2025年8月15日(金)に開催された「『MERCURY Entei Ryu造形作品集』発売記念セミナー」より、イベントの内容を区切ってご紹介していきます。
第二部は、「Entei先生による作品添削指導」。どうぞご覧ください。
セッション概要
実力派コンセプトアーティストであり、コジマプロダクション所属のEntei Ryu氏が、初の造形作品集『MERCURY Entei Ryu造形作品集』の出版を記念して開催した特別セミナー。本記事では、映画やゲームの現場で培ってきた造形思想をもとに、3D造形作品のメイキングや制作の舞台裏を、本人の言葉で紐解いていきます。
作品そのものだけでなく、造形と造形の間に生まれる隙間や空間までも含めてデザインとして捉える考え方とは何か。実際の3Dデータを参照しながら、Entei Ryu氏ならではの「造形のコツ」と思考プロセスに迫ります。
イベント告知ページはこちら ⇒ 『MERCURY Entei Ryu造形作品集』発売記念セミナー
【主催】株式会社Too / アトリエコチ
【講師】Entei Ryu 氏
作品添削
今回、皆さんにご紹介したいのは、私が初めて試みた企画です。今回のセミナーで添削する作品をSNSで募集を行ったところ、いくつかの作品が送られてきました。その中から今回は、MさんとGさんの投稿を選出しました。
3Dを扱う方で、デザインやご自身の立体物の制作で悩んでいる方を対象に、アドバイス希望の窓口としてメールアドレスを用意しました。悩んでいるポイントを文章で送っていただき、私がそれを読み、自分なりの意見をまとめ、それを今回皆さんに共有します。

まず、PureRefというツールで資料をまとめました。なぜPureRefかというと、これは自分が普段から慣れている整理の方法で、かなり自己流ですが、よくこの形で使っています。作品の制作だけでなく、自分の部屋のデザインを考える時などにも活用しています。

また、今進行している銀座の展示イベントでも、担当の方と搬入や配置のデザインを相談する際に、どこに何を置くか、どのサイズで何をプリントするかといった情報を整理し、イメージ共有をするためにPureRefを使っています。
作品計画でも、どのタイプのものを何サイズで何点作るかなど、アートに関わる情報を、ビジュアルの関連性ごとにまとめるのに向いています。決まった型がないので自由に整理できるのが良いところです。少し話が逸れますが、これは私の仕事の進め方として、皆さんにもおすすめしたい方法です。

例えば、一つのテーマの下に、質問はこの色で投稿作品はここ、自分のコメントはここに配置して、リサーチ画像とリファレンスはここ、というように、自分なりに配置できます。
昔からコンセプトアートやイラストレーションの仕事をする時も、デザインの初期段階から仕上げ段階まで、ずっとPureRefで管理しています。元画像のサイズを保ったままいくらでも載せられるので、画像の整理や保管にもとても使いやすいです。
今回はこれをブレインマップのように、思考を可視化して整理するためのボードとして使いました。
Mさんの作品

では、Mさんの作品に移ります。Mさんが投稿してくださった作品は「デスノート」です。主人公の夜神ライトとリュークの作品が送られてきました。
私の印象としては、これはデスノートのポスターやイラストレーションに近い雰囲気です。リアルな場面を再現するというより、絵作りとして二人のキャラクターを配置し、イラストレーションでよく使われる装飾やリンゴの要素を加えています。そして、翼が上部で大きな面積を占めています。
ポーズとしては、おそらくリュークが球に向かって飛んでいく動きで、ライトは上に登るような動きなのだと思います。まずは、どんなモチーフを使っているのか、何を表現したいのかを読み取るところから入ります。

私が見た時に気になった点、パッと見て気づいたところを整理します。

まず翼の形については、出力品として成立するかどうかは別として、形としては完成度がもう一歩届いていない印象でした。デザインとしても、悪魔っぽい雰囲気はあるものの、リュークらしさとは少し違う方向に寄っているように見えました。

引用元:https://www.abystyle.com/en/death-note/7250-death-note-acryl-ryuk-3665361138778.html
実際に気になって調べると、リュークの翼はこのような形です。ボロボロになった布のような質感で、もう少し邪悪さがあり、同時に生き物らしさが薄いデザインです。

次に、二人の動きについてです。正面が見えない構図で、後ろから登ってくるという設定だとしても、もう少し勢いが伝わるような構図にしたいと感じました。

それから、メインの図としては、リュークの顔を見せたい意図があるはずですが、現状だと顔が隠れてしまっています。それはライトも同様で、キャラクターを見せる時、顔は一番見せたい要素です。今の構図では、その配置があまり良い位置に置かれていないと感じました。

次に杖の部分です。これは立体だからこそ気になる点です。平面なら問題になりにくいのですが、横から見ると杖は線のように見えてしまいます。このモチーフを使うと決めたのであれば、どう立体感を持たせるかを考える必要があります。
さらに台座の問題もあります。この球体の上にはそのまま立てられないので、デザインとしてどう成立させるかを検討する必要があります。
そして、やはり中心は二人の顔です。顔を重点にすると、全体の構図がやや左に寄っているようにも感じます。表情も、今回はまだ調整されていない印象でした。
もし私がゼロから作るなら、最初から雰囲気を決めたいです。例えば夜神ライトはどんな気持ちなのか。「僕は新世界の神」だと考えているような野望があるのか。リュークは何を考えているのか。そうした答えを自分の中で作ってから造形に入ります。
そうすると、表情と動きは本来すべてつながります。その気持ちを作るためにも、制作時にBGMを流すのは私にとって必須です。
修正工程

ではここから、修正していった過程をお見せします。もう一つ気になったのがリンゴの要素です。杖と完全に重なっているので、もう少し面白い見せ方ができないかと考えました。
私の調整方針としては、メインは二人のキャラクターと杖の関係性です。そこから立体としての成立を考え始めました。基本の形自体は大きく変えていません。

杖で変えたのは、角度です。この角度にした理由は、リュークの顔を前に出したかったからです。作業中に浮かんだアイディアとして、リンゴと杖をリュークの心臓の位置に置くとどう見えるか、正面の角度で考えました。

ライトがリンゴを取る動きを、まるでリュークの心臓をつかんでいるように見せられたら面白いと思いました。デスノートの効果として、人が心臓発作で死ぬという設定があります。それを、造形としても匂わせたいと考えました。こうした部分はアイディアから入っています。
リンゴは象徴的なモチーフなので、作り始めるタイミングで改めてリサーチしました。キャラクターから見て、どんな要素が使えるのか。どう表現すれば、そのキャラクターらしさが出るのか。それを資料を探して整理します。
シルエットに最も影響するのは翼です。横から見た時に、元デザインに寄せたいです。加えて、杖の位置を自然にし、構図に役立てたいという思いもあります。キャラクターも直線的すぎる部分があるので、もう少し自然に動くように調整したいです。
台座が球体で難しいなら、いっそドクロにする案もあります。台座にたくさん物を置く構成にするのではなく、ドクロ自体を台座として見せます。そうした方向に寄せると、作品として成立しやすいと考えました。この段階ではラフさを残したまま造形を始めます。
今回、拡張子は obj でもらっています。理由は、人によってサブツール管理の癖が違い、サブツール数が多いデータだと扱いにくくなるからです。そこで、全体をローポリゴンのobjとして受け取り、必要なパーツだけを切り出して調整します。

ここではライトの手の角度を調整します。下からリンゴを持つ形にします。平面っぽさを減らすもう一つのコツは、キャラクターが真正面を向かないことです。首や腰、肩に角度を入れてねじり、立体感を出します。

デスノートも調整しました。元は閉じている状態でしたが、開いた形にしてライトのポーズをオープンにし、自信があるキャラクターとして見せる方向にします。手のポーズも合わせて調整しました。大枠の構図関係は変えていませんが、こうした微調整からヒントが出てきます。

変わっていないのは、杖の前にリンゴが来るという関係性です。ただ、実際には杖を後ろに移動し、リンゴを前に出しています。つまり、立体なので、正面から見えている関係がそのまま真実とは限りません。この角度だけでは、リンゴと杖の前後関係は分かりません。

引用元:https://www.abystyle.com/en/death-note/7250-death-note-acryl-ryuk-3665361138778.html
次はリュークの足の調整です。自分の中のリューク像としては、もう少し脚を開いた姿勢の方がイメージに近いです。飛んでいるとしても、正面から見た時にその姿勢が見えるようにします。3D出力を前提にするなら、リュークの足とライトの体が接触してつながることで、立体として成立しやすくなります。

杖も同様で、元の形だと下だけ刺さっていて細く弱いです。立体として安心できるように、体のボリュームにつなげます。そうするとキャラクターの顔が見えるようになり、目的が達成できます。
腰の角度も、正面を向かないようにねじって登る動きにします。調整では、足の指が見えるか、しわがどう入るかなど、ディテールは一旦置いて、形の調整を優先します。必要なら足を切り出して、望むポジションに置き直します。
リュークは猫背の印象が強いので、横から見た時のCカーブも調整しました。これで立体感が増します。リンゴと二人の頭が三角形になる構図にして安定感を作り、二人の手とリンゴの関係も整理します。例えば、「ライトの左手がリンゴを取るなら、リュークの手は何をしているのか」、この関係性も重要です。
また、制作途中ですべてを最初から決めすぎないことも大事だと思っています。私自身、ラフスケッチを描いていますが、最終的な形はかなり変わります。基本的に、ラフ通りに作ることはありません。
ただし、作業中に残しておきたいポイントは、言葉でまとめられる程度には自分の中に持っておきます。例えば翼の問題を調整したい、構図をもう少しリラックスさせたい、動きを入れたい、といった核になる要素です。
やりながら決まっていく部分が多いので、試さないと分からないこともあります。ライトがこのポーズなら、リュークはどう合わせるのが良いか。一人だけ良いポーズでも、二人に相性がなければ成立しません。試行錯誤して、間違えて、また試して正解を見つけるという、そういう工程になります。

二人の脚の配置は何度も調整しました。正面からのバランスを重視して、手足の位置と角度を最も良い場所に置きます。先ほど言ったように、形はシンプルになるほど力強いです。傾いた線よりも、垂直や水平の線は特に強い印象を持たれるので、必要なところにだけ使うようにします。
ただし、オブジェクトそのものをまっすぐにするのではなく、例えば上の腕の角度と下の脚の角度がつながると直線に見える、といった形で匂わせるのが良いです。造形の中に直線や垂直を出した瞬間、重力の印象が強くなってしまいます。できれば直接は使わない方が良いと思います。

台座のドクロも、そこまでリアルではなく、少しスタイライズしています。作りながらデザインを詰めていく感覚です。手の位置もいろいろ試し、違うと感じたら下に回します。これは、出力時の支えにもなります。
土台の形もライトの支えとして使えます。追加しているのはリンゴです。リンゴを一度上で見せているので、下の台座にもリンゴを噛ませて、少し面白くしたいと考えました。入れる理由には、色もあります。リンゴは赤いので強いアクセントになります。上にも赤があり、下にも赤があるという関連性を作りたいという意図です。

次は翼の調整です。リュークの方向は右下に向いているので、その勢いを強調したいです。そのためにデザインを変え、マンガの中と同じタイプのシルエットに寄せました。全体の構図バランスを取るための調整でもあります。
翼について注意したいのは、正面から見て面積が広く見える場合でも、立体としてそれをそのまま厚く重いものにすると、バランスが非常に悪くなることです。面積が広いなら、できるだけ薄く作る意識が必要です。

こちら側からも形を作りつつ、大きなシルエットを調整します。いわゆるセカンダリーディテールとプリミティブディテールを同時に進めます。ラフを作っているからこそ可能なやり方で、作業時間はだいたい1時間くらいです。
ただ、ゼロから作品を作る場合は、まずメインの形を整えてから、その上にディテールを追加する方が良いです。今回の翼はリアルな生き物ではないので、動物のロジックがそのまま使えません。では何を基準にするかというと、やりたい構図です。今のポーズは前傾していて、リンゴの方向へ勢いが流れています。であれば、翼のディテールもその方向を指すように作ります。
翼はかなり時間をかけて調整しました。過去に作った金属のドラゴン作品の翼が、自分の中では一番満足している形です。翼は全角度で成立させる必要があるので、どうしても時間がかかります。今回は最後まで完全には満足できず、ずっと調整していました。

特に正解があるわけではありません。デザインとモチーフで何をしたいのかを頭の中で整理し、あとは自分が気持ちいいと思えるところまで調整することです。理性と感性の両方で考えながら進めます。ただ、最終的には個人の好みの部分もあります。

私が一番やりたいと思っていたのが、この杖の扱いです。正面から見ると、リンゴが杖の中心にあるという関係は同じです。しかし横から見ると、まったく違って見えます。立体ならではの面白さはそこにあります。
正面では杖にリンゴがくっついているように見えるのに、横から見ると実は違います。見る角度によって、別の解釈が生まれます。そこまでできると、立体としての作りがいが出ると思います。
もちろん、この作品を修正し続ければまだまだ調整できます。ディテールや顔の表情、台座など、課題は残っています。

作業後にもう一度スクリーンショットを撮り、少し加筆してまとめました。こういう構図になったら良いな、という方向性です。次にまた作業する時にも参考になります。スケッチして調整し、スケッチして修正しながら、やりながら試すという進め方です。
Mさんからの質問
Q1. すべての角度でバランスの取れた造形構造を実現できずに悩んでいます。実際に行っている工夫や方法を教えてもらえると嬉しいです。
この質問について、私が考えているポイントはいくつかあります。まず一つは、「先に計画しすぎないこと」です。進めながら、自分の手で考えます。先ほどのデモでもお見せした通り、私自身も最初からすべてを決めているわけではありません。むしろ、考えるだけでは分からないことが多いです。実際に作業を進めて問題が出て初めて、どう解決するべきかが見えてきます。
つまり、最初から完璧に計画するのではなく、やりながら試すことが大切です。答えは自分の手から出てきます。間違えることや無駄な作業を怖がらず、実験として進めていくことが重要だと思います。
もう一つは、今の話ともつながりますが、昔ゲームのデザインをしていた時の経験です。私は背景デザインをしながら、レベルデザインも担当していました。
例えば、自然物の岩の中にキャラクターがいるシーンを作り、良い角度を探してスクリーンショットを撮り、それをベースに背景デザインを進める、といった作業です。その時に気づいたのは、「どんな角度が良いのか」を最初から決めて、3Dのレベルデザインをその図に合わせて再現するのではない、ということでした。順番は逆なのです。
当時使っていたのはUnreal Engineで、まず上から見た視点で岩を基盤のようにきれいに配置し、平面図として満足できる状態を作ります。そこで一度整えてから、今度は人間視点、第一人称視点で確認すると、不思議とどの角度から見ても全体がきれいになっていました。つまり、最初の計画の順番が大事だということです。
例えば一つの角度で悩んだら、角度を変えてみます。その角度で一度完璧にしてみると、別の角度に戻った時にヒントが出ることがあります。結果的に自然にきれいになる場合もあります。だから心配しすぎず、とにかく進めてみましょう。自分の手を信じて、音楽を聴きながら自由にやってみると、最後には答えが自分の中から出てくると思います。
Q2. 自分の絵画スタイルの確立が難しいです。スタイルをどうやって築いたのか教えてもらえますか?
造形をする方も、絵を描く方も、同じ悩みを持っていると思います。世の中にはたくさんの作品があり、それぞれにスタイルがあります。では、自分のスタイルをどう見つければいいのでしょうか。
私が思うのは、スタイルはプログラムのように設計して作るものではなく、自然に出てくるものだということです。例えばAIを例にすると、「この人のスタイルはこれ」「あの人のスタイルはこれ」と分解して、そこから「線はどう流すか」「彩度を何パーセントにするか」といった要素を混ぜ合わせることはできます。
でも、その考え方を続けると、ずっと他人のものを見て、「この人3%」、「あの人の5%」と集めていくことになります。それはAI的なやり方です。AIになっても仕事はできるかもしれませんが、そこから本当に新しいものは生まれにくいと考えています。
自分の中には、すでにDNAのように元となるものがあるはずで、それを掘り出す必要があります。だから結果ばかりを見て他人と比較し続けると、上手い人が多い分、見れば見るほど自信をなくしてしまいます。
だったらいっそ諦めて、とにかくやってみて、楽しくなるまで続けてみましょう。「結果がどうなるか」、「他人がどうやったか」、「このやり方が正しいか」を考えすぎず、まずは面白いことをやり続けてみてください。
楽しく続けていれば、必ず良いものが出ます。それが良いか悪いかは、最終的には自分だけのものです。スタイルという意味では、それが一番良い方法だと思います。
Gさんの作品

Gさんはとても勉強熱心な方で、4、5点ほど作品を提出してくれました。その中でも、特に二つの作品に共通する悩みがあると感じました。
一つ目が、「制作を始めてから7割ほど完成した段階で作業が停滞してしまい、最後まで仕上げる前に微調整ばかりを繰り返してしまう。その結果、ほとんど進展がない状態になってしまう」、という点です。ご本人としては、その原因を自分の力不足ではないかと感じているとのことでした。
また、「Entei氏のように複数の要素を組み合わせる時に、どのように全体像を考えればよいのかが分からず、自由な創造をするためのアドバイスやヒントが欲しい」、という相談もありました。
一つ目の作品は、キャラクター像に象や孔雀のモチーフを組み合わせたもので、二つ目はふわふわとした哺乳類の頭部や四肢の先端をモチーフにした作品です。
一つ目の作品

まずは、Gさんが送ってくださった作品を見ていきます。この方が何を表現したいのかを、キーワードで整理してみました。
サリーはインドの民族衣装で、そこには火の要素が含まれています。インド風の世界観、宗教的なイメージ、インドのダンスの躍動感も入れたいのかもしれません。さらに、象と孔雀という動物モチーフもあります。

私はゼロから想像で作るよりも、まず実際の動物写真から学びたいタイプなので、これらのキーワードをもとにリファレンスを探しました。
象やインドの模様、インド系の装飾が施された像はどのようなビジュアルなのか。そして、孔雀についても考えます。何の要素によって孔雀に見えるのか、また羽を閉じた状態を選ぶのか、それとも開いた状態を選ぶのかを考えました。
こうした点を自分の中でブレインストーミングしていきます。Gさんは3Dデータではなく、画像を多く送ってくださいました。そのため、今回は画像を中心に、スケッチで修正を行いました。

手がたくさんある表現から、仏教モチーフの可能性も感じられます。インドの民族衣装を着た女性なのか、それとも仏教的な多腕の表現なのか、装飾にはどんなデザインが使えそうか、髪飾りはどうかなど、さまざま考えていきます。
ダンスをするならどんな動きなのかなど、思いつく限りのことをできるだけリサーチします。すべてがそのまま使われるわけではありませんが、後で必ず役に立ちます。
鳥は孔雀だと分かりますが、象と孔雀をそのまま配置するだけでは、ただ動物が置かれているだけになり、説得力が弱くなります。そこで、他の要素をどう組み立てるかを考えます。例えば、孔雀のしっぽを火の表現に置き換えられないかというやり方です。象も、よりインドの像らしく装飾を加え、少しファンタジー要素を足してみるのはどうか、という発想になります。

さらに、インド神話に登場する鳥のイメージも調べました。孔雀に限らず、どんな色で、どんな形なのか、そしてインドの模様はどのように作られているのかを調べました。使うかどうかは別として、まずはすべてを材料として自分の中に整理します。

Gさんのデザインは、このような構成になっています。火の部分が赤く示されていて、上が鳥、下が象という構図です。

レンダリングすると、このようになります。かなり要素が多く、情報量の整理が重要なポイントになります。
一目見て気になったのは、要素が多いため、それぞれの動物モチーフの形が少し読み取りづらい点です。孔雀としての特徴的な形が十分に出ていないこと、象も背後の火と重なってしまい、耳や牙の余白が足りないように感じました。
別の角度から見ると分かる部分もあるかもしれませんが、決まりの一枚として見ると、認識性がやや弱い印象です。また、かなりファンタジー寄りで、勢いのあるシーンを作りたい意図も感じられました。
ただし、抽象度が高くなりすぎると、世界観が弱くなります。私の場合、火や服、髪といった形のない要素は、すべて最後に置きます。これらは明確な形がないため、全体を決めた後、構図を調整するための要素として使います。

また、流れがありそうな要素は多いものの、実際には動きが形として落とし込まれていません。「主観的にこう動いている」という感覚が、まだ造形に反映されていない状態です。
もしインドの要素を選ぶのであれば、もっと強くインドらしさを入れても良いと思います。鳥や装飾、服、ダンス、顔つきなど、すべてを濃く統一することで、世界観に一貫性が生まれます。そのうえで、造形とポーズにもっとメリハリが欲しいと感じました。
ポーズは動きを決め、シルエットを決めるものです。シルエットが整理されると、一瞬で何の動物なのかが分かります。

画像を少しだけ調整しました。分かりやすく言うと、後ろの火の形を丸くしています。以前紹介した森の動物たちの例と同じ考え方です。後ろ側が一つの完成した形になることで、視線をディテールのある部分に集中させることができます。
後ろまで凸凹していると、どこを見ればいいのか分からなくなります。ディテールのある部分とない部分のメリハリが重要です。

正面の全体構図をスケッチし、孔雀のしっぽが開いている場合と、閉じている場合の二パターンを作りました。これはMさんの作品のライトとリンゴの関係と似ています。この象は現在後ろにいますが、私なら前に出したいと考えます。
象の牙も後ろに収まっているため、もっと一瞬で象だと分かるシルエットに調整したいところです。

頭の中で、鳥、人間、象、火を整理し、それぞれのベストな組み合わせを考えます。理想的なのは、シンプルな線だけでも形がすぐに分かる構成です。その上に、少しだけディテールを足します。
シルエットが複雑すぎると、見る人は何を見ているのか分からなくなります。美しさだけでなく、情報を合理的に伝えるという点で、構図は非常に重要な役割を持っています。

Gさんの悩みを読んで、真面目に自分自身と向き合い続けている姿勢を感じ、少し感動しました。要素をすべてまとめると情報量が多くなりすぎる問題ですが、人の視線が常に動いていることへの意識が大事です。その視線を誘導するために必要なのが、メリハリやリズムです。情報整理で重要なのは、形だけでなく「モチーフの数」です。炎やサリー、宗教、象、孔雀がすでにあるなら、情報量を減らすためにモチーフを一つ減らすか、共通性を探します。
例えば、丸と四角があり、色も違えば情報量はさらに増えます。であれば、形は違っても色をそろえるという考え方です。先ほどのデザイン案で言えば、象の耳も火の表現に寄せられないか、鳥のしっぽを火にできないかなど、そうしてデザインの一貫性を作ります。
また、インドというキーワードがあるなら、服も装飾も鳥も、すべてインド的な要素で統一する。そうすると、見る側も自然に視線を流せるようになります。すべてを100%で表現すると疲れてしまいます。そのため、最初に表現したいこと、解決したい問題を整理し、それに役立たない要素は作らないようにします。必要な部分だけにしっかり時間をかけること、それが迷いを減らす方法です。
さらに、「ずっと同じ段階で悩むよりも、先に装飾や色を入れてみる」という進め方も有効です。入れてみることで、自分の中でも状況が分かりやすくなります。とりあえず作ってみて、新しい問題を見つけ、その制限を次のインスピレーションとして使うようにします。私はいつも、そうやって答えを探しています。
二つ目の作品

こちらはGさんの二つ目の作品です。正直に言うと、この作品については「ここを直した方がいい」と強く言う点はありません。すでにとてもきれいにまとまっていると感じました。
デザインとしては、哺乳類の頭部と四肢の先端を持ち、胴体は鳥やドラゴンのような毛と角質的な鱗が混在した質感になっています。そこに、トンボの羽と蝶の蛹殻を組み合わせたいという構想がありました。ただ、それらをどう融合させればよいのか分からず、手が止まってしまった、という悩みでした。
しかし実際に拝見すると、全体の形はすでによく整理されています。なので今回は、造形そのものではなく、デザイン面についてのみアドバイスをしました。
まずは、ここでもキーワードを整理します。「フワフワした哺乳類」、「鳥やドラゴンのような毛と角質の鱗」、「トンボの羽」、「蝶の蛹殻」と、これだけでも方向性はかなり多いです。柔らかいものと硬いものが混在していて、意図的な矛盾を含んだデザインになっています。
このデザインの一番難しいところは、最初から決まっている「矛盾した要素」をどう調和させるか、という点です。ただし、うまく調和できれば、それ自体がファンタジークリーチャーとしての大きな魅力になります。第一印象では全体が非常によく整っているため、特にシルエットに関しては、直した方がいい点はありませんでした。
そこで焦点になるのは、デザインとしての説得力、つまり「生き物としてどう見せるか」という部分です。私がこのようなデザインを考える場合は、必ずリサーチをします。ドラゴンは一般的に大きい存在として認識されています。一方で、蝶やトンボはとても小さい生き物です。では、このクリーチャーは実際にどれくらいの大きさなのでしょうか。2mの生き物と、2cmの生き物では、質感も形もまったく変わってきます。
また、これはおそらく蛹の中から出てきた瞬間を表現しているのだと思います。そうであれば、その前の段階も考えてみます。どこから出てきたのか、そして最初に破れる場所はどこなのか。また、破れる前はどんな状態だったのか、そもそもこの生き物が蛹になる前はどんな姿だったのか、などを考えていきます。
そうした前後のストーリーを一度、頭の中で整理します。そして必要な資料を集め、勉強してからもう一度デザインを見直すと、まったく違った見え方になっていきます。

これは蛹の参考画像ですが、現実の生き物でも非常に不思議な形をしたものがたくさんあります。そして、確かに少しドラゴンのように見える形もあります。これは、ドラゴン要素とのつながりとして、とても良いポイントです。昆虫は質感が硬く、尖った部分も多いので、ドラゴンのパーツとして転用できそうな要素が多くあります。

では、虫の「フワフワ」について考えます。大型の蝶ではなく、蛾を見てみると、先ほどのドラゴンっぽい虫に近いものがすでに現実に存在しています。無理に想像で作るより、こうした実在の生き物から学んだ方が早い場合も多いです。

それから、モデルについてです。モデルを見ると、少し不安定に感じる部分がありましたが、実際に調べてみると、そういう構造を持つ生き物も存在します。では、それが成立している理由と、その素材について調べます。
そう考えていくと、最初は完璧な形だったのか、どこから破れていくのか、といったプロセスを頭の中で整理したくなります。たくさんの要素を入れたい時は、「きれいかどうか」よりも、まずクリーチャーデザインとしての説得力を優先します。虫の要素もあり、さまざまなモチーフがありますが、一つの言葉でまとめるとしたら、これはやはりドラゴンです。
どれだけ虫に似ていても、「最終的に見る人に与えたいメインのイメージはドラゴンである」という優先順位を決めます。私自身、好奇心がとても強いタイプなので、「なぜこれが付いているのか」「これはどんな質感なのか」「他にはどんな種類があるのか」「子供の頃はどうだったのか」「成長したらどうなるのか」と、次々に疑問が出てきます。そこから調べて、吸収していきます。それが、私がコンセプトアーティストを続けている理由の一つでもあります。
ずっと一人で家にこもって制作していると、新しいものが入ってきません。慣れた表現ばかりを繰り返してしまいます。一方で、仕事では他人からランダムに課題が与えられ、自分では選ばないテーマにも向き合うことになります。
その経験が、結果的に新しく勉強するきっかけになり、次のクリエイティブワークにも確実に活きていきます。

リサーチをする理由、それは「作品は氷山の一角だから」です。多くの人が目にするのは、完成したデザインという氷山の上の部分だけです。しかし、その下には、リサーチ、勉強、自分への問いかけ、知識といった、もっと大きな土台があります。
作品に直接映らない部分こそが、実は一番大切だと思っています。
ここからは、Gさんからの質問に答えていきます。
Gさんからの質問
Q1. 曲線ばかりで面のボリュームがなく、直線や面の造形が苦手で、そういった要素を避けてしまっている傾向があります。その克服について悩んでいます。

まず、曲線と面、そして立体は、本質的にはそこまで大きな違いがあるものではありません。例えば、一本だけ引かれたものは線ですが、その線が並べば面になります。デザイン画を描いたことがある方なら、この感覚は分かると思います。
線を使うこと自体はまったく悪くありません。問題になるのは、線の使い方が整理されているかどうかです。例えば、スケール感が曖昧なまま、方向性を意識せずにあちこちに曲線を入れてしまうと、一本一本の線はきれいでも、全体としては読めなくなってしまいます。だからこそ、整理が必要になります。
ここで言う整理とは、線を減らすことではなく、「情報量をコントロールすること」です。例えば、同じ角度や同じ流れを持つ線をそろえて入れると、それは自然と面として認識されます。
つまり、「線を使いたいから面が作れない」のではありません。線が好きなら、自由にたくさん使ってもいい。ただし、きちんと観察や研究をしたうえで、方向性を理解し、メリハリを意識して線を使うことが大切です。
Q2. 先生のスケッチ動画を見ながら一緒に練習していますが、自分のスケッチと先生のものとの差が大きく感じられます。スケッチで学んだことを造形に活かすことも、造形で得た経験をスケッチに活かすことも、なかなかできていません。アドバイスやヒントをいただきたいです。

これはGさんのスケッチです。陰影を使ったデッサン寄りのスケッチですが、正直に言って、もう十分上手だと思います。

こちらは別の作品です。これは完成した作品ですが、全体のスキルはすでにかなり高いです。曲線も多く使われていますし、最後に透明な素材を取り入れていることで、重いボリューム感が適度に抜け、バランスよくまとまっています。
大きな曲線の中に小さな曲線を入れ、自分なりのスタイルもすでに感じられます。とても良い作品だと思います。アドバイスとしては、「このやり方で、今すぐ結果が出なくてもまったく問題ない」ということです。続けていれば大丈夫です。
絵や創作の良いところは、努力を続ければ、多くの人がきちんと結果を出せる分野だという点です。世の中には、才能の比重があまりにも大きく、どれだけ頑張っても前に進みにくい分野もありますが、スケッチや造形は違います。続ければ、ほとんどの人が確実に成長できます。
この方はとても真面目で優秀だからこそ、焦ってしまっているのだと思います。しかし、スケッチを特別な練習時間として構えるのではなく、日常の一部にしてしまうのが一番です。通勤中の電車の中や、リラックスしている時間に、ずっと描き続けます。トップクラスのイラストレーターでも、ずっと描き続けています。つまり、私たちの世代が手を止める理由はないということです。
正しい勉強方法と、やり続けるための辛抱さえあれば、気づかないうちに確実に進化しています。だから、焦らなくて大丈夫です。Gさんは海外でのゲームデザインの勉強や留学も考えているそうで、そうした相談をしてもらえたこと自体、とてもありがたいと感じました。
また、絵そのものの勉強だけが成長につながるわけではありません。この分野の仕事を直接していなくても、人としてこの世界をどう見ているか、その視点自体が作品に反映されます。自分が体験したことや感じたこと、会った人、食べたもの、読んだ本、そのすべてが最終的には作品につながっていきます。
私自身、この作品集の最後にも、少し恥ずかしいくらい個人的なことを書いています。普段読んでいる哲学書や国際政治の話、資本主義や共産主義、抽象的な概念も含めて、そうした「バランスの取り方」そのものが、制作にも強く影響しています。
複雑な問題と自然物、予測できるものと予測できないもの、コントロールできるものとできないもの、機械的なものとカオスなもの。そのバランスをどう取るかは、アートや政治だろうと本質的には同じです。
だからこそ、時々は自分とは違う分野の本を読んだり、海外に行ったり、新しい領域に触れることも大切です。それらすべてが、確実に成長の一部になっていくと思います。
連続して記事を読む
『MERCURY Entei Ryu造形作品集』発売記念セミナーレポート
●第一部:造形思想に基づく作品制作の舞台裏
https://www.too.com/dc/seminar/2601_mercury_enteiryu_seminar_report01/
●第二部:Entei先生による作品添削指導 ⇒今ここ!
●第三部:立体造形と他ジャンルのコラボレーション・質疑応答
https://www.too.com/dc/seminar/2601_mercury_enteiryu_seminar_report03/


