2026年4月22日(水)に開催された「Autodesk CG Festa 2026」より、セッション「『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』 重厚な映像表現を支えた3DCG制作の舞台裏」の内容をご紹介します。
セッション概要
2026年1月30日に公開された『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』。このセミナーでは、多種多様な3DCGツールが運用された本作品について、全体の制作フローを振り返りつつ、監督・演出・作画監督たちの要望に応えるために、登壇クリエイターを含む数多くのCGアーティストがどのように奮闘したかを紹介します。
世界観を下支えした精密なレイアウト設計、躍動感あるアニメーションの根幹となるセットアップ、そしてアニメの3DCGにおける新しい表現を目指した爆発などのエフェクト開発を中心に、現場のエピソードを交えてお話しします。
【主催】株式会社Too
【特別協賛】オートデスク株式会社
【協賛】3Dコネクション株式会社
【登壇者】株式会社IKIF+ 石田 龍樹 氏 / 柴山 一生 氏
宍戸 光太郎 氏 / 濱中 裕 氏
株式会社バンダイナムコフィルムワークス サンライズ第1スタジオ 秋山 李助 氏

登壇者紹介

本セッションには、本作の3DCG制作に携わった5名に登壇してもらいました。進行を務めるのは、設定制作と第1スタジオ側の窓口を担当した、バンダイナムコフィルムワークス サンライズ第1スタジオの秋山李助。
制作工程の解説は、本作で3D会社のメインを担った株式会社IKIF+(アイケイアイエフプラス)のプロデューサー、濱中 裕が中心に進めます。あわせて、CGモデリングディレクターの石田龍樹、CGリードアニメーターの柴山一生、爆発エフェクト開発を担当した宍戸光太郎に、それぞれの工程について話していただきます。
『閃光のハサウェイ キルケーの魔女』はどんな作品?

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』は、『機動戦士ガンダム』の生みの親である富野由悠季監督の小説を原作とする映画作品で、本作はその第2章にあたる。第1章に引き続き村瀬修功氏が監督を務め、デザイン関係や色彩、編集、音響などのスタッフは共通しているが、3DCGや美術、撮影といった映像の最終ルックに関わるメインスタッフは、第1章から大きく一新されている。
CG制作体制について

作品の制作体制については秋山氏から説明があった。
秋山「本作では社内のCG部署に発注するのではなく、メインの3D会社としてIKIF+さんに立っていただき、第1章から引き続き増尾隆幸さんを3Dディレクターに据えたうえで、メインメンバーを主軸にどの会社に何を依頼するかを決めていく流れで進めました。
IKIF+さんには、3ds Maxを用いたモビルスーツの戦闘シーンやコックピット周りを中心に担当いただきました。第1章から参加していただいているサブリメイションさんにはキャラクター関係のレイアウト周りを依頼、Houdiniチームには波やカーテンといった自然現象を、美術班にはBGガイドモデルなどの制作を担っていただきました。作品の作業物量が膨大であったため、本格的にモビルスーツやコックピットのアニメーションが進む段階では、IKIF+さんから更に各社へ作業を振り分けていきました。
レイアウトやアニメーション面では各会社さんに依頼することが多かったですが、モデルについては会社に属さない個人スタッフへの依頼も多く、長い方では4年ほど本作の仕事のモデルに携わっていただいた方もいます。背景の作業ワークではUnreal Engineも活用しており、その点はジェムドロップさんに手伝っていただきました。また最後の最後には社内の3D部署であるサンライズスタジオにも協力いただき、多くの関係会社の皆さんによって今回の映像はできあがっています。」
モデリング

ここからは、実際の制作工程に沿って濱中氏が解説。
濱中「ガンダムということでモビルスーツがメインではありますが、それ以外にも精密なBGガイドモデルや3Dレイアウト用のモデルを大量に用意しました。」

新規のモビルスーツや細かなプロップモデルも含めてモデルの総点数は数えるのが怖いほどあるという。
濱中「メインモデラーだけでも稼動人数が多い時は総勢9名で並行作業していました。前作の上映終了後、間を空けず制作に入ったモデルもあるため、モデリング作業期間は4年ほど続きました。」
BGガイドモデル

本作のBGガイドモデルは、通常の映画のロケハンに近い精度で作られている点が特徴だという。
濱中「本作は基本的にほぼ全てのシーンで3Dレイアウトをとっています。そんなモデルの中で冒頭に登場するマフティー側の拠点であるヴァリアントの船倉部分は、細かすぎるほどの密度で作り込みました。BGガイドモデルにアニメーターが原図要素を後から絵で描き足すことをしない、加筆が不要なレベルまで作り切ることをこのシーンはテーマにしていました。」


上記画像で細かく配置されたオブジェクトも3Dセル出力でフィニッシュしている。設定制作の秋山氏がそれぞれに固有名称とモデルコードを割り振り、オブジェクトを管理していた。

上記画像は地球連邦軍側の格納庫。レーン・エイムとアリュゼウスが初めて登場するシーンや、破損したペーネロペーが置かれているシーンなどあまり映らない部分にまでオブジェクトが配置されている。
モビルスーツ

次に、本作の花形であるモビルスーツについて。
Ξガンダム、メッサーF型、グスタフ・カール00型は前作から登場している機体だが、すべてのモデルに細かい修正を入れているとのこと。
濱中「Ξガンダムは手の中にユニバーサル規格用のサブマニピュレーターを仕込んだり、破損状態を作ったりと第1章以上に相当作り込んでおり、ほぼ新作に近いと言ってもよいほどです。最終的には全機体にこだわりを詰め込みました。」

メッサーF02型は第1章から登場しているが、ベクタード・テール・スタビライザーの上に新規武装を追加。第2章から新たにガウマンの搭乗機として出てくるメッサーM01型は新規モデリングとなっている。第2章のラストでΞガンダムと壮絶な戦いを繰り広げるアリュゼウスは、非常にゴテゴテとした密度の高い機体で、モデリングもリギングも大変苦労したとのこと。
『逆襲のシャア』回想パート

本作には『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』を再現するパートがあり、そこに登場するモビルスーツもすべて新規作成している。『逆襲のシャア』公開当時の映像内でアニメーションしていたビジュアルで作るという方針で作られており、設定準拠ではないことが語られた。
濱中「当時の映像をベースにしているため、塗り間違いや作画上のアレンジまでも踏襲しており、厳密には設定画と異なる部分もありますが、大変こだわったモデルです。メカニカルデザイン・メカニカルスーパーバイザーの玄馬宣彦さんがかなり手を入れてくださり、当時の映像の印象に非常に近い仕上がりになりました。特にνガンダムは近年発売されているプラモデルとも少し違うプロポーションになりまして、ひとつの到達点と呼べる出来になったと思っています。」
モデリングとセットアップ

ここからは、本作でCGモデリングディレクターを務めた石田龍樹氏が解説。石田氏は本作ではモビルスーツのモデリング、リギング、ルック開発とモデルに関わる案件の全般を担当したという。
モデリング

石田「モデリングは、設定をもとに実直に形を取っていく素直な工程です。本作品では、チェックバックとともに、画像のような構造部分の説明が丁寧に書き込まれた追加設定が毎回のように届きました。
特にアリュゼウスはパーツ数が多く、つま先のパーツひとつを取っても内部構造まで非常に密度の高い指示が描かれていました。動いたときに見えるであろうパーツまで指定されており、「ここまで作るのか」と思いつつ、実際に中まで作り込んでいます。」

話しに出ているアリュゼウスのつま先パーツのチェックバック兼設定図。このように内部の構造までかなりの高密度で描かれている。細かく分かりづらいが、目立つ色で着彩されているパーツが動いた際に隙間から見えるパーツと定義されていた。

さらに、メカニカルデザインの玄馬宣彦氏は粘土から立体参考を制作。これもモデリング作業時に大きく助けになったとのこと。
石田「立体物があるとパーツ形状が文字どおり手に取るように分かり、理解がかなり深まります。とくにアリュゼウスは“どこに何が接続しているのか”を絵だけでは分かりにくい部分が多く、これによって明確になりました。」
セットアップ(リギング)

ここからはリギングについての話を石田氏が解説。
石田「リギングには、3ds Max標準のリグシステムのひとつである『CAT』を活用しています。3ds Maxには『Biped』というリグシステムもありますが、カスタムのしやすさとモーションレイヤー機能の高さからCATを採用しました。」

リギング作業では設定に描かれたギミックをなるべく盛り込むことを目標にした。メッサーF型とグスタフ・カール00型は第1章の時点で設定自体はあったものの細かなリグまでは組まれていなかったのもあり、比較的早い段階からリギング作業に着手したという。
石田「作業に入った時期はまだコンテの全貌が見えず、どのような芝居をさせるかの予想がつかなかったことと、私自身がこうしたギミックものが好きということもありできるだけ盛り込もうと考えました。『モビルスーツをきちんと歩かせたい』という村瀬監督の要望を受け、メカニカルデザインの中谷(誠一)さんによる可動設定をもとに、本作で最初に取り組んだのがこのソール(足パーツ)の可動再現でした。」

リギング作業の肝になる可動起点の位置については、実際にプラモデルなども参考にしている。

上図にはアニメーション時も加味した中谷氏からの可動軸のアイデアが書かれている。
石田「モデリングのチェックバックの段階でも、めり込みなどの破綻が起きないよう整合性を取るためのリギングのアイデアがよく描き込まれていました。『ここは守ってほしいが、ここはそこまで気にしない』と明確に指示していただけたので、進め方がずいぶん変わりました。」


モビルスーツにはフロントスカートやリアスカート、肩アーマーなどのパーツが付いているが、アニメーターの負荷軽減を目的に自動追従する仕組みが搭載されている。これは第2章のリグ作業に取り組む前に「パーツ数が多すぎるとアニメーターが困るはずだから何とか操作しやすくならないか」と村瀬監督から受けた要望を石田氏がある程度オートで動くようにセッティングしたからであり、アニメーション時の大きな助けとなった。

脛のサスペンションは、歩いたときの重さの表現にもつながっている。このギミックは監督やメカ作監陣からの評判も良く、石田氏本人も頑張って良かった点だと語る。
ルック開発

本作のルック開発では、大きく3つの特徴がある。1つ目は「ハーフランバート」を使ったシェーディングによる影面の調整幅の拡大、2つ目は法線情報とAfter EffectsのNullオブジェクトの向きを利用してAfter Effects上で調整できる「サブライト」、3つ目はカメラ距離に応じて線が消える距離減衰マップによる作画的な「線減らし」の再現の3点となる。
第1章ではシーンごとの影付け指示をAfter Effectsでマスクを切ったり、ライトの多灯照射で再現していたが、アニメーション側の負担や作業時間の面で課題があった。そこで、メインライト1灯で第1章のような特徴的な影付けを再現できないか、という監督からの相談を受け研究開発が進められた。

石田「まず説明の前提となる本作での特徴の一つ、「サブライト」についてご説明します。上記画像でオレンジ色に塗られている部分がサブライトに該当する箇所です。通常のセルシェーディングでは、ノーマル色、影1号色、影2号色と段階的に暗くしていきます。サブライトを使ったシェーディングでは、影1号を抜いて、ノーマル色と影2号色の2色で陰影を表現します。2色だとのっぺりしてしまうので、抜いた影1号を反射光的にメインライトとは別方向から入れ込み、ディテールを補完しているのが「サブライト」になります。」
ハーフランバート

特徴の1つ目として使用しているハーフランバートは、通常のランバートシェーディングでは面の向きと光源が90度以上で影になるところを、180度で影になるよう陰影の階調を2倍に引き伸ばす手法である。これにより、本来影で潰れる箇所にも階調が生まれ、全体的に明るくなる。
逆光カットで機体のシルエットに回り込む光を入れる際、その光をより強調したいといったリテイクに対して本来沈んでしまう部分に階調を持たせて調整幅を広くとることで、After Effects上でより細かな調整ができる仕様にしている。
サブライト

2つ目のサブライトは、3D上で光源を作成し細かくライティングするのではなく、出力したモデルの法線情報とAfter EffectsのNullオブジェクトの回転情報を組み合わせ、After Effects上でサブライトの方向を定める仕組み。
線減らし

3つ目は、カメラ距離に応じて機体の実線が消える線減らし。上記画像の作画に対しての線減らし設定を確認すると、100フレームの画角に対してモビルスーツのサイズが小さくなるにつれ、機体の実線が減っている様子が分かる。3Dモデルでもこの線減らしがやりたいという要望を受け石田氏が手法を模索した。
石田「アップでは線が多いほうがディテールがあってよいのですが、「その線量のまま引き画になると線で黒く潰れてしまうのが気になる」という監督の意見がありました。特にΞガンダムは白い機体なので、線で黒く潰れると黒い機体に見えてしまう。それが一番気になるということで、第1章でも似た処理はしていましたが、さらに発展させたものを求められました。」

具体的にはメカニカルデザインの設定絵を参考に、線を出したいエッジをPencil+ 4の選択エッジ描画機能で指定していく。左図の画像は近距離用と中距離用を分けるマスク素材の画像。近距離では赤と緑、中距離では緑のみを描画し、遠距離ではアウトラインのみとなるよう制御している。
ここで活用されたカメラから離れるほど白から黒へ変化する距離減衰マスクは、OSL(Open Shading Language)を活用して宍戸氏が開発した。

これらの要素を組み合わせることで、作画的な線減らしを3Dモデルでも再現。上記画像の左から右の絵になるように、大きく映る状態から小さくなるにつれて線が減っていき、黒潰れせずすっきりと見えるようになっている。

石田「このシステムが完成し皆さんに見せた際には、監督やメカ作画監督の中谷さんや玄馬さんをはじめ、皆さんに大変喜んでいただけました。」
レイアウトとアニメーション

アニメーションのレイアウト作業はモデリングと並行して進められた。本作の大きな特徴のひとつが、精密なモデルを使ったロケハンに近い3Dレイアウト作業である。
精密なライティング設計と空間設計

ライティング設計のポイントのひとつが、ライティングのための時刻設定がほとんどのカットに存在することだと濱中氏は語る。
濱中「何月何日の何時にオーストラリアのこのあたり、という設定を村瀬監督がCinema 4Dのライトシミュレーションを使ってコンテ作業時に設定されていました。
その情報をFBXやAlembicなどで各ソフトへ渡しはできるのですが、ソフト間でライトの計算方法が異なる為、Cinema 4Dの結果とは完全一致はしません。そこで補助として、ライトの角度や位置をアナログ的人力な手法で測定して、資料を作成。それを元に力技で合わせました。」

『キルケーの魔女』ではシーンのことをsector(セクター)と呼称。sector1からsector6まで、70ヶ所以上のロケーション設定があるという。同じ場所でも時刻帯や光量が違うものがあり、こだわりのポイントの一つだと語った。
サブリメイションさんが作成したLoガイド

最終的にキャラクターは作画で描かれるが、その前段階の作画用レイアウトはサブリメイションさんが担当。ダミーのキャラクターモデルを使用して、先程の光源情報からの影付けまでを反映させる。この影付けまで含めた作画ガイドをアタリにして、作画アニメーターが原画を描いていくワークフローとなる。
美術背景についてもこの作画用レイアウトが美術原図になるルールで進行した。
濱中「サブリメイションさんは第1章から継続して参加されている会社さんで、物量・クオリティともに素晴らしい仕事をしていただきました。第1章で監督とやりとりを重ねた経験値が、非常に生きていたと思います。」
Lo及び、アニメーションについて

次はCGリードアニメーターを務めた柴山氏からモビルスーツのアニメーションカットや、他社とのカットのチェックの話へ。

本作ではレイアウト段階で大枠のアニメーションを付けていたという。レイアウトの特徴を一言で言えば、「空間的な嘘がない状態で撮る」という決まりがあったことだと柴山氏は語る。

柴山「量産型νガンダムがΞガンダムに圧倒され、見上げるとΞガンダムの顔が見えるクライマックスシーンのカットがあります。一連で演技しているので、体の角度や2機の距離感が前カットで変われば、それを次のカットに引き継いで必ず合わせています。
コックピットの位置は設定合わせでモデルのセットアップで決まっており、レイアウトの都合で位置を調整することはありません。またコックピットが球体になっているので、視点となるカメラは必ずその球体の内側に収まるようにし、カメラワーク後も球体から出ないよう検証しました。レイアウト用カメラで撮りたい位置の手前に不都合なオブジェクトが映ってしまう場合でも、非表示にして消すのではなく、そのオブジェクトを避ける形でカメラ位置を探ります。画的な都合で空間やモデルを改変してはいけない、というのが取り決めでした。」
アニメーション作業

アニメーション作業では、飛行シーンの速度や高度といった数値を各シーンで整合させ、前後のカットで破綻のないよう位置関係を厳密に合わせていた。モビルスーツの設定として最大速度や最大上昇高度などの数値を決め、それを原則超えないように作業。Ξガンダムは全速力であればマッハを超えることが可能という設定だが、基本的な飛行ではマッハを超えない速度でシーンを構成する、といった形でアニメーションでの嘘は極力排除して作業していた。
カット作業に使う3DBGガイドモデルもリアルスケールの地形となっている。地球の丸みを計算した曲率が入ったモデルが使われており、水平線の向こうに行くと曲率で奥が見えなくなる、というところまで再現。リアルスケールゆえに原点から離れることでエラーを生みやすく、四方何十kmという大きなデータになるため取り回しも難しいのですが、監督の要望で実現したと語る。
速度間の想定と現実

一方で、リアルに作ることによる弊害として、速度感の問題が生じるカットもあった。BGガイドモデルもモビルスーツもスケールが大きいため、実際に上空の飛行機を見たときのように、速く動いているものが距離によってゆっくり見えてしまう現象が起きた。数値上は時速1000kmで飛んでおりスピードは十分に出ているはずだが、実際の画面ではゆっくり飛んでいる印象になった。
この問題に対して、BGだけ速く動かすといった2Dアニメ的な対応はせず、カメラレンズの調整や、Ξガンダムとグスタフ・カール00型の演技と位置関係、手前に配置した樹木などの要素を駆使して、現実的な範囲で速度感を補った。本編で使用されているOKテイクは、カメラの引き速度も含めて、無理のない速度で構成されている。
客観的なカメラ

本作の画作りの特徴として最も印象的だったのが、村瀬監督がよく口にした「客観的なカメラ」というキーワードだと柴山氏は話した。
柴山「グスタフ・カール00型戦直前のカットを例にします。監督がVコン作成時に作った検証ムービーと、カット作業者の途中テイクを見比べると、うまくいっていないテイクは、Ξガンダムが主役になりすぎていました。対して監督の映像は確かにΞガンダムがメインなのですが、よく見るとBGの動き方が連動しています。Ξガンダムが大きく動くときはBGも大きく動き、Ξガンダムの動きがおさまるときはBGもおさまる。つまりカットの構成として、主役がそこまで明確には決まっていないと言えます。
アニメーター目線で考えると、どうしても見せたいものを主張するため、Ξガンダムが主役という画に決まってしまいがちです。ですが本作では見せたいものをあえてぼかしたり、見せなかったりという画作りがされています。これは私の主観も入りますが、カット内の主役を観客側が判断できるよう「今のは何だろう」と興味を引き出す画作りを目指していたのではないかと結論づけています。
「演出的に押すのではなく、観客の興味を引きつける」、これまでとは逆に近いイメージの進め方だったと思います。
監督はコンテ作成時の段階から、“Ξガンダムは主役ではない”という意図を持っていたようです。最初のテイクではΞガンダムが画面中央に大きく映っていたものを、やりとりを重ねるなかで監督のやりたいことを引き出し、結果的に最初の監督のイメージへと近づいていきました。」
狙わずに狙うカット制作

本作のアニメーションで求められた要素を「狙わずに狙うカット制作」だったと考える柴山氏。演出的に見せたいものを押すのではなく、良い意味で観客の興味を引きつけ、「今のは何だろう」と想起させるような誘導ができる画作り。これを監督は「客観的なカメラ」や「客観的なレイアウト」と呼んでいたのだと認識したと語った。
柴山「非常に複雑な演出要件で、リアルな情報も含めると縛りが多くなり、カット作業も重くなります。ですが、できあがったものを一連で見ると、一貫したアクションになっていて、見やすく心地よく、入りやすい画作りになっていました。制限があることでより違うクリエイティビティが生まれるという、そういうかっこよさのある作品でした。」
爆発エフェクトの開発

アニメーションがOKになると、次は爆発やビームといったエフェクトを追加する工程に入る。
本作では爆発やビームも基本的に3D素材で制作していますが、ここからはその開発を担当した宍戸氏が説明してくれた。宍戸氏は、開発中には「ディスクシステム」と呼んでいたシェルフノズル内蔵の回転体のモデリングからコンポジットまでや、一部のカメラマップカット、ミサイル煙のエフェクトなども担当している。
なぜ作画ではなく3D爆発なのか

本作の戦闘シーンは3Dカメラワークのあるカットが多かったため、爆発を作画で対応するのが困難だった。また、作画リソースを他に回したいという事情、そして『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』での3DCG爆発表現の成功を見たプロデューサーの判断から、3D爆発の開発を進めることになった。
着手するに際しプロデューサーからの要望として、「SEEDのルックそのままではハサウェイに合わないため、ルックをさらに詰めてほしい」という依頼があり、プロデューサーから濱中氏、そして宍戸氏へとアテンドされた経緯がある。
爆発エフェクト作成の基本方針

モビルスーツがすでにスキャンラインレンダラーで作業を進めていたこと、作画による爆発との親和性、アニメーション作業が締め切りギリギリまで及ぶ可能性を考え、なるべく短時間でレンダリングが済む仕組み、モビルスーツとあまり乖離しない素材出力でコンポジットできることを重視して作成された爆発エフェクト。表現としては古い手法だが、ポリゴン球体を複数組み合わせた、スキャンラインレンダラーでの開発を選んだと語るのが開発を担当した宍戸氏。
宍戸「意識した大きな要素は2点あります。ひとつはポリゴン球体を使いつつも上昇気流や熱の対流に見えるような動きを作る、つまりドーナツ型の気流によって煙が回転して見える仕組みを作ることです。もうひとつは動きの中抜きをせず、爆発発生の瞬間から煙の成長過程をしっかり表現することです。パーティクルシステムは使い慣れたtyFlowを使用しました。」
OSLの活用

爆発の開発にあたっては、OSL(Open Shading Language)を多用。OSLはSony Pictures Imageworksが開発したシェーディング言語で、2009年頃から開発が始まり、3ds Maxには2017から搭載された。宍戸氏は以前から3ds MaxのOSLを使用しており、このシステムのおかげで表現できた場面が少なからずあり、とても強力で重宝していると語った。
宍戸「OSLを使う理由のひとつは標準のマップ類よりもビューポート表示が比較的正確で、最終レンダリングに近い視認性を得られる点です。今回は複数の素材をマテリアルエディター内で簡易的にコンポジット処理し、最終出力をイメージできる状態でビューポート表示することをOSLで実現しました。」

OSLはプログラミング言語のためコードを記述する必要がある。ごく簡単な記述でUIを含むオリジナルのマップを作成でき、コード記述もコンパイルもマテリアルエディター内で行えるのが利点だという。
宍戸「私は特段プログラミングに詳しいわけではなく、40年以上前に当時主流だったBASICを扱える程度の知識から少し勉強した程度です。それでも十分に活用できたことがOSLを近年多用している理由のひとつです。」
出力した素材

爆発のコンポジットには用途の異なる複数の素材を出力している。爆心からの距離情報は炎成分のマスクに、カメラ面への入射角情報はエッジほど明るくなり、光の回り込みを擬似的に表現するために使う。ライティングによる滑らかな陰影素材は、After Effectsのコロラマなどで階調化・着色して煙にする。
このほかにも、用途に応じた素材をいくつか出力しており、爆心からの点光源情報はコンポジット時に光の強さなどを個別に調整できるように独立した素材としている。サイズ違いのノイズ情報や、球体をディスプレイスメントするためのノイズ情報は、煙や炎にディテールを加えるために使用する。オブジェクト空間位置は、特定の色を抽出して任意の位置にマスクを作れるため、煙の好みの位置に炎を足すといった用途に向いている。ワールド空間法線は、特定の面の向きを抽出して平行光源によるライティング効果を加えるために利用した。

ノイズをただ足すだけでは煙の形状と炎の見え方に関連性がなく、説得力が減ってしまう結果となった。そこで煙球体の凹凸情報を利用し、奥まった部分ほど炎が多く見える処理にすることで、ポリゴン球体ながら説得力のある炎の見え方を確立。これらの素材を組み合わせ、3D素材のレンダリングに戻らなくてもコンポジット処理のみで調整が行える仕様となっている。
完成カット

宍戸「完成したカットでは、私が作成したベースシーンデータを元に各アニメーターの作業と撮影処理が加わることで、劇場にお届けした映像へと仕上がっています。アニメーションチェック時の生素材と撮影上がりを比較すると、爆心の連射の光や煙の動きが美しく整っている様子が見て取れます。本格的なシミュレーションを使った爆発とも、他のポリゴン球体を使った爆発とも異なる、独特の味わいを持った爆発に仕上がったのではないかと思います。
メカ作監のお二人や演出、監督にも爆発の動きから爆心の炎の動きまで綺麗にできていると褒めていただいたカットがあり、何度もリテイクを重ねた甲斐がありました。スピード感も距離感もサイズ感もある、見応えのあるカットになったと思います。」

宍戸氏が作成した爆発エフェクトは結果として、レンダリング時間が重くなかったことや、時間的制約によるレンダリングの重さをコントロールしなければならない実制作においては、大変助かったという作業者サイドからコメントもあったという。本作の最終戦闘シーンにおいて爆発は作画する話も出ていたが、アクションが大きくカメラワークのあるシーンの爆発においては作画での対応が難しかったのもあり、宍戸氏が開発したこの爆発エフェクトは本編を完成させるための重要な要素となった。
濱中氏「全編を通して監督のトーンマナーや監督の意思が貫かれた作品で、それがフィルムに結実しています。監督の狙いをみんなが解釈し、制限のあるなかで新しいクリエイティビティへとつなげられた。協力会社の皆さんも含め、とてもよい仕事ができたと自負しています。」
Q&A
Q1. バージョン管理ツールには何を使っていますか。
3Dアニメーションについては、AutodeskのFlow Production Trackingを使用しました。演出を担当された方やリードアニメーターもこれを使ってチェックバックを行い、タイムロスなくテンポよく確認できた点がよかったと思います。なお、モデル制作についてはFlowは使わず、Excelやスプレッドシートでアナログ的に人力で管理していました。
Q2. 複雑なハードサーフェスモデルにおいて、クオリティを下げないために絶対に避けるポイントは何でしょうか。
均一な平面に意図しないねじれが起きないよう、一連で続く面はなるべく均一な角度を保つことを意識して調整していました。クオリティに関しては、本作でデザイナーから強く求められたのが「面取り」です。
モデルで線を出す際は角を立たせることが多いのですが、今回は角に対する面取りをかなり意識して入れました。身の回りの製品でも、人が触る部分はほぼ必ず面取りされています。そうしたところにかなり気をつけて作業しました。
Q3. モビルスーツのレンダリングには何を使用していますか。また、モデリング段階で最終レンダリングのイメージを確認しながら造形しましたか。
モビルスーツには基本的にPencil+ 4をメインで使用しています。モデリング段階でも仮にPencil+ 4のマテリアルを割り当て、どのような影になるかを確認しながら作業しました。美術などにはV-Rayを使う場合もあり、用途に応じて複数のレンダラーを使い分けています。
Q4. Unreal Engineはどのような用途で使われたのでしょうか。
主に背景素材の作成に使用しました。戦闘シーンはカメラワークがダイナミックに動くため、すべてをモデリングしてレンダリングするのは難しく、ゲームエンジンを活用できないかという話が村瀬監督から出たのが発端です。当初は、回想シーン前のバイノー・ハーバーの森の中のシーンにおいて、自然物の原図を補うために使う想定でしたが、最終的にエアーズロック周辺の最後の戦闘シーンでも使用しています。
エアーズロックのシーンについては、コンテが上がった段階で「これは美術描きではカメラワークなど対応できない」という判断があり、「Unreal Engineで何とかできないか」という話になりました。IKIF+はゲームエンジンの経験値がほぼなかったため、普段からゲームエンジンを使っているジェムドロップさんや、一部のフリーランサーの方にご協力いただき、世界観を構築しました。


