終的にここまでのクオリティに仕上げることができたのだと思います。

TVアニメ「ロックは淑女の嗜みでして」CGメイキング~B面~ 会場風景02

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