【イベントレポート】『アニマル・モデリング 動物造形解剖学 増補改訂版』発売記念セミナー (片桐 裕司 氏)

2026年4月25日(土)に開催された『アニマル・モデリング 動物造形解剖学 増補改訂版』発売記念セミナーのうち、片桐裕司氏によるメインセッションの内容をご紹介します。


セッション概要

本セミナーは、ハリウッドにてキャラクタークリエイターや彫刻家、映画監督として活躍する片桐裕司氏が執筆された『アニマル・モデリング 動物造形解剖学 増補改訂版』の出版を記念して開催されました。動物・キャラクター造形のリアリティ構築、立体表現における観察力と解剖学的理解、ハリウッド映画業界とデジタルツールといったテーマを、デジタル・アナログ両領域に通じる造形思考を軸に、実践的な視点から解説いただきました。

メインセッションでは、片桐裕司氏が登壇。動物の全身を題材に、骨格と構造の捉え方から、ポーズに宿る「勢い」、コピーではなく法則を見つける観察の姿勢、そしてアナトミーよりも大切な「全体像」に至るまで、実際に制作した馬やライオンなどの作例を交えて解説いただきました。

【主催】株式会社Too
【協力】Maxon Computer株式会社、アトリエコチ株式会社、玄光社
【登壇者】片桐裕司 氏

『アニマル・モデリング 動物造形解剖学 増補改訂版』発売記念セミナー 01

アニマルモデリング

構造と骨

それでは早速、動物に関するレクチャーを始めていきます。『アニマル・モデリング』の刊行にあたり、まずお伝えしたいのは、先ほど千葉さんも触れていたように、骨が非常に大事だということです。千葉さんが頭部を扱ったので、私は全身を解説していきます。

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全身の構造として、脊椎動物はまず頭骨、肋骨、骨盤があり、それらを背骨がつないでいます。当たり前に聞こえることですが、これが本当に大事です。背骨という中心があって、そこに頭、肋骨、骨盤がついています。肋骨は内臓を守るための仕組みで、その上に肩甲骨が乗り、肩甲骨に腕の骨がつきます。骨盤は、足の骨がつくための骨です。

全体像をやみくもに考える前に、この当たり前に思える構造、つまり「関節の位置をきちんと押さえること」が大切です。実際に造形・構築するとき、そこさえ押さえていれば変な形にはなりません。骨の仕組みを理解しておけば、どんなポーズでも作る際の取っ掛かりになります。いきなりポーズの取れた状態を造形しようとせず、「関節で動いた結果そのポーズになる」という考え方を持っていれば、形が崩れにくくなります。

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これは人体や霊長類でも同様です。ゴリラやチンパンジーも、頭部・肋骨・骨盤を背骨が結んでいます。中心に背骨があり、それがずれるとフィギュアは成立しなくなっていきます。中心に基づいて左右対称になっているという法則がわかれば、動きが決まっていくというわけです。

『アニマル・モデリング 動物造形解剖学 増補改訂版』発売記念セミナー 04

四足動物と二足動物の大きな違いの一つは肋骨の形です。二足歩行では横に広く、四足では縦に長くなります。たとえば狼のような動物系のクリーチャーを人間に近づけてデザインする際、肋骨を左右に広くすると人間っぽくなってしまいます。

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そして、人間と猿の大きな違いは骨盤の形です。猿の骨盤は平たく、人間は前後に幅があります。これは立ったときに内臓を支える形になっているためで、人間は立つように仕組みと形ができているのだと考えられます。猿は、なんとなく形は人間に似ていますが、特に骨盤の構造が異なり、四足のためにある形だと感じます。

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頭骨・肋骨・骨盤・背骨という骨の仕組みをシンプルに捉えられると、複雑に見えるフィギュアも、まずはこの単純な形で表現できます。これができたうえで肉がつき、流れが生まれます。

いきなり筋肉から考えるのではなく、まず骨の構造を捉えることが非常に大事です。こちらの画像は『やさしい人物画』という書籍にある、アンドリュー・ルーミス氏の練習方法のひとつです。実際に、私も昔こういった練習をしました。

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動物に話を戻すと、まずシンプルな構造を捉えることが大事です。たとえば馬を作る際に、写真のポーズをそのまま再現する前に骨の構造を考えます。

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肩関節・肘関節・手首関節、後ろ脚なら大腿骨・膝・かかと・足の指の関節、というように関節で捉えます。関節そのものは基本的に共通していて、プロポーションが動物ごとに変わるだけです。ほとんどの四足動物では肩甲骨が縦長で、肩が前に来て肘が後ろに行くという構造をしています。これを骨だけのシンプルな状態で見て、ポーズをきちんと捉えられることが、まず最初に大事になります。

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別のポーズ・角度でも同様のことを行います。デジタルでは自動的に左右対称になりますが、粘土造形では自分で作らなければなりません。まず関節の位置をきちんと決めます。関節でしか曲がらないというのは当たり前に聞こえますが、そこを崩してしまうと成立しない形になっていきます。関節間の距離・長さはおおむね決まっていて、膝を曲げれば膝でしか曲がりません。「曲がるポイントを押さえること」が非常に大事です。

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この仕組みがわかってくると、走っている馬の写真を見ても正しい関節の位置が見えるようになります。ややこしいのは肩から肘にかけての部分です。肩甲骨から肩関節、肘関節へとジグザグの形で必ず存在します。このあたりに関節があるのかなと考えていくと、次第に見えてくるようになります。

シンプルに捉えると、肉付け以前の骨の段階で、ある程度の勢いが見えてきます。動いている勢いを骨の段階から出せるようになると、仕上がりが大きく変わってきます。

勢いと重心

次に、「勢いと重心」という考え方です。

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たとえば象が歩いている状態を単純に分析すると、重たい胴体が前に移動している状態です。前脚・後脚を見ると前傾していて、その上にある重心が前に行っています。だから勢いが出て、動いているように見えます。やみくもに前脚・後脚をつけて肉付けするのではなく、角度を見極めることが動きの表現に非常に大事です。垂直ではなく重心が前に行っている、その角度によって勢いが出ます。ただ作ればいいというものではありません。

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次に犬が立っている例で見ると、重心がやや前のめりで、後ろ脚で軽く蹴り上げ、前脚でメインの重心を支えている状態です。これは角度によって表現でき、前を向いている勢いが出ます。

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実験的にプロポーションは同じまま角度だけを変えてみると、一気にかっこ悪くなりました。「姿勢」という言葉は「姿に勢い」と書きますが、立っているだけでも勢いは存在します。ただ立たせればいいのではなく、前脚・後脚それぞれの角度をどうするかを意識して作ることで、見栄えの良いものにできます。

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今回新しく作ったライオンは、前に向かって吠えている勢いを想定しています。前脚・後脚がそれぞれ役割を持ち、前に吠える勢いを引き立たせています。

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試しに後ろ脚を一本だけを変えてみると、勢いがまったく違うものになります。後ずさりしているような印象で、これだけで弱々しく見えます。一本の脚を変えるだけで、前へ行く勢いにも、後ろへ下がる印象にもなるのです。

なんとなく脚をつけるのではなく、それぞれの脚が全体の勢いをいかに引き立たせるか、引き立たせるためにどうすればよいかを考えてやっていくと、より勢いのあるものができてきます。とにかく、関節の角度を考えることが重要です。

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さきほど同様に馬の骨を見てみると、その骨自体に流れがあります。これは感覚的なもので、緑の線で表すような全体の勢いです。ポーズをデザインするときには、必ずこの全体の勢いを考えることが大事です。丁寧に骨を構築しようとするだけでなく、全体にこういう勢いだという流れが見える。上の流れも下の流れも、すべてが連動しています。その勢いの連動によって形ができてきます。

アナトミーも非常に大事ですが、アナトミーに加えて勢いを意識しないと、ただ上手にできただけで終わってしまい、かっこよさにはつながりません。中心の体の勢いと、上下の流れがあり、その勢いに基づいてアウトラインができてきます。首から上へ、下から上へ、また下がってくるといったつながりを常に意識すること。メインの流れがあって、アナトミーがそれを補助していくイメージで作ると、かっこよくなっていきます。

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走っている馬であれば、首の前面から背中へのつながり、首の後ろから別の部位へのつながりというように、部分ごとに流れがつながっていきます。部分を丁寧に作るのではなく、つながりを意識するとプロポーションも自ずと決まってきます。

ボリュームの終わりや、肋骨の入りで生まれる影など、奥行きやアナトミー的な筋肉の盛り上がりも、勢いのつながりとして捉える。どれだけつながりを作れるかによって連動が生まれ、大きな勢いができてきます。アナトミーと勢いとボリューム、その三つが非常に重要です。

コピーではなく法則を見つける

次に、「コピーではなく法則を見つける」についてです。

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馬・牛・象を上から見た図で説明します。余談ですが、この「上から」の資料は本当に手に入りにくいです。最近はドローンの普及で上から撮った映像がありますが、昔は航空写真くらいしかなく、象を作ったときも上からの写真がまったく見つかりませんでした。ようやく象の群れが豆粒のように写った写真を見つけて、「こんなに首が細いのか」と衝撃を受けたほどです。横からの形はわかりやすいのですが、上からどうなっているかがわからないと、立体はまず作れません。

同じ象でも個体ごとにプロポーションは違うので、ある一頭を正確にデッサンのように真似ても、別の個体では通用しません。その一方で、法則はあります。象なら腹が大きく膨れて尻の幅が狭く、前が非常に狭いです。馬であれば骨盤が上から見え、首が非常に細くなっています。こうした法則をある程度つかめれば、応用を利かせることができます。

さらに広げると、架空の生き物やクリーチャーをデザインするときにも、「ここに筋肉の盛り上がりが出るなら、その下にある関節はこう動いているはずだから、反対側はこう凹まないとおかしい」「肘がここにあるなら、その上腕の裏側はこう伸びて、こちら側は縮んで盛り上がるはずだ」といった法則が自然に出てきます。

架空の生き物をリアルに見せるとは、地球上にいても不自然に見えないということで、それは「私たちが今まで見てきた生き物の知識」から来ています。脚を上げたらこうなる、尻尾を動かしたらこうなる、という条件を法則として見出せれば、馬系クリーチャーでもカニ系クリーチャーでも、自然な説得力のある生物を作れるようになります。

これは、頑張ってコピーする練習だけでは身につきません。「なぜこういう形になっているのか」を考える必要があります。違う動物でも同じような筋肉がついているのは、動かすために筋肉があるからです。脚や腕を動かすために筋肉がつく、という法則がある程度決まっています。筋肉があるからというだけでなく、その筋肉が何のためにあるのか、ここを動かすためだ、というところまで深掘りすると、形が出来上がっている理由が見えてきます。真似る能力も大事ですが、それだけでなく考えることが大切です。

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こちらは馬の例です。多くの人はお尻の部分と脚を一続きにしてしまい、どこが脚の始まりかわからなくなりがちです。よく観察すると、お尻の凹みがあって、そこから脚の膨らみが始まります。ここにあるのが大転子で、大腿骨が骨盤にはまってボコッと出ている部分です。

お尻からそのまま脚へとシルエットが流れるのではなく、腰・お尻という部分と脚という部分に分かれていきます。脚が動く場所を見つけることは非常に大事で、ここから関節で動く、という重大な法則です。その上には肉がないので凹み、周りは筋肉がついて膨らみます。外側から見てそれがどこなのかを見つけられると、リアリティが出せます。

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キリン、ライオンなども同様で、違う生き物でも同じ法則があります。四足歩行で動かなければならないため、必然的に形がある程度決まってきます。横から見ると、肋骨の上部から角ができ、そこに骨盤があって下がっていく。この角はどんな動物にもあり、骨盤を見つける手がかりになります。

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首の厚みの上部については、背骨に突起がいくつもついていて、動物ではこの突起が長いです。なぜ長いかというと、その分だけ筋肉をつけられるからです。頭が真上ではなく前の方にあるためそれを支える必要があり、この筋肉で支えています。キリンは頭が高い位置にあって重くなるため、首を支える筋肉がついて、独特の形になっています。

キリンは面白い動物で、首を非常に長くするために、まず筋肉量を確保する必要があってここがボコッと盛り上がり、お尻を上げると前に倒れてしまうので極力下げてバランスを取り、それでも足りずに肩を思いきり前に出して首を支えています。

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ここでちょっとしたクイズですが、肩が前に出て深い谷間ができているこれらの部分、これはお尻なのか胸なのか、どちらか分かりますでしょうか?

答えは「すべて前(胸側)」です。肩が前に来て挟み込み、そうやって頭部を支えているわけです。

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首が長く頭が重いから、前につんのめらないように肩を前に出した。いにしえのキリンの努力がいまも残っているようで、面白いところです。こうして考えていくと、いろいろな形の理由が見えてきて面白くなります。

制作の実演

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ここからは、今回の本のために新たに作り直した馬を例に、実際の制作の流れを紹介します。

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まず骨組みを作る時点で、関節の曲がる位置を完全にはっきり決めます。ここが本当に大事で、この法則を絶対に破らないことが大前提です。骨がこうなっているという想定のもと、その上に肉がこうついてくる、という意識を持ちます。

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粘土は重くなるため、芯にアルミホイルを巻き、テープで固定します。その上に粘土をつけていきますが、関節の位置を常に意識し、やみくもに腕を埋めてしまわないようにします。肩から肘、肘から手首、膝はここ、と関節から関節の間の盛り上がりがどうなっているかを意識して肉付けします。

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骨盤や、上部とサイドの切り替わり、首から背中に通る中心線も早い段階から意識します。中心が通っていないと左右のバランスが崩れてしまうためです。

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アウトラインも、胸の前面、上腕後ろ側の三頭筋、前腕の前と後ろ、というように、それぞれの流れがつながるよう意識してボリュームをつけます。腹の前面から肋骨下部、お尻の盛り上がりへと、別々に見える部分も自分の意識の中ではつなげていきます。この勢いがこちらへと連動していく、という意識です。いかにつながりを多く作れるかで、かっこよさがかなり決まってきます。

設計図に基づいて骨組みのプロポーションを決めているので、きちんと測って作ることも大事にしています。外側のプロポーションが決まってくると、その間の形も作れるようになります。やみくもにやらず、極力法則を守りながら進めていきます。感覚も大事ですが、ロジカルな部分が非常に重要です。

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早い段階で全体像を作ってしまうのがポイントです。筋肉一本一本がどうなっているかは考えず、ボリューム感で、これくらいの盛り上がり、と全体像をまず作ります。なぜなら、全体で馬になっていなければ話にならないからです。

プロポーションが間違っていたら、個々の筋肉をいくら頑張っても良くなりません。細かくしようという意識ではなく、全体像を作ってじわじわと解像度を上げ、気づいたら終わっている、という状態が理想です。頭部も骨の形を意識し、中に骨がある前提で、それが表にどう反映されるかを観察しながら作ります。常に関節がどこにあるかを意識し続けています。

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こちらが、実際に完成した作品の画像になります。

ライオン

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ライオンも同様に、関節の位置を決めます。

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地面を示すマーカーを置き、後ろ脚側がやや高い設定で、骨の流れとアウトラインをあらかじめ想定して作ります。ボディの厚みをつけ、とにかく全体を早い段階で揃えます。すべての手足が全体の勢いを作るための役割を持っているので、全部作らないと全体が見えてこないためです。一本の脚だけ後回しにせず、早いうちに全体を作ることが大事です。

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たとえば、かなりの体重を支えている右前脚では後ろ側の筋肉がグッと盛り上がり、前も盛り上がります。その力感を作ることでポーズが引き立ちます。

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一方で左前脚は、肘が前に出ることで広背筋などが伸ばされています。その際、デフォルトの状態からどう動いたのかを考えるのです。膝が前に出れば一方が縮み、他方が伸ばされます。筋肉は動くとき必ず縮む・伸びるが対になります。伸びる方と縮む方を意識することで緩急が生まれ、勢いが出てきます。全体のポーズの角度による大きな勢いと、筋肉それぞれの小さな勢い、その組み合わせがあります。

筋肉を見るときもやみくもにコピーせず、どういう働きをしているのか、縮むのか伸びるのかニュートラルなのかを考えます。縮めば盛り上がり、伸びれば薄くなって筋張ってきます。同じ筋肉でも状態によって形が変わるので、それを見極めて表現できるかでかっこよさが出ます。

なお、筋肉には見える個体と見えない個体があります。「この形は正しいのか」とよく聞かれますが、明らかにおかしいものは別として、唯一の正しい筋肉というものはないと考えています。アナトミーは非常に大事ですが、正しさを追い求めすぎて「こうでなければいけない」になると、個体差がある以上、苦しくなってわからなくなってしまいます。

「見えていてかっこいいからそうする」、という判断でよいのです。法則は捉えつつ、コピーはしない。動いたらこう出るだろうという法則はおそらく合っています。けれども実際に同じライオンを10頭集めてこの通りの個体がいるかは正直わかりません。知識は諸刃の剣で、アナトミーを根本に置きすぎないことです。アナトミーは道具として知識を使うものだという点には、注意した方がよいと思います。

アナトミーより大事なこと

次に、アナトミーより大事なことについてです。

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このシルエットですが、何の動物かわかるでしょうか。

正解は、鹿です。サイなら角がシンボルですが、鹿は角がなくても体型からわかると思います。ここがとても大事です。

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アナトミーをきちんと理解することも大事ですが、それに固執するあまり全体像のシルエットが鹿でなくなってしまったら、知識の意味がありません。「パッと見るだけで鹿だとわかる」、その形を感覚として持っていることが重要です。

人は、形を認識しています。少し脱線しますが、事故で脳に障害を負い、人の顔を認識する能力を失った人がいます。顔を見ても誰かわからず、両親の写真を見ても、実際に会っても両親だとわからない。果ては自分の写真を見ても自分だとわからない。見えているのに「わからない」のです。これは、普通の人が「人の顔はこういう顔だ」と認識しているということの裏返しです。

動物も同じで、「鹿はこうだ」という無意識な認識があります。角、耳の方向、四角のかたちの体、小さなお尻など、いろいろな要素があります。アナトミー先行ではなく、まず「鹿はこういう形だ」とわかると、非常に作りやすくなります。

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では次に、これは何でしょう。

正解は、ヤギです。さらにヒゲがつくと確実にわかります。

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ヒゲは非常に重要な特徴で、これがついた瞬間に似てくるケースがよくあります。角やヒゲを後回しにして似ないとと思っていたのが、ヒゲをつけた瞬間に似る。「合っているかどうかわからない」というのは、要素がすべて揃っていないからなのです。

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次に、こちらはいかがでしょうか。

正解は馬です。

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筋肉の形状ではなく、シルエットでわかるということです。筋肉や骨を考えることも大事ですが、それ以上に全体像が大事になります。

これからについて

最後に伝えたいことがあります。9年前に最初の動物の本を出し、在庫が切れたのを機に新しくするなら少し足したいと考え、今回馬とライオンを作り直しました。

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9年前の自分の馬とライオンは、正直もう見るのも嫌で、カッコ悪いと感じます。当時はできる限り精いっぱいのものでしたが、今と比べると桁が違います。

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ライオンも、今見ると当然かっこいいとは思えません。

何が言いたいかというと、ゴールはないということです。やればやるほどできるようになり、的を射た練習や勉強を続けている限り成長していきます。今の作品も、5年後にはまたダサいと思うかもしれません。私自身、極めているなんてとんでもない話で、これからもっと上手くなると思っています。

だから皆さんも、今できていなくても、やっていくうちにわかってきて、できるようになります。それはどんなに上手い人でも同じです。やっていけばどんどんできるようになるので、ぜひ頑張ってください。


Q&A

Q1. 形に理由をつけ、理にかなった形作りをするために、どういう見方や習慣を持つとよいですか。

全体像が作れるようになったら、より深いレベルの勉強が必要になります。最終的には筋肉構造、つまりどう立体的についているかが大事です。四足動物を横から見た平面図的に考えてしまいがちですが、実際には重なりによる立体的な奥行きがあります。影を平面的につけるのではなく、このボリュームとこのボリュームが奥にどう向かっているのかという捉え方が大事です。そのためには、それぞれの筋肉の付き方という知識が必要になります。

それを表現できるようになるには、作るという経験が絶対に必要です。立体を立体として見る意識を持つこと。本だけの知識では平面的に捉えてしまいます。私は、作らないと絶対に理解できないと思っていますし、作ることが一番の近道だと思います。

Q2. 骨の位置や筋肉の付き方知識を「知恵」に昇華させ、それをデザインに反映させるための意識や行動について知りたいです。

「観察して考える」、ただそれの繰り返しです。先ほどのキリンの話も、なぜそうなったかは私の予測で、学術的なものとは違うかもしれません。ただ、形を見ればそうではないかと考えます。私は学術的な正否が関係ない仕事をしているので、その考え方をいかに応用できるかで生きていけます。

大事なのは、「考える習慣」です。いろいろな動物を見ていると、常に「なぜ」が浮かぶようになります。私自身、電車で人を見てもそういうことを考えたりします。そうすることで応用できるようになると考えています。

Q3. 針金の上に粘土を重ねて流れを見ていくとき、関節の位置がずれていかないように、何か工夫していますか。

工夫としては、肘や手首の前面などの関節が出る部分を隠さないようにすること、あるいはそのポイントだけ粘土をつけておくことです。関節の出る部分を変えない、足さないようにします。ポーズを間違えたら変えざるを得ませんが、基本はそこです。考えなしに粘土をつけていくと、関節が隠れて見失ってしまいます。

Q4. ハリウッド映画業界とデジタルツールについて、今手がけている仕事の内容や大変な部分、期間などを教えてください。

スキャンとプリントの登場で、作り方はだいぶ変わりました。良くも悪くも、実際に作れるアーティストの立場はやや弱くなった面があります。デザインの多くはZBrushで行われるようになり、ZBrushでデザインしたものをプリントアウトし、それをまた粘土で作るといった流れも増えています。

一方で、デジタルと実際の粘土造形ではやはり感じが違います。今はスキャナーの発展によって、実際の粘土造形が再び見直されています。粘土で作ってスキャンすると、デジタルでは出せない感じのものができます。そのせめぎ合いのようなものです。便利なところはデジタルが圧倒的に便利です。私たちは、実際に人が着るスーツや、特殊メイクで顔の上に貼るものなど、デジタルでは代替できないことをやっています。

一方で、2年ほど前の『猿の惑星』の最新作は完全にデジタルメイクで、役者の顔をスキャンして表情や演技をさせ、その上にデジタルでメイクを貼り付けることで、ものすごいキャラクターを作っています。あれほどキャラクター性のあるものができるようになったのかと、本当に衝撃でした。予算の兼ね合いやできる会社が限られるという事情もあります。

ツールがデジタルでもアナログでも、「形がわかっているかどうか」は必要なスキルです。それをどう使っていくか、新しい技術をどう取り入れるか。最終的には、原型を人の顔にあてて、その動きに合わせて動くようになるのではないか、とも予測しています。

Q5. ライオンのようなポーズを最初に考える際、「こういう勢いを出そう」という判断基準はどこにありますか。

結論、「どの瞬間を切り取るか」です。造形物は動かないものなので、これから前に行こうとしているのか、後ろに下がろうとしているのかによって、同じポーズでも勢いは変わります。前に行こうとする想定なら、前向きに行っているように見せたい勢いが決まってきます。根底にあるのは「何をしようとしているのか」です。その後に何が起こるのか、その前はどうしていたのか、それによって勢いが決まってきます。

そういった勢いのつけ方を知るためには、写真などで実際にどうなっているかを見ることが重要です。当たり前ですが、知らなければ作れません。足りないと思ったら「できない」ではなく「知らないからだ」と気づければ、調べようがあります。まずは見て真似ることが最初の段階です。

吠えている写真、逃げようとしている写真、ジャンプしようとしている写真など、いろいろあると思うので、観察して勢いを見つけてみることです。

Q6. 一人で作品を作り、一人で改善していくとき、自分のできない点に気づけないことがあります。どのようにさらに上手くなっていったのですか。

これは、重ねた経験値と気づきです。気づきが絶対に必要で、「この盛り上がりはこれでできているのか」といった気づきは、やらない限り出てきません。今のレベルで気づけるレベルというものがあって、レベル2の人が頑張ってもいきなりレベル5にはなりません。新たに作っていく経験を積むことでしか、気づきは得られません。

今わからなくてもいいのです。今は完璧を求めず、今できる精一杯をやって次に行ってみてください。そうするとまた気づきがあり、振り返ったときに「なぜこんなことがわからなかったのか」と思えるようになります。そういう段階でしか成長はありません。だから、とにかく続けることです。

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