2024年10月19日(土)に開催された「あにつく2024」より、「映像制作時の考え方」のセッション内容を紹介します。

セッション概要
映像制作時の考え方
映像制作において、制作者がどのようなことを考えながら作品を作り上げているのか、どのような知識が必要なのか、私が長年この業界で学んできたことを、少しでも業界を目指す若い方々に伝えることができれば幸いです。
【主催】株式会社Too
【特別協賛】オートデスク株式会社
【登壇者】exsa株式会社 山田 陽介 氏

会社紹介
本題に入る前に、少しだけ私たちexsa株式会社について紹介いたします。弊社ホームページのワークスのページにはこれまでの実績が掲載されていますので、いくつか紹介します。

https://www.exsa.jp/index.html
最近携わったお仕事としては、アニメ案件やVTuber関連の案件があります。例えば、アニメ『鬼滅の刃』では3Dカットの制作をお手伝いさせていただきました。また、『逃げ上手の若君』の制作にも関わっています。
VTuberやモーションキャプチャーの分野では、hololiveの3Dモデルや『ぼっち・ざ・ろっく!』などの制作に携わるなど、幅広い活動を行っています。弊社はアニメだけでなく、ゲームやアミューズメントといった分野にも取り組んでおり、企画から制作まで一貫して対応できる体制を整えています。
拠点は、札幌、東京本社、名古屋、神戸、福岡の5か所にあり、日本全国どこからでもアクセス可能な会社です。ちなみに、私は名古屋の拠点から来ています。
登壇者紹介

exsa株式会社の山田陽介です。現在、第一制作部の次長兼名古屋CG課の課長/チーフディレクターを務めています。
私は趣味で剣道をやっています。学生時代に剣道をしていましたが、最近になって再開しました。きっかけは、中学生になる娘が「剣道部に入りたい」と言ったことです。それなら私も一緒に始めてみようと思い、再び竹刀を握ることになりました。長いブランクを経て剣道を再開した人を「リバイバル剣士」と呼ぶそうで、「自分もリバイバル剣士なんだ」と気づき、少しかっこいい響きだなと楽しみながらやっています。
職歴についてですが、私はもともとコンシューマーゲーム業界からキャリアをスタートしました。名古屋近郊のゲーム会社で初めて担当したデザインの仕事は、背景テクスチャの制作でした。そこで、物の見方や観察の重要性を学びました。その後、ゲーム業界全体がエフェクトデザインに力を入れ始めたプレステ3の時代に、未経験ながらエフェクトデザインに挑戦しました。この業界での経験はトータルで20年近くになり、そのうち13年をexsaで過ごしています。
私の好きな漫画は『ドラゴンボール』です。まさにドンピシャ世代で、幼稚園の時に放映が始まり、小学生の間はずっと夢中になっていました。文房具から服装までドラゴンボール一色で、私自身も折り紙の裏や自由帳に鳥山明先生の絵を模写していたほどです。この業界を目指したきっかけもドラゴンボールに影響された部分が大きく、ドラゴンボールがなかったら今の自分はいなかったかもしれません。
また、アニメの影響力については、娘が剣道を始めるきっかけになった『るろうに剣心』を通じても強く実感しています。小学校6年生の娘に「これ面白いよ」とるろうに剣心を勧めたところ、中学校に進んで「剣道部に入りたい」と言うようになりました。そういったところからも、アニメや漫画が人に与える力や影響は本当に大きいと感じます。

メインテーマ:映像制作の考え方

今回私がお伝えしたいことは、これまで約20年間この業界で働いてきた中で、これからこの業界を目指す皆さんに何か役立つことを共有したいという思いから考えた内容です。
特に、学生時代に「こういうことを知っていれば良かった」と思うようなことを中心に、皆さんのお役に立てるようなお話ができればと思っています。少しでも参考になることがあれば幸いです。
相手の感情を動かす
まず初めにお伝えしたいのは、私自身が学生時代や仕事を始めたばかりの頃の話です。その当時は深く考えることもなく、「格好いいから作ってみよう」「真似してみたいからやってみよう」という気持ちだけで作品を作っていました。しかし、実際に仕事を始めたり、さまざまなことを学ぶ中で、非常に重要だと気づいたのが「制作の目的」です。これがどれほど大事かということを、今振り返ると痛感しています。

「制作には目的がある」ということに気づき、その目的とは何だろうと考えたときに、私がたどり着いた答えは「相手の感情を動かすこと」でした。これは、ゲームやアニメ、映画、どの作品でも共通して言えることではないでしょうか。
感情にはさまざまな種類があります。楽しい、感動する、悲しい、驚く、かっこいいと感じるなど、色々な形があると思います。これからこの業界を目指し、作り手側になる皆さんにとっては、これらの感情を動かす「仕組み」を理解することが重要です。
「こうすれば相手は嬉しいと感じるだろう」「こう表現すれば悲しみを共有してくれるだろう」というように感情を動かす仕掛けを考え、実践できることが作り手の役割となります。そのため、「ゲームをして楽しいと感じたとき」や「映画を見て感動したとき」、なぜそう感じたのか考えることはとても大事なことだと思います。

感情を動かすために必要なことはさまざまありますが、私が特に皆さんにお伝えしたいポイントを2つに絞ってきました。それは、「映像の基礎知識」と「観察力」です。この2つについて、詳しく話をしていきます。

映像の基礎知識
大小の印象

まずは、「映像の基礎知識」についてお話しします。ここではまず「丸」を例に考えてみましょう。一見、ただの丸ですが、大小の丸を並べてみると、どちらが重そうかと問われれば、多くの人が左の大きな丸を選ぶでしょう。また、どちらが悲しそうか、寂しそうかと聞かれると、大半の人が右の小さな丸を選ぶのではないでしょうか。
このように、ただの「丸」にもかかわらず、私たちはそこからさまざまな印象や感情を受け取っています。「近い・遠い」「重い・軽い」といった感覚が自然と浮かび上がるのです。これはとても不思議なことですが、ただの形であっても、私たちの感覚や感情に働きかける力があるということです。

これを人型にすると、感情がさらに分かりやすく伝わります。右側はとても寂しそうに見えますが、左側は近くに寄ってきて「何か言いたそう」だったり、あるいは力強く怒っているようにも感じられます。
こうした構図の「大きい」「小さい」という要素は、視覚的なメッセージを強調するための重要なポイントです。特に「大きい構図」は、力強さやインパクトを持つメッセージを視聴者に伝える際に効果的です。アニメや映像作品でも、こうした構図が頻繁に用いられていることにお気づきかと思います。


また、大きさについても重要な要素です。被写体が大きいほど視線を引き付け、迫力や近さを感じさせます。さらに、大きな被写体はディティールを強調し、「見ろ」という強制的なメッセージを伝えます。これが映像表現における大きさの力です。
映像には画面という制限があるため、その中での対比によって「大きい」と感じさせることが可能です。加えて、人間の歴史を振り返ると、「大きなものはすごいもの」という印象を持たれる傾向があります。ピラミッドは偉大な権力者のお墓、自由の女神や万里の長城はその大きさから圧倒的な存在感を感じさせます。このように「大きい」というだけで凄さや権威を印象づける力があるのです。
したがって、「日の丸構図」で被写体を大きく表示するだけで、非常に強いインパクトを与える構図になるわけです。こうした構図は、映像のからくりの一つであり、非常に効果的な表現方法だと感じています。
方向と角度のスピード

次に、この丸について考えてみましょう。画面に左と右、それぞれに丸があります。少し襖のようにも見えますが、ここでは丸の位置に注目してください。この丸たちは止まっている状態ですが、もし動くとしたらどちらの方向に動きそうでしょうか?

不思議なことに、大半の人が「この丸は画像のように動くだろう」と、勝手に動きを想像してしまいます。さらに、「どちらの丸が上に上がりそうか、または下に下がりそうか」と考えると、人は自然と「左側が上昇しそうで、右側が下降しそう」と感じるようです。
これもまた、心理効果の一つです。さらに、スピードの感じ方にも違いがあります。多くの人が左側の丸を「遅く動きそう」と感じる一方で、右側の丸は「速く動きそう」と感じる傾向があります。このような現象は、映像やアニメーションにおいて視覚的な印象を操作する際に非常に重要な要素になります。

この現象のからくり、あるいは要因として挙げられるのは、私たちが文字を書く際の習慣に由来しているようです。日本語の場合、文字は左から右へと書きます。このため、左から右に進むことが「自然な流れ」として心理的に刷り込まれており、左から右に向かう動きに「進む」イメージを感じるのです。
また、左側は自分の側、つまり「安定した場所」のような印象を持ちやすく、一方で右側は「挑む」「立ち向かう」といった、何か力強い存在をイメージさせます。このため、右から左下に向かう動きには重力や自然の力を感じさせる一方で、左から右に進む動きには自らの意志で「進んでいく」ような印象が生まれます。
スピードの感じ方にも、この心理的な要因が影響しています。左から右へ動く場合は能動的でスムーズに感じられ、右から左へ動く場合は受動的で自然に落ちていくように感じるわけです。

このような構図、皆さんもよく目にするのではないでしょうか。例えば、左側に主人公がいて、右側に敵がいるといった場面です。これもさきほどの原理と同じだと言えます。
舞台用語では「下手(しもて)」と「上手(かみて)」と呼ばれますが、下手には「安定」や「弱者」を連想させる効果があり、上手には「挑まれる側」や「強者」をイメージさせる効果があります。もちろん、逆の構図も多く存在しますが、このような構図は視覚的に人が自然と受け入れやすいという特性があります。そのため、あえてセオリーから外れた構図を使うことで、印象的で意図的な表現を作り出すこともできます。
さらに、構図の工夫として、真横に平行ではなく少し斜めにすることで、躍動感や迫力を与えることができます。これは「対角線構図」と呼ばれる手法で、画面に動きや力強さを加える効果があります。

横スクロールアクションゲームを例として挙げます。多くの場合、主人公は左から右に進む形になっています。一方で、右から左に進むゲームはあまり見かけません。これは、主人公が何かに立ち向かっていくという意味合いを強調するための演出であると考えられます。また、人が文字を左から右へ読む習慣があることから、この方向性が自然で心地よく感じられるという心理的な理由もあります。
こういった視覚的な流れを取り入れることで、ゲームプレイそのものが直感的で快適なものになっています。
ライティング

次に、ライティングについて説明します。ここでは、ただの棒人間を例に見てみましょう。同じ棒人間でも、ライティングを変えるだけで印象が大きく変わります。例えば、上からのライティングと下からのライティングでは、前者が日常的な印象を与える一方で、後者はどこか不気味で怖い印象を生み出します。
その理由は、私たちが普段接する光の方向にあります。通常、光は上から当たるのが一般的です。日中の屋外では太陽光が上から当たり、建物の中でも照明は上に設置されています。これが日常のライティングです。
一方、下からのライティングは非日常的です。普段目にしない光の方向であるため、私たちは「何か特別なことが起きている」という印象を受けやすいのです。怖さを演出するだけでなく、非日常感を強調するための効果的な手法と言えます。
具体例を挙げると、魔法の詠唱や財宝の発見などのシーンでよく使われます。これらのシーンでは、下からのライティングが「普通ではない特別な瞬間」を表現するのに一役買っています。非日常を際立たせるには、とても適した手法です。

映画のようなシーンでも、ライティングは重要な役割を果たします。色もついていないシンプルな映像であっても、ライティングだけでシーンの雰囲気が大きく変わるのです。
この場面は「明日遊園地に行かない?」といった軽い会話をしているようには見えません。むしろ、「大切な話があるんだ」といった神妙な雰囲気や、何か悪巧みをしているような印象を受けるのではないでしょうか。このように、ライティングはキャラクターの感情やシーンの背景を暗示する非常に強力な手法です。
ライティングの工夫によって、シーンに緊張感や重みを与えることができるため、映像制作においては欠かせない要素となっています。
色味

次に、色味について少し話をしていきます。同じ顔・デザインのキャラクターだったとしても、色味の違いだけで私たちはさまざまな印象を受けることがあります。
例えば、「この人は火を使いそう」、「この人は氷を操りそう」、「この人は回復させそう」といった具合に、キャラクターの性質や能力を色だけで直感的に感じ取れることがあります。色味には、そのキャラクターの雰囲気や役割を瞬時に伝える力があるのです。

色ごとに人が持つイメージというのも、私たちの日常生活の中で多く見られます。例えば、信号が赤いことで「注意」や「危険」を示していたり、自然の緑が「安心感」や「癒し」を感じさせたりします。また、スーツの色にネイビーや黒が多いのは、「誠実さ」や「信頼感」を演出しようとしているからです。このように、色が与える印象は日常生活のあらゆる場面で関わっています。
ライティングと同様に、色も人に訴えかけ、感情を動かす効果を持っています。映像を作る側の人間にとって、映像を通して視聴者に何かを伝えることは非常に重要です。色やライティングを効果的に使うことで、視覚的な表現が相手の心に届きやすくなり、感情を揺さぶる力となります。
感情を動かす要素

直接映像を見ている人のところに行って、「実はこのシーンにはこういう意図がある」「このキャラクターの気持ちはこうだ」と説明することはできません。だからこそ、映像そのものを通じて、視聴者にシチュエーションやキャラクターの感情を肌で感じ取ってもらう必要があります。そのためには、視聴者の感情を動かす要素を映像の中に全て詰め込むことが大切です。
さきほど、色や光、構図についてお話ししましたが、それ以外にも感情を動かす要素はたくさんあります。例えば、動きの速さやカメラアングルもその一つです。カメラを上から向けると幼さや可愛らしさを感じさせ、下から見上げると迫力や威圧感を与えることができます。また、「間(ま)」も重要な要素です。適度な間を取ることで、何か含みを持たせたり、キャラクターの心情を表現したりすることができます。
こういった要素を掘り下げていくと、とても面白い発見があると思います。これらを理解し活用することで、自分の作品やものづくりに大いに役立てることができるはずです。

ここで改めてお伝えしたいのは、私が最初にもお話ししましたが、クリエイターは視聴者がどのような感情を抱くか、その「仕掛け」を理解している必要があるということです。そして、その「仕掛け」を意図的に作り出せる側でなければならないと私は考えています。
視聴者の感情を動かす仕掛けを理解し、それを作品に落とし込むことができるかどうかが、クリエイターとしての重要なポイントになるのです。

映像の知識とは何かというと、それは最初にお伝えした「感情を動かす」という目的を達成するための手段です。中には、感覚だけで「こうすれば悲しく見える」「こうすればかっこよく見える」「こうすれば怒って見える」と表現できる人もいるでしょう。私も最初はそうでした。なんとなくの感覚で作っていたのです。
しかし、映像の知識を深めるということは、目的地にたどり着くための交通手段をたくさん知ることに似ているということに気づきました。歩いても目的地には行けますが、時間がかかりますよ。一方で、飛行機やバス、電車といった手段を知っていれば、もっと速く、効率的にたどり着けます。同じように、映像の知識を多く持つことは、感情を動かすための手段を増やすことになるということです。
私が皆さんにお伝えしたいのは、この「相手の感情を動かすための手段を多く知っておくこと」の重要性です。私自身、この映像業界に入り、もっと早く知っていれば良かったと感じたことがたくさんありました。これからこの業界を目指す皆さんには、ぜひその手段をたくさん知って、目的地に向かって効率的に進んでほしいと思っています。

観察力
次に「観察力」についてお話しします。観察力は非常に重要なスキルです。よく「ポートフォリオにデッサンを入れた方がいいですか?」という質問をいただくのですが、私は「ぜひ入れてほしい派」です。
その理由は、デッサンが上手いということは「比較力」があることを示しているからです。つまり、物事をしっかり観察して違いを見極められるということです。そして、それを自分の中で理解し、形としてアウトプットできるということは、理解力と表現力も備わっている証拠だと考えています。
実際、CG作品がもう一歩という場合でも、デッサンが良ければ「この人はポテンシャルがある」と感じます。それだけデッサンは重要な指標だと思っています。
デッサンは、いわば基礎体力や体幹のようなもので、スポーツで言えば「これから競技を覚えるにしても、土台がしっかりしている」といったイメージです。だからこそ、観察力を鍛えるデッサンは大切だということです。

観察力がなぜ重要なのかというと、映像というのは基本的に「嘘の世界」を作るものだからです。私たちは、実際には存在しないものを映像で作り出していますが、それを本物らしく見せるには、現実の知識や観察が欠かせません。現実を知らなければ、説得力のある映像を作ることはできないのです。
例えば、火の動きが不自然だった場合、見ている人はそこに違和感を覚え、映像そのものに集中できなくなります。魔法の表現にしても、私たちは実際に魔法を見たことがありません。それにもかかわらず、ハリー・ポッターの魔法を「魔法だ」と直感的に受け入れることができます。なぜなら、煙や炎といった現実で見たことのある要素を無意識のうちに補完し、それを自然と納得できるように解釈しているからです。つまり、あり得ないものを作る場合であっても、現実の動きや物理法則をしっかりと理解していなければ、説得力のある映像にはなりません。

例えば魔法の表現も、炎や煙といった現実の要素を見ているからこそ直感的に理解できます。実際に見たことのない「風の魔法」であっても、普段から風や火花の動きを目にしているため、「きっとこういう動きをするだろう」と自然に補完し、違和感なく受け入れることができるのです。
このように、見たことのない幻想的なものでも、現実に基づいた動きを取り入れることで、まるでその場に実際に存在するかのような説得力を生み出すことができます。そのため、普段から「物がどう動いているのか」「自然現象がどのように見えるのか」を観察しておくことは、とても重要だと思います。

少し話は変わりますが、部屋の隅を見てみると急に暗くなっている箇所があることに気づくと思います。これは「アンビエントオクルージョン」、日本語では「環境遮蔽」と呼ばれる現象です。光は実際に部屋に入って反射して周囲を照らしますが、光は直進する性質があるため、角や隅には光が届きにくくなります。
その結果、物理的に角の部分は光が当たりにくく、暗く見えるのです。

そのため、CGを作る際にも、こういった実際の現象を取り入れることが重要です。例えば、「この部分は光が届きにくいから少し暗くしよう」といった工夫を加えることで、CGのディティールが向上し、より説得力のある表現になります。
こういった現実の観察は、特別な場面だけで必要になるわけではありません。日常生活の中、普通に歩いているときや通勤・通学中にも、さまざまな発見が潜んでいるものです。こうした小さな気づきを意識することで、物事を深く観察する力が養われ、映像制作にも活かせるのではないかと思います。

実際に観察してみましょう
これは実際に私自身が行ったことなのですが、近所を歩きながら観察してみました。せっかくなので、これから一緒に観察をしてみましょう。

これは私の家の近くにある公園で撮ったものです。フェンスを見ていて気づいたのですが、全体が錆びているわけではなく、特に縦方向にはあまり錆びが見られませんでした。
こういった現象について考えてみると、埃やすす、鉄、金属粉、排気ガスなどが付着して放置され、空気中の湿気や雨水の影響を受けて錆びてしまうのだと思います。雨は上から降るため、上部がより錆びやすいということが分かります。
フェンス1つを観察するだけでも、こうした発見があるのは面白いところです。

これは私の家の窓なのですが、窓がアニメやCGで描かれる際、ピカピカの映り込みで表現されることが多いです。しかし、実際の窓の映り込みを観察してみると、意外と歪んで見えることに気づきます。最初は「私の家の窓が曲がっているのかな?」と思ったほどですが、画像の右側のように実際にビルの窓も同じように歪んで見えることがあります。

調べてみると、原因は「複層ガラス」にあることが分かりました。複層ガラスは2層のガラスでできており、気温の変化によって膨張したり収縮したりするため、表面が歪んで見えるのです。
しかし、「これからの作品は全てグニャグニャの窓にしよう!」というわけではありません。重要なのは、思い込みで物を作らないことです。「窓は真っ直ぐでキレイに反射するはず」と決めつけず、実際に観察してみると多くの発見があるものです。
こうした観察の積み重ねが、作品における「CG臭い」「嘘っぽい」という問題の解決に繋がります。よく「CGらしい」と言われる映像は、細部が整いすぎていたり、汚れがまったくなかったりすることが多いです。しかし、現実にはそんな完璧な状態はほとんどありません。自然な状態を知っておくことで、「嘘っぽさを軽減するにはどうすればいいか?」という課題の解決の糸口になるのです。

これは近所のお花屋さんのバックヤードで見かけたものですが、地面がかなり黒ずんでいることに気づきました。「なぜこんなに黒ずんでいるのだろう?」と考えたところ、1日に何度もカートが通ることで汚れが蓄積しているのだと分かりました。
こうした「人の動き」や「生活の痕跡」が残る汚れは、リアリティを感じさせる非常に重要な要素です。汚れは単なる見た目の問題ではなく、「ここにはこういう人々の生活がある」といったストーリーや背景を感じさせる役割を持っています。

これは送水口の観察から気づいたことですが、こういう場所はCGなどでキレイにコピペで作ってしまいがちです。しかし、実際に見ると色が均一ではなく、場所によって全然違っています。
特に面白かったのは、タイルの隙間から汚れが垂れて、縦にラインが入っているような汚れ方です。これは、普段から気にしていないとなかなか気づけないことだと思います。「こんな風に汚れができるんだ」と、実際に観察することで初めて分かる発見でした。

これは、片方の電灯が切れた看板を見て気づいたことです。一見すると何か変な消え方をしているように見えましたが、中の構造を考えてみると納得がいきました。看板の中にはLEDや蛍光灯が2本入っていることが多く、そのうちの1本が切れると、このような独特の消え方になるのです。
このような発見から学べるのは、CGで表現する際の「中の構造を意識したディティール」を取り入れることの重要性です。ただ外見だけを整えるのではなく、内部構造や動作を理解したうえで表現することで、より説得力のある映像を作れるようになります。

こちらは、岐阜県の飛騨地方に旅行に行った際に撮影した写真です。古い畳を観察していて気づいたのですが、結構湾曲しているものが多い印象でした。
その理由を考えてみると、湿気を多く含んでいることや、古い建物では畳を支える下の木材が劣化し、歪んでいることが影響しているようです。こうした要因から、古い家屋の畳は波打ったような形状になることが分かりました。

こちらはアニメでもよく見られる「木漏れ日」についての観察です。木漏れ日はとてもキレイで印象的な表現ですが、実際に見てみると、壁に映る木漏れ日と地面に映る木漏れ日では形が違うことに気づきました。
壁に映る木漏れ日は縦に伸びていることが多いです。これは、上から来る光が壁に対して垂直に当たるため、影の形状が縦に引き伸ばされるからです。こうした細かな特性をシーンに取り入れることで、映像やアニメーションにリアリティが生まれます。木漏れ日の形状をその場の環境や対象物に合わせて調整することができれば、より自然で説得力のある表現になります。

木の劣化の仕方についても興味深い点が多いです。例えば、接続部分や接合部分、飛び出ている角の部分など、特定の場所から劣化が進むことがよくあります。こういった箇所は、風雨や摩耗などの影響を受けやすいため、劣化が顕著に現れるのだと思います。
こうした劣化の特徴を観察し、作品に取り入れることで、古い家屋を描く際にリアリティや説得力のある表現が可能になります。細部に目を向け、劣化の特徴を的確に捉えることで、より魅力的な絵を描くことができるのではないかと考えています。

こちらは、三重県の湯の山という山に行った際に撮影した写真です。風景を観察していて気づいたのは、遠くにある山ほど色が薄くなるという現象です。これは「空気遠近法」と呼ばれるもので、遠くの物体ほど空気中の微粒子や水蒸気の影響を受け、視覚的に色が薄く、かすんで見えることが理由です。

空気遠近法には大きく分けて、「レイリー拡散」と「ミー拡散」の2種類の現象があります。
レイリー拡散は、小さな粒子によって青色だけが反射される現象です。そのため、晴れた日の空気遠近では、遠くの山や空が青く見えます。これは、空気中の微粒子が主に青い波長の光を散乱させるためです。
一方で、ミー拡散は、水蒸気などの大きな粒子によって起こる現象です。この場合、青だけでなくRGB全ての光が散乱されるため、遠くの景色が白っぽくかすんで見えます。これは、雨上がりや湿気の多い日、曇りの日などに見られる空気遠近の特徴です。
晴れた日の青みがかった空間遠近はレイリー拡散によるものであり、湿度が高い日の白っぽさはミー拡散によるものだと言えるでしょう。それぞれの特性を理解して描写に取り入れることで、よりリアルな空間表現が可能になります。

まとめ
こういった形で、日々の生活の中には、意外と役に立つ知識がたくさん転がっているものです。少しアンテナを立てて観察してみると、新しい気づきが次々と生まれます。そして、その気づきを自分の作品に取り入れることで、より説得力のある表現が可能になります。
私が思うに、CG制作や人の成長というのは「気づきの連続」であり、どれだけ多くのことに気づけるかが鍵ではないかと思います。だからこそ、日々の生活の中でアンテナを立てて観察し、発見を積み重ねていくことが大切です。
これで私の講義は終了ですが、本日皆さんにお伝えしたかったのは以下の2点です。
・映像制作の知識を深めること
・観察を習慣にすること
この2つのポイントを念頭に置きながら、皆さんがこれからの制作活動に役立てていただければ幸いです。
