あにつく2022レポート | 絵コンテセッション(第4弾:小松田 大全監督&水島 精二監督)

9月23日(木)から9月25日(日)で開催された「あにつく2022オンライン」より、Day3の「絵コンテセッション」のイベント内容をご紹介します。


ウェビナー概要

絵コンテセッション

毎回大好評の小松田監督による「絵コンテ」セッション第4弾。
今年はゲストに「D4DJ First Mix」オリジナルアニメ映画『フラ・フラダンス』の水島精二監督をお迎えし「設計図を現場にロスなく届ける」方法をお伺いします。
明日から使えるノウハウ、監督たちも愛読する参考図書なども紹介します。

 主催 :株式会社Too
 協賛 :オートデスク株式会社
 講師 :小松田 大全 氏
     水島 精二 氏


登壇者紹介

瓶子:
モデレーターを務めるのは私、株式会社サンジゲン(以下、サンジゲン)の瓶子修一(へいし しゅういち)です。今回は、アニメ監督の小松田大全さんと水島清二さんに絵コンテについてお話を聞いていきます。よろしくお願いいたします。

小松田 大全 監督

小松田 大全 監督

1973年埼玉県生まれ。
アニメーター・アニメーション監督。
1998年プロダクションI.Gにて動画からキャリアをスタート。

代表作

「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」(副監督)
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」(副監督)
「かぐや姫の物語」(作画)
「ブブキ・ブランキ」(監督)
「ブブキ・ブランキ 星の巨人」(監督)
「プロメア」(原画・設定・絵コンテ)
「進撃の巨人」(絵コンテ)
「HELLO WORLD」(原画・デザイン)
「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」(副監督)


水島 精二 監督

水島 精二 監督

1966年東京都生まれ。
アニメーション監督/音楽プロデューサー
第15回アニメーション神戸 個人賞受賞

代表作

【映画】
「鋼の錬金術師 シャンバラを征く者」
「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」
「UN-GO episode:0 因果論」
「楽園追放 -Expelled from Paradise-」
「フラ•フラダンス」
「劇場版 ひらがな男子 序

【TVシリーズ】
「ジェネレイターガウル」
「地球防衛企業ダイ・ガード」
「シャーマンキング」
「鋼の錬金術師」
「機動戦士ガンダム00」
「UN-GO」
「夏色キセキ」
「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」
「うーさーのその日暮らし 夢幻編」
「D4DJ First Mix」

【音楽プロデュース】
 Photon Maiden
 岡本信彦
 吉河順央
 VOISCAPE

絵コンテの意図

瓶子:
早速、「絵コンテの意図」について話をしていきましょう。水島さんお願いします。

水島:
現在、サンジゲンで『D4DJ』という作品を作っていますが、3DCGには工程数やコストを明確化できるという特徴があります。そのため、なるべくトライアンドエラーを減らし、絵コンテに意図を込めながら細かいコメントも付けつつ、絵コンテを共通言語として描くことを意識しています。

瓶子:
サンジゲンで一緒にやっているD4DJもそうですし、1つ前の劇場作品は『フラ・フラダンス』ですよね。

水島:
私が絵コンテを手掛けたシーンでは演出と作画監督が組んで作ってくれたため、「絵コンテの意図」がしっかりと伝わったと思えた作品です。

瓶子:
フラ・フラダンスは、フラダンス以外のさまざまなことでも感動できる作品でしたね。

水島:
個人的にも挑戦したかった作品だったことに加えて、私が敬愛する周防正行監督や矢口史靖監督がやっているような「集団の青春物語」に本作品で挑戦できたという喜びもありました。私は冒頭シーンのオープニングまでの絵コンテを担当したのですが、演出の方がとてもいいつかみをやってくれました。冒頭を見るだけでも、作品にグッと引き込まれる出来になっています。

瓶子:
コンテには、必要な「要素」や「芝居」を指示していくことで「工数」や「実現性」などを測る必要があるということについて、水島さんから説明をお願いします。

水島:
工数という言葉は「費用対効果」とも言われていて、絵コンテで大変なシーンを実現するのに必要な力量と、それが効果的に演出できているかということを測るためのものです。無茶な依頼をし過ぎるとアニメーターから怒られてしまうため、大切なところだけに大変な作業を頼むようにする必要があります。その中で、それらの依頼をロスなく伝えるための方法を考えるべきだと思います。

私はコンテを描いた上に演出と監督もやっていたため、アニメーターに怒られる経験が多くありました。そういった経験を経て、次第に幅広く考えるようになったという感じですね。

絵コンテとロケーション

瓶子:
前回までの絵コンテセッションで、『プリキュア』や『ワンピース』の劇場版やテレビシリーズなどを作っている大塚隆史監督が、「ストーリーはセリフでは伝わらない。色と表情の方が伝わる。」ということを言われていました。

この時はロケーションの話をしていて、「シナリオ上で明確に天気が書いてなかったから絵コンテで曇りや雨にして、話とキャラクターの心情をシンクロさせる」という話をしていましたね。

小松田:
例として出たのが、『スマイルプリキュア!』の第19話「パパ、ありがとう!やよいのたからもの」で、雨の中での戦闘シーンのある回ですね。キュアピースである黄瀬やよいちゃんにフィーチャーした回で、キャラクターの心情の変化をロケーションや天候の変化によって丁寧に描いていくのがとても印象的で、好きなエピソードの1つです。大塚監督は監督としてシリーズ全体をコントロールしながら、各話の中でもしっかりと光るエピソードを作り上げる力がある方なんだと再認識しました。

配分を考える – 攻め回と守り回

瓶子:
「絵コンテセッション」では、監督の方を呼んでお話を聞くことが多いため、どうしても絵コンテの話だけに収まらずにシリーズ構成などの話にもなりがちです。大塚監督は、「配分を最初に考える」ということも言われていました。雨や水の中などの秒数が限られているシーンだと必然的にできることが絞られてくるため、迷うことも減るし大切にすべきことも分かるという話をしていました。

小松田:
荒木哲郎監督や大塚隆史監督が登壇した絵コンテセッションでは、「監督という立場から、全体のシリーズ構成や各話の絵コンテをどう考えるか」という話も多かったですね。

一方で、本セミナーを見ている方達が監督なりたいと思った場合でも、まず最初に挑戦することになるのは各話の絵コンテや演出になると思います。例えばTVシリーズで12話数の中の1本を任された時には、自分の任された1本の意味をしっかりと理解して、要求されていることに的確に応えないといけません。いわゆる「木を見て森を見ず」にならないように気を付ける必要があるということです。監督経験が無い段階で全体把握を求められるのは難しいことですが、そういったことも考えながら絵コンテを製作して欲しいと思います。

水島:
実際のところ、各話の絵コンテをやった上で良いところをプロデューサーに見つけてもらい、監督に起用されるパターンが多いと思います。私たちの世代が監督になってから集まった時に、全員の中で「当時は他の回に勝つことしか考えていなかった」という共通見解がありました。

私の場合も、他の回を制作している演出がいる中で、自分に与えられた回の意味合いを目立たせる絵コンテを描き続けていたら監督になっていました。「他の回のコンテマンを全部倒す」くらいの気持ちを持っていた人達が、現在監督になっているのかなと思います。

瓶子:
荒木監督が『進撃の巨人』の話で言われていたのは、「攻め回」と「守り回」を決めているということでした。アクションが派手な回に対して、話を進める回には作画的なコストをかけないという工夫があったそうです。以前、小松田さんは攻め回を担当したいのに、守り回の担当になることが多いと聞いたのですが、それはどうしてだと思いますか?

小松田:
私としては攻め回を担当したいけど、実際にはなぜか守り回を任されることが多いんですね。進撃の巨人で荒木監督から任されたのも、主人公が初めて海を見るという回でした。「小松田さんならしっとりした芝居を描けるから」という評価からの割り振りだったそうで、とても光栄だと思うと同時に(以前振っていただいたのもしっとりした回だったので)バリバリのアクション回もやりたい!というアンビバレンスな気持ちになりました(笑)。

瓶子:
それはこのセッションを聞いている人たちに対して言い換えると、「絵コンテのポートフォリオを用意する時は、自分の描きたいものを用意した方がいい」ということですかね。

小松田:
はい。ポートフォリオには、自分の好きなスタイルを明確に打ち出した方がいいです。なぜなら、他の人から仕事を振られる場合に、自分のやりたいこととズレることがあるからです。先ほど例に出した私のケースでは、アクションもしっとりした芝居も両方好きなので問題無いのですが、仮に振られた仕事が自分の苦手なことだと苦しくなってしまいます。そのため、好きなものがあれば「これが好きです」と身の回りの人に言葉にして伝えたり、ポートフォリオもストックしておくべきだと思います。

リソースを何に使うのか

瓶子:
また、荒木監督は使える人材や時間などの「リソースを何に使うか」という話もしていました。現場での予算は限られてるため、リソースの使い方は重要ということでした。

ここからは、お話の中でキラーワードとして出た「連続性を断ったコンテ」について、水島さんに説明をお願いします。

水島:
「連続性を断つコンテ」は、「編集で見せるコンテ」とも言い換えられると思います。1人のキャラクターを描写するにしても、動き出したカットの次は背中側からカメラにフレームインするカットにしてわざと時間的な跳躍を作り、構図をつなげないことでテンポ感を上げるなどの工夫をしています。

また複数人の会話のシーンの場合、フレームの中にキャラクター全員入れてしまうと各キャラクターの管理が大変になってしまいます。その際は最初の段階で喋っているキャラクターに効率よくカメラが来るように配置して、わざと連続して同一のキャラクターを追いかけないようにしています。そうすることで、会話のテンポ感やドライブ感に重きを置くことができます。

私としては、「連続性を断つコンテ」はコスト管理の面でもテレビアニメに向いていると思います。(映画に向かない理由としては)映画の場合では大きい画面に対してバストアップの絵ばかりになってしまい、緩急を考える必要があるためです。

1CUTに込める意図は1つ

瓶子:
こちらの項目は小松田さんから説明していただきます。

小松田:
絵コンテを描く際に、それぞれのカットの存在意義を考えることがあると思います。基本的に、ある特定の情報を視聴者に伝えることがそのカットの存在意義です。例えば女の子が朝寝坊をしたというシチュエーションで、現在時刻を伝えるために時計を映したのだとしたら、そのカットには「今、何時なのか」という情報を確実に伝える意図が込められています。そのカットで伝えるべき情報を確実に視聴者に伝えるために、絵コンテも設計する必要があります。

以前、『エヴァンゲリヲン新劇場版:破』の絵コンテを担当した際に、2号機が空中を飛んで来たボウガンを受け止めて、さらにそのボウガンを構え、敵を狙って撃つという内容を1カットで作ったことがありました。その時、鶴巻和哉監督から、「小松田君の作るカットには3つの情報が込められてるけど、1カットでそれを全て達成するのは難しくない?」と言われてしまいました。

言われた通り、そのカットには「空中をボウガンが飛んでくる」、「2号機がボウガンを受け止める」、「2号機が狙いをつけてボウガンを打つ」という3つの要素が1カットに含まれていました。仮に自分がアニメーターとしてこのカットを担当した場合、3つの要素を芝居として描くのはとても大変ですし、何より3つの情報が確実に伝わるように描くことはとても難しいと思います。「伝えるべき情報が3つあるならば、3カットに分けてやる」ということに気付かされた出来事でした。

瓶子:
今の小松田さんの話を聞いて、水島さんはどう思いましたか。

水島:
確かに、1カットに1つの意図を込めるのは原則的に、かつ視聴者が理解しやすくするためにもとても大事だと思います。ただ個人的にはたくさんあった情報がもったいないと思うところもあって、1カット1要素を達成できた段階で、次は1カットに2つの要素を入れることに挑戦してもいいのかなと思います。

もちろん、散漫なレイアウトだと伝えることが難しいため、分かりやすく見せるための工夫が必要です。嫌がるアニメーターがいるということも知っておくべきですしね。私も昔、2つ以上の意図を込めたカットを作って怒られたことがありました。

連続性のあるコンテ

瓶子:
さきほどの「連続性を絶つコンテ」と対になる、「連続性のあるコンテ」とは具体的にはどういうものでしょうか。

小松田:
「連続性のあるコンテ」では、キャラクターの傍に自分が立っているような臨場感を味わうことができます。ここでは高畑勲監督作品の『赤毛のアン』の第1話、初めてグリーンゲイブルズに来たアンが、駅で迎えの人を待っているシーンを例にします。このシーンでは、アンが左に顔を向けると、カメラもアンの見ている視線の先にある風景をじっくり映すことで、アンと同じ空間と時間を体感することができます。アニメーションの世界の中の10秒と、それを見ている視聴者の実際の10秒を一致させることは、連続性のあるコンテの特徴だと思います。

水島:
キャラクターの気持ちを切らずに、被写体をカメラで追いかけるという手法ですね。この手法は、カットの作り方が的確でないと効果的に使うことが難しいです。理屈が分かっていないと、ただカメラに複数人がずっと収まっているだけの状態になってしまいます。その場合だとただ要素が多くなってしまうだけため、センスが必要な作り方だと思います。

瓶子:
アニメじゃないですけど、三谷幸喜監督の劇場作品ではずっと繋がっているようなカットが多い印象があります。

水島:
私もそういった演出は好きなのですが、実際にアニメでやろうとすると大変です。1つの絵を失敗するだけでカットが繋がらないという事態も起こってしまうため、実写で役者の方が分かった上で演じているからこそできることだと思います。アニメではシーンを1つ挟むと作画担当が変わることも多いため、演出の方が対処しなければいけません。それを分かる演出にお願いできないと監督としても不安なため、やりたいと思っても難しいのが現実です。

瓶子:
効果的ではあるけども、HPやMPを膨大に消費する大技みたいなイメージですね。

小松田:
一方で、そういうことをエピソード単体でやっている作品を見ると、頑張っているなと思いますね。

連続性を断つコンテ

瓶子:
では、ここからは「連続性を断つコンテ」について説明をお願いします。

水島:
さきほども「連続性を断つコンテ」はテレビシリーズに向いているという話をしましたけど、そのコンテの究極形が、庵野監督がエヴァンゲリオンの時にやったBGオンリーのカットだと思います。センスのある人たちが作ったものをただ真似しても暗喩の部分が抜けて落ちてしまうことが多いため、いかにすごい技術かが分かります。BGオンリーだとしても、画面に映っている物には複数の裏の意図が込められてるわけですからね。

もう1つの究極形の例を挙げるならば、幾原邦彦監督の『少女革命ウテナ』だと思います。センスのある人達が映像の連続性を断つことで、コストのことも考えながらトーンやタイミングなどをコントロールをしていて、本当に痺れました。

瓶子:
確かに当時掴みづらかったものが「連続性を断つ」という言葉で分かりやすく言語化された感じもありましたね。

水島:
そこで、テレビシリーズを作るときのコストコントロールやアニメーターとの向き合い方などを学ぶことができました。

瓶子:
「連続性を断つコンテ」が見られる参考作品として、岡本喜八監督の『ブルークリスマス』を紹介します。こちらはAmazonで視聴可能ですので、興味がある方は見てみてください。

作品の中にある「会議が終わってホテルに入っていく」というシーンを見ると、時間の上手い抜き方を見ることができます。

小松田:
見ている時には時間が分断されてると思わなくて、むしろ連続してるようにも見えました。しかし、冷静に見返すとすごく時間が飛んでいるんですよね。このシーンを連続的にすると、タクシーを降りる芝居やフロントマンに話しかけるカットが出てくると思うんですけど、それらを全て切ることで連続しているかのように見せています。「時間を盗む」とよく言われるもので、不要なところを抜いてテンポよく見せている感じですね。

水島:
連続性を保っている上に、ジャンプショットの使い方もとても上手ですよね。時間が飛んでいるように感じないのは、岡本喜八監督の編集の上手さだと思います。私自身もこういった作品を見ながら時間の飛ばし方を学んでいきました。

小松田:
見ているだけだと意外と気付かないんですよね。特にアニメの絵コンテのように0から自分で描く場合は、意図的に学習しないと身に付かない技術だと思います。

影響を受けた作家のご紹介

水島監督が影響を受けた作家

瓶子:
ここからは、水島監督が影響を受けた作家を紹介してもらいます。ちなみに、上の画像の名前の並び順には何か意味があるのでしょうか?

水島:
これは影響を受けた順番ですね。1人目の実相寺昭雄監督は、子供の頃にウルトラマンを見て「なんだこれは」と思ったのが一番最初の衝撃でした。その後、演出をやり始めた頃に影響を受けたのが、塚本晋也監督と周防正行監督でした。塚本監督に関しては、「カットって繋がなくてもいいんだ」ということを教えてくれた最初の人でした。インディーズでやっているなどのさまざまな理由で潤沢にフィルムを回せないからこそ、編集ですごいことをやっている方という印象です。特に、『鉄男』という初期の作品での暴力的なカット繋ぎで「こんなことをやっていいんだ」という衝撃を覚え、それから塚本監督は好きで尊敬しています。

周防監督は、オーソドックスに『シコふんじゃった。』や『ファンシイダンス』などの作品が好きでした。作品のテーマを丁寧に深掘りしつつ脚本を描いていて、その上でコミカルで面白いという作り方に影響を受けました。市川崑監督は、エヴァンゲリオンでのテロップワークなどに代表される、その後の映像作品に大きな影響を与えた監督としてのスタイルや作家性に感銘を受けました。

そこから岡本喜八監督の作品を見て、編集や画作りの面で影響を受けました。今挙げた監督の作品を経て、今現在の私がいるという感じです。「それにしては普通じゃん」と思われるかもしれませんが、私はこの人達に勝る才能は無いと自覚しながらやっています。自分にはこの人達のようなセンスが無いと思ったからこそ、オーソドックスなことをやり続けているわけです。

これは個人的には結構大事なことで、ただの真似事とエッセンスを吸収できているのは違うと思っています。常に客観視しながら「本当にできているのか」や「デッドコピーになっていないか」などを自分で考えることが、技術の向上に繋がるのではないかと思います。

瓶子:
最初に話をした「フラ・フラダンス」も、主人公の体験を通じて視聴者にも内容を伝えていくという手法ですよね。

水島:
フラ・フラダンスの企画の話を聞いたときに、絶対その方法でやろうと思いました。

瓶子:
たくさんの方法をストックしていると、どの方法で作ればいいか想像しやすいということですね。

水島:
世の中には素晴らしい映画がたくさんあるから、見ておいた方がいいです。私は今でも参考になりそうだと思ったら片っ端から見るようにしています。

瓶子:
たくさんの作品を見ておくことによって、スタッフにも「この映画のこの部分を取り入れたい」という説明がしやすいというメリットもありますよね。

小松田監督が影響を受けた作家

瓶子:
次に、小松田監督が影響を受けた人について紹介をお願いします。

小松田:
水島さんが語られたように、「映像を作りたい」「映画監督になりたい」と思うような人は特に、色々な作品を頭の中に映像として蓄積しておくべきですよね。例えば、自分がコンテを担当する話の中に、病院で不治の病を伝えられる深刻なシチュエーションがあったとします。その時に、例えば私なら、黒澤明監督の『生きる』での病院内の長回しのカットがパッと思い浮かぶわけです。好きな監督の作品ですから、自然に頭の中で再生される。その頭の中の映像を参考に、自分だったらどういうコンテにしようかとカット割りを考え始めます。

自分の中で既にインプットされているものがあると参照しやすいと思います。私は、父親が黒澤監督が好きだった影響で、小さい頃から映画館によく連れて行かれました。子供の頃は意味も分からず見ていましたが、ある程度の年齢になると自分も黒澤映画が好きになって、『野良犬』などは大学生の時にビデオテープを一時停止しながら、全カットを絵コンテ形式にして描き写したりしていました。カット割りを簡単な画で描き起こしてみるのは、その映像のリズムがいかにして作られているかを分析するのに一番良い方法だと思っています。

2人目のキューブリック監督は『シャイニング』がとにかく好きで、「シャイニング」の凄さはレイアウトに暗示やメタファーがたくさん込められているところだと思います。広告写真を撮影するカメラマンとして仕事を始めたキューブリック監督のレイアウト力が、遺憾なく発揮されている映画だと思います。

3人目のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、『ブレードランナー2049』が本当に衝撃でした。作品の世界の中に入り、流れて行く時間を自分も体感する、ある種の理想のような映画でした。ロジャー・ディーキンスというアカデミー賞に何度もノミネート(「ブレードランナー2049」で撮影賞を初受賞)されている人がこの作品の撮影監督を務めているのですが、彼の画面作りの中でも、特に照明技術からは本当に多くのことを学びました。

アニメーションでも画面の色彩のコントロールや、照明を考える際に、実写の照明の技法を参考にすることが増えました。全てを0から作るアニメだからこそ、優れた実写映画を手がかりや参考にする余地もたくさんありますし、それもアニメ作りの面白さの1つだと思います。

絵コンテの参考資料のご紹介

瓶子:
ここからは、それぞれの監督にこれから絵コンテに挑戦する人が見ておいたほうがいい参考資料を紹介してもらいます。

小松田監督

小松田:
画像はさきほど私が紹介した「ブレードランナー2049」です。既に話をしてしまったため、代わりにハリウッド作品を見るときに参考にした本を紹介します。

ハリウッド白熱教室

こちらが『ハリウッド白熱教室』という、映画をシナリオやライティングなどの5つのテーマに分けて語っていたNHKの番組を教材として書籍化したものです。

水島:
南カリフォルニア大学という、優秀な映画監督をたくさん輩出してる大学のカリキュラムの要約なども載っていますよね。私も読んだことが無いから欲しい1冊です。

小松田:
照明を例に挙げると、「三点照明」という、照明が「キーライト」「フィルライト」「バックライト」の3つのライトで成り立っているという実写では当然の基礎知識も、手描きのアニメの現場ではあまり知られていません。3Dアニメの現場ではむしろ照明の概念は必須ですが、込められた演出意図に沿った映像を成立させるための固有のライティングについては、実写の照明について書かれた技術書などを実際に読んでみれば多くのヒントが得られると思います。

また、脚本一つを例にとっても、「プロットポイント」や「ミッドポイント」のような専門用語があって、アメリカでは大学の教育の現場でもハリウッドでも流通しているという背景があります。さまざまな文化圏や宗教を持った人達が集まるアメリカで映画を作るためには、多様性に富んだ背景を持つ人々同士の共通認識の土台が必要になり、専門用語や概念が発達して行ったのだと思います。ロジカルで合理的な道具は、われわれ日本の現場でもどんどん使っていくべきだと思います。

瓶子:
小松田さんがおすすめしてくれる書籍はいつも絶版気味なのですが、この「ハリウッド白熱教室」も今では手に入らないんですか?

小松田:
残念ながら、もう売ってないんですよ。でも比較的入手しやすいので、気になる方は探してみてください。

瓶子:
手に入るかは分かりませんが、興味がある方は検索してみてください。

水島監督

瓶子:
次に、水島さんから参考資料として作品を紹介してもらいます。

水島:
岡本喜八監督の『江分利満氏の優雅な生活』という作品で、YouTubeで300円で購入することができます。高度経済成長期のサラリーマン達の日常を描いたコミカルな作品で、岡本監督のレイアウト力や編集力がとても光っています。個人的な意見ですが、庵野監督なども岡本監督のこの辺の作品の影響を受けているのではないかと思います。

瓶子:
私も実際に見ましたが、冒頭の屋上でバレーボールをしているという昭和の感じがありながら、走っているシーンは明らかに自由演技ではないなど、カメリハをしないと絶対できないことをやっているんですよね。アニメだとタイムシートなどを使えばできると思いますが、それを実写でやっているのはすごいなと感じました。

水島:
江分利満氏と周辺の人達との温度感などもすごくよく出ているし、さきほど話に出た「1カットに複数の意図を込める」ということに関しても、センスのいい見せ方をモノクロ映画の頃からやっていたんだと思うと驚きですよね。

瓶子:
今は現場でモニターで画角を確認できて、録画される映像を見ながら撮影できますけど、当時はフィルムだからできないわけですよね。そういう意味では、役者の方の動きやカメラマンや照明の方の意図も汲んだ上で、際どいレイアウトが取れているのはすごい度胸だと思いました。そこからも、コミュニケーションツールとしての絵コンテの重要性が伝わりますよね。

水島:
実際は、そもそも絵コンテがあったのかも分からないわけですよ。岡本喜八監督は晩年、『イースト・ミーツ・ウエスト』のコンテ集を出していましたけど、絵コンテを見るとアニメの絵コンテとも全然違いますし、我々からすると何か書いてあるのかが分からないところも多いんですよね。あくまでも、共通言語として「こういう絵にしよう」ということをカメラマンなどの現場スタッフと摺り合わせていたのかなと思います。

まとめ

瓶子:
「優れたコンテとは」ということで、最初に小松田さんからまとめていただきたいと思います。

小松田監督

小松田:
「アイデアに満ちていて、シンプルで飽きさせないもの。」ですかね。庵野秀明監督の作家としての側面ばかりが語られることが多いと思うんですけど、個人的には一コンテマンとしてのアイデアやカットの繋ぎこそが、その真骨頂だと思っています。

一番分かりやすい例に、TVシリーズの『新世紀エヴァンゲリオン』第七話「人の造りしもの」があります。ラフな絵に込められた庵野監督の演出意図の純度が高くて、「何をこのカットで見せたいのか」「次のカットにどう繋ぎたいのか」など、映像を支配・コントールしようとする演出家としての庵野監督の強い意志を感じます。

実際にコンテを片手にして比較しながら映像を確認して行くと、「これで本当に繋がって見えるのか」と驚くくらいジャンプカットが多用されています。庵野監督の演出力、その設計図であるコンテを構築する腕力のようなものを一番体感できるという理由から、この第七話をおすすめします。本当に理想というか、最低の枚数で最高の効果を上げる凄みを感じます。

水島:
断続的な絵作りだけれども、全体を見るとしっかりと繋がっていますよね。フィルムの出来上がりも格好良くてシンプルだし、1カット1意図という点でもすごく徹底していて、素晴らしいの一言ですね。

水島監督

瓶子:
次に水島さん、よろしくお願いします。

水島:
絵コンテはそのあとの工程のスタッフとのコミュニケーションツールで、意図を明確に伝えるためのものです。また、受け取ったスタッフが絵コンテの段階で楽しんでくれることで、作品自体のクオリティや面白さが上がるということも自身の体験としてありました。また、中身が分からないまま絵コンテを描くとスタッフを混乱させてしまうため、まず全てしっかりと説明できるようになってから着手することを心掛けています。

また、ある程度の情報の取捨選択はコンテマンに任すこともあります。一定の自由度が無ければコンテマンも楽しくないと思いますし、シナリオの肝が分かっている実力のある人であればシナリオと変わっていてもOKを出しています。大事なパートを押さえてくれた上で面白くなっているのであれば、むしろ大歓迎という感じです。

Q&A

Q1.未経験者における絵コンテのポートフォリオとはどういったものでしょうか?

小松田:
昔、先輩から「自分でやりたいと思うシナリオをまずは1本見つけて絵コンテにする」ということを言われました。要は、30分を1本のフォーマットに落とし込んで人に見てもらうことは大事だということですね。私自身も、後輩の伊藤智彦監督に絵コンテを見せてもらった記憶があります。その時は、「伊藤君は既にこんなことをやっているのか」と衝撃を受けました。

瓶子:
以前、伊藤監督とお話しした際に、小島監督に絵コンテを5本描いて見せたら「こんなに見るの嫌だから、もうお前が描いていい」と言われてチャンスが来たという話を聞いたことがあります。駄目な絵コンテだったら少し見ただけで分かると思うので、そういう意味では、直すまでには値する絵コンテだったということだと思います。

小松田:
仕事の合間に5本も書くという、そのやる気だけでもうOKって感じですよね。

水島:
私の場合はそういう経験は全くなく、いきなり絵コンテを書いてました。描きたいと言っても描かせてもらえる現場じゃなかったため、「次の現場では絵コンテからやりたいです」と最初に伝えました。人手が足りない現場だったため、「演出を1本やってくれたら次は絵コンテ出すよ」という話になって、演出をやった次に絵コンテを始めた感じでした。

Q2.Vコンテ(ストーリーボード)は使われていますか?

小松田:
現在は3Dの現場でも、ラフな編集のイメージでVコンテを使うこともあります。しかしVコンテには、紙のコンテとしてPDFに出力すると絵の連続性などが分かりづらくなるというデメリットがあります。そのため、Vコンテで作ったものを紙用に整理して、動画としてのコンテと静止画としてのコンテの2つを用意することも多いです。

水島:
私の場合は、デジタルで描いた絵コンテでしかやっていないです。以前小松田さんとPVを作った時は、もらったVコンテをもとに私がさまざまな提案をするという流れで作ったことがありました。

小松田:
紙だけでは伝えるのが難しい部分もあるため、動画でも共有ができたのは良かったです。

水島:
お互いに得意なツールで作業ができるというメリットもありましたね。

Q3.3DCGのアニメと作画のアニメで、カメラの置き方や構図の取り方に違いはありますか?

小松田:
特に無いと思います。

水島:
ただ、3Dの方が空間があるため作画と比べるとカメラの自由度は上がります。そうするとコストが上がってしまうため、全体のバランスを考えながら製作するかたちになりますね。

瓶子:
作画で大変なことは3Dでも大変という認識もありますし、大きな違いは無いですよね。

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