2025年9月20日(土)に開催された「あにつく2025」より、「オリジナル短編アニメ『星の子どもとはじまりの樹』に込めた企画と世界観のつくり方」のイベント内容をご紹介します。

セッション概要

株式会社武右ェ門が手がけたオリジナル短編アニメ『星の子どもとはじまりの樹』は、七五三氏による初の監督作品。企画のきっかけや作品に込めた思い、キャラクターや舞台設定の背景などを対話形式で紐解きます。さらに、絵本のような質感を目指したルックづくりの工夫や、表現をかたちにしていく過程での試行錯誤についてもお話します。

【主催】株式会社Too
【登壇者】株式会社武右ェ門 七五三 慶紀 氏
株式会社武右ェ門 垰田 浩一 氏
作品紹介
まず最初に作品を紹介いたします。
作品紹介

本日は、オリジナル短編アニメ『星の子どもとはじまりの樹』について説明させていただきます。
登壇者紹介
七五三 慶紀 氏
文化学院で美術を学んだ後、ショップ店員などを経て、デジタルハリウッドでCGを学ぶ。
卒業後、株式会社サンライズに入社し、CGアニメーターとして活動を開始する。株式会社武右ェ門に転籍し、主にルックデベロップメントを担当する。
主な参加作品に『OBSOLETE』ルックデブチーフ、『コードギアス 奪還のロゼ』CGI 監督補佐などがある。
垰田 浩一 氏
GyaOやバンダイチャンネルにて、アニメ配信・編成・ライブ配信業務などを経験したのち、日本動画協会にてアニメ業界の人材育成に関わる事業の運営や、産業レポートの発刊・広報などを担当。
2019年より株式会社武右ェ門に入社し、人事・総務・広報・採用などバックオフィス全般を担当。スタッフ育成やチームづくりにも取り組みながら、現場と会社をつなぐ立場として活動している。
最初のアイデアと、その広がり

垰田:
最初は、「最初のアイデアとその広がり」というテーマですが、この作品の企画はどのようなきっかけから生まれたのでしょうか。
七五三:
ある日、入社して1年目くらいのスタッフを見かけた際、元気がなく落ち込んでいるように見えました。それを見て、作品作りを通してエールを送ることができないかと考え、この企画を練りました。

垰田:
今回の企画を作るにあたって、文字でプロットを書くのではなく、七五三さん自身がイメージした絵を描き、それをもとに組み立てていったと聞きました。言葉より絵の方がやりやすかったのでしょうか。
七五三:
自分は言葉にするのが苦手なため、絵を描いた方が早くイメージを伝えられると感じていました。そのため、どんどん描いていました。

垰田:
最初の段階では、セリフなどを特に考えず、イメージを描き出すところから始めたということですね。
七五三:
例えば、画像にあるのは冒頭のエレベーターの絵で、階数を示すインジケーターです。
垰田:
漢数字で六まで書かれているなど、イメージが細かく作られているように感じられます。
七五三:
これには意図があって、日本の六道の考え方を取り入れています。物語では五階で降りる設定にしていますが、五階は「人道」、つまり人が生きる世界を示しています。当初は和風の世界観も意識していました。

垰田:
本編ではまったく同じシーンこそありませんが、支配人や主人公など、キャラクターの関係性をこの段階からイメージしていたということですね。

七五三:
これも同じような発想から描いたもので、本編では「もらう」のではなく「自分で見つける」形に変更しています。ここでは星型のアイテムですが、本編では宝石に変えています。

垰田:
これは扉を開けた後に広がる世界のイメージですが、お花畑の雰囲気が描かれています。
イメージボードからの本番カット

垰田:
さきほどお見せしたイメージボードがどのように本番カットへ変化していったのか、ここから見ていきます。

垰田:
先ほどの花畑のイメージボードが、本番ではこのようなカットになっています。背景はすべて手描きですが、実際の映像では花は動いていましたよね?
七五三:
背景はすべて美術ですが、花は動いています。無理を言って揺らしてもらったので、撮影担当の方が大変そうでした。

垰田:
この扉のシーンですが、最初のイメージボードでは右上のような雰囲気でしたが、実際はこのような構図になりました。イメージボードの要素をそのまま使っている部分もあれば、使わなかった部分もあるということですね。
七五三:
物語の構成上、イメージボードから「必要かどうか」を常に取捨選択していました。また、時間的な問題もありました。
垰田:
今回は文化庁の「あにめのたね」という事業で制作していたこともあり、スケジュールが明確に決められていたため、その点も大変でした。

垰田:
こちらも先ほどの動画に出てきた草原のシーンです。このイメージボードは、本番でもほぼそのまま使用しているカットが多いですね。
七五三:
冒頭のエレベーター辺りのシーンと、後半の走るシーンは決まっていたのですが、それまでの流れをどうするかという部分に企画の時間を多く割きました。
世界観とキャラクターに込めた意味

垰田:
では次のテーマに進みます。世界観とキャラクターに込めた意味について伺います。

垰田:
こちらが今回のキャラクターたちです。本編映像では名前が出てきませんでしたが、実際にはそれぞれに名前が設定されています。主人公は男の子でも女の子でもないような、性別が明確にされていませんでしたが、それはなぜでしょうか。
七五三:
視聴者の方に自己投影してほしかったため、あえて性別を持たせないようにしました。
垰田:
性別を明確にしなかったので、どちらにも受け取れる声優のキャスティングについてはかなり悩みました。
垰田:
主人公が一番最後まで決まりませんでしたが、カールも同じように悩みました。
垰田:
最終的にはソラ役を田所あずささんにお願いしましたが、すごくハマっていましたね。
七五三:
本当に良かったです。どちらにも取れるニュアンスで、素の声がそのまま使える感じがあり、「これはぜひお願いしたい」と思いました。
垰田:
支配人や王様は象徴的なキャラクターだと思いますが、それぞれどのような役割を与えていたのですか。

七五三:
支配人は、物語冒頭で登場したホテルのような施設の支配人という立場でそのまま「支配人」と名付けています。裏設定では神様という位置づけです。ソラが入り込んだホテルの中で、様々な勉強をするのですが先生の様なこともしています。

垰田:
次にカールの役割についてですが、いわゆる道案内のようなイメージでしょうか。
七五三:
カールは樹の中の案内役です。支配人が神様で、カールは八咫烏のような神様の遣いという裏設定にしています。足は三本ではありませんが、足を隠していることにしています。色々な国の方々にも観てもらいたかったので全体を通して宗教色が強くならないようにしました。

七五三:
王様に関しては、元々はソラと同じ子供の魂でした。しかし樹の中で別の子供の魂に出会い、「その宝石、綺麗でいいな、欲しいな」と他人のものを欲しがり、奪ってしまったことで徐々に化け物のようになってしまったという設定です。
垰田:
ソラや王様が集めていた「宝石」には何か意味があるのでしょうか。
七五三:
宝石は才能や能力、生きる力を象徴しています。作品の中でさまざまな宝石を集めますが、花言葉のように宝石にも石言葉があり、それぞれの意味を持たせています。
制作の途中でスタッフから『12の贈り物』という本を教えてもらい、その中にある「力、美しさ、勇気、信じる心、希望、喜び、才能、創造力、敬う心、知恵、愛、誠実」という要素を石の色に変えて登場させました。そのため、最後に集まる欠片は12色になっています。
垰田:
だから12個だったというわけですね。では、王様の後ろにいる抜け殻のような存在にはどんな意味があるのでしょう。
七五三:
あの子たちも主人公と同じく子供の魂でしたが、主人公は宝石を渡さなかったのに対し、彼らは大切な宝石を他人に渡してしまった。その結果として魂の抜け殻になってしまったという設定です。
垰田:
元々は王様も抜け殻も、ソラのような姿だったということですね。
七五三:
約9分という短編の尺では描き切れない部分もありますが、裏側ではそういう設定で作っています。
絵本のようなルックをどうCGで実現したか

垰田:
次のテーマは、今回の作品で採用した「絵本のようなルックをどう実現したか」についてです。
本編をご覧いただいた通り、セルルックのCGでありながら独特の質感やビジュアルがありました。その工夫について伺っていきます。まずは順番に見ていきましょう。

垰田:
まずこちらがアニメーション、いわゆる素の素材ですね。
七五三:
制作スタッフが作業している段階の画面で、アニメーション段階の見栄えはこの状態です。

垰田:
次にセル調の素材です。
七五三:
一般的な2Dの塗りと線で表現したセル調の質感を重ねた状態です。

垰田:
そして水彩調です。
七五三:
水彩調の素材を重ねたり、先ほどのセル調素材を加工して滲みの表現を加えています。影の部分や首元などは、水彩の処理が乗っている状態です。

垰田:
次が少し変化が分かりづらいですが、紙の質感素材を重ねた段階です。
七五三:
水彩調だと塗りの雰囲気は出ますが、温かみが足りません。そこで、紙の質感を加えて、手描きのような温かさを出しています。画用紙をスキャンして、それを素材として重ねています。

垰田:
次はラインの加工ですね。通常の3Dソフトで出力されたラインが鉛筆調になっています。
七五三:
CGのラインはどうしても味気なくなるので、鉛筆で描いたような温かい質感を加えるため、ラインに加工を施しています。これでかなり印象が変わります。

垰田:
そして最終的な完成カットがこちらです。これは撮影処理も入っているんですよね。
七五三:
背景との馴染みなど、撮影部の処理を経た結果がこの状態です。
垰田:
セルルックの処理は相当大変だったと思います。
七五三:
ルック作りも大変でしたが、撮影工程もかなり苦労していたと思います。背景が手描きだったこともあり、色味を馴染ませる作業が特に大変だったのではないでしょうか。
垰田:
やはり背景とキャラクターの色彩を合わせるのは難しいですか。
七五三:
背景の色調がすべて異なるため、カットごとに色味を合わせる必要がありました。
垰田:
ところで、今回あえてセルルックではなく、絵本のような質感にしたのはなぜですか。
七五三:
メッセージ性を重視したためです。「自分が大切にしている気持ちや大事にしているものを人にあげてはいけない」「自分が信じた未来を信じて生きてほしい」という想いを、小さい頃から伝えられるような作品にしたいと考えました。絵本で読み聞かせができるような温かい表現にしたかったため、絵本のルックを選びました。
最終的には、このまま絵本としても成立するような作品にしたいという思いがありました。
初監督作としての気づき

垰田:
初監督作品として、一から企画を立て、イメージボードを描き、完成まで進めていく中で、最も大変だった部分はどこでしたか。
七五三:
自分のイメージを言葉で人に伝えることがとても難しかったです。ただ、幸運なことに隣に自分の意図を代弁してくれる方がいて、「こういうことだよね」と言ってくれる存在に助けられました。撮影監督の小久保将志さんが、自分の気持ちを汲み取り、それを言語化してくれたので本当に助かりました。
垰田:
その時、先ほどのイメージボードが役に立ったということですか。
七五三:
最初のイメージボードを見た時に、小久保さんが「こういう世界観だよね」とすぐに理解してくれて、意思疎通がスムーズに進みました。
垰田:
その経験は今後に活かせそうですか。
七五三:
自分の足りない部分がよく見えたので、もしまた機会があれば、より良い形で挑戦していきたいです。
垰田:
もう少し技術的な部分も伺いたいのですが、ルックについて質問させてください。私はクリエイターではないのであまり詳しくないのですが、色や処理はどのタイミングで乗せていくのでしょうか。
垰田:
アニメーションの段階から、セル調などの処理はどの段階で加えていくのですか。ひとつずつ手作業で重ねていくイメージなのでしょうか。
七五三:
ひとつずつ個別に重ねていくというより、セル調素材を加工しながら仕上げていく形です。素材を上に重ね、そこに処理をかけていく作り方になります。合成にはAfter Effectsを使用しており、ラインの加工もAfter Effectsで処理しています。
質疑応答
Q1. 普段は依頼されて制作する形が多く、自分発の企画で作品を作ったことがありません。今回のように自分の企画で作品を作りたい場合、最初は誰に「作りたい」と伝えれば良いのでしょうか。
私は最初に社長へ直接話しに行きました。弊社(株式会社武右ェ門)は社長室に入りやすく、普段から気軽に話ができる環境です。冒頭で話した「スタッフを励ましたい」という理由に加え、自分自身のキャリアとしてステップアップしたいという思いもあったため、その相談も兼ねて伺いました。
その時ちょうど「あにめのたね 2025」の募集が2週間後に締切という話があり、「出してみれば」と言われ、2週間で企画をまとめて提出し、採択されました。
Q2. 作りたいものを持った状態で「あにめのたね」に応募するために、尺や制限が後から発生したと思います。もし制限がなければ、やりたかったことはありますか。
たくさんあります。尺に関してもそうですし、絵の部分でも「本当はこのポーズを直したい」というものがいくつかあります。例えば物語の中で夜になって唐突にパジャマ姿で立っている場面も、本当ならもう少しカットや間を足して自然な流れにしたかったです。10分以内という制限があり、泣く泣く削った部分が多いです。
Q3. 今回の企画では、「伝わらない」という理由で削ったアイデアや、逆に伝えるために工夫した点はありますか。
シナリオを制作していた段階で、「このままでは伝わらない」と感じた部分は形を変えるようにしました。伝えたい要素を削り続けると、何を言いたいのかが見えなくなってしまうため、削るのではなく「見せ方を変える」方向に工夫しています。
また、プロデューサーの意見を踏まえ、スケジュール的に間に合わないものは外すこともありました。監督がすべてを決めるのではなく、周囲の意見も取り入れて制作を進めるという点は、一般的なプロの現場と同じだと思います。
Q4. 今回のルックは独特でしたが、『コードギアス』など他作品ではまったく違う考え方で作っていたと思います。どのようにアプローチを変えているのでしょうか。
『コードギアス』では、作画のロボットが非常にかっこいい一方、CGでそのまま出すと魅力が失われてしまうことがありました。そこで作画のロボット画集を買って研究し、「作画の良さ」をCGに落とし込むことを意識しました。
色彩設計は既にあるので変えていませんが、影のつけ方を作画に寄せるよう試行錯誤しました。CGだと物理的に正しい影が自動的についてしまいますが、それが必ずしもかっこよく見えるわけではありません。作画は視線誘導を考え、見せたい部分に影や光を寄せます。その考え方が非常に勉強になりました。
Q5. 作品制作のきっかけとなった「若手を元気づけたい」という想いについてですが、そのきっかけとなった若手スタッフの方は元気になりましたか。
実はそのスタッフは本作には参加していません。しかし、その人をきっかけに動き出した作品であったため、関わったスタッフには少しでもエールを届けられたのではないかと感じています。
Q6. プロデューサーは企画を見る際、「映像を作るだけではダメで、グッズ化できるかどうか」が重要だと言います。今回の企画では、二次利用(絵本など)を意識して作っていたのでしょうか。
この作品は絵本にしたいと思って絵本調のルックにしました。入社してから会社に貢献できていないと感じていたこともあり、作品を作ったその先に「絵本」が作れたら子供たちにも読んでもらえるし、小さくても会社の利益になるのではないかと考えていました。
商業アニメの場合は、グッズ化や配信、マネタイズが非常に重要です。しかし今回の場合は「あにめのたね」という「技術継承」を目的とした事業の中で制作する機会だったため、商業的な売上よりも「作りたい作品をつくる」ことと若手育成を優先しました。作品の配信も予定していますが、「多くの人に見てもらいたい」という思いで進めており、詳細は後日発表できればと思います。



