2025年8月15日(金)に開催された「『MERCURY Entei Ryu造形作品集』発売記念セミナー」より、イベントの内容を区切ってご紹介していきます。
第三部は、「立体造形と他ジャンルのコラボレーション・質疑応答」。どうぞご覧ください。
セッション概要
実力派コンセプトアーティストであり、コジマプロダクション所属のEntei Ryu氏が、初の造形作品集『MERCURY Entei Ryu造形作品集』の出版を記念して開催した特別セミナー。本記事では、映画やゲームの現場で培ってきた造形思想をもとに、3D造形作品のメイキングや制作の舞台裏を、本人の言葉で紐解いていきます。
作品そのものだけでなく、造形と造形の間に生まれる隙間や空間までも含めてデザインとして捉える考え方とは何か。実際の3Dデータを参照しながら、Entei Ryu氏ならではの「造形のコツ」と思考プロセスに迫ります。
イベント告知ページはこちら ⇒ 『MERCURY Entei Ryu造形作品集』発売記念セミナー
【主催】株式会社Too / アトリエコチ
【講師】Entei Ryu 氏
立体造形を活かした他ジャンルとのクロスオーバー作品の紹介
昨年はいろいろなことを試しました。先ほどもお話ししましたが、慣れていることだけを続けていると、その刺激にも慣れてしまい、成長を実感しにくくなります。
私はもともとイラストレーターとして活動し、その後に造形を始めました。そこからさらに、何を試せば新しいインスピレーションにつながるのかを考えるようになりました。もし最初から最後まで絵だけを描いていたら、表現は見る人の視野、つまり平面の中に限定されてしまいます。
一方で、立体を作り始めると、単に「ものを作る」というだけでなく、「作っている自分自身」も変わっていく感覚があります。私が欲しかったのは、まさにその変化でした。
立体的に考えるということは、絵よりもさらに情報量が多くなります。その分、よりダイナミックになり、情報整理の考え方が重要になります。感覚としては、目が二つから三つになったような、新しい言語を学んだような感覚です。
よく例え話として出すのが、エスキモーの人たちは雪を表す言葉をたくさん持っている、という話です。それは、生活している環境がまったく違うからです。創作も同じで、やったことがない分野には、そもそも知らないことがたくさんあります。それを知ったうえで同じ表現をしても、結果はまったく違うものになります。
立体を経験した人が描く絵と、立体をやったことがない人が描く絵は、やはり違うものになります。こうした考えから、アニメーションと漫画にも少しずつ挑戦し始めました。漫画は、昨年の7月頃から描き始めています。

一般的には、まず漫画を描き、それを立体化してグッズにする流れが多いと思います。しかし私は逆で、キャラクターをまず立体でデザインし、その後に絵にしました。展示の際に、この二人のキャラクターを初めて出したのですが、皆さんからとても良い反応をいただきました。特に米山さんがすぐに「男の子だ」と気づいてくれたのが印象的でした。
そこから、皆さんのフィードバックに刺激を受けて、この二人のストーリーを作り始めました。スタイルとしては、ピュアな日本漫画も好きですが、バンド・デシネも好きなので、その中間のような表現ができたらいいなと思っています。
ただ物語をナレーションするだけではなく、絵としても完成度の高いものを、時間をかけて自分なりの漫画として描いていきたいと考えています。今日は造形と3Dの話がメインなので、制作途中の画像をいくつかお見せしていきます。

このキャラクターを造形した時、銃は簡単に作っていました。特に特徴もなく、あまり考えていなかった部分です。
ところが漫画を描き始めると、しっかり作り込まなければいけないと感じました。漫画では、さまざまなクローズアップや描写が必要になるからです。そこで、仕上げるべき部分はきちんと仕上げることにしました。

銃にはストーリー性を持たせるため、名前を刻んでいます。全体の世界観は1920年頃、あるいは18世紀くらいの雰囲気を意識しているので、銃自体も少しヴィンテージ感や、古いレトロな印象を持たせたデザインにしています。

必要な部分も一つずつチェックしていきます。例えば、銃を持つならベルトが必要ではないか、といった具合です。これはおそらくフランスのものだと思いますが、正直、私は詳しくありません。
ただ分からないからこそ、こうしたものを作ることが勉強のきっかけになります。これを作らなければ、そもそも調べようとも思いません。そこまで含めて、最初から狙っている部分でもあります。

こちらは追加でデザインした銃などのパーツで、こちらがメインの武器です。キャラクターデザインを進めながら、必要に応じて追加しています。
漫画を10ページほど描いていると、途中で銃が出てきて、「これちゃんとデザインしていなかったな」と気づくことがあります。そうした時に追加する。もし今後、別のアイテムや描写が必要になれば、またその都度デザインを足していきます。
このように、立体と絵を分けて考えるのではなく、表現のために両方を行き来しながらデザインしています。

これは漫画を描くために作った3Dモデルで、Blenderで制作しています。正直、漫画を描くだけなら、ここまで細かく作る必要はありません。
ただ、制作中に考えたのが、「もし将来アニメーションを作ることになったら、あるいは誰かがこの世界観でゲームを作りたいと思ったらこのままアセットとして渡せる」、という点です。そう考えると無駄にはならないと思い、ある程度作り込んでいます。
漫画に3Dを使うメリットとして大きいのは、イラストレーションと違い、角度が固定されないことです。私はネームを描く前に、まず3Dでシーンを作り始めます。このシーンの背景は何なのか、この舞台はどんな場所なのかなど、ナレーションを意識しながらまずデザインとして空間を作ります。
その空間にキャラクターを自然に配置すると、次に「どの角度で切り取るか」「このナレーションにとって自然なカメラはどこか」という判断がしやすくなります。これは、一般的な漫画制作の順番とは少し違います。持っているスキルや得意分野によって、制作プロセスは人それぞれ変わりますし、それが最終的な表現にも影響します。
より自由な角度で切り取れたり、映画のようなカメラワークを意識できるのも、3Dを使う利点です。

こちらがネームです。本当にラフな状態で、昨年の7月頃に2日ほどで一気に描いたものです。ただ、デザイン自体は短時間で終わることもあれば、長くかけることもあります。
普段は仕事があるので、漫画に多くの時間を割くことはできません。そのため、すぐに発表したいというよりも、その過程で「自分にしかできない面白いワークフローが作れないか」を考えながら、気分転換としてゆっくり進めています。
結果として、1年経ってもまだ1話は完成していませんが、確実に前には進んでいます。今年中に、1話くらいは発表したいと思っています。

次に、アニメーションについてです。こちらは、正直に言うと、まだ作品と呼べるものはありません。私はアニメーションに関しては完全に初心者なので、勉強のためにいろいろ試している段階です。
私は普段からラフモデルを作る習慣があるので、コンセプトアーティストとして仕事をする場合、絵だけを描くよりも、ラフな3Dモデルを一緒に渡した方が、やり取りの時間を大きく短縮できます。3Dの方に渡す時点で、キャラクターのニュアンスやシルエット、動きまで含めて、一つの形として共有できるからです。
もしアニメーションができるようになったら、仕事にどう活かせるのか、という視点でも考えています。例えばモンスターの場合、見たことのない動きをするクリーチャーをどう表現するのかなどです。
コンセプトアートの段階で、デザインと同時に動きも考え、ラフな形でリーディングやテンポを作っておきます。それをアニメーターに渡せたら役に立つと思い、そのようにしています。

まず簡単に説明します。右側にある一枚の絵は、『DEATH STRANDING2』のバイナルレコード用に描いたカバーです。このカバーを制作する際は、あくまで絵のための立体として、とてもラフな状態で造形を作っていました。
その後、立体として提出し、さらに時間に余裕ができた段階で、ゆっくりとこの造形を仕上げ、最終的にこの形として世に出すことができました。DEATH STRANDINGの世界には、虫のような生き物が登場しますが、1から2にかけて、さらに進化した形が登場しています。そこには明確な進化の関係性があります。

その関係性に対して私自身も強い好奇心を持ち、この二つのクリーチャーが、普通の芋虫のような存在から蝶へと、どのように進化していくのかを考え、立体で進化図を作っていました。
DEATH STRANDING1に登場した形はこのあたりで、2になると画像のような形へと変化しています。ただ、実はこれらはもともと海のクリーチャーで、バクテリアのような存在です。つまり、元の生き物はまったく別物で、サイズも生態もまったく違います。では、そこからどうやって進化していくのか。その過程を考え、立体でアニメーションを作っていました。これを制作していたのが7月頃です。
なぜこれを作ったのかというと、バイナルレコードの中、ディスクの盤面にはゾートロープのアニメーションが入っています。ある日突然、小島さんから「バイナルのディスクの中にゾートロープを入れたら面白いのではないか」というメールをいただきました。
その時、ちょうどアニメーションを遊びとして触っていた時期でもありました。そこで、このクリーチャーの進化図をゾートロープとして表現してみようと思い、自分でアニメーションを制作しました。最終的には、盤面として成立する形にまとめています。
もし過去の自分が、目的もなくアニメーションの勉強をしていなかったら、こうした仕事にすぐ対応することはできなかったと思います。だからこそ、いろいろ試してきて本当に良かったと感じています。これは新しい試みとして、確実に自分の糧になりました。

特別なことをやろうと思っていたわけではありません。単純に、歩きのアニメーションを作ってみたいと思っただけです。会社のアニメーション担当の方からは「新しいね」と言われましたが、私は本当に普通に歩くアニメーションを作りたかっただけです。

走るアニメーションも作っていました。

どれも少し変な歩き方ですが、走りは自分の中では自信作です。なぜか片手のリギングが動かなくなってしまいましたが、わざとではありません。本当に普通に走るアニメーションを作りたかっただけです。
その後、シンプルな形で基本的な全身の動きを確認しました。どれもおおよそ1時間から2時間程度で作っています。仕事が忙しく、作品として仕上げる時間は取れないので、こうした形で短時間のテストとして制作しています。

これまでスケッチをしてきた流れもあって、アニメーション用のスケッチも試していました。
これをアニメーションクロッキーとして使い、それを参考にしながら3Dを作っています。もう少し仕上げられて、素材まで付けられたら、さらに良い形になると思いますが、あくまで自分だけで見るテストや遊びとしての制作です。
ただ、アニメーションは立体の上に、さらに多くのコントロール要素が加わります。例えば服を追加するだけでも、作業量はフレーム数分だけ一気に増えます。もし将来、本格的にアニメーション制作ができるようになったら、頭の中のワークフローや、物事に対する情報の読み取り方も大きく変わると思います。

これは、普段から触っていて、現在も勉強しているBlenderのジオメトリノードです。
以前はノード系といえばグラスホッパーを使っていて、建築分野では当たり前のツールでした。そこで代わりになるものを探していて、ジオメトリノードにたどり着きました。最近は、ジオメトリノードを中心に深く勉強しています。
Procreateの事例

こちらは最初、Procreateから仕事の依頼をいただいたことがきっかけでした。Procreateは皆さんご存知の通り、絵を描くためのツールです。今回の依頼内容は、新しいバージョンで「3Dの上に直接ペイントできる機能」が追加されるため、その機能をユーザーにデモとして見せられる作品を作ってほしい、というものでした。
ただし、完全にこの仕事のためだけに考えたアイデアではありません。もともと、こういうものを作ってみたいというアイデアは、ずっと頭の中やメモ帳に溜めています。今も、あれを作りたい、これも作りたいというアイデアがたくさんあります。
そこに仕事が来た時、この企画に使えそうだと思えば、自分がやりたいことを入れます。もちろん、クライアントが求めているものも入れるのは大前提です。さらに、まだ試していないこと、やったら勉強になりそうなことも含めて、PureRefの中でキーワードとして整理し、すべてを混ぜ合わせて一つの作品にしています。
よく「どうしてそんなに早く作品を作れるのですか」と聞かれますが、理由は単純で、無駄が嫌いだからです。できるだけ無駄を出さないように、すべての制作をつなげています。

正直に言うと、当時Procreate側が一番求めていたのは、こういうシンプルなモデルだったのかもしれません。誰でもすぐ触れて、3Dの上に自由に描ける、非常にシンプルなモデルです。

これは、制作途中でProcreateのスタッフとやり取りしていた時のものです。
相手はオーストラリアの会社で、社内には中国語を話すスタッフもいます。担当者が変わると使われる言語も変わるので、コミュニケーションも少しずつニュアンスが変わっていきます。向こうが求めていたのは、流れが感じられるもの、立体として魅力が伝わるものです。

これは、もっと前に作っていた別の作品です。このような雰囲気のものができたらいいな、というイメージを持っていました。この時点で、エフェクトや服の動き、風を感じる表現などは、頭の中で大まかに決まっていました。

最終的に完成したモデルは、このような状態になりました。このデザインを選んだ理由は、最終的に3D上で見せる作品だからです。立体として出力することは、最初から考えていませんでした。
どうせデジタルだけで見せるのであれば、立体では実現できない表現を、あえて積極的に入れたいと思いました。例えば、散らばる花びらや、浮いているキャラクターです。花も、実際に立体として出力しようとするとかなり複雑になります。だから逆に、デジタルだからこそできる、極端に細かい表現や、空中に浮かぶ要素を思い切って入れています。
ペイント機能を活かす前提で、この服装を選びました。着物の要素を取り入れたのは、塗れる面積が広く、ユーザーが自由に遊べる余地を作りたかったからです。

この面積があることで、ユーザーは自由にペイントできます。例えば顔を描き替えてもいいし、サンプルファイルとして配布した時に、自由に遊べるキャンバスのような存在にしたいと考えました。そのため、服の面積が広いデザインにしています。

これは色が決まった段階のスクリーンショットです。今回のProcreateのアップデートでは、色だけでなく、艶や反射率、メタル系のパラメーターも調整できるようになりました。そこで、あえて変化を多くし、サンプルとして分かりやすいテクスチャーを設定しています。

服の模様にも花のモチーフを使っています。花びらのように配置することで、絵なのか立体なのか分からない曖昧さを作りたかった。服の上にも絵があり、鹿の模様の中にも花が描かれているような、境界を越えるデザインを目指しました。

これはデジタルで見せる作品なので、どの角度から回しても、躍動感と美しい曲線が感じられるよう意識しています。やり方自体は、先ほどのMさんの事例と変わりません。ただ、完成度を上げるには、やはりもっと時間が必要です。

個人的に特に気にしているのは、キャラクターのコンディションです。
顔の表情はもちろんですが、鹿やバンビの表情も含めて、まず表情をしっかり作り込みます。そこから雰囲気や力、風や動きが自然につながっていきます。人はどうしても顔から感情を読み取るので、そこが制作の起点になります。

感情は、モノを作るモチベーションにもなります。会話できそうなキャラクターは、ただの作業対象ではなく、命を与えている感覚になります。
花びらが飛んでいるのも、デジタルで見せる理由の一つです。カメラを回すと、花びらが近づいたり遠ざかったりして、とてもダイナミックな表現になります。これはフィギュアのサイズでは実現できない感覚です。
デジタル造形と粘土造形の大きな違いは、視野とパースです。ZBrushでスカルプトしている時のカメラ視点は、人間というより、蚊のような視点に近い。あちこちにカメラを置いて、自由に回しています。
だから、もし造形をプリントしたとしても、私の感覚では自由の女神くらいのスケールで作っています。写真撮影でパースを強めると、ZBrush上での感覚に近づきます。そうしないと、サイズ感が変わってしまいます。
デジタルなら、近づいたらぼかすようなカメラ表現もできます。どの角度でも、遠近感のある面白い画が作れます。

これはデジタルディテールの話です。オオカミのマスクは、最初と後でデザインが変わっています。
Procreateのアートディレクターから、もう少し怖くない表現にしてほしいという要望がありました。個人的には最初の案も好きですが、ユーザー層には若い人や女性も多いので、最終的にはこちらの方が分かりやすいと判断しました。
細かい部分ですが、私にとっては手や足も重要です。人は自然と顔を見ますが、造形的には、どこでも顔になります。指先の開き方や力の入り具合、首の角度、足指の緊張感などの部分にストーリーを込めるのが好きですし、クオリティの差もそこに出ます。
最初は、日本風の少女が弓を持つ設定でした。ただ、一般向けの作品として、暴力的な表現は避けたいという理由から、花を放つ表現に変更しました。このように、制限は時に良いアイデアになります。制限があるからこそ、作品は特別でユニークになります。
仕事でも展示でも同じです。制限が来た時に「作れない」と考えるのではなく、マイナスを強みに変える意識が大切だと思っています。
今回の作品展示でも、最初はもっと広い空間を想定していました。しかし、実際には想定より小さい空間だった。では、この空間だからこそできることは何か。そこから今回のテーマが生まれました。
広い空間では逆にできない、濃密で自然な造形の部屋。それは制限があったからこそ生まれたものです。展示でも仕事でも、常にポジティブに考えるようにしています。
連続して記事を読む
『MERCURY Entei Ryu造形作品集』発売記念セミナーレポート
●第一部:造形思想に基づく作品制作の舞台裏
https://www.too.com/dc/seminar/2601_mercury_enteiryu_seminar_report01/
●第二部:Entei先生による作品添削指導
https://www.too.com/dc/seminar/2601_mercury_enteiryu_seminar_report02/
●第三部:立体造形と他ジャンルのコラボレーション・質疑応答 ⇒今ここ!


